とある日、亜球磨川の部屋にて。オレと亜球磨川、そしてDクラス生徒の『佐倉愛里』は神妙な面持ちで集まっていた。
「『ノーマル院さんの』『これで安心!』『ストーカー対策ぅぅぅ!!』」
「わ、わーい…?」
「…下手に合わせなくていいんだぞ佐倉。」
時は過ぎて6月初め、オレたちがこの学校に入学して既に二か月が経過していた…ちょうどのその頃。
我々Ⅾクラスは中間試験に続き、新たな問題が壁として立ち塞がっていた。その問題とはもちろん佐倉愛理のストーカー…ではなく、DクラスとCクラスの間に起きた『暴力事件』である。彼女のストーカーに関してはその事件の真相を追っていた時に偶然浮上した問題だった。
「しかし、亜球磨川。対策と言っても何をするんだ?佐倉にできることは限られるし、オレは暴力事件の方で忙しいんだが…。」
「『まぁそこは僕が骨を折ろうじゃないか』。『でも』『対策と言ってもまずは』『君の心境を聞かせてほしいんだ』。」
「心境…ですか?」
心境…?ストーカーに対してのか?そんなことを聞いて一体何の意味があるんだ?今回オレが亜球磨川に相談したのは佐倉に対してストーカーしている者への対策である。そこには絶対にストーカーへの嫌悪が含まれているはずだ。亜球磨川もそれはわかっていると思っていたが…?
「『うん』『君が今どれだけそのストーカーを』『嫌悪しているか』『それを聞きたいんだ』。」
「け、嫌悪?」
「『そう』『嫌悪さ』。」
そう言ってベッドに座っていた彼がゆらりと立ち上がり、佐倉に問いかける。
「『ストーカーにいなくなって欲しいかい?』『それともストーカーに死んで欲しい?』『もしくは自分の手で殺したいのかな?』」
「そ、そんなこと…。」
「『おいおい』『思ってないわけないだろう?』『君はきっと思っているはずだ』。『こんなストーカーに怯えた生活を続けたくないってね』。『だからここにいるんだろ?』」
随分と思い込みが激しい発言だな、しかし…なるほど、少しこいつの発言の意図が読めた。
これは佐倉の覚悟を知りたいのだ…と思う。それにしてはかなり圧をかけているがな。
要は今から佐倉がやることはいくらストーカーが相手とは言え、相手の人生を捻じ曲げる行為だ。上手くいけばストーカーを説得して改心させただの人間に戻せるだろうが、下手をすれば性犯罪者として一生後ろ指を指されることになるだろう。しかも今回相談することで、ただでさえ暴力事件の件で世話になっているBクラスの亜球磨川に協力してもらおうとしている。これはオレだが…。正直言ってこれは中々に図々しい行為だ。オレのせいだけど…。つまるところ、亜球磨川は『僕を巻き込む覚悟はあるのか』と彼女に問いているのだ。人の人生を捻じ曲げる行為に…。
「『まぁ』『答えられなくても全然かまわないぜ』。『精々僕のモチベーションが』『下がるだけさ』。」
彼女の覚悟を揺らすように台無しな言葉を紡いでへらへらと笑いながら、あいつは椅子に座り直し足を組んだ。しかしこちらの答えを待っているかのように、亜球磨川の目は佐倉を鋭く射抜いている。
その視線に答えるように、ポツリと佐倉は語り始めた。
「しょ、正直私はストーカーさんのことが嫌い…です。あの気持ち悪い視線が付き纏ってくるのはもう耐えられないと、思っています。」
「『だろうね』。『それで』『どうしたいんだい?』」
「…この学校からいなくなってほしいです。でも改心させれるなら…説得できるならしてみたい!!…と思っています…。」
最後が萎んでしまったが、確かに佐倉は自分の言葉で、自分の意志で亜球磨川の視線に答えた。
その言葉に、一瞬だけポカンと彼は眼を見開いた。まるで『自分の好きな漫画のセリフを不意に漫画を知らない人間に言われた』かのように。
そんな彼の意外な表情は、ため息とともに終わりを告げた。
「『…』『はぁ』『まったく』『愛理ちゃんは甘いなぁ』。『自分をストーカーしてた相手を』『改心したら見逃すなんて』。」
「うっ…。」
「『それに』『説得してその場で改心したといっても』『学校外に出たらそのストーカーは自由なんだぜ』。『君の家族や事務所にも迷惑をかけるかもね』。」
「そ、それは…でも改心させたい気持ちは変わらないです。だって、誰も傷つかないのが一番じゃないですか。」
「『…』『いや』『既に自分が傷ついてるじゃないか』『ホント甘いねぇ君は』。」
その言葉の応酬にゆらゆらと佐倉の目が揺らぐ。しかし亜球磨川は先ほどまでの会話のすべてを台無しにするように
「『………が』『その甘さ』」
「『嫌いじゃあないぜ?』」
と、佐倉に言い放つのだった。
その言葉に彼女は一瞬驚くが、即座に嬉しそうな困惑したような顔で亜球磨川に詰め寄る。
「えっ、ってことは協力してくれるんですか!!?」
「『いや元々そういう話だったじゃないか』『単に君次第で』『モチベーションの有り無しが』『変わるってだけでさ』。」
「ここまで言われたら誰でも協力してくれないのかなって思いますよ!!…でも良かったぁ。」
そして協力してくれることへの担保が取れたためか、はたまた亜球磨川の放つ重い雰囲気がなくなったためか、彼女は安心したのだろう、ゆっくりと脱力した。
ではそんな二人のやり取りを最後まで見ていたオレから一つ言わせてほしい。
「ストーカー対策はどうしたよ。」
「あっ。」「『あっ』。」
──────『まぁ対策って言っても方針が決まったなら』『あとは簡単さ』。
そう言われてから1週間が経過し、ついに私『佐倉愛里』にとっての運命の日…なんて言ったらちょっと大袈裟かもしれないけど、少なくとも相手側にとってはきっと今日は運命の日だ。
「『さて愛里ちゃん』『覚悟はいいかい?』」
今日の授業がすべて終わり放課後、亜球磨川くんが横を歩きながら私に問いかける。その問いに私はゆっくりこくりと頷き首肯した。
この1週間、私たちはとある作戦を実行していた。その作戦とはずばり、『彼氏匂わせ作戦』である。作戦内容は名前そのまんまで、『とにかくいろいろやって佐倉愛里に彼氏がいる』ように見せるだけ。最初は「えっ、それだけ?」と思ったけど、これが意外と効果覿面だった。それを始めた日から、今まで感じていた不快な視線がすっかり消えたのだ。その代わり、私に彼氏がいるのか問い質すような手紙が増えたのはちょっと怖かったけど…でもこれが増えたってことは効いてるってこと。それを実感しつつ、作戦を続けた。
そして昨日、遂にストーカーが「二人で話がしたい」という内容の手紙を送ってきた。
「でも本当にいるのかな。ここって確か電気屋さんの裏路地だから関係者の人とかが通ってそうだけど…。」
「『確かストーカーは電気屋のスタッフだった』。『だから人がいない時間なんかも』『わかるんじゃないかな』。」
なるほど、と納得する。そもそもストーカー被害が綾小路くんに発覚したのは暴力事件の証拠を握っている私のカメラを電気屋さんで直そうとしたことだった。
「そっか、でもそれなら監視カメラの位置なんかも知ってるんじゃないかな?もし監視カメラがないところを選んでたならちょっと怖いかも…。」
「『そこは安心してよ』。『後ろで僕が』『カメラでも構えとくぜ』。」
そう言ってひらひらとポケットから出したスマホをひけらかす。正直そこは「僕が隣にいる」くらいは言ってほしかったところだけど、この1週間でそう言ったことを彼に期待するのはよくないことを学んだ。
「『とか言ってたら』『目的地に着いたね』。」
ケヤキモール家電量販店、その裏路地は夏のせいかはたまたここで待っているはずの男のせいか妙な熱気を放っていた。その熱気にちょっと顔を顰めてしまった私は悪くないと思う。
「『じゃあ』『頑張れ』。」
「頑張る。」
だけどそれを振り切って、私は意を決して一歩を踏み出した。
一話にまとめようとしたら、すごい量書くことになりそうだったので(予定では)二、三話
程に分けることにします。
それと遅くなって申し訳ナス!!
「『次回』『ようこそグッドルーザー第五箱』『
この中で誰が一番過負荷か?
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堀北鈴音
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櫛田桔梗
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佐倉愛里
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軽井沢恵
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山内春樹
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須藤健
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池寛治
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坂柳有栖
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神室真澄
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一之瀬帆波