女子高生ギタリストはギターヒーローの夢を見るか!? 作:はま0821
祭りの後。
「東京ステージを勝ち抜いた栄えあるバンドは!!」
瞬間、喉を鳴らし、呼吸を忘れた。
「四獣相!!そして、シデロスの二組だ!!見事な演奏、パフォーマンスだったぜ!!」
「──────」
全身の毛が逆立つ感覚に、頭が沸騰しかけ、そして静かに冷めていく。歓声やら、悲嘆の声やら周りから色々と耳に入るが、今は頭にまで届かない。
ああ──────。終わっちゃった……………。
「うおおっしゃああああ!!!!!やっぱ俺たち最高!!」
「わわたしがいいいるんだから当たり前でしょ!?この可愛い私が!!」
「声震えてんだよ素直に喜べって!!よっしゃあああああ!!!」
「……………………」グッ。
思い思いに叫び、喜びを爆発させる四獣相の面々。普段クールな面々ですらこの喜びよう。いかにこのステージの戦いが予断を許さず、熾烈を極めたかがありありと伝わる。
「や、やった…!!!やりましたよヨヨコ先輩!!」
「ふんっ!!当たり前よ騒ぐのは全国でトップに立ってから!!」
「…。ヨヨコ先輩。足ガクガク。このパターンもう見た」
「う、五月蝿い幽々!!人が精一杯気勢張ってんのに一瞬でバラすな!!」
「気勢って認めてる!?あはは!皆!やったねぇ!!」
コチラはシデロス。同じ様にそれぞれのやりようで感情を爆発させる。こんな時まで意地を張るヨヨコの胆力は見上げたものだった。
「…完敗、だな」
「…。ごめんなさいリーダー。私たちがもっとしっかりしてれば…」
「言いっこなしさ。…シデロスについてはよく知ってたし、対策も打ってきた。だが結束バンド、四獣相などのバンドに対しては情報が不足してたね」
「で、でも…!!先輩たちはこのフェス出れるの今年が最後で…!!」
「まあね。それは残念だけど、司会の人も再三言ってくれたように、ここで終わりじゃない。リベンジを果たすのはそこでいいさ」
ケモノリアのリーダーは、自身の最後の挑戦に付き合ってくれたメンバーたちを労う。ドラムセットに腰掛けながら涙目でこちらを眺める仲間に目をやった後、四獣相を見て。
(一先ずは、おめでとう。でもこのまま勝ち逃げはさせないよ。絶対にね)
氷の刃のような視線を飛ばすのだった。
拍手と喝采が、この戦国のようなステージを突破したバンドへと送られる。だが、その波にまるで乗れず、まるで世界から切り離されてしまったかのように、結束バンドの面々は、ただただ立ち尽くしていた。まるで、糸が切れてしまった人形のように。作物も荒れ果て、獣すら訪ねてこなくなった畑で立ち続けるカカシのように。
そうしてしばらくの間動けなかったが、それでも一つ、動き出した影があった。金色のサイドテールを翻す、結束バンドのリーダー、伊地知虹夏だ。
「し、しょーがないよー、皆!負けちゃったのは残念だけど、また次もあるって!元気出してこ!!」
気丈に声を張り上げる。顔には笑みを貼り付けて。するとその声に反応し、黒髪タトゥーの女子ギタリスト、黒井此方が、勢い良く虹夏の方に歩き出した。
「ちょっこなっ…!?」
あまりに剣呑なそのスピードに青髪のベーシスト、山田リョウが制止の声を挟もうとするが、それより一瞬早く此方は虹夏の前に立つと、先程の歩くスピードが嘘のような柔らかい所作で、虹夏を掻き抱いた。
「ふぇっ?」
「…嘘ですよ。わ、私、分かりますもん。馬鹿じゃないから。伊地知先輩、ムリしてる。いつものわ、笑い方じゃないもん…か、隠さないでよ。私に。私たちにだけは…」
回した背中側から頭を撫でる。すると、見た感じでは強固に見えた堰は、いとも容易く決壊した。
「…。が、我慢してたのに…。バカ。バカこなちゃん。わ、私が、ど、どんなに頑張って涙引っ込めたか…う、うわあ…うわあああん…!ま、まげぢゃっだぁぁぁ…」
その言葉と共に嗚咽を漏らす背中を更に強く抱く。
「ご、ごめんね…、伊地知先輩…。わ、わたじがわるいんだ…!!な、なにものでもないわだじが!わたじがもっと上手かったら!くちだげのわだじは何も守れない!!仲間の夢も!笑顔も!何一つ!!」
悲痛に満ちた慟哭。喜びのさなかにあったシデロスや四獣相の面々でさえこちらを注視するほどの。すると此方に向かって、桃色の髪のピンクジャージ、後藤ひとりが歩き出した。少し潤んでいるターコイズの瞳に、確かな意志を携えて。
「違う!!!!!」
その声量は驚く程で、会場にいた人間の殆どの耳目を奪った。普段の彼女なら掻き消えていたであろう。だが、今の彼女はそんな事一切意に返さない。
「く、黒井ちゃんは口だけなんかじゃないもん!!ハッキリしてて呆れ返るくらいに前向きで!!私の憧れだよ!!訂正して黒井ちゃん!!」
目には涙を一杯に溜め、頬を赤くしながらも、言いたいことはハッキリと。その剣幕に虹夏も、此方も一瞬涙を忘れた。するとひとりは二人の肩を抱き、静かに語る。
「…本当に。何がヒーローだ…!!わだじなんだよ黒井ちゃん!!わたじなんだ…!!わ、わだじがほ、ホントにヒーローだっだら…!!ご、ごめんみんな…!!な、なざげない、弱いヒーローでほんどにごめんねぇ…!!」
「ぼっぢじゃんはなざげなぐなんがないよぉ〜!!わ、わだじがあ〜!うあああああ〜ん!!」
「う、うう、うぅぅぅぅ…!!」
最早ここが衆人環視の上などと忘れてしまったのであろう三人の、啜り泣く声が響き渡る。その光景を眺めていた赤髪の少女、喜多郁代は、これ以上ないほどに拳に力を込めた。
「…先輩。弱いって悔しいね」
「…郁代」
「私。弱いのが。負けるのが。こんなに悔しいなんて思わなかった。…今まで生きてきて色々あって。嬉しかったり楽しかったり。でも、それら全部の感情が、嘘だったんじゃないかってくらいに。…悔しい。私、今、悔しいよ…!!」
「…」
涙を流してはいない。端正な赤髪で目元が隠れて表情が伺いしれないが、握りしめた両手と、食いしばった口元が、感情をありありと表現していた。そのまま顔を天井に上げたまま固まる郁代を横目で見ながら、参ったなどーしたもんかな。と、リョウは冷や汗を垂らしながら頬を掻く。すると。
パチ。パチ。パチ。パチ。
ステージの上から、結束バンドに、拍手が送られた。
「…も〜我慢できん。ごめん皆。興奮しちまった観客が一瞬だけステージに上がることを許しておくれ」
ステージの上には小豆色の髪を三つ編みに束ねたシクハックのベーシスト。廣井きくりが立っていた。
「アイツまた何を勝手に…!!」
会場の片隅でライブを見守っていた岩下志麻が、ほぼ反射で止めに入ろうとするが、それを制する手。
「待ってヨ志麻。やらせて見ようヨ。…ダイジョブだよきっと」
「しかし…!ああ、もう!どうなっても知らんぞ!」
シクハックの他の二人の心配も何のその。きくりは舞台上から結束バンドに向けて語りかける。
「なんでこんな綺麗なんだろね。本気で戦った後の涙ってのは。…悔しいよね。分かるよ皆。この未確認ライオット、実に3,000組にもわたるバンドが参加してくれたんだって。そのうち一度も負けないで、優勝まで辿り着けるのはたったの一組。当たり前だけどね」
「私はね、結束バンドだけじゃなくさ、今日ここにきて、負けちゃったバンドたちのことを、敗北者、なんて言いたくないんだ」
きくりのその言葉に、啜り泣いていた三人は顔を上げた。
「負けたことない奴なんてこの世に存在しない。私たちも初代の未確認ライオット、優勝させてもらったけどさ〜。ケッコー負け続きだよな〜。なあ、志麻!」
いきなり振られて少し面食らうが、ひらひらと手を振りつつ志麻は応対する。
「そこで私に振るのかよ。…ああ、まあな」
「シクハック初めてのライブなんて客両手で数えられるくらいしか来なかったんだぜ?他にも対バンに客全員掻っ攫われたりさ〜、フェスに出ても鳴かず飛ばず!」
「…それでも、諦めないで練習して腕磨いてライブして。そしたらファンも少しづつ付いてくれてさ。イケるぞってなった時に、イライザが来てくれて!」
「ハ〜イ♪」
壇上に、笑顔で手を振り返すイライザ。
「んああ!何言いたいかとっ散らかっちまった!えっとね、負けたことないやつなんかいなくてさ、立ち上がるスピードが違うだけだと私は思うの。一流はあらゆる手を使って素早く立ち上がるし、そうでない人は少しだけ立ち上がるのに時間がかかる。それで、敗北者ってのは、諦めちゃって立ち上がらなくなった人のことだと思うのさ」
「…諦めちまうのか?」
誰に向けてか、問いかける。最早泣くのも忘れてただ壇上を見上げる三人。固唾を飲んで見守る観衆。きくりは、三人を少し見つめた後、その後ろに目を向ける。
────真一文字に口元を結い、感情に震える瞳を携えながらもけして涙を流そうとせず、ただ真っ直ぐに自身を見つめ続ける赤髪の少女に。
「私にはどうしてもそうは思えねえ。なあ?」
その言葉と共にウインクを送ると、僅かな嗚咽と共に肩が震え、眦から気高い感情が溢れた。その肩を抱き、目をハンカチで拭ってやりながら、山田リョウはきくりに会釈を返す。
「…もらい泣きしそうだよ。…ごめんな皆!長く闘って疲れてるとこにこんな説教めいた話!勝ち上がった、四獣相と、シデロス!!出来ることなら、ここにいる皆の意思を継いでやれ!」
弾かれたように顔を上げた各バンドのリーダーの二人。
「…はい。姉さん!」
「ああ!言われなくてもだ!!ハナから誰にも、負けるつもりはねえ!」
「うん。いい顔だ!…そしたら皆、名残惜しかろうが、今日の日はおしまい。またどっかのフェスで会おうぜ!!」
フィニッシュにきくりはそう叫ぶ。まるでこれからライブが始まるかのようなテンションだったが、会場の面々もついついつられて叫んでいたため、結果オーライか。
「…全く。人の仕事奪うなよきくり。まあでも大体コイツの言う通りだ!再三言うが君たちにはまだ先がある!!決躓いてそれで終わりのヤツにはなんなよ!!つまんねえからな!
さてではライブ審査!!これにて決着だ!!皆!!気い付けて帰れよ!!おつかれーーーーーーー!!!!」
司会者もきくりに負けじと叫ぶ。もう審査は終わったというのに、何故か熱気に包まれた新宿FOLTは異様な雰囲気を醸していた。
「…皆」
その雰囲気の中、再び五人集まって帰り支度をしていた結束バンドに声を掛ける影。ピンクパーカーにツインテールの黒髪を翻す、やみ系ファッションの女。
「…うう…!や、やみさあん…!」
「こ、此方意外ね…。貴女は泣かないもんだと勝手に思ってたわ」
「な、なぎまずよぉ…!な、なんだどおもっでるんでずがあ…!!」
「ああごめんごめん。…帰っちゃう前にね、皆に言っときたかったことがあって」
「カッコよかった!凄かったよ!皆!」
全員の目を真っ直ぐと見つめて迷いなく放つ。
「凄いバンドばっかだったけど…。私の中で一番光り輝いて見えたのは、間違いなく貴女たち!…だからさ。もう、泣かないでよ」
「う、うゔ…!うあああ〜ん!追い打ちかけないでくださいよ〜!!」
「ええ!?慰めに来たのに!?」
これ以上なく優しい言葉を掛けたつもりが、更に泣き出してしまった虹夏を見て困惑するやみ。それに続いて、ひとり、喜多、此方と。沈静化していた者たちもつられて泣き出した。
「ああああ、もお。せっかく静かになってたのに…」
「ご、ごめん…。ふふ、貴女はいいの?山田リョウ」
「…うん。少し、そんな気もあったんだけどさ…。皆が、私のかわりに泣いてくれてるのかも」
「…そうだよね。悔しいよね…。今日は泣いちゃいなよ。悔しさとかやりきれなさとか全部、目から出しちゃえ!」
声を上げて泣きじゃくる四人をヤレヤレと呆れ混じりに慰める二人。
それを見つめる他バンドたちの視線はどこか、温かかった。
…結束バンドの夏が終わった。熱を次の季節へと攫っていく、一陣の秋風のように。
そろそろオシマイです。
まあ、なんか結束バンド負け続きだな。そこは申し訳ないな。
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