女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!?   作:はま0821

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次回決戦と言ったな。

あれは嘘だ。

シリアスかもです。御注意を。


41 また、ね。

 

 

新宿FOLTの真っ暗な楽屋に、私は一人で項垂れる。首に滲む汗を拭う気も起きない。

 

私たちの演奏は終わった。出し切れた、と思う。練習してきたことを存分にやれたし、お客さんも盛り上がっていた。

 

でも。シデロスは。ヨヨコは私が想像していた以上だった。STARRYと比べて倍近くはありそうなフロアに余す所なく響き渡るシャウト。どこからそんなパワフルな音色を奏でるのか疑問に思うほどのパフォーマンス。ギターの表現力もテクニックも、私はまるでヨヨコに及ばなかった。

 

追いつけたと思ってたのは私だけだったのか。いつだってあんたは私よりも遥か高みにいて。そこから私を見下ろしている。

 

嫌いだよ。あんたなんか大っ嫌い。

 

私は犬か?飼い主の後ろについて回る犬っころか?所詮、私があんたと戦おうなんて身の程知らずの世迷い言なのか。

 

これ以上力が入りようがないぐらいに固く拳を握る。ともすれば溢れそうになる感情を、私は必死に抑えていた。…抑える必要、あるのかな?誰も見ていないのに。…見られたくないから、一人にしてもらったのに。

 

少しの間そうしていると、楽屋の扉の前で話し声が聞こえる。そちらに気を取られて顔を上げると、少しして扉が開いた。電気がつけられて、入ってきた人の正体が分かる。

 

「…邪魔するわよ。黒井此方」

 

「…よ、ヨヨコ…」

 

今一番見たくない顔がそこにはあった。

 

口の中に苦い味が広がる。私は顔を思いっきりしかめて、視線を外した。

 

見られたくなかったよ。あんたにだけは。

 

「…笑いに来たの?」

 

なんとか。なんとかそれだけ絞り出す。最早何も話したくはないが。

 

「…そう見える?」

 

見えねえよ。くそっ。だから嫌だよ。大槻ヨヨコ。そういうとこだよ。

 

こっそり盗み見た彼女の表情。

 

視線は外してどこか遠くを見ているような彼女には、茶化しや不真面目な雰囲気など一ミクロンも含まれていなかった。だから、嫌いだ。

 

「…黒井此方。今、私は貴女に掛ける言葉を持たない。…それでもね。一つだけ」

 

暗く閉じた私の世界にヨヨコの声だけが響く。…聞きたくないのに、私の心に強引に入ってくる。

 

「らしくないんじゃないの?黒井此方」

 

その言葉を聞いた瞬間に、私は頭が沸騰するような感覚を覚えた。どの口が!!だの、あんたのせいだろ!!だとか、いろいろ言葉が駆け巡って。椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、ヨヨコを睨みつけた。その時のヨヨコの表情を見て、私の感情は止まった。

 

「…なんで?」

 

楽屋に入ってきてから初めて目が合ったヨヨコの顔。その顔は、何故か寂しそうに、私には見えたんだ。

 

呟いた私を、少しだけ不思議そうに見上げてくるヨヨコ。私はというと、感情の落とし所をなくして、バツが悪く椅子に座り直す。でも、今度は顔は下げなかった。

 

「…私が知っている貴女の顔は、いつだって…」

 

反射的にヨヨコの方を見る。ヨヨコは相変わらず視線は外したままで言葉を続けた。

 

「いつだって向こう見ずで、後先考えない。勇敢な勇敢な挑戦者の顔。今の貴女は、らしくないわ。…ただ、それだけ伝えたかった。…邪魔したわね」

 

そう言ってヨヨコは立ち上がる。私はその背中をただ眺めていた。

 

「…また、ね。黒井此方。失礼するわ」

 

ヨヨコはそのまま振り返らず、部屋の扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ごめんなさい。邪魔したわね、結束バンド」

 

「…ううん。…ありがとう、大槻さん」

 

楽屋の前には結束バンドの四人が立っていた。ヨヨコは短く虹夏と言葉を交わす。

 

「結束バンド。この後のシクハックのステージも勉強になると思うわ。…きっと、貴女たちならまだまだ伸びる。…また、ね」

 

それだけを言い残して、ヨヨコは足早にその場を去った。凛とした後ろ姿を見送りながら、虹夏は張り詰めていたものを吐き出すように長い息を吐いた。

 

「はー…。私は駄目だ…。駄目駄目だ…」

 

「…虹夏」

 

傍らにいたリョウが、虹夏の肩に手を添える。

 

「…なんか声掛けてあげなきゃって思ったんだよ。…でも、あんなこなちゃん、初めてで…頭がぐちゃぐちゃになっちゃって…悩んでる内に、違うバンドの大槻さんのほうが早く声を掛けに行って…。私は駄目だよ。駄目なリーダーだ…」

 

そう言って俯く。言葉の後半から声は震えていた。するとリョウは、肩に添えていた手を頭に移して、優しく撫でた。

 

「…大丈夫だよ、虹夏。仲間の為に涙ぐむまで悩んで迷える。そんな虹夏の優しさに救われてる人は、きっといるから。だから、虹夏は駄目なリーダーじゃないよ」

 

「…り、りょうぅ…」

 

震える声で顔を伏せる。すると今度は背中に手が添えられた。

 

「…わ、私もその一人ですよ、虹夏ちゃん…」

 

「ぼ、ぼっちちゃん…?」

 

「…覚えていますか?虹夏ちゃん。貴女は、私に指をさしだしてくれた。…止まりたい指を見送り続けていた私に…。貴女の優しさがあったから、私はここにいる。仲間とバンドを組んで音楽をやる、夢の中に。貴女は、駄目なリーダーなんかじゃあない。…そんなことを言う人は、わ、私がギターでポムってしてやります!」

 

目を見開いて虹夏はその言葉を聞いた。目尻に溜まっていた涙はいつの間にか引っ込み、呆ける。…少しだけ、口元を抑えて皆にバレないように、リョウは肩を揺らした。

 

「び、ビックリした…。ぼ、ぼっちちゃん。ぼっちちゃんって、ホントにヒーローなんだね…」

 

「へっ!?えっ?」

 

「な、なんかね。さっきまであった暗い心が、どっかいっちゃった。ぼっちちゃんの言葉で。凄いよ、魔法みたい…」

 

「…流石だねギターヒーロー。片鱗、見せてもらったよ」

 

「えっ?そ、そうですかね〜?」

 

くにゃ〜っと。先程までの凛々しさはどこへいったのか?と問いたくなるほど表情を崩すひとり。すかさず虹夏は猫のような目になり、リョウは今度こそ吹き出した。

 

「…伊地知先輩。私も貴女がリーダーだからついてきたんですよ?…それにね皆さん。一つ、勘違いしてます」

 

喜多のその言葉に、結束バンドの残りの三人は振り返った。

 

「黒井さんはね、この程度で折れませんよ。絶対にね」

 

そう言い切る喜多の目には、揺るぎない確信が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

私は椅子に座り直して扉を見つめる。ヨヨコが閉めていった扉を。

 

らしくないだと?分かってるわよんなこと。

 

大っ嫌いだよ。大っ嫌いだ。

 

もう分かってる。私は、今の私が大っ嫌いなんだ。少し上手くいかなかった程度で、落ち込んで立ち止まって皆に心配かけて。

 

挙句の果てにヨヨコにまで武士の情けをかけられた。だと?

 

フザっけんなよ糞馬鹿。

 

「あーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」

 

立ち上がり思い切り叫ぶ。心にこびりつく黒い物を吐き出すように。

 

「ち、ちょっとこなちゃん大丈夫!?何今の声!!」

 

血相を変えた結束バンドの皆がドアを開けて入ってくるが、構わず私は、両の手をゆっくり広げて。

 

思いっ切り自分のほっぺたに叩きつけた!バチーン!!と小気味いい音が鳴り、思考が嫌でも引き戻される!

 

「おおし!!もう大丈夫!!すんません皆さんご心配をおかけしました!!」

 

ポッカーン。

 

絶句。皆さん絶句だ。…否、喜多さんとリョウ先輩は、少しだけ笑ってるな。時間が経つにつれ、リョウ先輩の口角はさらに上がり。

 

「ふふふ…くっく…。あっはははは!!」

 

「え、ええ〜…?」

 

いきなり笑い出したリョウ先輩を少し引いた表情で見つめる伊地知先輩。喜多さんはやれやれといった風に両手を広げて。ひとりさんは口元を抑えてお上品に笑っておられる。

 

「…全くさ。らしすぎるだろ此方。…おかえり」

 

「っす。ご心配おかけしました、もう大丈夫です」

 

「別に心配してないよ」

 

リョウ先輩と拳を当て合う。

 

「えっ、こなちゃん、大丈夫なの?も、もういいの?」

 

信じられないものを見る目で伊地知先輩が問いかけてくるので、この短時間で、私なりに出した答えを口にする。

 

「はい!…10や20の失敗で諦めるくらいなら、アイツに勝つ夢なんてとっくに捨てています。私にできる最善を尽くして喰らいつく。…やることなんか、初めから決まっていたんだ」

 

「…と、とんでもない子だなぁ…」

 

ポツリと呟く伊地知先輩を見返して、言葉を返した。

 

「よく言われますっ!あっ、すんませんシクハックのライブはもう始まってますか!?あ、まだ大丈夫だ、皆さん行きましょう!何モタモタしてんですか!」

 

喜多さんとリョウ先輩の背中を押しながら楽屋を後にする。二人は笑いながら、誰のせいだと!とか言っていた。あーあー聞こえなーい!!

 

「…あはは。す、凄いや…」

 

呟く虹夏の肩に手が置かれる。その方向を振り返るとひとりがいた。ひとりはクスクスと笑いながら虹夏に言葉を掛ける。

 

「…虹夏ちゃん。あれが、黒井ちゃんだよ。呆れ返るくらい前向きな、私が、尊敬するギタリスト」

 

「…ホントだねぼっちちゃん。知ってたようで、まだまだ知らないことだらけだなぁ…」

 

そう虹夏は呟いてから、ひとりとともに先行した三人を追うのだった。

 

 

 

少し場面は変わる。

 

ここは、私たちシデロスの楽屋。私、長谷川あくびは、結束バンドの楽屋に行ってからどことなく元気のないヨヨコ先輩を、少しだけ心配しながら眺めていた。でも、遠くに響く少女の叫び声を聞いたヨヨコ先輩は雰囲気を一変させる。

 

「…全く。世話が焼けるのだから」

 

口角を上げて、ヨヨコ先輩はそう呟く。私はヨヨコ先輩に、茶化すように問いかけてみた。

 

「嬉しそうですね、ヨヨコ先輩。いいことあったでしょ〜?」

 

「…ふふ、まあね」

 

ヨヨコ先輩は隠すこともなく、そう肯定した。

 

何故、嬉しいのか。何故、今まで元気がなかったのか。私には分かる気がする。…ヨヨコ先輩がこういう時に寂しそうにするのは理由がある。

 

話してくれたことはないので、私の想像でしかないのだが。

 

ある程度本気で音楽に取り組む、ヨヨコ先輩にとってライバルともいえる人が、本気のヨヨコ先輩とぶつかると、必ずと言っていいほど変わってしまう。一様に皆、おんなじような顔をして。

 

敵わない。だとか、あの子は私たちと違う。だとか。

 

線を引いて離れてしまうのだ。ヨヨコ先輩は、そんな人たちを見送るたびに、寂しそうな顔をしていた。

 

私は、そんなヨヨコ先輩の顔を見るのが嫌だった。

 

誰より音楽が好きなだけなのに。

 

誰よりただ、ひたむきで真っ直ぐなだけなのに。

 

なんで寂しい思いをするんだ。どうして悲しい顔を浮かべなきゃいけないんだよ。

 

…だからね。黒井此方さん。

 

私は貴女に感謝してます。

 

貴女が現れて、ヨヨコ先輩と競うようになってから、ヨヨコ先輩が寂しそうな顔をするのが少なくなったんだ。

 

貴女が負けを認めず喰いさがってくるのを、本当に楽しそうに受けて立って。

 

…黒井さん。貴女さえよければ。ずっと、一緒に戦いましょう。

 

我がリーダーは、それならずっと寂しくない。

 

今日のライブもこの先の未確認ライオットも、その先の貴女たちとの対バンだって。

 

絶対誰にも知らせられない。はっきり自覚できる重たい感情を、私は丁寧に折り畳んで胸の奥へとしまい込むのだった。

 

 






大槻ヨヨコのバックボーン。

自分にも他人にも厳しい彼女は、もしかしたらこんな感じなのではないか?と。妄想を膨らませてみた次第です。

少しあくびにも独自の設定入っとります。お許しください!

評価、感想お願いします!生きる糧です!









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