ようこそグッドルーザー!!   作:無名のサイドラ使い

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『前向きなのが僕の唯一の取柄なんだ!!』『なーんてね』


否実在性(リアリティフィクション)

5月も後半に差し掛かって、私たちDクラスには中間試験という一つの壁が迫っていた。

そのために3バカとも呼ばれる3人、須藤、池、山内のために私、櫛田桔梗が心底嫌う堀北鈴音のもと勉強会が開催される運びとなった。

その勉強会に私は、所謂『人寄せ』として綾小路くんに集められたのだが…その勉強会の最中、よりにもよってあの堀北がやらかしやがったのだ。

そう、せっかく人寄せしてあげたのに、()()()()()()()やったことと言えばただの言い争い。ふざけてる、どうかしてる、事前の意気込みはどこへやった!?

そんなバカがバカを救おうとしているバカげた勉強会でストレスが溜まったため、私は今ここにいる。

用はストレス発散である。

 

「あーウザい。ほんっっとウザい!!」

 

私は昔から承認欲求が強かった。だからあらゆる面で一番になって、称賛されて、その欲求を満たそうと考えていた。

でも、私は特段運動が得意なわけでもないし、勉強もそこそこ。つまるところ私には突出した能力がないのだ。そこで、唯一優れている『顔の良さ』と0からでも一番になれる『コミュニケーション能力』を武器にして戦うことにしたのだ。

一番になるためだったら私はどんなことでもやった。

 

 

一番になりたい。

だから勉強する。

一番になりたい。

だから仲良くする。

一番になりたい。

だから可愛いを作る。

一番になりたい。

だから秘密を握る。

一番になりたい。

だから蹴落とす。

 

 

一番になりたい。だから一番になる。

 

そうやって、努力しているうちに心の中にどす黒い何かが沈殿していった。キラキラ輝いた私が一番になった世界とは裏腹にその何かはどんどん私の心を蝕んで行き…最終的にそれはブログに嫌いな人間の悪口を書き込むという形で爆発した。

それが、いけなかったのだろう。そのブログはクラスメイトに見つかり、私は糾弾の的になった。だが的にしていたやつらも、的そのものが反撃してくるなんて思いもよらなかったのだろう。私は今まで握ったクラスメイトの秘密をすべて暴露したのだ。

その結果として、私のクラスは学級崩壊を起こした。

 

だから心機一転高校でまた一番になろうと思っていたのに、まさか同中の堀北が同じクラスにいるなんて。

 

「あー、最悪。ほんと、最悪最悪最悪最悪ッ!!自分が可愛いと思ってお高く留まりやがって、クソクソクソォッ!!!」

 

とどめの一撃とばかりにフェンスを蹴る。すると自分の中で燻っていた苛立ちがスッ、と消えて頭が冷静になった。

その瞬間、コツリと靴音が私の後ろから鳴る。それに驚き、即座に振り向いた。

 

「『あれ』『櫛田ちゃんじゃないか』『ここで何してるんだい?』」

「…………は?楔、くん?」

 

ゆらりと物陰から現れたのは、白髪頭に黒い学ランを着た少年、亜球磨川楔だった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「今の、聞いてたの?」

「『今のって?』」

「とぼけないでよ。」

 

へらへらと気色の悪い笑みを浮かべながらこいつは、明らかな嘘を吐く。自分で言うのもなんだけど、私は響くまでとはいかないがかなり大きな声を出していたはずだ。それを近くにいたこいつが聞き逃しているはずがない。

 

「今聞いたこと、誰かに話したら容赦しないから。」

「『えー』『話さない話さない』『そもそも聞いてないって』『言ってるじゃないか』『僕って信用ないなー』。」

 

軽薄な言葉だ。軽薄で、胡散臭くて、とてつもなく気味が悪い。

 

「もし話したら、あんたにレイプされそうになったって言いふらしてやるから。」

「『おいおい』『ひどい冤罪だなぁ』。『だいたい』『証拠はあるのかい?』『レイプされたって証拠』。」

 

相変わらず余裕があるのか軽薄な笑みを消さない。

こいつはBクラスの中でもあの一之瀬の右腕である神崎の次くらいには信頼されている男だ。まだ勝算があると踏んでいるんだろう。

ならば、こいつにとって最悪の証拠を作ってやるまでだ。

 

「大丈夫、冤罪じゃないから。」

 

そう言って、こいつの右手を取り自分の胸に当てた。

 

「『えっ、と』『これは何の真似かな?』」

「あんたの指紋、これでべっとり付いたから。これなら証拠になるでしょ?私は本気。分かった?」

 

胸に当てるまでこいつは一切の抵抗をしなかった、というより抵抗がなかったという方がこの場合正解なのだろう。こいつの手には一切力が入っておらず、いや力が入ってないどころかこいつの手は空気よりも軽かった。一瞬、掴む手が空振りしたかと思ったほどに。

そんな疑問が一瞬だけ浮かぶが、すぐにどうでも良くなった。どっちにしろこいつはこれでおしまいだ。ここまで露骨に指紋が着いてしまえば、どうやっても言い逃れなんてできやしない。

これからどうしてくれようか、私の裏を知った人間はこの学校に居ちゃいけない。さっさと退学させてもいいけど、その前にこいつにはBクラスに対するスパイにでもなって情報を横流しさせる。そうすればDクラス内で他クラスの情報を持っていることを仄めかせば私の人気は鰻登りだろう。

そしてそれは、あの憎き堀北を退学させる結果にも繋がる。こいつには精々役に立ってもらおう。

 

 

 

──────ただし、相手は亜球磨川楔。

  引き分け狙いなら百発百中…!!──────

 

 

さて、それじゃあさっさとこいつを傀儡にしてやろう。そうすれば私はまた『みんなの櫛田桔梗』でいられる。

そう思っていた。

 

「『うん』『わかった』。『じゃあ』『これでおあいこだね』。」

 

そんな私の考えを打ち砕くかのように、こいつは私の胸を触っていた右腕を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な螺子でぐしゃぐしゃに破壊した。

 

「は、え?」

 

ゾンッ、と目の前にいるやつの纏う空気が、雰囲気が変わる。先ほどまでの軽薄で胡散臭い男の姿は見る影もなく、同じ人間のはずなのにまるで化け物のように気持ち悪く思えてしまう。

 

「『いたた』『これは複雑骨折かな』。」

「な、んであんたは」

 

右腕の痛みのせいなのか一瞬蹲ったがぬ゛ぅぅぅぅ、と目の前のナニカは気色の悪い動きで立ち上がる。逆に腰が抜けてしまったのか私はぺたりと床に座り込んでしまった。

 

「『おいおい』『なんで、はないだろ?』『僕は君の胸を触ってしまった』。『だから僕は君の胸を触ってしまったことについての』『贖罪をしただけなのに』。」

「…………は?」

 

言っている意味がよくわからなかった。同じ言語を使ってるはずなのに、同じ言葉をしゃべっているのに、良いも悪いも綯い交ぜにしてるように話の前後がつながらない。それがどうしようもなく気味が悪い。

 

「『これで』『僕は無実になったわけだ』。『だってこんなにも誠実に誤って(謝って)いるんだから僕が有罪であるはずがない』。『なにより』『僕の右腕は動かせる状態になかったんだ』『だから』」

 

 

 

「『僕は悪くない』。」

 

 

「…………ッ!!」

 

 

 

「ひっ、ヒイイイイイイイイイ!!?」

「『…あれ』。『…ひどいなぁ』『そんなに後退って逃げるだなんて』『聖人君主な櫛田桔梗』『には全く見えないぜ、君』。」

 

そんなことどうでもいい!!さっさとこの化け物から逃げないと!!さっさと距離を取らないと、何をされるかわからない!!

抜けた腰に喝を入れてなんとか寮の方へ走っていく。後ろは振り向かない、振り向いたら今度こそ終わりだ。寮に逃げればこいつであろうと手出しはできないだろう。さっさと逃げ

 

「『うーん困ったなぁ』『いくら僕が悪くないとはいえこうも必死に逃げられると』『あらぬ誤解を生みかねない』。」

 

「『だから』」

 

 

「『否実在性(リアリティフィクション)』」

 

 

 

──────ないと…………、は?

な、んで寮の方向に走っていた私の目の前に、こいつが立っているん「『違うよ』。」…ッ!!?

 

「『君が移動したという現実を嘘にした』。『君の目の前に僕が移動したんじゃない』『君は最初からどこにも向かっていなかったんだ』。」

 

辺りを見回すと、そこは寮に向かう道ではなくさっきいた場所だった。この最低最悪と出会った場所だ。つまり、私は一切ここから動いていない()()()()()()()()()()()

訳が分からない、分からないが一つだけわかることがある。今度こそ私は終わりってわけだ。

 

「あんた、何が狙いなの?私の弱みを握って。」

「『ウケ狙い』『─────なんてね』『まぁ僕としてはスパイになってくれ』。『なぁんて言えたら楽なんだけど』。」

 

…だろうね、それしかないと思った。こいつの心情なんか理解したくもないんだけど。

 

「『それは帆波ちゃんのポリシーに違反するかな』『だから』」

「『友達になってよ』。」

「とも、だち?」

「『うん』『ちょっと聞きたいことを答えてくれる』『そんな友達に』。」

 

…いやだ。そう答えられたらどれほどいいだろうか。こいつと友達になるなんて死んでも嫌だ、でもこいつには弱みを握られている。なによりこいつと友達なってもいいかと考えている自分がいる。だって逃げれるのだ、ちょっと頷くだけで少なくともこの場から。

 

「わかった。友達になろっ、楔くん。」

「『よかった』。『君ならわかってくれると信じてたよ!!』」

 

結局私は頷いてしまった。文字通りの亜球磨(悪魔)の誘いに。

 

 

そこから先はいまいち覚えていない。どうやって寮に戻ったのか、あいつがどうなったのか。ただわかることと言えば、やつは次の日嘘のように元気に登校してきたこと。

まるで、昨日のことはすべて嘘っぱちだったかのように一切傷ついていないあいつの右腕。夢だと思えたらどれほどいいだろうか、だがしかし、それが夢ではないという証拠がほかでもない私の手の中にある。携帯番号が交換されているのだ。しっかりとやつの名前付きで。

 

でもまぁどうでもいいか。結局このクラスは不良品の集まりみたいなもんだし。こんな情報ならいくらでもくれてやる。

だって私は悪くないんだから。誰だってあいつの本性を知ったら屈するはずだ。心が折れるはずだ。心が腐るはずだ。古傷を抉られ、誰かに押し付けたくなって、最終的になかったことにしたくなるはずだ。

 

だから、私は絶対悪くない。

 

 

 

 


 

 

 

 

「『なぁんて』『思ってるんだろうなぁ』。」

 

「『これでDクラスの情報は筒抜け』『あとは各クラスに一人』『こんな風に友達を作るとしよう』。」

 

「『そうすれば』『人員さえ揃えばなんだけど』『僕のクラスも始動できるかな』。」

 

「『(マイナス)Bクラス』をね。」

 

 

 

 

 




これで櫛田に脅されることがなくなったよ!!やったねきよポン!!
というわけで、裏方で動く亜球磨川くんでした。
ちなみに、今回彼が櫛田のストレス発散に足を運んだのはマジで偶然だったりします。

「『次回』『ようこそグッドルーザー第四箱』『自書創り(ディクショナリーメイカー)』『僕は悪くない』」

この中で誰が一番過負荷か?

  • 堀北鈴音
  • 櫛田桔梗
  • 佐倉愛里
  • 軽井沢恵
  • 山内春樹
  • 須藤健
  • 池寛治
  • 坂柳有栖
  • 神室真澄
  • 一之瀬帆波
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