主人公恐怖症、主人公に付け狙われる。 作:ドンカラス好き
外敵を、排除し続けた。ヒカリに会うまでは……いや、というよりプルートか。あのジジイに連れ回される前は、ほとんどミオかキッサキに居た。
戦って戦って戦い続けた。動けなくして帰りの船に乗せた。一番多いのはロケット団だったかな。ほとんど苦戦もしなかったが、たまに手強いのも居た。黒装束の三人組だった。
あの戦いの日々は多分アカギの、不器用な気遣いなのだと今では思う。俺の得意なことをさせ続けて、余計なことを考えさせない方が良いと思ったんだろう。俺が傷つかないように。
俺はアカギを守っていたと思っていたけど、ほんとはずっとアカギに守られていた。ずっと卑怯者だった。
*
アラベスクタウンまでポプラと名乗る老婆に連れられて、ビートくんとユウリさんが着くまで待つことになった。連絡手段がないから。
それは良いのだが、なぜか今、俺は婆さんと2人きりでお茶をしている。本当になぜ?
「あんたは道だけじゃなくて心も迷子みたいだからね、話を聞いてやるよ。年寄りの義務さ」
「……なんの話?」
紅茶を飲みながらこちらへ目をやる婆さんの仕草は、前の世界のアニメ映画にでも出てきそうなくらい似合う。でも、質問の内容はよく分からなかった。
「なんの話か決めるのはあんただね。愚痴でもなんでもいいからなんか話しな。内緒にしといてやるから。そんな顔しといて愚痴の一つもないこたないだろ」
「そんなんいくらでもあるけど……」
別に秘密にしてるわけでもない。そう思ってぽつぽつと話し始める。……それか、ずっと誰かに話したかったのかもしれない。
「俺ね、ほんとは19歳じゃなくて20歳なんだ。いや、もっとほんとは14歳なんだけど」
急にワケのわからないことを話し始めても、婆さんは特に動じる様子もない。……どちらでも別にいい。どうでもいい。自己満足に変わりはない。
「丸一年、ほとんど記憶が飛んだんだ。それまでの五年間も飛び飛びになってる。こっちに、ガラルに来て気付いたよ。アローラには少ししか居なかったとばかり……思ってたから」
そうだ。こっちに来てからずっと五年だと思ってたのに、ガラル来てから年度見てビビったんだよな。アローラで残ってる記憶は、ほぼ潜伏してた記憶だったから
……話していくと、自分の中で溜め込んでいた感情が、ふつふつと温度が上がっていく様な、そんな感覚が強くなっていく。
「多分バチが当たったんだよ。こっちに来る前の記憶のためだったのにね、それはほとんど消えちゃって、こっちに来てからの分も消えて、なんの意味も無くなっちゃった」
そこまでは話すつもり無かったのに、という内容が、自分の思考と独立して出てくる。黒い、どろどろした感情がぼとりぼとりと口から漏れ出る。ビートくんにも、ヒカリにすら隠していた自分の内面。
白いもやがかかっているようだ。この部屋に、俺の頭に。視界は薄くなっていく。
「償う勇気もなくて、何もかもを怖がって、それで、自分を終わらせる勇気もない。今だって、ビートくんを育てるまではって言い訳してる」
楽になりたくて話しているのに、その逆に突き進んでいるみたいだ。話せば話すほど、自分はろくでもない人物なんだなと自覚させられる。
「旅は楽しくて、ビートくんもユウリさんもすごく良い子で、俺にはそんな資格もないのに」
ダメだ。止まらない。
「俺はねぇ……! 苦しめられるって知ってて捕まえたんだよ! バクダンやられるよりはマシだからって! ずっと言い訳! ずっと!」
…………
「俺の身体さ! こっち来てからなーんも変わらないんだよ! 全部で六年もいんのにさあ! こっちの世界に認められてないんだよ! 何も食わなくても死なないの! 身長も全く伸びないの!」
………………
「そんなやつがさ! そんな人間でもない様なやつがさ! ポケモンを…………大好きだったのに…………」
……………………
「お、俺は……今度こそ、今度こそ終わらせる。次は逃げない。次は…………」
*
「おや、起きたかね。ほれ、ちょうどあんたのお友達が迎えに来たよ」
「あ、あぁ……ありがと、寝てた、のか……?」
……ずきりと頭が痛む。飲んだことなんてないけど、二日酔いみたいだ。
何かこの婆さんと話してたと思ったが何にも記憶にない。うーん、寝過ぎたかな……
そんな思考もビートくんとユウリさんとポップくんの3人を見て吹っ飛んだ。顔が真っ赤になる。そうだぁ〜、迷子になったんだ俺ぇ〜……
「俺は所詮迷子の子供です。お兄さんなんて呼ばないでください……」
「子供だなんて思ってないですよ。あなたのことがみんな好きだから心配してるだけなんです。ね、元気出してください」
歳下の女の子にこんな慰められ方することあるか? 恥を辞書でひいたら俺が出るだろ。撫でられてんだよ俺。すごくない?
「ユウリさんは優しいね……それに比べて俺は……」
「役得だと思ってるだけだからほんとに気にしなくていいですよ」
「バラすなビート。私はここで得点を稼ぐんだ」
ビートの方を向いていたユウリさんがにこぉっと凄まじい笑顔をしながらこちらに向き直り、これまた凄まじい可愛らしさの声でこう続ける。
「でもお兄さんがどぉーしてもお詫びしたいっていうなら? 私は? お茶とか一緒にしてくれるだけでも全然喜んじゃう系の女子ですけどね!」
「恋はここまで人のテンションをおかしくするのか……!?」
ホップくんがすごい顔してユウリさん見てなんか言ってる。内容は聞こえなかったけどどうしたんだろう。ユウリさんいつもこんなんじゃね? 幼馴染だって聞いたけど。
「とりあえず今日は遅いから……ジムとか観光は明日にしよ」
「あ、じゃあ私はちょっとやることあるので……また明日来ますね! それでは!」
光速で去っていった。ユウリさんはとても忙しそうである。マジで何してんだろ。ヒカリも結構変なことばっかしてた気がするし、そういうもんか?
「俺もちょっと行くとこあるから……先寝てていいよ」
そしてやはり少し気になることがある。どうせ寝てたし、夜の間に済ませておこう。まぁ別に寝なくてもいい身体だけど。
「一人で、ですか? また迷子にならないでしょうね」
「いやもうここの場所は分かったから迷わないって! じゃ、ホップくんとビートくんも、夜ふかししたらダメだからね、じゃあね」
場所さえ分かればドンカラスで飛べる。というわけでばさりと羽根を広げてスタンバっているドンカラスに掴まって、逆走をすることにした。目指すはラテラルタウンである。
*
「これで良かったのかい? 意味のわからない言葉が多かったが、だいぶ吐き出させたと思うがね」
子供たちが去っていった後、ポプラはガラルのマタドガスを労いながら、スマホロトムで通話をしていた。相手は、ローズ。
「ええ、充分です! ありがとうポプラさん、忙しい時期に大変なことを頼んでしまいましたね」
「ふん、どちらにせよ気にはなっていたからねえ。ビートって子はなかなかのピンクで後継者に良さそうだったが……それどころじゃないみたいだ」
「ええ、ええ! そうなんですよ、私が気にかけている子が
吐き出させ、それを忘れさせた。それでも……
「だがね、あの子は近いうちに潰れるよ。対症療法じゃ限界がある」
「うーん、何をおいても時間ですか……こちらでも何か手を考えておきますよ。では、今回のお礼は後ほど……」
「いらないよ。若者を導くのは年寄りだって相場は決まってるんだ。それはあんたもだよ。ローズ」
笑い声と共に通話が切れる。ここではないどこかから来たという少年。哀れな少年。せめて、救われる日が来ることを祈る。鍵はおそらく、あの三人の子供たちなのだろう。
「ふん、ここまで関わらせといて、嫌な終わり方はごめんなんだがね」