主人公恐怖症、主人公に付け狙われる。 作:ドンカラス好き
アローラで俺は、神の怒りを買った。
あんなのが居るなんて聞いてない。奴は自らの領域に逃げ込んできた俺という余所者がよほど気に食わなかったのだろう。マスターボールを使わなければ確実に死んでいた。
悪者になってまで手に入れたマスターボール。背に腹は代えられなかったんだ。
だが今から思えば、あいつがいなければ主人公2人を相手にすることは不可能だった。
だからって、二度とこいつをボールから出すつもりはないが。
あの状態になるのは、二度とごめんだ。
*
エンジンシティでは色々あった。ユウリさんとビートくんの優しさ溢れる守る宣言に、ビートくんのジム戦に、あとジムリーダーのカブちゃんと仲良くなった。良い人だった。
ワイルドエリアを駆け抜けて、やってきましたナックルシティ。おお、でかい城があるぞ。
「ビートくん城あるよ城! でっかい!」
「はしゃぎすぎです。転びますよまったく」
これスタジアムなの? へぇ〜。でけぇ〜。
気分は完全に観光客である。ユウリさんとの和解を経て、完全に旅を楽しむモードになってしまっている。
「ねえ、もしかしてあなたがサキナさん?」
ビートくんと2人でうろうろしていたら女性に後ろから声をかけられた。振り返るとコートを着た美人さんが居る。わー、髪にハートが付いてる、さすが外国のおしゃれは違うなあ。
「わ、ほんとにイケメン。ユウリの言ってた通りだ」
「いやいやそんな〜、オタクこそ美っ……」
照れるぜ。照れすぎてミスったぜ。やばいやばい怒られる。俺は学んだのだ。多分この世界ではあまり女性を直接的に褒めちゃいけないんだ。セクハラみたいなもんなんだろうな。ユウリさんが怒るわけだ。
「び、ビーチサンダルが似合いそうな方ですねぇ〜……えっへへへ」
「ふふっ、なにそれ。面白い人なんですね」
軌道修正は完璧だ! ビートくんもさぞ尊敬の眼差しで見つめていることであろう。
彼女はソニアさんといって、ユウリさんの知り合いらしい。ポケモン博士の助手なんだって。
「タメでいいすよ。俺の方が多分年下でしょ?」
「そういえばサキナさんって何歳なんです?」
「19」
なぜかビートくんに驚かれた。ソニアさんも驚いてる。なんでよ。そんな老け顔?
「も、もっと若いかと……」
あ、逆。童顔ですか、そうですか。
「そ、それでね、サキナくんシンオウから来たって聞いて、ちょっと色々話聞きたいなーって思ってさ、シンオウの伝説とか。どうかな、時間ある?」
「俺は別に構わないですし、仕事柄シンオウの伝説には詳しいつもりだけど……ビートくんはどう?」
要望通り敬語をやめてくれたソニアさんが、気を取り直すように言った提案に少し悩む。
ビートくん居るしな。暇になっちゃわない?
「あなたがいいなら好きにすればいいと思いますが……というか怖くないんですか?」
「なにが?」
「ユウリが」
なぜそこでユウリさんが出てくる?
きょとんとした顔を向けると、なんかため息つかれた。諦められた顔された。何か分からんけど諦めないでよ。根気強く向き合ってよ。
「……分からないならいいです。ぼくはどこかで時間をつぶしてますよ」
「ならオレとバトルしないか!?」
うわびっくりした。なんかいる。ビートくんと同い年くらいかな。元気そうな男の子だ。
「誰ですあなた」
「オレはホップ! ジムで見てからずっと戦いたいと思ってたんだ!」
「別に構いませんよ。負けても自信、無くさないでくださいね」
ああ、この子が。ユウリさんに聞いたことあるわ。一緒に推薦されたとか言ってた気がする。才能ありそうだけど今のビートくん相手じゃ流石にキツいだろうな。
まぁでも負けても監禁とかされないんだから、存分に戦えばいいと思うよ。
「うーん、ホップのやつ、張り切ってるな。最近なんか焦ってたみたいだし」
「へえ、そうなんですか? チャンピオンの弟だって聞いたけど」
「うん、ユウリもビートくんも毎回ジム戦で凄い勝ち方するでしょ? それで焦っちゃったみたい」
そういえばジム戦あんまり見てないな、ジム戦行かせてその間に修行の内容とか考えてることが多かったから……
そうかそうか派手に活躍してるのか。ふふん、まぁ俺のビートくんだもんな。当たり前だな。
「甘いもの好きなんでしょ? おすすめの店があるからそこで話さない?」
ユウリさんそんなことまで喋ってるの? 恥ずかしいじゃん。
だが甘いものの誘惑には勝てぬ。ビートくんあんまり食べさせてくんないからな。
……あれ、俺師匠なのに躾けられてる?
*
「あ〜、これは……ユウリがおかしくなっちゃうのも分かるかも……」
「なんか言いました?」
「あっ、いやいやなんでもないの」
夢中で食ってたら何か言われた気がしたが、気のせいだったようだ。
美味しいスイーツのお礼に色々話した。アカギに付き合って伝承とか調べまくってたから、シンオウの伝説に関しては今ガラルで一番詳しいといっても過言ではないだろう。
「あ、ありがとう。想像よりもずっと詳しく話聞けちゃった。……仕事柄って言ってたけど、サキナくんも助手か何かしてたり、とか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
助手っていえば助手か? プルートのクソジジイにこき使われてた時期もあったし。詳しく言えるわけもないから、ぼんやりと濁す。
否定したらどこか残念そうにされた。
「そっかぁ、自信なくしちゃうなぁ。助手じゃないのにそんな知識あるんだ……」
「いやいや、ここの宝物庫調べに来てたんでしょ? 俺の知ってる爺さんはフィールドワークのフの字もねえから、尊敬しますよ」
マジであのジジイろくに動かんからな。ソニアさんの方が百倍偉いわ。
「あ、あはは、そんな風に褒めてもらえたの初めてかも。……ありがと」
「はい、ここからはダメです。ここで終わりです」
良い雰囲気を許すユウリではない。どこに隠れ潜んでいたのか、2人の会話に待ったをかける。途中までは見守っていた分、ユウリにしては我慢した方かもしれない。これがソニアではなく知らない女性だったら即サキナを連れ去っていたけれど。
びっくりした〜。ユウリさんってマジで気配無いのなんなの? 忍者なの? てかいつからいたの?
……なんか怒ってる? 腕組んで見下ろされている。怖い。
「こらっ、知らない人に勝手に着いていっちゃダメじゃないですか! もう、ビートは何してるんだか……!」
「ね、ねえユウリさん、俺、そんな子供じゃないよ……?」
「わたし知らない人扱いなの?」
ほんとに怒られてんじゃねーか。そもそもなんで俺の保護者がビートくんみたいになってるんだ? 逆だろ、逆。
てか公衆の面前で年下の女の子に叱られるってどんな羞恥プレイだよ。めっちゃ周りに見られてるよ。恥ずいわ。
「次から女性とどこか行く時は私に連絡してください。番号教えますから」
「俺スマホ持ってないよ……」
「じゃあこれビートに渡してください。ね、お兄さん、女性はみんなグラエナみたいなものだと思わなきゃダメです。もっと警戒心持ってください」
「わたしグラエナなの?」
なにさなにさ、主人公以外にどうこうされる俺ではないわ。強いんだぞ。シロナにも勝ったことあるんだぞ。
「あのね、お兄さんチョロすぎて心配になるんですよ。強い強くないじゃないんです」
「あ、それはわたしも思う」
「えー、ソニアさんまで」
ソニアさん初対面じゃないですか、そんなぁ。
ユウリさんに至っては守ってくれるとは言ってたけどそこまでカバーされるのかい。ちくしょう、子供扱いにはもやもやするけど心配してくれてるわけだから何も言えねえ。確かに誘拐された前科あるし。あのふわふわエスパー女、名前なんつったか。
結局、ビートくんがバトルから戻ってくるまではユウリさんに見守られることになった。俺の膝に座って満足そうにしているユウリさんには逆らえん。
ただやっぱりまだちょっと怖いからビートくん早く戻ってきてくれ。