元ラスボスの悪役令息はネタ装備がお好き - 通常プレイに飽きたので[武器:トイレのスッポン]で無双していたら、いつしか変態貴族と呼ばれるようになっていた -   作:ふつうのにーちゃん

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・トイレのスッポンを装備した!

 世界には様々なスキルがあった。【部下ねぶり】スキル、【スコップ】スキル、【剪定】スキル、【つまみ食い】スキル、【酒薄め】スキル、【浮気】スキル、【へそくり】スキル。うちの屋敷の人間は意外と不真面目者ぞろいだった。

 

 まー、そういうゆるーい職場?

 俺はアリだと思う。カチっとしてると息苦しーし。

 

 そんな感じで知られざる使用人たちの歴史を存分に嗜むと、俺は屋敷の図書室に戻った。

 ロッコさんが助言をしてくれたからだ。

 

「坊ちゃま、そんなことされなくとも、図書室のスキル図鑑をご覧になられれば、一般的な戦闘スキルをご覧になられるかと」

 

「もっとソレ、早く言ってくれても良かったんじゃ?」

 

「ホッホッホッ、ワシだけ暴かれるのでは不公平ですからな」

 

「そりゃそーだ」

 

「じきにチャールズ様がお帰りになられます。それまでは外出はお控え下さいませ」

 

 俺がスキル図鑑に没頭し始めると、ロッコさんはホッとした様子で部屋を出て行った。

 突然正気を取り戻した元廃人に振り回されて、マジ大変だったろうなー。

 

 それはそうと、良いタイミングで自分を取り戻せた。今ならば何をしようと俺の自由。

 既に俺の役割、人生は終わってしまった後なのだから。

 

「戦闘スキルにマラカス……ッ!? こんなのもあるのかっ、これは候補だなっ!」

 

 マラカスで戦う自分を想像したら、超ハッピーな気分になった!

 それは通常プレイでは絶対にない体験だ!

 

「お、剣術スキルな、はい、却下、つまらん」

 

 強くなるのは簡単だ。最も優遇されている剣術スキルを極めればいい。

 後は回避と防御を伸ばしつつ、検証勢が推奨する最強装備を作ればいい。

 

 さらに極めるなら、装備のカスタムスロットにセットするアイテムも、推奨の品々を使って結果を厳選することになる。

 

「企業WIKIによる【最強武器ランキング】!! 俺アレ超嫌い!!」

 

 何が悲しくて、みんながやる全く同じ攻略方でゲームを進めなければならないのだろう。

 

 つーか、もはやそれ作業だろ!

 

「ほぅ、【スプーン】スキルか……。完全に敵をなめ腐ったそのプレイスタイルやよしっ、これはマラカスの次点くらいだな……!」

 

 素晴らしい。この世界にはゲーム本編では実装されていない【ネタ武器】が山ほどあった。

 【ネタ武器】それはゲーマーのロマンである。

 回収したらそれっきりで満足しがちな存在である。

 

 ああ、ネタ武器、好き……超好き……。

 

「お、【ちくわ】かぁ……【ちくわ】しか持ってねぇ……! が出来るのはでかいけど、まあ、さすがにちょっとなー……」

 

 出来ればちくわもマラカスもスプーンも極めたい。

 しかし悲しいかな、このゲームの仕様には【スキル値上限】というものがある。

 

 これは所有しているスキル全てのスキルレベルの合計と参照されるパラメーターで、要するにこの上限に達すると『ピタッ』と成長が止まる。

 

 パーフェクト超人は作れない。

 それがこのゲームの面白くももどかしいところだ。

 

 よって変なメインウェポン1、変なサブウェポン1を選んで、それと一生を添い遂げようと思う。

 

「おお、【ギター】か! 初めて買ったギターはその日のケンカでなんとやら! ビームとか出るといいなぁ……!」

 

 吟遊詩人的な楽器スキルではなく、ロック的な楽器スキルなところが気に入った。

 

「やっぱりあったか、【スコップ】! 男のロマンだ! ……なのだが、少し強すぎるかなぁ、これはー……」

 

 やり込みプレイあるあるその1。強すぎると物足りない。

 スコップは斬ってよし、殴ってよし、掘ってよし。どう考えたって普通に強いはずだ。

 

 両足をテーブルに投げ出してページをめくった。

 するとそこに、ついに、運命のネタ武器が現れた。

 

「おお、これだ……」

 

 図鑑を閉じ、飛び上がるようにイスから降りた。

 目指すはあの場所だ。この屋敷のあの場所にこの神武器はあるはずだ。

 

 図書室を飛び出し、俺はその場所を訪れた。

 廊下を全力疾走で駆け抜ける坊ちゃまに、もう一人のメイドのウンタラ・スータラさんが驚いていた。

 

 それからちょっと前まで廃人だった俺こと公爵令息リチャードは、用具庫の中から運命の武器を抜き取った!

 

「リ、リチャード様……!?」

 

「これに決めたっっ!!」

 

 トイレから廊下に飛び出したリチャードはトイレのスッポンを掲げた。

 

 またの名をプランジャー、ラバーカップ、吸引カップ。水洗トイレの詰まりなどを解消するのに便利なあの清掃用具だ。

 

 要するに『キュポッ』と出来るマンガなんかでおなじみのアレである。

 

「ロッコ様ァァッッ、早くきてぇぇっっ!! リチャード様が変なのっっ!!」

 

「俺は今日からこの【ネタ武器】トイレのスッポンを極めるっっ!!」

 

 ブンブンと振り回すとメイドが逃げた。

 さっきまで精神崩壊した廃人をやっていた男が、突然便所に駆け込み、トイレのスッポンを振り回したら、青い顔で逃げ出したくもなろう。

 

「となるとー、サブウェポンは多少堅実なものがいいかなー。よーしっ」

 

 次に遊戯室に駆け込み、そこにあったサブウェポンをもぎ取った。

 なんのことはない。ただのダーツとダーツボートだ。

 

「サブウェポンと盾は、君に決めたーっ!!」

 

 ひっぺ返したダーツボードを腕に構え、利き腕でダーツを握った。

 

「ぼ、坊ちゃまぁぁっっ?!!」

 

「あ、ロッコさん、悪いんだけどこれ貰う」

 

「な、な、な、何事ですかこれは!? わぁ、汚いっ?!」

 

 ダーツスキルは先ほどロッコさんに教わったので、まずはトイレのスッポンスキルをレベル1にすることにした。

 

 遊戯室でブンブンとトイレのスッポンを振り回す俺の姿はまさに狂人。

 汗なんだか便所の水なんだかわからないキラキラを散らしながら、俺はロッコさんを無視して鍛錬に励んだ。

 

≪トイレのスッポン:0→1≫

 

 最初は上がりやすいものだ。

 さっとレベル1にして俺は鍛錬を一度止めた。

 

「坊ちゃま……明日、お医者様に会いに行かれませんかな……?」

 

「え、なんで? どこも怪我してないけど?」

 

「坊ちゃまは心の病気にございますぅっっ!!! ああ、おいたわしや、おいたわしやぁ……っ」

 

「はははっ、誤解だって!! 俺は、変な武器が、好きなだけ!!」

 

 まるで別人のようになったリチャード坊ちゃまにロッコさんはさめざめと泣いた。

 ま、実際、別人みたいなもんけどな。

 

「はっ、チャールズ様!! 坊ちゃま、チャールズ様がお帰りになられましたぞ!!」

 

「すげ、玄関の音だけで誰かわかんのな、執事の鑑じゃん」

 

 玄関に我が弟を迎えに行った。

 こちらがたどり着く前に弟は廊下を早足で進んできて、兄弟はムダに広い廊下で鉢合わせになった。

 

「兄さん……!?」

 

「おっす、俺兄貴! 心配かけたな、チャールズ!」

 

「そ、その奇妙な格好は、いったい……」

 

 ダーツの刺さったボードを盾にして、トイレのスッポンを片手に我、弟を迎えたり。

 

「これは俺の新しい得物だ」

 

「い、いえ、それはどう見てもトイレの……『キュポッ』とするやつではないですか!」

 

「そうだ、俺はこの『キュポッ』とするやつで武を極める! こっちは盾にもなるロングレンジウェポンな!」

 

 ブロンドでイケメンの弟は口を開けっぱなしにして固まった。

 

「チャールズ」

 

「は、はい、兄さん!」

 

「俺は正気に戻った」

 

「いえ正気には到底見えませんっっ!!!」

 

「いや正気だって。正気になった上で、あえてこの道を兄ちゃんは選ぶっ! そう言ってんだけよー?」

 

「お、お医者様……っ、お医者様のところに行きましょう、兄さんっっ!!」

 

「チャールズ、家のことを思えば、俺が出て行った方がいいんだ。見捨てないでいてくれたこと、名誉を回復してくれたことには感謝する。だが、これが家のためなんだ」

 

 とでも言っておけばいいだろうの精神。

 本音? チャールズには悪いが、今すぐ冒険者ギルドに飛び込んで、自由気ままに生きたい!

 

「でもっ、でも兄さんっ!!」

 

「たまに帰ってくる。だからしばらく自由にさせてくれ」

 

「で、でも……っ!」

 

「チャールズ、俺はもう貴族社会には戻らない。今、その証を見せよう。スキルオープンッ!! かーらーのっ!!」

 

「に、兄さんっ!?」

 

「封印ッ封印ッ封印ッ封印ッ封印ッ封印ッ封印ッ封印ッ封印ッッ!!!」

 

――――――――――――――

【戦闘スキル】

 剣術  : 90

  封印 →  0

 槍術  : 37

  封印 →  0

 弓術  : 50

  封印 →  0

 トイレのスッポン

     :  1

 ダーツ :  1

 盾術  : 83

 攻撃  :110

 防御  : 98

 回避術 :105

 自然回復: 64

 闇魔法 :199

  封印 →  0

 光魔法 : 25

  封印 →  0

 氷魔法 :180

  封印 →  0

  462/1000

 

【生活スキル】

 礼儀作法:100

  封印 →  0

 帝王学 : 60

  封印 →  0

 弁論術 : 90

  封印 →  0

 教養  :120

  封印 →  0

 演奏  : 50

 歌   : 76

  封印 →  0

 ダンス : 60

  封印 →  0

 食通  :125

  封印 →  0

 自慢話 :150

  封印 →  0

  50/1000

――――――――――――――

 

 弟よーっ、俺は貴族を止めるぞぉぉっっ!!

 と叫ばんばかりの勢いで、この先一生使うことのないスキルを封印していった。

 

「ああああああ……に、兄さんっ、な、なんてことを……っっ!!?」

 

 演奏スキルを残したのはなんとなくだ。

 なんとなく、俺も演奏できる自分に酔ってみたかった。もしもピアノが弾けるならー、なんとやら。

 

「チャールズッ、俺は武を極める!! 武を極めてお前のやさしさに報いよう!! だが今は行かせてくれっ、兄はこのトイレのスッポンとダーツで最強の男になるのだ!!」

 

 チャールズ、お前ならわかってくれるはずだ。俺たちは血を分けた兄弟、同じエーギルの杜の元生徒――

 

「家人よ集まれっっ、リチャード兄さんを拘束するんだぁっっ!!」

 

「な、なんだとぉぉっっ?!!」

 

「お医者様っ、お医者様のところに今すぐ行きましょう、兄さんっ!! ああ、なんてことだ、僕の完璧だった兄さんが……っっ!!」

 

「ちょっ、まっ、押すなっ、押すなよおいっ、うわぁっ?!」

 

 俺が新たな旅路は、朝までかけてカウンセラーを説得し、『貴方は正気ですからもう帰って下さい……』と言わせてのけたその後のことだった。

 

 いざ行かん、ネタ武器とネタスキル育成の旅へ!!

 まずは冒険者ギルド!! お約束展開からの華々しきスタートだ!!

 

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