主人公恐怖症、主人公に付け狙われる。   作:ドンカラス好き

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ガラル編 8

 

 アカギからは全てをもらった。

 名前も、住処も、金も、そしてマスターボールも。

 あいつがどういうつもりでそうしていたのかは知らないが、テンガン山での一件の前には俺が求めていたポケモンの情報と、その地方に行くための手段まで整えてくれていた。

 結局アローラに逃げてしまったために、それら全ては無意味になったが、本当に、なぜそこまでしてくれたんだろう。

 そんなことするから俺は、ヒカリともう一度戦うだなんて血迷ったんだぞ。あのまま勝ち逃げするつもりだったのに。

 勝ちになんの意味もないのに挑んで負けた。というより逃げた。ヒカリに余計に目をつけられた。俺は何がしたかった?

 

 

 

*

 

 

 

 だいぶ疲れた様子のビートくんとホップくんが戻ってきた。ユウリさんを抱き締めている真っ最中に。別にそんなことはないのに、なんか浮気を見咎められた気分だ。

 

「悪いねビート。私の勝ちだ」

「何度言ったら分かるんです? ぼくはそこで競ってないんですよ」

「え、あの2人……付き合ってるのか!?」

「ふふ、そうだよ」

「嘘はやめなさい!」

 

 俺の腕の中でドヤ顔しながらそんな台詞を吐くユウリさんに驚愕する。

 え、俺ってユウリさんと付き合ってたのか? 告白してないのに? この世界だと告白の仕方が別にあるのか? 

 

「ほら、遠い目になっちゃったじゃないですか!」

「ちぇ、既成事実失敗か」

「ユウリ、ちょっと見ない間にだいぶ面白くなっちゃってるぞ」

 

 あ、冗談か。びっくりした。もしも俺から気付かずに告白していたのなら、責任を取らなくちゃいけないとこだった。

 

「すみません、まだ用事残ってるんでここらへんで! お兄さん、女性にはくれぐれも気をつけてくださいね。信用できるのは私だけ。私だけですよ」

 

 ユウリは千載一遇のチャンスを逃してしまったことにも気付かずに、用事があるからとまた去っていってしまった。

 

「ユウリさん忙しそうだな。何してんだろ」

「確かにそうですね。あのままずっとあなたにへばり付いていてもおかしくなさそうなもんですが」

 

 怖いこと言うなよ。いや怖いっつーのも失礼なんだけどさ。

 くそう、昔の俺ならあんな可愛い子に懐かれたらめちゃくちゃ嬉しかっただろうに、あん時余計なことしたばっかりに……!

 

「じゃあオレも特訓してくるぞ! ビートまたな! サキナさんは今度オレともバトルしてくれると嬉しいぞ!」

 

 ホップくんも足早に駆けて行った。凄えバイタリティだなあ。散々ビートくんと戦ってたんだろうに。あれは強くなるだろな。

 

 

 

*

 

 

 

 スタジアムで、ビートくんの試合を見た。やはりサイトウさんはジムリーダーだったようで、ダイマックスが解禁されたその試合は、手持ちが制限されているジムチャレンジですら強かった。

 さすがにそれでもかくとう使いのサイトウさんと、エスパー使いのビートくんでは、相性もあってかなりの差があったけれど。

 

 だがそんなことはどうでもよいのだ。

 実況の人が言っていたあの言葉。ビートくんの境遇。ビートくんの言っていた、ローズ委員長に恩があるという意味がようやく分かった。

 家族がいない。俺と同じだ。

 

 ビートくんがいつも通り、澄ました顔で控え室から出てくるところを、俺は勢いよく抱き締めた。

 

「ビートくん、俺のことは兄と思ってくれていいよ!」

「……今のところあなたのことは大きめの妹だと思っていますよ」

「いもうと!?」

 

 せめて弟だろ! 性別から違うじゃん!

 ……いや弟でもねーし! 年上だし!

 俺の驚愕の声も意に介さず、抱き寄せていた身体をぐいっと押し除けられた。しょぼん。

 

「気を遣わなくていいんですよ。あなたのおかげで今は楽しい」

「ビートくん……!」

 

 また抱き締めようと迫ったら避けられた。照れ屋さんめが。

 

「ユウリめ、ろくでもないこと吹き込みましたね? この人はただでさえ距離感がおかしいというのに……!」

 

 ところ構わずハグするのはおかしいことだという常識を奪い去ってしまった我がライバル、ユウリのせいでサキナからの過剰なスキンシップにさらされているビート。

 恐ろしいのが嫌ではないということだ。このまま流されてしまいそうな恐怖。このままだと自分までユウリみたいになる……!

 

「もしかしてビートくん、嫌だった……?」

「……人前ではやめなさい」

 

 どこまでも甘いビートは、サキナが悲しむからと拒絶も出来ない。しょんぼりとしたサキナの顔に弱すぎる。嬉しそうな顔に変わったサキナに抱き寄せられながら、ただユウリへの恨み節を胸の内で吐き続けることしか出来なかった。

 

「じゃっ、次はアラベスクタウンですね! 一緒に行きましょ、お兄さん」

 

 ビートくんといちゃいちゃしてたら間にぐりっと入ってきたのはユウリさん。ハグしていたところを引き剥がされた。

 必要以上に俺の身体に触られている気がするのは、きっと気のせい、気にしすぎであろう。

 

「もう用事は大丈夫なの?」

「はい! あらかた終わったんで! この先の森は暗いらしいですから、手を繋いであげますね?」

 

 何でみんな子供扱いするんだ? 俺は年上なのに。お兄さんなんだよ? 

 

「いや、いいよ……俺は大人だから。俺は年上だから。大丈夫だから……」

「あんまりサキナさんのプライド傷付けないでもらっていいですか? 後が面倒なんですよ」

「ビートもじゃん! ビートも妹とか言ってたじゃん!」

 

 落ち込む俺を両サイドから慰めるビートくんとユウリさん。この3人で目指すは5個めのジムがある町、アラベスクタウンである。

 その町に行くには、ルミナスメイズの森という名の森を抜けなくてはならない。確かにユウリさんの言っていた通り、暗い森だが……

 きのこが綺麗に光っている。幻想的な森だ。こういうとこ大好き。うわあい光るきのこだ。

 

「お兄さん……こんな綺麗な場所で並んで歩くなんて、まるでデートみたいですね……?」

「えっ! ……そ、そうっすね!」

「あのですね、ぼくもいますからね? 良い雰囲気にしようとしてんじゃないですよ」

 

 びっくりしすぎて変な返答になってしまった。ラテラルでも似たような冗談を言っていたし、ユウリさんも恋愛に興味のあるお年頃なのだろうか。怒らせるのはやはり怖いため、下手なことは言えない。

 おろおろしながら周りを見ていたら、一際強い光を放っているきのこを見つけた。おおっ、大物だ! これで話を転換させよう! 俺はきのこに駆け寄った。

 

「ねえねえ! このきのこめっちゃ光ってる! 見て見て! ……あれ?」

 

 そしてはぐれてしまった。振り返っても誰もいない。

 あ〜、怒られる〜。多少怖くても手ェ繋いでもらえば良かった。うう、ほんとに子供だこれじゃ。

 ヒカリにも言われたなあ。クソガキだのなんだの。調教してやるとか怖いこと言ってたからあんまり聞かないようにしてたけど。

 

「おや、迷子かい? それにしてはでかい迷子だね」

 

 そして俺は、この森にあまりに似合いすぎてる魔女みたいなお婆さんに出会った。

 誰だ? ババアの強さじゃねえだろこの人。チャンピオン級はあるだろ。いや、そんなことはどうでもいい。

 

「助けてください……」

 

 プライドはもはや無くなっていた。そうです迷子です。俺は年下の女の子に手を繋いでもらわないといけないような子供です……

 

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