女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
少し時間がかかってしまいました。頑張って少しでもクオリティを上げたいと思い、色々見直していたのですが、見直せば見直すたび、直すべき所が星の数ほど見えてしまって、前書いた文と別物みたいになってしまったり、勢いがなくなってしまったりと。今更ながら、文章を書く大変さを実感しております…。
…やっぱり怖い。
少しずつ通い慣れたライブハウスが近づくたびに恐怖が擡げて来る。…先輩たち怒っているわよね。今日まで合わせの練習全部断ってきちゃった挙げ句、ライブ当日の今日は音信不通だもの。
でも。遅ばせながらロインに行く旨の連絡はした。私は逃げない。…もう逃げられない。隣りに居るお節介さんのおかげで。…。黒井、此方さん。今日会ったばかりの私に、滅茶苦茶世話を焼いてくれた。この二週間、どんなに頑張ってもギターを弾くことが出来るようにはならなかった。でも。ボーカルだけなら何とかなるかも!やるんだ。やるのよ喜多郁代!黒井さんの言う通り、私の胸の中にある後悔を濯ぐんだ!!そして、今までの態度を先輩たちにお詫びするんだ!
いつしかライブハウスに降りる階段の前にたどり着き、決意を込めて見下ろす。私の心の中を反映するかのように、薄暗く見えにくい地下へと続く階段の上には、店の名前を表す、STARRYと書かれた看板があった。
「…大丈夫。私がついているわ」
肩にポンッと。手が置かれ、そう語り掛けられる。…ふっと、重圧が軽くなった気がした。
「…うん。行こっ」
黒井さんに振り返って笑顔を返し、私は階段を降りるのだった。
最下部にある扉を開くと、元々薄暗いアングラなイメージをさらに助長する、黒を基調としたシックな空間が広がる。まだ営業時間じゃないからか、受付には誰も居なかった。所々に貼られるバンドの宣伝のチラシやら、アルバイト募集の紙やらを見やりながら奥に進む。すると眼下にステージと客席とに分かれるSTARRYのメインフロアが顔を出す。そこに出してある従業員用のテーブルに、目当ての人物たちは居た。
「…あっ!!喜多ちゃん!!」
「おお。郁代」
「リョウ先輩…伊地知先輩…」
元気に私のことを呼んでくれたのが伊地知先輩。金色の長い髪をサイドテールに纏めた髪型が特徴だ。…そして、あまり好きではない私の下の名前で私を呼ぶのが、リョウ先輩。…私の憧れの人。青髪のショートカットの髪型をアシンメトリーに纏めている、ユニセックスな見た目の美人さん。いやホントに顔が良い。今そんな事思ってる場合じゃないけど。
「…今まで、ごめんなさい。合わせの練習にも出れなくて…」
「う、ううん!来てくれただけで嬉しいよ!今迄は、体調でも悪かったの?」
「…そういう訳ではないです…」
パタパタと駆け寄って来てくれた伊地知先輩と会話を交わしていると、後ろからバシッと背中を叩かれる。
「…さあ、喜多郁代。勇気を出しなさい。言うべきことがあるでしょう?」
振り返ると黒井さんが、不敵に笑いながら私を見つめている。うう。郁代はやめて…。
「…えっと。喜多ちゃん。後ろの方は…?」
伊地知先輩が黒井さんに話を振りかけた時、私は意を決して先輩たちに告白した!
「伊地知先輩…リョウ先輩!!ごめんなさい!!私、ギター弾けるって言っちゃったけど、ホントは全然弾けないんです!!」
「え!?」
「え」
「「ええええええええ〜〜〜っ!?!?!!??」」
「マジで!?そいつはマズイよ喜多ちゃん!今日のライブ、思っくそギターのパートあるよ!?」
「うう〜ご、ごめんなさい!本気になって練習すれば一曲ぐらい何とかなるかなって!でも、ギターすっごく難しくて…!あれよあれよと本番の日になっちゃって〜!」
「え、ええ〜…」
伊地知先輩が困惑の表情を浮かべる。ううう…、ほ、ほんとにごめんなさい…。
「ふむ。まあそんなこったろうと思った。合わせの練習に来ない時点で少し分かってたよ」
えっ!?リョウ先輩…?
「も少し早く言ってほしかったかな。それならそれでギターは打ち込みにするなり助っ人頼むなり出来た。…残念だけど、今日は中止するしかないね」
「あっ!?リョウ先輩!それには及びません!!全くの偶然なのですが、ギターを弾ける助っ人を連れてきました!!」
「ほう?…その後ろの、バリバリにロックな見た目の人?」
後ろの黒井さんを見ると、少し得意げに自分の胸に手を当てながら、ズズイと前に出てくる。
「只今喜多さんより御紹介を賜りました。私、黒井此方と申します!喜多さんのギターの代打で来ました!もしよろしければ、今日のライブのギター!私にお任せください!!」
「えっと、それは嬉しいんだけど…だ、大丈夫?」
不安そうに確認する伊地知先輩の言葉に被せるようにリョウ先輩が。
「弾けるの?」
黒井さんを値踏みするかのように見つめながら、聞きたいことだけを最短で口にする。まるで心の裏側まで裸にしそうなミステリアスな視線…!や、やっぱり素敵…!
「先ずは一度合わせてみませんか?正式に採用するかは、その合わせを見た後でお二人にお任せします」
黒井さんが人さし指を立てて、二人に提案する。リョウ先輩はそれを受けて、伊地知先輩と私を見やった後に、小さく頷く。
「分かった。スタジオ行こう。郁代。此方。ついてきて」
♪♪
音合わせが終わる。私は先輩方のリズムに必死に食らいつき、全力で声を張り上げた。確かに少しは歌に自信はあるのだが、それも所詮は素人レベルの話。目の前で演奏される楽器の音で容易く私の声など消し飛ばされてしまう。カラオケで歌うのとバンドのフロントマンとして歌うのは、当然ながら勝手が全然違っていた。
「…う、上手い。上手いねっ!!凄い!リョウ!イケるよこれなら!」
「…うん。正直、想像した以上。此方、凄くレベル高い」
上手いんだやっぱり。このお二人が言うなら間違いないな。素人の私が聴いても分かるレベルだ。黒井さん。凄く上手い!ひょ、ひょっとして凄い人…なのかな…?
「ありがとうございます!」
黒井さんが少々のドヤ顔でリョウ先輩に返す。それを受けた先輩は、私の歌にも言葉をくれた。
「郁代も。かなり練習したでしょ?ボーカル、凄く良く声出てた」
「せ、先輩…!!」
「あとは。本番。本番が上手くいったら、さっきの謝罪。受け入れてもいいよ?」
私の目を見据え、ニヤリと不敵に微笑むリョウ先輩。
「は、はい!!頑張りますリョウ先輩!」
や、やった!!後は本番!成功させるだけだ!私の全神経!私の全細胞!!力を貸して!今この一時だけの、最高の力を!!決意を新たにしていると、伊地知先輩が黒井さんに話しかけているのが聞こえた。
「…えっと。黒井、さんだっけ。…本番終わったら少し、お話できる?」
「…?はい。大丈夫です。そしたら、本番ギリギリまで音合わせ、しましょっか?」
「うん!よし!何とかなりそうな気がしてきた!最初喜多ちゃんと連絡取れなかった時はどうしようかと思ったけど!」
「うっ!ご、ごめんなさい…」
「わわわ!ごめんごめん!でもダイジョブだよ喜多ちゃん!何より喜多ちゃんが来てくれたし、ギターできる助っ人も連れてきてくれた!みんなで頑張ってライブ成功させようね!!」
「は、はいっ!!」
「災いが転じて福になった。郁代がまさかこんなにレベルが高いギタリストを連れてくるとは」
「ふふふ。ギターの腕を褒められるのは嬉しいです、リョウ先輩。本番も、頑張っていきましょう!!」
こうして私たちは、少しでもライブのクオリティを上げるため、本番ギリギリまで音合わせに興じるのだった。
「おう!虹夏!そろそろお前らの出番だぞ、ステージ袖に行け」
スタジオの扉が開き、伊地知先輩と同じく、長い金髪の綺麗な。でも少し怖そうな雰囲気を纏った女性が、本番が近いことを教えてくれる。
「あっ、おねーちゃん!ありがとっ!」
「ここじゃ店長と呼べ。おら、さっさとしろ」
「うん!今行く!…それじゃ!みんな!行こう!!」
さっきの人は伊地知先輩のお姉さんなのかしら。こんな事思ったら失礼かもだけど、似てないわね…。そこまで考え、意識の外に追いやる。今の私に、一ミクロンでも余計なことを考える余裕はない。集中しろ喜多郁代。私にチャンスをくれた黒井さんのためにも。先輩たちのライブ。成功させるためにも!行くわよ私!腹を括りなさい!!
♪♪
…やっぱり独特の緊張感があるな。ライブ前って。何度演っても慣れやしない。伊地知虹夏はステージ上で独りごちる。
暗くなった客席を見下ろし、ドラムの音の最終確認をする。
…喜多ちゃん。大丈夫かな。これ終わったら謝らなきゃ。
私、期待しすぎて、結構プレッシャーになるような事も言っちゃってたかも。それでギター出来ないの言い出しにくくなっちゃってたりとか、あったかもしれない。私たちの方が先輩なんだ。しっかりしなくちゃ。
…大丈夫だよ喜多ちゃん。一人じゃないから。最悪駄目だったとしても、私たち入れて四人分だ!四人揃って、ダダ滑りしよう!…行くよ!喜多ちゃん!!
ハイハットの後に勢いよくドラムを叩く!そしていつものようにリョウのベースと息を合わせてリズムを形成する!…のだが!
え…!?嘘、凄い…!あ、合わせやすい!!何これ!?いつもより全然リョウのリズムが拾いやすい!なんで!?
理由はすぐに分かった。ギターだ。黒井さんだ。喜多ちゃんの代役だから、リズムギターを担当してもらってるんだけど、凄く分かりやすくリズムを刻んでくれてる。彼女が分かりやすく刻んでくれるおかげか、私やリョウのリズムまで可視化されたような感覚を覚える。凄く叩きやすい。合わせやすい!!…こんなに違うのか。リズムギター一人で!
今は後ろ姿しか見えない。か細く、小さく見える後輩の背中を見つめる。でも、彼女は立ち向かってる。大きな声を張り上げながら。プレッシャーに。恐怖に。喜多ちゃん!私たちも後ろにいるよ!倒れそうになったら支えるから!頑張れ!
わずか五分にも満たないであろうライブが終わる。…やっぱり少しはミスもあったけど、私は、ひょっとしたら過去最高のパフォーマンスができたかもしれない。
…すっごい演奏しやすかった。まるで、手を引いてもらっているような。背中を押してもらっているような。そんな感じ。
喜多ちゃんも声がよく出ていた。ステージなんて初めてだろうに、凄い。客席からのまばらな拍手は、少しずつ渦のように沸き上がり、最後は中々大きな歓声へと変わる!!やっやった!!大成功なんじゃないかこれは!
四人して慌ててステージ袖にはけ、ライブの成功を喜び合う。
「はあ、はあ…!よ、よかった…!」
「喜多ちゃ〜ん!!」
「きゃあっ!?い、伊地知先輩!?」
気付けば私は喜多ちゃんに抱きついていた。
「す、凄かったよ〜!ステージなんか初めてでしょ!?それなのにあんなに堂々と歌って…!ご、ゴメンね喜多ちゃん…!私、そんなつもりはなかったんだけど、もしかしたら喜多ちゃんに、期待しすぎて無意識にプレッシャーかけちゃってたかもって!!音信不通になっちゃったのもそれが原因だったのかなって不安で!それなのに今日のライブ来てくれて…!うう〜!ホントにありがとう〜!」
思いの内を吐露する。それに加えて喜多ちゃんはホントはギター弾けなかったのだ。まあ、嘘は良くない。それは間違いないけど、それでも逃げ出さずに来てくれたのだ。怖かったろうに。後ろめたかっただろうに。その気持ちが凄く嬉しかった。
「な、なんで伊地知先輩が謝るんですか…?へ、変ですよ。私が…、わ、私の方こそ…、ううう〜っ、わだっ、わだじぃ、よがっだっ…、み、みなざんの、大事なライブ、だ、台無じにじなぐで、よがっだっ…!!」
私と喜多ちゃんはしばらくの間、抱き合って泣いていた。
「ふふふ。雨降って地固まる。とはこのことですかね?」
「此方。ああゆうシーンは尊い。って言うらしいよ?」
「確かに!美少女女子高生二人が感極まって抱き合うシーンなんか尊すぎてそれだけで円盤の売り上げ期待できそうですもんねリョウ先輩!」
「動画撮っといて後でファンに売ろう。多分高く売れる」
後ろから聞こえてくる最低な会話に熱がどんどん冷えていく。
「喜多ちゃん?ちょ〜っとごめんね〜?」
「あ、あはは…」
私は苦笑いをする喜多ちゃんからゆ〜っくりと手を放し、高速で振り向く!
「何売ろうとしてんだリョウゴラ!?せっかくいい感じだったのに台無しだよ!私の感動返せ!」
「ヤッベ虹夏がキレた。逃げ逃げ!」
「待てコラ!」
私の隣にいたリョウ先輩を追いかけていく伊地知先輩。…なんかトムとジェ◯ーみたいねぇ。そう思いながら、あちらも一人残された、喜多さんへと話し掛けに行く。
「お疲れ様、喜多さん。魂のこもったいい歌声だったわよ」
喜多さんは私の目を一瞬見つめた後、深々と頭を下げた。
「…ありがとう。黒井さん。全部、貴女のおかげ。こんな意気地無しの背中を押してくれて。…先輩たちに謝るチャンスをくれて。…本当に感謝してるわ」
「それは貴女が自分で成し得たことよ。私は背中を押しただけ。逃げ出さずに立ち向かったのは貴女自身の勇気。礼を言われるようなことではないわ」
「…それでも言うわよ。ありがとう…。大きな、借りが出来ちゃったわね、貴女には」
「ふふふ。なら、貸し一つね。使い方は後で良く考えておくわ。…今はただ、ライブの成功をみんなで喜び合いましょう」
向こうの方で捕まえたリョウ先輩をヘッドロックで締め上げながら、伊地知先輩が天使のような微笑みでコチラに手を振っている。本人にそんな気はまるでないんだろうけど行動と表情があってなさ過ぎて怖いわ。…伊地知先輩は怒らせると怖いタイプだな、と。一人思いながら、私と喜多さんは先輩たちの方へと歩を進めるのであった。
君なら出来るよ!期待してるよ!頑張って!!…ともすれば、受け取る人の心を奮い立たせる応援のエール。…でも、時としてそれは。