女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
虹夏ちゃんは、ヒロイン。
あけましておめでとうございます。私は、結束バンドのギタリスト、後藤ひとりと申します。
騒がしい家族と過ごした年末年始も一段落し、冬休みも終わって、新学期が始まって。私もぼちぼちスイッチを入れ直してリスタート…!
「…………………」ちーん。
はい。失敗しました。下北沢のとあるファミレス。街なかで偶然出会ったリョウ先輩と私は、よく似た悩みを共有していて、二人してテーブルに突っ伏していました。その悩みとは。
今度の未確認ライオット、フェスに応募するための曲が、曲が降りてこない…!リョウ先輩に至ってはフレーズすら作れないというのだから重症です。私も人の事言えない。最近、何だか今までの私の語彙がすべからく陳腐に思えてきて。またそれかよ芸がないな(笑)みたいに、もう一人の私が囁いてきて。まるでペンが進まないのです。進まないのに手慰みにしているサインだけは上手くなって。
「く、くうっ…!な、何故!?天才であるはずのこの私に、曲が降りてこないの…!?ジーザス!」
「相変わらずの自信家ぷりですねリョウ先輩…」
私の言葉を聞いているのかいないのか。唇を尖らせその上にボールペンを乗っけたリョウ先輩は口惜しそうに言葉を漏らす。
「…今までこんなんなかった…。ロックを聴いてる時、お気にのレコード屋ハシゴしてる時、果てはコーヒーしばいている時だって湯水みたいにフレーズが湧いてきていたのに…、か、枯れちゃったのかな…私の才覚…」
「…私はある意味予想通りといいますか…。ビギナーズラックでここまで来たけど、見えてる壁にぶち当たった、って感じです。ああ〜!作詞ってどうやるんだっけ〜!」
「…ぼっちはまだいいよ。浮かばなければ皆で穴を埋めればいいんだから。でも、結束バンドで作曲ができるのは私一人。私は逃げ場がない…!あああ。マズイどうすれば!締め切りまであと三ヶ月くらいしかないのに!」
頭を抱えて現状を嘆く。やがてそれにも飽きて、二人して頬杖をつき、ガラス越しの下北沢を眺めていた。
まだ一月だというのに、ぽかぽかと暖かく、澄み渡った青空だ。スポーツするなら最適だろうなあ。などと、絶対しないくせにそんな事を思い浮かべる。嗚呼。歌詞ができない、なんて言ったらバンドの皆はどう思うだろう。喜多ちゃん。黒井ちゃん。虹夏ちゃん…。失望、するかなぁ。
笑顔がダントツで可愛い我がバンドのリーダーを思い浮かべる。長い金色の髪をぴょこぴょこ揺らしながら歩く仕草がこれがまた愛らしいのだ。本人に言ったらむくれてしまいそうだが。
クスリとその様を思い浮かべて笑う。何故今虹夏ちゃんの事を考えているのか。下北沢の雑踏の中によく似た雰囲気の人を見かけたからだ。
そうそう。ちょうどあんな感じ、髪をサイドにまとめて赤水玉のリボンで留めて。そのサイドテールが歩くたんびにぴょこぴょこ揺れるの。ん?…あれ?こっち向かってきてる?そのままその人はガラスの目の前まで来て…。
バンッ!!
「うおわあっ!?」
「わああっ!!」
違う!似てる人じゃなくて虹夏ちゃんだった。ガラスを叩いた虹夏ちゃんが、奇襲成功!みたいな、イタズラな笑みを浮かべて何かを喋っていた。ガラス越しなので聞こえないが。そして、ファミレスの入り口の方に向かう。
「やっほー!ご両人!珍しい組み合わせだねリョウとぼっちちゃんとか!」
「に、虹夏!」
「なにしてるの?」
その言葉と共に、書きかけの譜面やノートが開かれた私たちの手元を見た虹夏ちゃんは、笑みを引っ込めて私たちに問うてくる。
「…作曲?」
「う、うん…」
相変わらず豆鉄砲を喰らったみたいな表情のリョウ先輩。虹夏ちゃんはちょっとごめんね?と私に断りながら私の隣に腰を下ろした。
虹夏ちゃんに説明中。かくかくしかじか。
「なるほどね!作詞と作曲が出来ないと!」
「は、はい…」
「…え?由々しき問題じゃんそれ」
「…ハッキリ言ってね。その通りだよ。虹夏」
「うわ〜。…でも、ある意味良かったかも。早めに言ってくれて。ぼっちちゃん。リョウ」
むむむと。分かりやすく唸る虹夏ちゃん。その表情を見ながらリョウ先輩は呟く。
「…あんまり知られたくなかったよ。不安を与えちゃうし。私の問題なんだから、皆に言ってもしょうがないし」
その言葉にキッと、虹夏ちゃんは目付きを変えて反応した。
「…私はそんなに頼りないか?」
「へ?い、いや、そういうわけじゃ…」
「もう!前にリョウが言ってくれたんじゃん!私は誰かのために悩めるから、いいリーダーなんだって!バンドのメンバーが悩んでるのに見て見ぬふりなんかできるか!」
「よし!今日はとことん二人に付き合うよ!私もヨヨコみたいに頼れるリーダーを目指すんだ!バシッと二人の悩みを解決して、未確認ライオット用の新曲を完成させよう!!」
立ち上がった虹夏ちゃんは、目に炎を携えつつそう宣言する!ど、どうしよう!今日の虹夏ちゃん!可愛いだけではなくカッコいいぞ!?
「とはいえ。勢いだけで解決したら私もぼっちも悩んでないわけで」
やれやれとポーズをつけたリョウ先輩のアクションに、折角虹夏ちゃんがつけた勢いが削がれる。
「むう。リョウはさ。曲とか出てこないときはどうしていたの?」
「そんなときはなかった!自然にしてたらフレーズがどっかから降りてくる。それ待ち」
「天才め…、んじゃ、ぼっちちゃんは?」
「はえ!?い、いや私も経験浅すぎてスランプとかは…。行き詰まったら辞書とか好きな詩集とかを読む感じでしょうか…?いいな、と思った表現があったら拝借させてもらったりとか…」
「うんうん。…でも、まだ行き詰まってるってことは…」
「あ、はい…。今回それではダメでしたね…、へ、へへ…、に、虹夏ちゃん、やっやっぱり詩ができない私なんかいらないですよね?」
「へ?ぼ、ぼっちちゃん?」
「ヤバい!」
「そうですよねもともとギターと作詞しか出来ない女なのにそのかたっぽ出来なくなったら私に何が残るんだただのネガティブ振りまく友達いない会話もできない取り柄なんかないないないづくしの産業廃棄物の完成じゃないか申し訳ない人と同じ空気吸っててすいません私なんかが生きててすいませんこうなったら腹を切るしかギターで腹掻っ捌いて私の内臓で皆さんに笑っていただくしかー!!!」
「虹夏ごめん協力して!三十分おきに出る発作だ!」
「いつもより火力高いねこりゃ!落ち着いてぼっちちゃん!!」
バタバタ。
「は、はふぅ。すみません取り乱しました…」
「全くぼっちちゃんは。例えギターが出来なくても作詞出来なくても君は我が結束バンドに必要だから!もっと自信持って!」
「に、にじかちゃあん…」
よしよしと。虹夏ちゃんが頭を撫でてくれる。あっ、柔らかい温かいこの感触しゅきぃ…。関係ない事に思考を囚われる私と対照的に、虹夏ちゃんは難しい顔をしていた。
「む〜ん。つまりだ。二人とも完全にアイディアが止まっちゃってるわけだ。…なんでだろね?」
私の頭から手を外して、自身の顎に当てて首を傾げる虹夏ちゃん。
「わ、分からないです…分からないけど、な、なんか。お、同じ所をぐるぐる回ってる気がして。前にも似たこと書いたなぁ、とか、こんな事が言いたかったんだっけ?とか。右往左往して、ふと手元の詩を見てみたら。何か思ってたやつと全然違って。わーってなって投げ捨てて…。それの繰り返し、みたいな感じですはい…」
「か、完全にスランプってやつだよそれ…!ご、ごめんねぼっちちゃん、そんなに悩んでたのに気付けなくて…」
そう言って少し項垂れる虹夏ちゃん。ああ。そんな顔をしないでよ。なにより私は、貴女のそんな顔を見たくないのに。
「だ、大丈夫ですよ虹夏ちゃん!こんなん何ともありません!すぐに調子を取り戻してみせますから!」
むん、と力こぶしを作る仕草をしてみるが、虹夏ちゃんの表情は曇ったままだ。あれぇ?
「…私もそんな感じ。認めたくないけど、スランプ、なのかも…。すまん、虹夏。この大事な時に…」
リョウ先輩が控えめに呟く。するとそれを聞き届けた虹夏ちゃんは、リョウ先輩に手招きをする。頭にはてなマークを浮かべたリョウ先輩がされるがまま顔を近付ける。
「えい」ぺち。
「あたっ」
痛くなさそうなデコピンがリョウ先輩に飛んだ。
「ぼっちちゃんにも、えい」ぺち。
「はうっ」
「んもう。二人とも、頑張りすぎだよ。バンドの事を思ってくれるのは嬉しいけど、それで体壊したら元も子もないじゃん!」
「で、でも虹夏…」
「幸いと言っていいのか分かんないけど、まだ締め切りまでは時間はある。…急がば回れってね。二人とも!今日は、少し音楽から離れよう!」
「えっ!?」
「な、なに!?」
突飛な発言に思わず間の抜けた声が出るが、虹夏ちゃんは構わず続ける。
「誰かが言ってたんだけど、身体を使いすぎてるときは頭が、頭を使いすぎてるときは身体が休んでるんだって!音楽のことで頭いっぱいの二人は、身体を使ってみたらいい刺激になるかもよ!取り敢えず今日は音楽忘れてさ!下北沢の周りを散歩でもしよう!汗流していい景色見て!気分転換したらさ!きっといいアイディアもでるよ!」
な、なるほど。やけに具体的な話。ひょっとしたら虹夏ちゃんの体験談なのかな…。それはそうとして…。
「お、お散歩…、い、いいかもですね…」
「気分転換か。そういえばしてなかったよ。いいかもね」
私がそう答えるとリョウ先輩も表情を崩して賛同してくれる。
「よしっ!それじゃ行こう皆!今日は音楽は聴いてもいいけど考えるのは禁止ね!」
「うん、分かったよ。行こうか!」
「は、はい!行きましょう皆さん!」
〜それからどした〜
結束バンドのホームタウン、下北沢。雑多な店が細い路地に所狭しと建ち並ぶさまは他では見られないため、平日でも人は多い。眺めながら歩くのは楽しいだろうが、それで運動になるかというと甚だ疑問だ。
私たちは、取り敢えず大きな道を目指して歩く。通い慣れた下北沢の風景を横目に見ながら。
「おっ、いいねこの古着屋。Oasisとは心が躍るよ」
「早速音楽の話じゃんリョウ。…まあ下北沢で音楽聴くなってのが無理な話か」
「へへ…ですね…」
店から流れるロックに耳を傾けながら会話を楽しんでいると、早くも先程まで囚われていた思考の回廊に光が差し込む感覚がある。だが、まだまだ決定打には程遠い。
「いやいやぼっちちゃん。もう慣れたでしょ流石に。一年弱通ってるんだからさ!私の背中から出てきなさい!」
「ううっ…!い、いつまで経っても慣れません…。陽キャのオーラが…!お、お二人とも、背中を貸してください…!」
「…ふっ。ところでさ、虹夏。行くアテとかはあるの?目標決めずフラフラするのもなかなかキツイと思うけど」
私の様子を流し見て、僅かに口元を歪めたあと、虹夏ちゃんに問うリョウ先輩。
「…まあね、行きたい場所はあるんだけどさ?まだヒミツ!気にせずいろいろ行ってみようよ!まだ始まったばかりだよ!」
冬の日差しが柔らかく私たちに届く。一月なのに風もなく、程よく乾いた空気感が心地よい。周りは少しずつサブカル臭も抜け、閑静な住宅街がその姿を現しだした。
「おし!二人ともあの信号まで競争だ!」
「おいおい、小学生みたいなこと言うね虹夏は。…だが、ノッた。賞品はなんだ?」
「次見えたお店で何でも好きなの頼んで良い!」
「よっしゃ!レディーゴッ!」
言うが早いか二人は一目散に駆け出していく!
「どうしたぼっち!勝負を投げたか!?」
「ぼっちちゃん!ほら!行くよ!」
「うええっ!?ま、待ってよ二人とも!」
考えるより早く、足を動かす。…最近無かったな。こんな事。行き詰まった思考を投げ捨て、目の前のゲームに私は全力を尽くすのだった。
場所は変わりて、ここはこじんまりとした公園。ブランコが一対あり、三人掛けのベンチが一つ。先程のレースの勝者たるリョウ先輩が、ヒレカツサンドとコーヒーを嗜みながらふんぞり返っていた。
「ふははは。酒じゃないのに美味いな。勝利の美酒と言うものは!」
「くうっ…!いつもなら張り倒してるとこだけど、今日はいいや!…おいしい?」
「うむ、くるしゅうないぞ、虹夏」
「やっぱぶっ飛ばそうかな」
「あ、あはは…」
いつも通りの二人の会話を聞きながら、私は、トクトクと脈打つ心臓の音を聞いていた。…なんか確かに、何も考えないで体を動かすの、良いかも…。
遮断器に、遠くを飛ぶ飛行機の音。駆け回る子どもの笑い声に、すり抜けていく自転車。
どこに向かうか知らされていない、私たちの短い旅。
何も遮らなかった空は少しずつ赤みが差し、思わずジャージの袖をたくし上げたくなる空気は、私たちに太陽の時間の終わりを告げていた。
「そろそろ教えなよ!虹夏!どこ行きたいのかさ!」
「もうそろそろ着くよ!リョウ!ぼっちちゃん!…ほら!」
前を歩く虹夏ちゃんが、立ち止まって手を広げる。…そこには、中々に厳しい傾きの坂道が広がっていた。
「うえっ。なんだよ虹夏この坂」
「へっへ〜。この坂の上はね、天気が良ければ富士山が見えるって話なんだよ!綺麗な景色!坂登れば運動!一挙両得の名案ってわけさ!」
「わっ…わあっ…わああっ…」
「ほら見ろ虹夏。ぼっちがちい◯わ化して泣いてるぞ」
「ぼっちちゃん!折角ここまで来たんだよ!行こう!」
うう…。富士山…!見てみたいけど、大変そう…!
「…仕方ない。乗りかかった船。行くか?皆」
「その意気だよリョウ!三人で富士山、見よう!」
意を決して登り始めるが、なかなかの勾配。運動不足の我がフットは悲鳴を上げ、進むのに難儀している。リョウ先輩や虹夏ちゃんもそれは同じらしい。
「はあっ…!はあっ…!なかなかキツイな…!虹夏…!」
「ほ、ホント…!江の島のデカい塔を皆で登った時思い出すよ…!」
「は、はあっ…!はあっ…!き、キツいですねコレ…!」
真っ赤な陽が坂の頂上に少しずつ蕩けていく。…確かに、あの夕陽を富士山とセットで見れたら最高だろうなぁ…。そんな事を考えていると、リョウ先輩から思わぬ無茶振りをされる。
「何もなしはキツイな。はあっ…!よし、ぼっち。歌え!」
「えっ!?ふええ!?」
「コラリョウ。無茶を…。はあっ。はあっ。言うなよ…!」
虹夏ちゃんは庇ってくれるが、確かに何か歌ったほうが気が紛れるかも。そう考えた私は、目の前の坂を見ながら何を歌おうか考える。
「え、ええと」
そう前置きしてから私は歌う。坂道も、マジメな夜さえもポジティブに捉える、あの曲を。
「ぼっち、いいね…!はあっ…。その曲は、私も好き…!」
「そ、その曲なら私も知ってるよ、はあっ…。こうだよね」
虹夏ちゃんが私の続きを歌う。
「はあっ…!はあっ…!ふ、ふふっ!」
それに、リョウ先輩が続いた。
色が赤しか無くなってしまったかのように錯覚するような坂道。私には、澄み切った乾いた空気のお陰で、確信めいた予感があった。
荒々しく吐く三人分の息。その音だけが世界の全てであるかのように錯覚する。
それでも、何故か嫌じゃない。
無心に目指す。頂上を。口ずさみながら。
稀に互いの表情を確かめるように覗き込んで。
硬いコンクリートの感覚を確かめるように、一歩一歩頂上へと歩みを進める。
そうすれば、何か、見える気がするから。
水平線の向こう側に、赤と群青が二分する。
目の前に広がった、火花を飛ばさない、巨大な線香花火のような太陽を背負った富士山は、私たちの言葉を消し飛ばすには十分な説得力を持っていた。
「わ、わあっ…!!」
虹夏ちゃんが口を両手で押さえている。手に取るように気持ちが分かる。
「…陳腐だな。何もかも。目の前の光景に比べたら」
リョウ先輩。そうですね。私たちが抱えていた悩みすらも。
「す、凄い…!凄いですね!」
何か具体的なものを得たわけじゃない。音楽的な何かを学んだわけでもない。なのに、目の前の風景はそんな理屈を、全部無視して前に進める。そんな力を私にくれた。
そんな気がしたんだ。
虹夏ちゃんが連れて行ってくれた旅から三日後。私は歌詞を書き上げた。リョウ先輩が創り上げた曲。その一つ一つのフレーズが、あの日歩いた坂道の勾配を、街並みの赤さを思い起こさせたから。
リョウ先輩がつけた曲名は、グルーミーグッドバイ。
まるで、私たちの悩みや不安を全て連れ去っていってくれたあの夕焼けのことを表現しているように思えて仕方なかったから。
リョウ先輩と私は、何とかスランプを脱出できたみたいだ。
でも、私は、忘れられない。
常夜灯のように柔らかい光かと思えば、肌を優しく焼くように激しく照りつけてきた、あの夕陽を。
三人で歩いた、あの短い旅路を。
幸せは途切れながらも、けして終わることなく続く。
同じ様に、出口がないトンネルなんて、きっとないんだよ。
あああああ!!もっといい文章を書けるようになりたいぜ!!いい文章を書ける人への嫉妬が止まらん!だが!このアップダウンする感情こそが生きていく原動力!!
何でもいいのです!!文章へのツッコミでも表現方法への指南でも!もちろんただの感想でもいいです!読んでくれる人こそが何よりの宝です!!
評価もよろしければお願いします!生きる糧です!!
ふふふ。分かってくれる人だけ分かってくれればいい…。
なんで歌詞使用不可なんだ…。