主人公恐怖症、主人公に付け狙われる。 作:ドンカラス好き
ギンガ団の理想なんか一つも興味なかった。
アカギの考える感情のない世界になんて、なってほしくなかった。
それでも協力していたのは、主人公を止めても、どうせ最後はギラティナの怒りを買うことが、失敗することが分かっていたから。そして、アカギの持つあるものが欲しかったから。
だが別にアカギでなくても良かったんだ。あんなことになるくらいなら……
───マスターボールの調達は、別の方法を取るべきだった。
*
サキナたちはターフタウンからバウタウンに向かう途中の道、5番道路でビートと修行をしていた。
エスパー使いであるビートくんの、見たこともないガラルのエスパーポケモンたちとバトルしながら、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ビートくんってさぁ、なんでそんな負けたくないの? 負けず嫌い?」
「違いますよ。いや、負けるのは嫌いですけど。ローズ委員長は知っていますね?」
知っている。実際に会ったことなど無いが、恩人である。ここでヒカリの襲来に怯えずに居られるのも彼のおかげだ。
「そのローズ委員長に選ばれたのがぼくなのです。あの人の期待に応えなくてはならないんですよ」
「義理堅いねー、さすがビートくん。俺もローズ委員長には間接的に恩があるし、2人で頑張ろうぜ」
「間接的に恩……?」
不思議そうにしているそこのビートくんには才能がある。他の地方で言うライバル……シンオウのジュンや、アローラのハウ、チャンピオンに迫る実力の持ち主たちと同じくらいの才能だ。
「決戦は2個目のバッジを取った後、バウタウンの先の第二鉱山だ。そこでユウリさんに勝つ! ガンガンレベル上げてくぞぉ!」
「望むところですとも!」
この世界では、バトルに勝たなければレベルが上がらないなんてことはない。強者との戦闘はそれだけでレベルが上がる。
鍛えまくってユウリに勝ってもらい、俺は主人公の執着から逃れられ、ビートくんはローズ委員長に貢献できる強さを得る。なんてウィンウィンなんだ。完璧なプランだ。
ただ最後のトーナメントってのがなぁ……さすがにその頃にはユウリさんめちゃ強になってんだろうしそこで勝つのはキツいよな……俺が勝ててないんだもん。師匠の腕が悪くてごめんなビートくん。ファイナルトーナメント出場まででも充分期待には応えられてると思うけど……ローズ委員長のことは何も知らんからな。
*
丸一日修行して次の日、2人はバウタウンに到着した。本当はもっと時間を使いたかったが、そうするとユウリさんに先を行かれて、第二鉱山で待ち伏せするという計画が崩れてしまうかもしれない。いや、崩れないか? むしろあっちが常にこちらを待ち伏せしているような気さえする。怖いね。
「ここのジムリーダーはルリナって言うのかー、モデルだってよ、おおっ、ほんとに美人だわ」
「そういうのがタイプなんですか?」
「ウワァーッ!!!!! びっくりしたびっくりしたびっくりした!!!!」
トレーナー情報誌を見ながらビートくんに話しかけていたはずが、そのビートくんはいつの間にやら押しのけられ、ユウリの顔が眼前に迫ってきていた。
にこにこしているのに全く目が笑っていない。本当に怖い。心臓をバクバク言わせながら上を見る。
ドンカラスに警戒させていたのに接近されただと? ヒカリが猪突タイプならユウリは隠密タイプだというのか。上空を飛んでいたドンカラスがめっちゃ謝ってる。いやしょうがないよこれは。お前は悪くないよ。主人公が理不尽。
「よそ見してないで答えて? こういう女性がタイプなんですか? 私より? 私はダメ?」
「あの、こ、こわいっすユウリさん。いや美人だっつったのは一般的な話でぇ〜……」
「私は?」
怖いよ〜……泣いちゃう。どこに逆鱗があるかほんとわかんない。ビートくんに助けを求めようとするが……あれビートくんいねえ! 逃げやがったあいつ!
な、なんとか怒られないように褒めないと……!
「び、美人ってよりかわいい寄りだと、お、思います……しょ、将来が楽しみだな〜、なんて……えへへへ」
その言葉を聞いた瞬間、ユウリの顔はボッと火が吹いたように真っ赤になり、帽子を深く被りうつむき始めた。チャンスだ! 今のうちに逃げよう!
少し離れたところにいたビートくんを回収して小脇に抱え、慌てて海の方に走り出した。抱えられているビートくんがぼそりと何か言った気がするが、よく聞こえなかったしそれどころじゃない。
「そういう態度だから執着されるんですよ……」
*
「いやー、怖かった。ビートくん逃げんなよなマジで」
「逃げるでしょうあれは。自業自得なんだから受け入れなさい」
「それにしてもなんであんな怒ってたんだろうなぁ。自分を負かした相手が女にデレデレしてんのはプライドが許さないのかなぁ」
「……何度でも言いますけどあなたも悪いですからね? いい加減にしとかないといつか刺されますよ」
港に2人で座り、海を眺めながらぼんやりと話している。相変わらずビートくんはよく分からんことを言っている。疲れているのだろう。刺されてたまるかい。
はぁーあ、今日もジム戦やって、特訓だな。
*
顔を合わせるたびに、会話するたびに、自分の中で彼が大きくなっていく。手に入れたくてしょうがない。ずっとそばにいてほしい。ビートはズルい。彼とずっと一緒に旅をして、修行をつけてもらって、寝泊まりまで一緒にしているだと? やはり敵だ。それにビートは少し彼と仲が良すぎる。ビートに彼を取られてしまうかもしれない。そう考えると私の恋のライバルはビートということになるのかもしれない。
ユウリはそんなことを考えながら、顔の火照りを冷ますために、バウタウンを練り歩いていた。
「でも私だって褒めてもらったし……ふふっ、将来が楽しみだって」
彼からの蕩けるような褒め言葉を思い出して反芻する。スマホロトムでしっかりと録音出来たし、というより今までの彼の言葉は全て録音しているが、その中でもぶっちぎりNo. 1のお宝ボイスを手に入れた。宿に戻って聞くのが楽しみだ。
るんるん気分で歩いていると、後ろから不意に話しかけられた。
「やあやあ、きみはユウリくんですよね? ちょっとお話しいいかな?」
「……なんですか?」
ローズ委員長だ。世間にあまり興味のない私でもさすがに知っている。開会式にも出ていたおじさんだ。
楽しい気分に水をさされ、つっけんどんな返事になってしまった。隣の秘書さんが機嫌が悪くなったような顔をしている。
「まず、場所を変えようか。あぁ、安心していいよ。きみもきっと喜ぶ提案をしたいだけなんだ」
近くにあったレストラン、防波亭の、奥まった場所にある個室で、ローズは待ちきれないと言わんばかりに会話の続きを始めた。
「きみのジムバトル、見せてもらったよ。とっても才能があるんだねえ。そこで、提案があるんだけど……」
「きみの大切な人を助けさせてあげるから、わたくしのプランに協力してくれないかなあ、というお願いなんですけどね」
「助けるって……サキナさんがどうしたって言うんですか!?」
思わず声を荒げると、ローズは落ち着いて落ち着いてとユウリをたしなめ、早く答えを聞きたいユウリを焦らすように、ゆったりとした口調でその質問に答える。
「彼はね? 悪い人たちに利用されていただけなのに悪者扱いされているんだよ。国際指名手配犯なんだ。ただね、きみが協力してくれると約束するなら、わたくしの力で彼の手配を取り消させることも可能なんです」
彼はかわいそうだよねえ、なんて言いながら、ローズはのんびりとコーヒーをかき混ぜている。はやる気持ちを抑えきれない私とは対照的に。
指名手配犯だったなんて初めて知った。それも、冤罪だなんて。助けてあげなくては。その思考で頭が全て埋まった。彼を助けてあげて、手配を取り消させて、2人で幸せに暮らすのだ。きっと彼も喜ぶだろう。逃亡生活が長かったそうだから、私がたくさん癒してあげるのだ。
……そのためには、ローズの提案とやらに乗る必要がある。
「お願いってなんですか? どうすれば彼を助けられるんですか?」
「簡単ですよ。チャンピオンがあるポケモンを捕獲することに失敗した時、代わりにきみが捕まえてほしい。これだけです」
「もしチャンピオンが失敗しなくても約束は守りますよ? 保険が欲しいだけなんです。どうかなあ、彼を助けてあげたくはないかな?」
あそこまでサキナに執着しているユウリがノーと言うわけもなく、ローズからの提案に、ユウリは一も二もなく飛びつき、了承した。
恋する少女は悪い大人に簡単に騙される。ローズからすれば騙しているつもりもないし、嘘もついていないのだが。
かくしてローズとユウリは手を組んで、本来の流れからは大きく逸脱していくことになる。その知識がないサキナには、全く気付くことの出来ない歪みが出来てしまった。
「……ガラルの1000年先の未来が保障されるなら、きみたちの100年ぐらいわたくしが保障してあげますよ」
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