主人公恐怖症、主人公に付け狙われる。 作:ドンカラス好き
いつだったかアカギに、お前のような者をFallと呼ぶのだと、そう教えられたことがある。
この世界の住人ではない、並行世界から落ちてきた者のことを言うらしい。
だとすれば俺は、Fallとやらではない。
この世界につながる世界に、俺の居た世界はない。どうあがいても帰れない。
この世界に来て早5年。今更帰りたいとは望まない。大好きなポケモンたちがいる世界。この世界を否定したいわけじゃないんだ。ただ一つ、ただ一つの未練だけ、叶えたかっただけなんだ。
その全てが言い訳になると分かっていたから、こうなったのかもしれないが。
*
あ、やっと戻ってきた。
「遅かったじゃーん。……あ、ユウリさん、ビートくん来たから、このへんで」
「……もうちょっと遅くてもよかったのに」
「悪かったですね。もう一回もう一回としつこくて」
膝に座り、ぐりぐりと後頭部を俺の胸に押し付けていたユウリさんにどいてもらう。
ふう、撫でろだの頬を触れろだの色々要求はあったが、満足したみたいで何よりだ。ふふ、緊迫した時間だったぜ……
「じゃあ勝ったんだ? さっすがー」
「ま、彼も強かったですけどね。相手が悪かったと言えるでしょう」
「あちゃー、負けたかホップ。しょうがないから慰めてやろうかな」
丸くなったな……絶対会った時のビートくんだったらボロクソ言ってるよ。
それにしてもいいなーホップくんとやら。ソニアさんに慰めてもらえんだって。
別に年上好きというわけでもないけど、綺麗なお姉さんは好きだ。なぜならギンガ団にいた頃は周りにろくでもないお姉さんしかいなかったからである。
ただすぐ思考を打ち切る。ユウリさんがこっちを見ているからだ。心を読まれている……?
「そ、それにしてもホップくんって子は根性あるんだな、そんな何度も挑んでくるなんて」
「兄であるチャンピオンに恥じぬようにと気張っているのでしょう。……まぁ、気持ちは分からないでもないから、受けてやりましたがね」
「マジで丸くなったな……」
お前ほんとにビートくんか? あっ、失礼? ごめん……
ここのジムは他7つのバッジを集めないと挑戦出来ないらしい。トキワみたいだね。行ったことないけど。
というわけでつぎの目的地はラテラルタウンである。次のジム戦は観戦してみようかな。ダイマックスあんま見たことないんだよね。ビートくんがワイルドエリアで使ってたくらい?
「次のラテラルタウンの壁画も見に行く予定だから、向こうでまた会うかもね」
そう言うソニアさんと、用事があるらしく一緒には行けないらしいユウリさんと一旦別れて、2人はナックルシティをあとにした。
「靴に砂入ったあ。なんじゃいこのさらさらタウンはぁ!」
「なかなか趣深い町ですね。来たのは初めてです」
ラテラルタウンに到着〜。山間部にあるらしいこの町は、ビートくんの言う通りエキゾチックな雰囲気だ。
こういうとこ来ると旅してるって感じがして良いね! 劇場版で出てくるとこみたいで!
「じゃあまだ時間も早いしジム行く? 今日は俺も観戦したいから一緒に行こ」
「いいですよ、あなたが鍛えたぼくの実力、どれだけ上がったのか見せてあげましょう」
「今日はスタジアムの点検とかで休みらしいぞ! 代わりにおれと勝負! ビートの師匠もいいか?」
わお、ホップくんじゃないか。先回りしてまで勝負したかったのか。わざわざ俺にも確認とるところが良い子だな。
それにしても不屈の精神だ。負けても追っかけてくるなんて……あ、いや、ちょっと嫌なこと思い出した。
ビートくんは完全にロックオンされてしまったわけだけど、切磋琢磨してて良いと思う。あとちょっとだけ親近感がね、あるよね。
「分かりましたよ……付き合ってあげます。サキナさん! 誰に誘われてもこの町から出ちゃいけませんよ!」
「俺は子供じゃない!」
ふん、ビートくんめ。確かに俺は甘いもんに釣られて誘拐されかけたことがあるけど、それは4年も前の話だぞ。ワッハもふわふわも悪いやつじゃなかったしな。ちょっとバトルしたら帰してくれたし。
だがこうなると確かに俺が暇だ。観光はビートくんと一緒にしたいし、何しようかな。
「そこの方、暇ならばわたしと手合わせしませんか?」
そんなことを考えながらうろうろしていたら、バトルコートに居る女の子から声をかけられた。格闘家っぽい見た目をしてる子だ。
結構強そうだな。ジムリーダーかな? 確かに最近まともにバトルしてなかったし、良いかもしれない。主人公以外とのバトルは好きだ。楽しい。
さすがにチャンピオンとかが相手だと負けもあるけど、主人公相手だと怖いが先に来るし。ヒカリやアローラ相手だと負けた後も怖い。監禁されるんだぞ!
「いいよ、バトルしようぜ、ポケモンバトル!」
「強者とお見受けしました。全力でお相手しましょう!」
女性とどこかに行く時は連絡してってユウリさんには言われてるけど、ビートくんいないし、移動してるわけじゃないし、良いよな! こんな感じでバトルするのも、劇場版っぽくて楽しいし!
*
「楽しかったー! ありがとね、確かに暇だったんだよー」
「わたしもスタジアムが休みで暇していたんです。こんな稀有な強者と戦えるとは、とても良い鍛錬になりました」
いや〜強かった。楽しかった。流石にフルバトルじゃなくて3対3だったけど、久々になんもなしで全力でやれた。負けそうになっても泣きたくならないバトルって、良いね!
「観光客の方でしょうか。ガラルの人ではありませんよね。わたしはサイトウというんですが、また手合わせをしたいので連絡先を……」
「あ〜、ごめん。俺スマホ持ってないんだ」
「じゃあ私に連絡を。私からお兄さんに伝えてあげますよ?」
あ、ユウリさん。用事終わったんだ。やっぱり良い人だなあ。面倒だろうに俺への連絡を代わりに受けてくれるだなんて。
……でもなんかぶつぶつ言ってる?
「……楽しそうだったし、そこまで狭量だと思われたくないし……うぅ、でもサイトウさん美人……」
相当葛藤があるらしいユウリはめちゃくちゃに悩んでいたが、ソニアに交友関係に口出ししすぎる彼女とは長続きしないと言われたことを思い出し、必死で押し留めた。サキナに気を遣ってくれたソニアのおかげである。
*
「私、バトルしたいのを我慢しましたよ? ご褒美ください」
ただサイトウと別れた後は、自分の欲望を優先した。本心としては、我慢したのはバトルの方ではないけれど。
ご、ご褒美? いや、確かにバトルがしたいって前から言ってるのを我慢してくれてるのは確かだし、そんな中楽しそうに俺が他の人とバトルしているの見てたら良い気はしないよな……
でもご褒美って何すれば良いんだ?
「ビートにやってるみたいに褒めてくれれば良いんですよ? 我慢して偉いねって」
ビートくん相手みたいにか。えー、良いのかな。女の子相手なのに。ナックルシティでの事も結構やりすぎだと思ったくらいなのに。
でもしてほしいって言うなら、良いか?
「ユウリさん、嫌だったら言ってね?」
ぎゅっとハグして撫でてみる。ついでにユウリさんは優しくて偉いねって耳元で褒めてみる。ビートくん相手って言ったらこんな感じか? やっぱり嫌じゃないのかこんなん。ビートくんでさえ恥ずかしがるのに。
「あ、ああああ……こ、これはまずいです。まずいですよ。ビートはいつもこんなことを……!」
あ、やっぱり嫌だった? 震えてる。
「い、いえ、嫌じゃないです。変じゃないです。ふつうです。ふつう。このくらいのスキンシップみんなやってます。だからもっと来て大丈夫」
そ、そうなのか。ユウリさんの言うことだし間違いはないんだろう。俺この世界のことまだよく分かってないし、このくらいなら普通なんだな。へえー。なるほどなあ、言葉じゃなくて態度で示すんだな。ナックルシティでもスキンシップをせがんできてたし、これが当たり前なんだなあ。
俺、この世界に来てからアカギとかジュピターちゃんみたいなやばいやつとばっかり一緒に居たから常識ないのよ。ユウリさんはそんな俺にもしっかり教えてくれて優しいなあ。
やたら過剰な笑顔がちょっとだけ気になるけど。
あと、試しに強めにぎゅっとしたら凄え声出してんだけど、これほんとに怒ってない? 大丈夫?
ビートがいないと暴走するユウリを止められる人は居ない。サキナはユウリの言うことを基本疑わない。ユウリの手によって、スキンシップを躊躇わない化け物が誕生してしまった。