主人公恐怖症、主人公に付け狙われる。   作:ドンカラス好き

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前編と後編は同時投稿です。こちらから読んでください。前話は本日の早朝に投稿してます。順番に読んでください。すみません。





ガラル編 14(前編)

 

 

 シュートシティ、チャンピオンカップでのトーナメントが行われるその街で、ジムバッジを8個集めてようやく辿り着いたビートは、苛立っていた。

 

「行きますよホップ! ユウリに直接問いただす!」

「わ、分かったからちょっと落ち着け! 焦りすぎだぞ!」

 

 サキナが本気で姿を消したなら、絶対に見つけることは出来ないと、これまでの付き合いで分かっていた。ならばユウリだ。

 ローズタワーで見たと言っている人がいた。ならば直接向かうまで。

 サキナが隠し事をしていることなんて分かってた。だけどなぜ、ユウリだけに! 普段冷静なビートは憤りが抑えられない。

 

『不審者がいます。不審者がいます。スタッフはただちに不審者を追い返してください』

 

 ローズタワーに入った瞬間アナウンスが流れる。オリーヴの声だった。

 エレベーターからマクロコスモスの社員たちが出てくる。

 

「どうあっても会いたくないと……? 上等ですよ」

「おれらはこんなんじゃ止められないぞ!」

 

 100階建てのローズタワー。屋上までのエレベーターに入るまで、入っても、登っている最中でも、そこそこの強さを持ったマクロコスモスの社員が滝のように勝負を挑んでくる。

 

 ビートとホップで倒して、倒して、ようやく屋上に着いたその瞬間、あまりの驚愕に声が出た。

 

「まさか最後があなた達とはね……サキナさん! ローズ委員長!」

「マジか! サキナさんと戦うのか!?」

 

 ローズタワーの屋上で待っていたのはユウリでは無かった。むしろそれを飛び越えて、サキナとローズが立っている。

 

「戦わないよ。ここまで来れた時点で合格だから」

「……じゃあなんでここに居るんです? 説明してくれる気になったんですか?」

 

 そんなわけはないと分かっていながらも聞いてみる。案の定はぐらかしたような返答が返ってきた。

 

「ユウリさんの邪魔をさせたくないのよ。今から来るやつにね。ここに俺が居れば何があろうとこっち来んのよそいつは。ローズ委員長はそれを手伝ってくれんだって。やっさしー」

 

 全部俺のせいだからねぇ、と言いながら薄く笑うサキナは、確実に普段と様子が違っている。

 

「はっはっは、照れるなぁ。わたくしで役に立てるかはわかりませんが」

「そういうわけで、俺らの本番は君らじゃないのよ。後ろにはエネルギープラント直通のワープがある。そっちにユウリさんは居るよ。どうか助けてあげてね」

 

 助けてあげてという言葉の意味も分からない。サキナが何を言っているかも分からない。

 

「説明は……してはくれないんですね」

「それは全部終わったらローズ委員長に聞いてくれ。俺の正体も何もかも話してある。本当に今までごめんな、俺はきみの師匠なんて名乗っちゃいけない人物なのよ」

 

 ほら、まずはユウリさんの方が緊急だから、と急かされる。

 

「ユウリさんは今、ブラックナイトと対峙してる。俺が行ければいいんだけどね。悪いけど二人が手伝ってあげてくれ」

 

 

 

*

 

 

 

「彼らにも手伝ってもらった方が良かったのでは?」

「いや〜、そういうんじゃないからなぁ。ローズ委員長だったらさぁ、親しい人に自分が死ぬとこ見せたい?」

「…………なるほど」

「ユウリさんが何であんなのが欲しいかは知らんけどさぁ、迷惑はかけたくないんだよね」

 

 

 

*

 

 

 

「あれ? 来たんだ。手伝ってくれるの?」

 

 ナックルシティのエネルギープラント、その屋上で、渦巻くエネルギーを目の前に一人、立っていたユウリが振り返る。

 

「なんでこんなことしてるんです?」

「なんでって……そんな悪いことみたいに」

 

 心外だと言わんばかりに口を尖らせ、ビートとホップに向き直るユウリ。彼女の顔が、今までになく真剣だったため、二人は気圧される。

 

「知ってる? ローズさんの目的。1000年先まで続くガラルの繁栄、なんだって」

「1000年先のことを今やる意味があるのか?」

「ローズさんはどうか知らないけど、私にはあるんだよ」

 

 ユウリの顔が、話すたび、悲しそうに歪んでいく。

 

「……お兄さんは! これから先も生き続けるんだよ!? 100年経とうが1000年経とうが! だから私は今! お兄さんが居なくなる前に! ここをお兄さんが安心して住める場所にするんだ!」

 

 あまりに荒唐無稽な内容だったのに、真に迫っているユウリの様子が、それが嘘でも冗談でもないことを物語っていた。

 

「私一人でも充分だけど……手伝ってくれたら嬉しい。あまり時間がなさそうだから……」

 

 勘で分かる。お兄さんがヤバい。一刻も早く、このムゲンダイナを捕らえて助けに行かなくては。

 ユウリの前には、ねがいぼしを与えすぎて本来のムゲンダイナを超えた存在がいた。

 

 

 

*

 

 

 

「お、来たか。待ってたぜ〜」

「おお、なるほど。これはこれは。わたくしでは足手纏いにならないかな?」

 

 ようやくお目当てだ。ようやくこの時が来た。案の定邪魔者も付いてきてはいるが……

 

 俺とローズ委員長の目の前には、ヒカリとシロナが立っていた。

 

「待ってた? 逃げ回ってたくせによく言う。あたしにビビってたんだろうが」

「いやいやホントに。ビビってんのは今もだけどね。ただ……シロナぁ〜、てめーは帰れよ。ドンカラス一体に負けた雑魚が」

「あれは私の負けじゃない!」

「どう見ても負けだったろ、見苦しロナが」

「変なあだ名やめて!」

 

 恐怖で声が震えそうになるのを誤魔化しながら話す。ヤバいな。久々に会うと威圧感がちげーよ。てか口調がさ、最初に会った頃より断然ドスが効いてるんだけどどういうこと? まだお前17歳の女の子だよね? なんか前より覚悟キマってない?

 

「それにしても不法入国ってやつだぞてめーら。ねぇローズ委員長」

「君もだねぇ」

 

 てへぺろ。

 

「おい、どうでもいい話してんじゃない。それより……アンタ、どこまで覚えてる?」

「なんの話か分かんないなぁ」

 

 もう記憶なんて飛び飛びだからねぇ。覚えてないことだらけだから。

 

「アローラでのことよ。ミヅキのことは? アンタのことを死ぬほど心配してる。追い詰めたって後悔しておかしくなってるのよ」

「ん〜? いや、なんか聞き覚えがある名前だけどねぇ、分かんねーや」

 

 ミヅキってのはアローラの主人公かな? じゃあ分かんないな。あの土地神のせいでアローラの記憶はほとんど抜け落ちちまってるから。

 俺の記憶の中ではアローラ来てすぐにヒカリに見つかってここに逃げたつもりだけど。本当はアローラに一年は居たっぽいからなぁ。

 

「そう……もう猶予は無いのね。分かった。力づくで安静にさせてやるよ……!」

「ちょっと待ってヒカリ、あと一つだけ……サキナ、あなた……カトレアも心配してたわよ」

 

 戦闘開始かと思ったら何故かシロナが制止した。ちょっと助かる。シロナは邪魔だからね。どっかやってからバトルを始めたい。

 ……カトレア?

 

「……? カトレアって誰」

「それも忘れてしまったのね……あなたを保護してしばらく一緒に暮らしていたという話だったのに……」

「…………? …………! ああ! ふわふわちゃん!? カトレアって名前だったんだ! 初めて知ったわ!」

 

 そういや誘拐される時に保護がどうとか言ってたわ! へぇ〜、そんな名前だったんだなあ。いやそっちは忘れてないよ。覚えてる覚えてる。

 そっかぁ〜……心配してたのか……とんでもない不義理をしてしまった。あんなに良くしてくれたのに。

 

「名前も知らないで一緒に暮らしてたの!?」

「いやだって自己紹介とかされてないし。ワッハはコクーンだかなんだか名乗ってたけど」

「あたしを無視して談笑だなんて……ずいぶん度胸がついたのね? サキナ……!」

 

 やべっ、現実逃避しすぎた。ヒカリがキレてる。超怖え。……いや、ビビってちゃダメだな。もうこれで終わりなんだから。

 

「じゃあ委員長さぁ、邪魔されたくないからシロナ引き受けてくんない?」

「シンオウの旧チャンピオンはわたくしには荷が重いなあ」

「大丈夫大丈夫。ドンカラスとゴウカザルにサポートさせる。あいつ言うて雑魚よ」

「舐めんじゃないわよ!」

 

 ドンカラスとゴウカザルを出して二人を追いやる。なんかキレてたけどまぁいいだろ。ローズ委員長頑張ってね。さっさと終わらせてね。その二匹居ないと流石にキツいからね。

 

「シロナさんを舐めすぎじゃない? ガラルじゃドンカラスのアレは使えないでしょうに」

 

 アレっていうのはアカギと戦闘中だったシロナを一方的に倒したドンカラスの切り札のことだろう。

 ドンカラスがヤミカラス100匹呼び寄せて統率して、数の暴力で倒すやつ。あん時はダルかったからボールの開閉ボタン壊して、すでに場に出てたガブリアスは101匹総出でついばみまくって倒したんだったな。懐かしい。

 あんくらいで怒るなんてシロナも大人気ないよなぁ。

 

「ドンカラス抜きであたしと戦えると思ってるのも、あたしの方も舐めてる証拠よね……?」

「お前も知ってるだろ。ドンカラスはアレだけじゃねえ。俺と同じだからな」

 

 ドンカラスは自分で戦いながら、俺と同じ精度でゴウカザルに指示が出せる。ドンカラスは俺と同じ、トレーナーでもあるんだよ。ローズ委員長だって雑魚じゃないんだ。三対一ならすぐにケリがつくさ。

 それにな、バトル中に戻って来るってのが重要なのよ。一粒で二度美味しいぜ、多分な。

 

「安心しろよ。逃げも隠れもせず、全力でお前を倒してやるから」

「全力は出すな。出す前に昏倒させて連れて帰ってやる。次に起きたらあたしのペットだ。可愛がってやるよ。良かったな」

 

 こいつ本当に怖いな。マフィアか何かか?

 

 

 

*

 

 

 

「ムクホーク! インファイト!」

「ミロカロス! ふぶき!」

 

 ダンデなどとは比べ物にならない。ただでさえ才能に溢れた主人公が、極限まで磨き上げられている。サキナの手持ちの中でも耐久力に優れたミロカロスが、あっという間に削られていく。

 ただ、初手がムクホークなのはとても良い。理想と言っても良いだろう。

 

「あたしには勝てないんだからさっさと降参しなさい。今なら全部許してあげるから。ね?」

「……お前、何にビビってんだ? するわけねーだろ」

 

 猫撫で声での降伏勧告。ヒカリとはとても思えない。

 

「じゃあもう……二度と頼まないわよ! ムクホーク、ブレイブバード!」

 

 ヒカリが本気を出してきた。そもそも敵うわけがない。それはヒカリの言う通り。ギラティナを出さずとも、伝説ですらない普通のポケモンでも圧倒される。

 ……ミロカロスが倒された。

 

「おっ、捨てる神あれば拾う神ありってか! こっちもブレイブバードだ、ドンカラス!」

 

 ミロカロスが倒された瞬間、ドンカラスがゴウカザルを乗せて戻ってきた。ゴウカザルを降ろし、相手を倒して油断している、無防備のムクホークを一撃で倒す。

 サキナの手持ちの中でもドンカラスだけは、ヒカリに対抗できるほどの練度を誇っている。

 ……早めの決着で助かった。

 

 ムクホークを倒せたのはとても大きい。一番のネックと言っても良かった。バトル中に戻ってくるというのは、不意打ちのチャンスが無限にあるということだ。まず一つ目の利点を上手く使えたことに、サキナはほくそ笑んだ。

 

「……ムクホークを倒したくらいで調子乗ってんじゃないわよ。来い、エンペルト、ギラティナ」

「いや、もう準備は整ったからな。おい、ヒカリ……知ってるか?」

 

 エンペルトとギラティナを同時に出すヒカリ。だが、サキナの様子がおかしい。あれほどギラティナに怯えていたというのに、様子が……

 こつこつと音を立てながら歩くサキナ。急に戦闘を中断したことに驚きながらも、油断なくヒカリは注視する。

 

「俺は目がいいんだ。これは知ってるな? そんで目だけじゃない。目ほどじゃないが五感全てが常人とは違う。こっちも知ってるな?」

「……それだけはやめなさい」

「あ〜、その反応……やっぱりお前だったか。使った記憶はあっても、誰に使ったかの記憶が無くてな」

「それだけはやめなさい!」

 

 叫びながらヒカリがエンペルトに指示したのは、サキナがいつの間にか持っていた、マスターボールを狙ってのれいとうビーム。狙いは良い。……ただ、それは既に後手に回っている。

 

「いや、もう遅いんだ。来い! カプ・テテフ! 俺に生命の鱗粉を!! それがおまえの望みだったんだろう!?」

 

 凍りつくよりも早く、零れ落ちるように放たれたマスターボールから飛び出したのは、アローラの伝説。とちがみポケモン、カプ・テテフ。

 

 ピンク色の神たるポケモンが、久々の外に歓喜している。いや、喜んでいるのは、外に出られたということだけではない。

 カプ・テテフが嬉々として振り撒く、光り輝く鱗粉を浴びて、サキナの全身は血管が浮き出て、赤く、異様に染まっていく。

 カプ・テテフの狂った笑い声が聞こえるたびに、サキナの身体は異形に染まる。

 

「ハハ! ハハハ! ハハッハハハハハハハ! 全てが見える! 全てを感じる! 最高の気分だ! お前もそうだろ!?」

「やめろって言ってるでしょ!? 死にたいの!?」

 

 目は真っ赤に充血し、その口調は精神が興奮していることを隠せていない。

 カプ・テテフの鱗粉は、傷を癒やし、肉体を活性化させるものである。……適量なら。

 適量を超えれば、効果は真逆になる。過剰な肉体の活性化とはすなわち肉体の崩壊だ。

 

 過去にアローラで、ヒカリから逃げる最中に縄張りに踏み込んでしまったことにより、けらけらと笑うカプ・テテフの鱗粉で殺されかけているサキナは、トラウマを踏み越えてそれでもその利点を取った。

 

 記憶の混濁、肉体の崩壊……生命の危機と引き換えに、もとより優れた五感を、極限まで向上させる。これが伝説二体、主人公二人を同時に相手に出来るほどの最強の切り札。

 

 ヒカリは、この状態にだけはさせたくなかった。追い詰めすぎるとこうなることは分かっていた。だからこそ慎重に攻めたはずなのに、あまりにも早すぎる。その、誤算とは……

 

「第二ラウンドだ! 今度こそ! 最高の終わりを!!」

 

 ヒカリの言う通り、サキナが死にたがっているということである。

 

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