片田舎のおっさん。二天一流の剣鬼と出逢う 作:装甲大義相州吾郎入道正宗
※サムライレムラントの重大なネタバレが大量にあります。
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OK?
あぁ……満足した。
俺は、宮本伊織は思う。
己の骨子たる欲求が。己を構成する飢えが。己が求めた強者との戦いが。幼いあの夜に憧れた剣士の到達点にようやく辿り着いたのを実感したからだ。
キッカケとなったのは盈月の儀。
とある事情から未熟な剣士のまま江戸の街で燻っていた俺は、亜種聖杯戦争とも呼ばれるどんな願いも叶えられるという願望器を巡る戦いに巻き込まれてしまう。
願うべき想いこそ無かったが、他のマスター達が掲げる悪しき願いを叶えさせない為、無辜の民が安心して暮らせる太平の世を維持すべく、相棒となったセイバーと共に義を掲げて剣を振るう日々に身を投じた。
望外だったのは本来ならば決して刃を交える機会が無い、時代を超えた強者…英霊たるサーヴァント達との死合いを経験した事で、師匠から受け継ぐも未完であった二天一流を極める大きな一助となった事。
そして儀式の後半が訪れる頃、五輪の教えを超えた先にある剣の極地、"空"の領域を掴むまで己が成長したのは正に行幸と言える。
単なる棒振り坊主だった宮本伊織の二刀は、夢にまで見ていた天へ並び立つに至った。
ーーだからこそ。
血で血を争うような戦いの果てに盈月の勝者として最後まで生き残った俺は、最後までやり遂げたという深い達成感と共にずっと側で戦い抜いてくれたセイバーに心の底から感謝の気持ちを告げ、そしてずっと…ずっと心根の奥に仕舞い込んでいた我欲をぶつける決心を着けた。
それこそ宮本伊織の真性にして、獣性。
清浄な心を持つ心優しい人間など偽りの姿。
某は人を斬るために人を
これすなわち、剣鬼。
剣に関わらぬその他全てを余分として捨て去る宮本伊織の本質が、望月の元で露わとなった。
故に……盈月は残す。
高潔な初志など既に不要。混沌をばら撒く盈月を餌に、古今東西の強者が集う戦乱を引き起こし、永遠に戦い続けるのだ。
羅刹の如き所業を、人の道から外れた邪智を振り翳そう。
…そうだ。それでいい。
美しい剣技の持ち主であり我が無二の羨望、セイバーよ。
出逢った当初は戦力にならぬと後方へ追いやられたものだが、空を掴むに至った今の俺であれば真っ向からでも剣を合わせられる。
正道を歩む者ならば、人の道から外れたこの羅刹を力づくで止めてみるがいい。
そして……俺は敗れた。
二天一流は確かに成った。セイバー…ヤマトタケルが放つ至高の絶技、八岐怒涛の理合も把握するに至った。空を知った。
刹那の隙を見切って後の先を確実に突き、セイバーに勝てると確信したにも関わらず敗北を喫した。
敗因は一つ。それらを駆使して尚…届かぬ領域があったのだ。
俺が相手を理解して剣で斬るならば、相手もまたこちらを理解して剣を斬り返すのも道理。短い間柄とはいえ、志を同じくしたセイバーが俺の理を解するなど…あぁ、当たり前ではないか。
敵も努力し、工夫をしている。
もはやセイバーの剣で貫かれた心臓は鼓動という役目を既に終え、体の端々が冷たくなっていく。
永遠の戦乱を望む邪悪は友の介錯によって、ひっそりと潰えたといえるだろう。
だからこそ、もう望むまい。
宮本伊織という、人を斬らねば魂が腐り落ちる異常者の剣客芝居はこれにて閉幕。
燻っていた強き剣の持ち主と戦いたいという渇望だけが発散されて、後には何も残らない。
誰もが夢見る大団円は夢想の彼方に消え去り、妹のカヤをに何事も告げずに去る事に一抹の心苦しさが残るが、物語の締めとしてはまぁ、ちょうど良い塩梅なのだろう。
剣鬼、宮本伊織の人生はこれぐらいで良い。
羅刹の道を許容する悪鬼は泡沫の夢として消え去るくらいで丁度いい。
>本当に?
「……血の匂いが濃いな」
この日。
片田舎に構える剣術道場で師範を任されている中年、ベリル・ガーデナントは近隣の村人達から、人里に近づいているサーベルボアという猪型の魔獣を退治して欲しいと依頼され、目撃情報があった森へ単身出掛けていた。
相手は大型の獲物で一見すると危険そうな外観をしているが、冒険者や一角の剣士が油断しなければ、まず負ける事はない。
特に普段から剣を振るって現役の肉体強度を維持しているベリルが気負いをする必要など一切無い簡単な依頼のはずだった。
しかし、いざ発見報告があった周辺に足を踏み入れてみれば、森特有の濃い植物の芳香に混じって鉄臭い獣臭が漂っているのに気が付く。ほのかに温かさを感じる真新しい臭気からして目標までの距離はそれほど離れてはいないはず。
ベリルはゆっくり警戒して匂いの中心と思わしき場所まで近づくと…そこにはある意味で予想通りの光景が広がっていた。
(既に息絶えたサーベルボア…か。でも口元から腹部まで続くこの横一文字の切り口は、間違いなく誰かが剣で戦った跡だ)
ーーそれも恐ろしいほどの剣の冴えを持つ手練れ。
ベリルは直感的に悟った。
恐らくは突進してくるサーベルボアと交差する際、水平の角度で剣を振るったのだろう。真横に走る裂き傷以外に外傷は無く、一振りだけで仕留めたのが分かる。
しかし身体の内部深くに刃を滑り込ませたまま巨獣の腹を斬り抜くのは単純な力任せで出来る芸当では決してない。太く発達して横並びになった肋骨を一息で断ち割る必要があり、これを実現しようと思えば並大抵以上の膂力はもちろん、非常に繊細かつ微妙な揺れも許さない振りの正確さが不可欠となってくるはず。…だと言うのに。
(なんて綺麗な切口なんだ…)
無意識にゴクリと喉が鳴る。
生涯のほとんどをこの片田舎で過ごしているベリルにとって、自分より剣の腕が立つ人物とは己の師でもある父親以外に他はいなかった。
無論、非才な自分とは異なり、将来が楽しみな弟子達が見せる技の冴えは羨望と共にたくさん見てきたが、この切口から分かる剣技の完成度はまるでものが違う。
確かな剣才に増長する事なく夥しいほど積み上げた修練の果てに、ようやく辿り着くような芸術的な一閃なとは違いない。
なら、その腕前を自分の目でも確かめてみたい。
不思議な高揚感に身を包まれたベリルは依頼のサーベルボアが複数目撃されている事からもまだ残りの個体が残されていると考え、森林地帯の奥へと進んでいく。すると、ただならぬ気配の塊…剣気を感じ取ってそちらの方へと足を早める。
数分が経ち、獣道の果てに開けた広場を見つけた先には、先ほどのように倒れ伏す二頭のサーベルボアと…見慣れない異国風の装いをした青年が立っていた。
彼は魔獣が出る危険地帯にも関わらず、腰に差した二振りの剣以外は寸鉄すら帯びていない軽装のみ。しかしその服装のどこにも返り血は付着していない上、息を切らした様子もない。まるでお使いのような些事を終わらせた気軽さすら感じる不思議な男性だった。
先程のサーベルボアの件からてっきり自分かそれ以上に経験を積んだ見るからに凄腕の剣士だろうと想像していたベリルは、思わず肩透かしを食らったような感覚を覚えるが、人を見かけだけで判断するほど歳が若い訳でも、頭ごなしに判断を早る浅慮でもない。取り敢えず軽く世間話でもしてみるかと、軽い気持ちで目の前に立つ青年に声を掛ける事にした。
そして…あの夜、確かに胸を突かれて死んだはずの宮本伊織は異世界で数奇な邂逅を果たす。
ーーこれより始まるは剣客奇譚、その二幕。
刃に芯を置く剣聖と、刃を真とする剣鬼はやがて軋りを生み出しながら、互いに譲れぬ一線を張り合うだろう。
それは正しく盈月の如く。
いずれは満ちて、侵食し、剣の道は収斂す。
そして。
ーー我らの骨子は、捩れ狂う。
アリューシアの服装は過激だなと思う反面、伊吹童子も大概だったなと納得する伊織くん。