主人公恐怖症、主人公に付け狙われる。   作:ドンカラス好き

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ガラル編 1

 

 アローラで決死の逃避行をキメてドンカラスにぶら下がりながら風に揺られる男は、次に逃げる地方を思案していた。

 

「アローラはダメだったな、田舎だから目撃情報が一瞬で広まるし、俺、指名手配犯だもんなあ」

 

 そう、指名手配されているのである。逃亡はほぼ全て密入国に限り、顔バレしたら速攻シンオウから新チャンピオンの追っ手が来るというハードモード。泣いていいか?

 

「んー、どこ行くか……知らない地方で良いトコあるかぁ?」

 

 主要な地方が載った旅行雑誌のようなものを眺めながら、ぶつぶつと呟く。そもそも今いるこのアローラも知らない地方だった。随分と知らない間に新作が出たようで、知らない地方の名前がいくつも載っている。

 ゲームとしての知識がなくともアローラを選んだ理由は、自然が豊かだと聞いたから逃げやすそうだと思ったのと、知っているところが怖かったからだ。カントーもジョウトもホウエンも、ゲームで逸話を知っている。主人公たちのイカれた強さが分かっている。そんなとこに近づけるか。怖いわ。

 

「アローラの主人公、名前は知らんがヒカリと手ェ組まれた時チビるかと思ったわ。やっぱ主人公はどの地方も怖え……」

 

 そこで考えた最高の逃亡先。それは……

 

「ガラルか……良いな。ドンカラス、ガラルまでって行けそう? キツい?」

「ぐわぁー」

 

 ガラル地方、無敗のチャンピオン、ダンデが君臨するカレーの国だ。

 ガラルを選んだ理由は二つ。一つ目はダンデが無敗のチャンピオンならば、まだ主人公は完成しきっていないということ。アローラはなんかもう色々とやばかった。主人公が光の化身みたいなの出してきたしもうエンディング後だったんだろう。主人公は序盤だとまだマイルドだ。怖くて挑めないけど。

 理由の二つ目はこれもダンデだ。ダンデのおかげでガラル地方はチャンピオンが入れない。

 よほどダンデを負かせたくないんだろうな。ローズ委員長ってスポンサーは。俺がダンデだったらキレてるが、ローズ委員長には感謝しかない。姑息サンキュー。

 

 そんなこんなでガラルである。主人公にさえ気を付けて関わらないようにすれば、ヒカリも来ないし俺カレー好きだし最高の地方だ。

 自信なさげに鳴いたドンカラスの体力だけが心配なので、水上と空中交互に行くことにする。恐怖に怯える生活がこれで終わるかと思うとワクワクが止まらない。

 

「ミロカロス、頼めるか?」

「ふゅーん」

 

 快く背に乗せてくれるミロカロス。手持ちも良い子ばかりだ。こんなに強くてかっこよくて良い子たちなのに主人公にはボコボコにされてしまうと言うのだから、この世は無情である。

 食糧は見つかる前にある程度確保出来ているし、問題ないだろうと、男は現在地からガラル地方までの距離を計算しながら、水上を走るように泳ぐミロカロスの頭を撫でていた。

 

 

「うおおおっしゃ着いたぞガラル地方ー! ドンカラス、ミロカロス、お疲れ! 休んでてくれ!」

 

 アローラを飛び出してから三日。ようやくガラル地方に到着した。へとへとのドンカラスとミロカロスを労いボールに戻しながら、ここはどこなのかと地図を開く。ポケッチはダメだ。ヒカリにコードバレてるから。捕捉されるから。

 

「あ〜、すぐ近くに山があって、その奥に工場みてーなのが見えるから……この山がガラル鉱山であそこがエンジンシティだな」

 

 間違いなくガラル地方のようで安堵する。一番怖かったのが、ガラルに入る前に追っ手の主人公に捕まることだった。へとへとの移動要員二匹では逃げきれない。本当に良かったと、腰を折り曲げてほっとため息をつく。

 

「まず、山ん中で休むか……さすがに疲れたわ」

 

 指名手配犯と言っても、堂々としていれば基本バレない。他地方の指名手配犯なんて写真を見ても記憶に残らないのが普通だ。

 だが今の状態でポケセンなんぞに入るのはまずい。ぼろぼろの状態で入れば怪しまれる。トレーナーカードの照会の時に、偽造がバレる危険がある。

 怪しまれる要素は出来る限り消さなくては、山の中は修行中のトレーナーや、作業員が多い。多少身なりが汚くとも浮きやしない。

 夜になるまでは山の中で身なりを整えて、夜になったらポケセンに泊まろう。

 

「おっ……と、危ないな、油断してた」

 

 そう考えながらガラル鉱山の坑道を歩く男だったが、やはりこの世界は危険が多いようで、複数のコロモリに襲われる。

 

「ゴウカザル、軽く相手してやれ」

 

 疲れているドンカラスは使えない。ボールから出したゴウカザルに指示を出すと、瞬く間にコロモリたちが倒れていく。五匹ほどだろうか、ゴウカザルは優しいから少ししたら目が覚める程度には手加減したことだろう。ゴウカザルに礼を言いながらボールに戻し、また奥へと進もうとする男だったが、後ろから彼を呼び止める声が聞こえてくる。

 

「待ってください! あなた、腕の立つトレーナーですよね」

 

 後ろを振り返ると、今の戦闘を見れば分かります、だなんて偉そうに言ってる少年がいた。紫色の服を着て、くるんくるんとした髪をしている少年だ。面倒そうな匂いがぷんぷんする。

 下手に勝負とか挑まれる前に逃げよう。

 

「そんなことナイヨー。俺急ぐから先イクヨー」

「ぼくはビートといいましてね、一刻も早く強くなる方法を探していたんです。エリート中のエリートであるこのぼくに教えを授ける栄誉を与えてあげてもいいのですが……いかがですか?」

「人の話聞けよ。凄まじく偉そうだなキミ」

 

 勝負よりもっと面倒だった。師匠だと? 昔のイケイケな俺ならOKしたかもしれんが今は無理だ。俺なんかに教えられることはない。

 見たところジムチャレンジャーというやつだろう。ジムを巡ってチャンピオンに挑む、興行じみてはいるが他の地方とそう変わらない。見たとこライバルにでも負けたのだろうか、悔しさが顔に滲んでいる。

 

「誰かに負けたの? 俺じゃ無理だから他あたんなよ。俺弱いからさあ」

「ぐっ……負けたわけではありません、譲ってあげただけです。それよりあなたは強いトレーナーでしょう。短く簡潔な指示だというのに的確に行動したポケモンから鍛え上げられていることがわかりますし、そこの倒されたコロモリたちを見るに過剰に傷つけないよう手加減さえされている! ぼくの師匠に相応しい技量です!」

 

 めちゃくちゃ褒めてくれる。ビートくん良いやつだ。

 いやだが師匠、師匠か……、ビートくんが主人公じゃないことは分かっている。負けてる時点で主人公じゃないし、主人公だったら初対面でも俺はビビる。恐怖センサー的なものである。ジムチャレンジャーの師匠という肩書きがあれば怪しまれずに済むのではないか、なんて、思考が師匠になる寄りに傾いていく。

 褒められたのもそうだが、無敵と思ってたところを負けてしまった悔しさが見えるビートに、自分を重ねてしまっている。このまま彼が勝ち抜けば主人公にぶち当たるだろうが、師匠ポジなら直接関わらなくても大丈夫だろうと、楽観的な思考に陥る。

 

「しょうがねえな〜! 俺はサキナだ。強くなる手伝いくらいはしてやるよ! ほら、握手!」

「ぼくはビートです。ぼくは勝ち続けなくてはいけないので、期待していますよ、サキナさん」

 

 打算とチョロさが入り混じり、師弟関係が作られてしまった。嬉しそうに握手に応じるビートくんを見て、良いことをしたなと満足げに微笑む彼、サキナは、その負けた相手が主人公であるユウリということもつゆ知らず、続くビートのお願いにもOKしてしまう。

 

「サキナさん、ガラル鉱山を出たところにぼくが不覚を取った相手がいます。彼女と戦ってくれませんか」

 

 師匠の戦いを見て勉強したいんです! と、ビートはすでにサキナの扱い方を学んだようで、煽ててくる。すっかり良い気になった彼は、上機嫌でビートに乗ってしまった。

 

「よぉーし、任せとけビートくん! 」

「あっ、あそこにいる女の子がそうです。緑の帽子をかぶった……ってどうしました!? 顔真っ青ですよ!?」

 

主人公じゃねーか! おいおいふざけんなよ、いや、勝てるよ多分勝てはする。さっきのコロモリもレベル10とかだったろうしここは序盤だろうから。だけど序盤に勝っても完成した主人公には勝てない。だったらむしろ下手に喧嘩売ってる分そっちの方がタチ悪いのだ。ヒカリで懲りてる。だけどもはや逃げられない。だってもうビートくん煽ってんだもん主人公のこと。

 

「さっきはまぐれでぼくに勝って有頂天でしょうね! だけれど今度はこの人が相手です! 果たしてあなたに勝てますかねえ!」

「今度はお兄さんがバトルしたいんですか? 良いですよ。……今度は楽しめると良いなあ」

 

 そうして始まった主人公、ユウリとのバトル。俺は回復させたビートくんの手持ちを使っての勝負だった。結果から言えば俺は勝った。さすがに旅に出て間もないトレーナーには、主人公でも負けない。

 

「え、負けた……? さっきと同じポケモンだったのに……」

 

 不穏な空気を纏うユウリにビビりながら、やはりわざと負けとけばよかったと一瞬思ったが、それはダメだろう。どうせ手加減されたことがバレて怒られる。まだ勝っといた方がマシだ。主人公に怒られるのはやだ。怖い。

 

「どうです? 彼の実力は! ぼくの師匠なんですよ! あなたは運が良かっただけなのです!」

「おっ、おいビートくんやめなさいよ刺激しないでよ怖いよ」

 

 ビクビクしながらユウリの反応を伺うサキナ。だが顔を上げたユウリの表情は、旅の序盤のヒカリに一度だけ勝った時に彼女が見せた、あの獲物を見つけた獣のような恐ろしい表情とはまるで違う、爽やかな笑みだった。

 

「お兄さん、すごい強いんですね! びっくりしちゃいました! ……また戦ってくださいね?」

 

 ビートには目もくれず、こちらを凝視するユウリのその表情の裏に潜む激情に気付けなかったサキナは、ヒカリとアローラだけがおかしかっただけかもしれないと、ガードを下げてしまった。

 

「あぁ、今までで一番楽しかった……あの人ともっとやりたい、もっとバトルしたい……あの人を負かしたらどんな気分なんだろうな……勝ったらずっと一緒にいてくれるかな……」

 

 小声でぼそぼそ呟きながらサキナへの執着心を漏らすユウリに、気付かなかったのはサキナにとって幸運だったのか、それとも不運だったのか……

 

 

 

*

 

 

 その頃のヒカリ

 

「もうっ、また逃げられた! 次は絶対逃がさないんだから……! すぐにどこに逃げたか見つけてやる! また前みたいにバトルして、あたしが勝って、負けたあいつの顔を見るのよ、がたがた震えながら這いつくばって、あたしを見上げるあいつの顔を……! ふふ、うふふ、うふふふふふふ」

「こ、怖いわよヒカリ。あなたはもう新しいチャンピオンなんだからもうちょっと落ち着いて……!」

 

 シロナの静止も聞かず、サキナの逃亡先を見つけようと躍起になるヒカリだった。

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