主人公恐怖症、主人公に付け狙われる。 作:ドンカラス好き
マスターボールは結局、自らの身を守るために使ってしまった。
マスターボールもなく、シンオウの新旧チャンピオンに、国際警察にまで目をつけられては、○○○○の捕獲はもはや、望むべくもないだろう。
けどいいんだ。もともと捕獲出来たとしても、成功するだなんて思ってなかった。
……捨てきれない思いなど、無理やり捨てるべきなんだ。
*
「ジバコイル! 10まんボルト!」
「ブリムオン! ひかりのかべ!」
今日も今日とて特訓中である。無事にルリナを倒し、バッジを獲得したビートくんをしごいている。
「攻めと守りどっちが得意とかほざくなよ!? どっちも100点じゃないとユウリさんには勝てないぞ!」
「分かっていますよ! ぼくはどちらも120点取って見せます! ギャロップ! サイコカッター!」
「よぉしそれでいい! ジバコイル、ラスターカノンで弾き返せ!」
ビートくんは打てば響くように成長していく。この短期間の特訓で、2対1なら大分勝負になるようになってきた。
ハッキリ言って異常な成長速度だ。これならばユウリさんにも勝てるかもしれない。
……いやそもそもギャロップなのかよその子。俺の知ってるギャロップじゃない。
「ふう、この辺にしといてメシ行こうぜ。バッジ2個目の祝勝会だ。奢ってやるぞお」
「……ふふっ、ありがとうございます。防波亭、という店が美味しいと評判らしいですよ」
「じゃあそこ行こ。ターフタウンはメシ屋あんまなかったからさあ」
2人並んで歩き、話しながら考える。
ビートくんと旅をして、修行するたび、最初に会った頃の棘のようなものが抜けてきていると感じる。それが俺を信頼してくれている証だとすれば、それは、とても嬉しい。
*
「……よろしかったのですか? 委員長。あのような約束をしてしまって……」
「うん。問題ないよ。そもそもあの手配は無理筋だ。何せ彼はFall……おや?」
おやまあばったり。店に入ろうとした俺たちとかち合ったのは、店を出ようとするローズ委員長だ。実際に見るのは初めてだな。なかなかのイケオジである。
「委員長! お久しぶりです! ねがいぼしもバッジも順調に集まってますよ!」
「おや、きみは……ええと、ああ、ビートくん! 元気そうだねえ。昔ポケモンをあげた頃からすると、見違えるように立派になりましたよね」
ビートくんがたまに集めてる石ってそんな名前だったんだ。ねがいぼしだってぇ、厄ネタっぽいネーミングだけど大丈夫なのかしら。
「それと……きみがサキナくんかあ。うんうん、きみも強そうでいいですねえ。ビートくんの師匠をしてくれてるんでしょう? これからもよろしくお願いしますよ」
「……よろしくー」
うわーお全部バレてる。名前もバレてるってことは手配もバレてんね。でも捕まえる様子なくて泳がされてるってことはなんかあんのかな? ならまだ逃げなくてもよさそうね。
……良かった。まだビートくんの師匠で居たい。
「委員長、そろそろ……」
「おや、もうそんな時間か。では、ガラルの未来のためにはりきってくださいね! また会うことになるでしょうから、その時まで」
意味深だ。俺に向かって言ったな。また会うことになるだと。まぁ別になんでもいい。主人公以外ならどうとでもなる。勝てるし逃げられる。その自信がある。
俺が今考えなくてはならないのは自分の保身ではなく、ローズ委員長と話して、褒められて、期待をかけられて喜んでいるビートくんを、ただ勝たせることだけだ。
*
「待っていましたよ、ユウリ。ぼくはいまここで! あなたに勝って! ローズ委員長に選ばれるに値するのだと! サキナさんの弟子であることに値するのだと証明する!」
「……いいよ。やろうか」
ガラル第二鉱山。計画通り待ち伏せは成功し、あれから二度目のバトルが始まる。
今のビートくんはバッジ2個持ちの実力じゃない。今のユウリさん相手にも充分勝機はあるはずだ。若者2人の決闘に、口を挟まないように、邪魔しないように無言で応援をする。
「いけっ、ブリムオン!」
「おいで、エースバーン」
おい、無茶苦茶すぎるぞ。俺とずっと戦い通しで、ようやくビートくんのポケモンは最終進化系まで辿り着いたんだ。それが1人で、ここまでなんて……
「ワイルドエリアで修行した。ここで勝負をしかけてくるって聞いたから。ビートも負けたくないって知ってる。でも……私だって負けられない! もっともっと力をつけて、助けなくちゃいけないんだ!」
「相手にとって不足はありません。望むところです!」
ビートくんにはまるで怯えた様子がない。これはいけるかもしれない。頑張れ。頑張ってくれ……!
それはとても良い勝負だった。どちらかの圧勝でもない。どちらかが手酷く負けたわけではない。若い2人が全力でぶつかって、残りの1対1になるまでもつれ込んで……
だがしかし、ビートくんはそれでも負けてしまった。
「ごめんなさい……あんなに尽くしてもらっておいてこのザマとは、情けないです」
「謝んなよ、良い勝負だったよ。次は勝てるって。まだまだ先は長いんだから、俺と一緒に頑張ろうぜ」
うなだれるビートくんの頭をわしわしと撫でながら慰める。掛け値なしに良い勝負だった。
ビートくんの強さを信じきれていなかったのは俺だ。主人公には誰も勝てないなんて言って、諦めていたのは俺だ。ビートくんは何も悪くないんだ。
それでもビートくんが俺と一緒にまだ来てくれると言うのなら、一緒に一から頑張りたい。
……ビートくんを撫でていると、なんかその後ろに並んでる子がいる。目を擦る。やっぱいる。おい、良い勝負だっただろ。やめようよ。
「お兄さん、次私ね」
反省したっつっても主人公は怖えーんだよ! トラウマ無くなったわけじゃねえんだから勘弁してくれよ!
だが本人にそんなこと言えるわけもなく、おっかなびっくり撫でてみる。
「♪」
撫でる手に顔を擦り付けるようにしてくる。こんなこと言っては怒られそうだが、ライオン撫でてるような緊迫感である。髪はさらさらしてるし、顔は可愛いのに、中身が怖すぎる。ああ、最初に会ったのがヒカリじゃなくてユウリなら、こんな恐怖に襲われずに済んだのか……?
「強かったよビート。今までで一番強かった。でも次も負けないから。……ライバルとしてね」
「……ふん、今回はあなたの運が良かっただけです! 今度はぼくが勝つに決まっていますよ!」
撫でられながら何カッコつけてんだこいつ。ビートくん呆れてんじゃねえか。でもビートくん立ち直れたみたいで良かった。
というより待てよ……! ビートくんがライバルってことは、俺の計画は成功したんじゃないか!? これで執着がビートくんに移る!
いや、反省したっつってもね、それはそれ、これはこれだよな! いや〜、良かった! もうこの地方で恐れるものはないぞう! うひょひょひょひょ〜!
サキナは気付いていなかった。きっかけはバトルでも、その執着はバトルの腕だけが原因ではないことに。何も分かっていないから、余計に彼女を惹き寄せてしまう。執着を強めてしまう。恋心を抱かれているということに、鈍感すぎるサキナは気付かない。
だからユウリの次のセリフに、期待が全て打ち砕かれる。
「ねえ、お兄さん。バトルが怖いならお茶でもいいよ? 今度は逃げちゃイヤだからね? エンジンシティで待ってるから」
えぇ……なんでぇ?
増えたり減ったりするかもしれませんが、ガラル編は全10話を予定しています。