主人公恐怖症、主人公に付け狙われる。 作:ドンカラス好き
最初に目が覚めたのは、ハクタイの森の中だった。
陽を遮るような深い木々の、薄暗い木漏れ日のなか、見つけたのは怪我をしたヤミカラスと、落ちていたモンスターボール。
それがこの世界での、一番最初にある記憶。
すぐ近くにギンガ団のビルがあったのが、果たして幸運だったのか。それは今でも分からない。
*
「ビートくんついてきてよおおお! 怖いよおおおお!」
「1人で来いって言われてたじゃないですか……ちょっと、泣きながら縋り付かないでください! 汚い! 早く行かなきゃ約束の時間に間に合わなくなりますよ!」
エンジンシティのカフェに来いと言われてたサキナは、踏ん切りが付かずにビートに助けを求めていた。
涙と鼻水を擦り付けながらしがみつくも一蹴される。こいつ師匠相手に優しさがないぞ。
「そもそもさぁ〜……エースバーンってなんだよ、ポケモンは5文字までだろぉ〜……?」
「なんの話ですか、そこにいるアーマーガアも6文字でしょうが! もう本当に遅れますよ、ユウリに怒られたら怖いんでしょ!」
「お母ちゃん……」
「誰がですか!」
うじうじくだを巻いていたら叱られた。もし来なかったら……うふふ、とか笑ってたユウリさんとの約束を破るのは確かに、多分そっちの方が怖いんだろうけどさ。
「……じゃあ行くよぉ〜……はぁ、ドサイドン置いてくから一緒に修行しててね」
「良いんですか? サキナさんいないなら勝っちゃいますよ?」
「ふふん、俺の手持ちはみんなデリバード並みよ。俺がいなくても強いんだ」
「デリバード……?」
頼りのビートくんから離れ、約束のカフェへと歩を進める。
さすがの俺だってそろそろ理解しているさ。ユウリさんは俺に敵意なんてない。主人公とのバトルが怖いのを知って、気を遣ってくれたんだ。良い人だ。良い人なんだけど……
怖いのは仕方ないだろ! 俺はこの世界の人間じゃないんだ。拠り所はこの強さのみ。それが強さで上回られて、その拠り所すら奪われる絶望感、あれは凄まじいものがある。
そんなことを俯き歩きながら考えていたら、もうカフェの前に着いてしまった。……意を決して、入る。
「あっ、ちゃんと来てくれたんですね。嬉しいです」
「ど、どうも……」
ユウリさんが手招きするのに従って、向かいの席に座る。クリームソーダを注文した。ユウリさんが微笑ましい顔で見てくる。なんすか。
「あまいの、好きなんですね」
「あなたのこと、いろいろ知りたいんです。教えてくれませんか?」
本当にただお茶をしながら、雑談したいだけらしい。聞かれる内容も、好きな食べ物とか、好きなポケモンとか、他愛もない話ばかりだ。
ちょっとずつ、恐怖心や、警戒心が和らいでいくのを感じる。年下の女の子にここまで気を遣われるというのも、少し恥ずかしいけど。
ふと、ユウリが真剣な顔になる。
「……強い人が怖いんですよね、今までを思えば当たり前だと思います……でも、私も怖いってことは、私のことを強いと思ってるってことですよね?」
「待っててください。私がお兄さんを守ります。誰にも傷つけさせずに、あなたが安心して暮らせるようにします」
なんで俺の過去を知っている? ローズ委員長から聞いたのかな。でもそんな風に言ってもらえるほど、俺かわいそうじゃないっていうか……普通に悪者だよ?
「だから、出来る限りでいいんです。私だけは怖がらないでほしい。私はお兄さんのためだけに戦います。……あなたが、ポケモンバトルの楽しさを教えてくれたから」
な、なんて良い人なんだ……! やっぱり喧嘩を売らなければ良い人なんだよ主人公は。ヒカリの件は100%喧嘩売った俺が悪いし、ここまで言ってもらえるのは本当に申し訳ないんだけど……
「ユウリさん、ありがとう。今まで怖がってごめんね、これから仲良くしてくれると嬉しいな」
「う、うひっ……あっ、いえいえ、違うんですよ? はい。私は良い子です。安心安全あなたのユウリです」
ユウリの手を両手で包み込むように、ぎゅうっと握りしめ、謝る。まだやっぱりちょっと怖いが、これから主人公恐怖症を克服していくのだ。こんなに優しいユウリさんが、下心無しでここまでしてくれるというのだから。
……今よだれ垂らしてなかった? 気のせい? あっ、気のせい。なら良いんすけど。
話も終わり、2人で店を出ると、こちらを窺っていたらしいビートくんと目が合った。ドサイドンも心配そうにこっちを見ている。
「あれ? ビートくんいたの?」
「はい、いえ、襲われる心配もあったので、念のため」
「襲わないよ! ……ちょっとぐらっとは来たけど」
ぐらっとは来たんだ。ルリナの時もそうだけど、怖がる必要全く無いってのは嘘だよね? ところどころ怖いよね?
所在なさげにビートくんの方を見ると、何やら彼は真剣な顔をしていた。
「……ぼくだってあなたを守りますよ。怖い人がいるなら、今はあなたより弱くても、すぐに強くなって守ります」
「ビートくんまで……! 本当にありがとう、俺なんかのために……!」
やっぱり勘違いされてるフシがあるな? このトラウマは完全に自業自得だし、俺は誤解とかじゃなくしっかりめに悪の組織の一員だったけど……
だってそもそも俺がヒカリに狙われてる理由って、まだ初心者の頃のヒカリに勝って、ざーことかばーかとかめちゃくちゃ煽ったからだし……そんで2戦目負けそうになったら決着前に逃げたからだし……
うん、そこらへんもいずれはきちんと話さなくてはならないだろう。ここまで信頼を向けてくれている子どもたちに不義理は働けない。子どもたちといってもそんな歳離れてないけど。
シンオウで捕まるのだけはヒカリが怖すぎて嫌だったが……ここで、ガラルで捕まり、罪を償うならそれも良いかもしれない。
だけれどこのジムチャレンジが終わるまでは、ビートくんとの責任をとって見届けるまではちゃんとやんなきゃね。
*
「そもそもギンガ団は最初、今現在言われているような犯罪集団などではなかったでしょう! シンオウの幾多の町にビルを持った、宇宙エネルギー開発を謳った一団体でしかなかったはずです!」
「所属していたことは罪ではなく、そして彼はFallだった! 誰も知るものがいない世界で、頼るものがそこしか無いなかで、騙されていただけでしょう!」
そこはローズの独壇場だった。国際警察を前にして、高らかに演説を繰り広げるローズのその弁舌は、後ろ暗いところのある国際警察には抗える余地がない。
それに、ここにいる者たちは、なぜ手配を強行させたのか分かっていない。ヒカリやシロナが国際警察の手を借りてでも、一刻も早く捕まえたい理由があったことを知らない。サキナを手に入れたいという理由とは他に、使わせたくないポケモンがいる、という理由がある。
サキナがアローラで捕獲し、主人公2人を相手に、ネクロズマとギラティナを同時に相手にして逃げ延びるという快挙を果たしたポケモン。それを二度と使わせてはならない。使う前に倒し、身柄を拘束したい。死んでほしくないから。
だが彼女らは今所在が知れず、この場にその真相が分かるものはいない。
「この手配はそれら全てを無視している! あまりに非人道的です! 何らかの圧力をかけられていますね? そんな手配は容認出来るものではありません! 彼は今ガラルに居ます! わたくしが責任を持って彼を保護し、監視することを約束しましょう! ですので手配は取り消されるべきであり、手出しは無用なのです!」
もともと強引なこの手配、国際警察にもお友達がたくさんいるローズ委員長からすれば、赤子の手をひねるように、手配取り消しを勝ち取れる。これでユウリとサキナは手の内だ。
ねがいぼしと強いトレーナー、それらはいくつあっても良い。ガラルの発展の役に立つ。
ガラルのためならば、いくらでも手を尽くしてあげるとも。
「ふう、こんなところですかね。オリーヴくん、手配が取り消されたこと、まだユウリくんには言ってはいけませんよ?」
「もちろんです。ローズ委員長」
「……それにしてもうまくいきすぎた気がしますねえ。ちょいと、きなくさい。圧力をかけていた方たちは、いったい今どこにいるのかな?」