主人公恐怖症、主人公に付け狙われる。   作:ドンカラス好き

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ガラル編 2

 

 俯いてぶるぶる震えているユウリを尻目に、今のうちにとサキナたちは逃げ出した。

 今のでロックオンされちゃったかな、いや、そんなことないよな。一回勝っただけだし。

 

 そう、完成前の主人公は結構負ける。負けイベなんてものはないが、最初から無敗とは限らない。ただエンディングが近くなると、あるいはエンディングを迎えると、主人公は主人公以外では手がつけられなくなる。俺なんかではひとたまりもなくなる。

 ……こちらが打つ全ての手が完封され、歪んだ笑みのヒカリに少しずつ迫られたあの時。テンガン山でのあの一件以来、主人公が怖くてしょうがない。他の地方の主人公でも、ゲームの知識なんて無くともすぐ分かる。完全に主人公という名の怪物に心を折られた。格付けされてしまった。

 

 

 

*

 

 

 

 なぜサキナが慌てているのかまるで分からない様子のビートを無理やり引っ張って、彼らが到着したのは最初のジムがある街、ターフタウンである。

 

「あー着いた着いた! もう暗いし疲れたからポケセン行って寝よーぜビートくん。ジム戦は明日にしよ」

「別に良いですが……そもそもなぜそんなにボロボロなんです?」

 

 まさか密入国したからだよとも言えず、うふふと笑ってごまかした。……めっちゃ怪訝そうな顔で見られた。笑顔がうさんくさいらしい。そんなか?

 

「……今出したトレーナーカード、別の名前書いてありませんでした?」

「いやいや気のせいでしょ〜…………けどここでは俺のことをプクさんと呼べ」

「それは気のせいじゃないのでは!?」

 

 ちょっと受付でビートくんに絡まれたけど勢いで誤魔化す。ビートくん押しに弱そうだから勢いでなんとかなる。なった。ちょろいもんだぜ。ただ怪訝そうな目線のレベルがアップした。悲しい。

 

 きょろきょろと辺りを見回して、ユウリがいないか確認する。いない。良し。そもそもここの主人公には絡まれる要素はない。少し勝っただけである。安心して眠れそうだ。

 

「ねえねえビートくんビートくん、好きな子っている?」

「なんなんですかうっとうしい! もう寝なさい!」

 

 二段ベッドの上の方に寝転がって、下の段にいるビートくんに話しかけたらお母さんみたいなこと言われて怒られた。どうやらはしゃいでいるようだ。本当に久しぶりに、何も警戒せずに休めることが嬉しくてたまらない。今までは追っ手を警戒してポケセンの宿だなんてまともな場所に泊まることは出来なかった。

 

 少しユウリは怖いが、別にここでは何もしてないし、指名手配犯だとバレているわけでもないだろう。ちょっと一回負けたぐらいでそこまで追われることはあるまい。シンオウやアローラの時のようなミスさえ犯さなければ……

 

 その思考が甘ったれたものだったと、朝起きて、ビートくんと共に部屋を出た瞬間に思い知る。

 

「おはようございます! 早いですね、今日はジム戦ですか?」

「キャアアアアアア!」

 

 出待ちされていたことに対する恐怖と、トラウマの対象が目の前にいきなり現れたことに対する驚愕で悲鳴が口からまろび出た。慌ててすぐさまビートくんの背に隠れる。

 

「ね、またバトルしてくださいね? それとも先にジムチャレンジですか? 一緒に観戦しませんか? 私はもう昨日バッジを取ったので。ね? どうですか?」

「アッアッ、そ、そうっすね……へへ、はい、機会があれば……今日はちょっとビートくんとね、あの、修行があるから……」

「ぼくの背に隠れたまま会話するのやめてもらえます? あとぼくを巻き込まないでください。怖い」

 

 俺の方が怖いよ! しょうがないだろ! つかそもそもなんで部屋も今日の予定もバレてるんだ? 寝ている時に屋根から音がしたけど、いや、まさか……

 

「……あとビートくんって言ったっけ。君には絶対負けないから。お兄さんは渡さない……!」

「だからやめてくれませんか巻き込むの! バトルで競ってくださいよ!」

 

 なんだか分からんがビートくんにヘイトが向いたぞ。やはりビートくんは神だ。この世界に来て初めての仲間、大切な弟子であり相棒、この世界で最も一緒にいて癒される。絶対に離れない……!

 

「あなたもわざとやってませんか!? 彼女の目がどんどん鋭くなっていってるんですが!」

 

 サキナがキラキラした目でビートくんを見るほどに、ユウリの嫉妬が深くなっていく。もうめちゃくちゃである。

 

 

 

*

 

 

 

 なんとか着いてこようとするユウリを振り切って、ターフタウンで最も大きい建物であるターフジムに辿り着く。ただそこまでの足取りは重いなんてものではなかった。

 

「あぁ……結局ここでも目ぇ付けられんのかよぉ……なんなんだよもう、呪われてんだろ…………よっぽど自分を負かした俺が憎いのかな、復讐されるかなぁ〜……!」

「アナタほんとに鈍いんですね、なんでこんな朴念仁に巻き込まれなくてはならないのか……ま、腕は良いのでまだ我慢してあげますけど」

 

 巻き込んだのはビートくんの方ではないのか? よく分からないことをのたまうくりくり頭である。ビートくんに呆れた目を向けると、ビートくんもまた呆れた目でこちらを見ていた。なんて悲しい目線の交差だろうか。

 

「そもそもなんでジムなんです? 今日は修行じゃなかったんですか?」

「本当のこと言うわけないでしょ怖いもん。そもそも今のビートくんでも一個目のジムは楽勝なんだから。ただここのバッジ取ったら猛特訓だ。本気で鍛え上げてやる……!」

「なぜ急にそんなやる気を……? いえ、嬉しいですが。負けるわけにはいかないのでね」

 

 そうだ。負けてもらうわけにはいかない。ここからビートくんにはユウリに勝ってもらわなければならない。そうすれば矛先もこちらからビートくんへと変わるだろう。名付けて主人公をライバルに押し付けよう大作戦だ。ビートくんを最高のライバルとして鍛え上げるのだ。

 大好きなビートくんには悪いが、主人公に絡まれた方が強くなれるぞ。がんばれ。

 俺は自分の作戦を正当化した。

 

 

 

 

*

 

 

 その頃のヒカリ

 

「やっと見つけたわ! ガラルね、そんなとこにまで逃げるなんて、捕まえたらどうしてやろうかしら……!」

「ど、どうやって見つけたの? 特に国際警察から連絡は来ていないけれど……」

「ちょうどこっちに来ていたマツバさんを脅して見つけさせました。じゃっ、今から行ってきます!」

「やめてあげて!? というか、ガラルはダメよ、あそこは制限がかかってて……ああっ、待って、飛んでかないで! すぐ交渉するから!交渉するからぁ〜!」

 

 苦労人シロナの苦労は止まらない。

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