元ラスボスの悪役令息はネタ装備がお好き - 通常プレイに飽きたので[武器:トイレのスッポン]で無双していたら、いつしか変態貴族と呼ばれるようになっていた -   作:ふつうのにーちゃん

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・リチャード・グレンターは陥れられた

 昔々――

 

「リチャード、君はやはり強いな。どうしたら君みたいに強くなれるのだろう」

 

 遊び半分で生きる俺ではなかった頃の昔の夢を見た。

 

「それは嫌みか、ルイン」

 

「まさか! 僕は心の底から君を尊敬している! 僕は君のように強く賢い男になりたい!」

 

 リチャード・グレンターは貴族や富豪の子女が集まる大学校【エーギルの杜】の4年生だった。

 リチャードは国を守護する聖騎士の位を得るべく、ルイン王子と切磋琢磨して鍛錬と勉学に励んでいた。

 

「だからさ、少しだけ勉強を……教えてくれないかな、リチャード?」

 

「貴様、おだてればこのリチャード・グレンターはなんでもする、と思っていないか?」

 

「お願いだよ、リチャード……。僕は立場上、みんなの期待を裏切るわけにはいかないんだ……」

 

「まあいいだろう。学年主席のこのリチャード様の薫陶を得られるのだ。いつか出世払いで恩を返してもらうぞ」

 

「わかったよ! 僕が王になったらリチャードを大臣に抜擢する!」

 

「バカめ」

 

 リチャード・グレンターは困った男だった。

 勉学・剣・魔法、全てで学年主席の成績を叩き出す天才児ではあったが、性格はというと立派なド偏屈者だった。

 

 彼は食にうるさく事あるごとに料理人にケチを付け、それでいてやたらに自慢屋で、その話ときたら学長よりも長いと有名な非常に嫌みな男だった。

 

「だがルイン、俺と付き合っていいことなんて何もないぞ。良い子ちゃんは、良い子ちゃんのグループとだけ仲良くしておけ」

 

「なんで? 僕たち子供の頃からの親友じゃないか」

 

「俺はトラブルメーカーだ」

 

「ははは、わかってるなら直そうよ」

 

 学内では【伝統主義】と【革新主義】の対立が起きていた。

 ルインは女性と平民を平等に扱おうとする革新派で、リチャードは伝統と階級社会こそが秩序をもたらすと信じる伝統派だった。

 

 今思えばそういった役回りだったのかもしれないが、リチャード・グレンターは【伝統主義】を周囲の生徒に押し付け、たびたびトラブルを起こしていた。

 

「リチャード、悪いけど次は剣も教えて……?」

 

「貴様……」

 

「ごめん、ダメかな……?」

 

「用件は小出しにせずにまとめて言え。まったく、厄介な幼なじみを持ってしまったものだ……」

 

 意見の対立こそあれど、充実した学園生活が続くはずだった。

 しかしリチャードとその弟チャールズの元にある異変が起きた。

 

「父上っ、その剣はなんだ……!?」

 

「まともな物には見えません! すぐに手放された方がよろしいのでは!?」

 

 父、オズワルド・グレンター公爵がある日、妖しい剣を腰に帯びて帰ってきた。

 彼は聖騎士の位を持つ、この国の騎士団長でもある男で、王家に次ぐ権力を握っていた。

 

「我が子たちよ、恐れることはない。この剣はタナトス。グレンター家に栄光をもたらす剣だ」

 

 己にも他人にも厳しく果断。やさしさとは無縁の、尊敬は出来るが父親にしたくない男だった。

 

 俺たちは期待ゆえに厳しく育てられた。

 事実、俺もチャールズも父に褒められたことなど数えるほどしかない。

 

「タ、タナトスだと!? 乱心したか父上っ!! タナトスといえば伝説の魔剣……っ、すぐに手放し――うっ?!」

 

「あ、兄上っ! お止め下さい父上っ!」

 

 その父が魔剣を持って現れたあの日、全てが壊れた。

 父はそれっきり失踪してしまい、公爵の地位を俺が受け継ぐことになった。

 

 そして数ヶ月の時が流れ、父と息子は都の地下大聖堂で再会した。

 魔剣に精神を乗っ取られていた父は【次元融合】をもって、都に大災厄を引き起こそうとしていた。

 

 前世の記憶により人格がすり替わった今だからこそわかる。あれは物語における、中盤のターニングポイントだった。

 

 王子ルイン。侯爵令嬢ゾアナ。異国の貴族サディド。新任教師ラスター。そして侯爵令息リチャード。

 我らは魔剣タナトスと化したオズワルド・グレンターを討ち、災厄を未然に防いだ。

 

 けれども――

 

「聞いたか、リチャード。魔剣タナトスが消えたそうだ」

 

「なっ、なんだと……っ!?」

 

 ルインの婚約者である侯爵令嬢ゾアナからとんでもない話を聞かされた。

 

「宮殿の宝物庫から忽然と姿を消し、どこに消えたのか足取りすら掴めていない。そうルインが言っていた」

 

「バカなっ、警備の者は何をやっていたっ!? 父上を狂わせたあの剣が……っ、また野に放たれた……だと……っ!? なんてことだ……っ」

 

「誰の仕業か知らないが、愚かにもほどがある……。私とルインとお前で、またアレの後を追うことになるだろう……。力を貸してくれるな、リチャード?」

 

「無論だ!! グレンター家の名誉を貶めたあの剣を野放しになどしないっ!!」

 

 国、諸侯、俺たちが必死の創作を行うも、消えた魔剣の行方は誰にもつかめなかった。

 だが魔剣タナトスは俺たちの手に届かない場所に持ち去られたわけではなかった。

 

「兄さんっ、兄さんっ!」

 

「ぁ…………む、俺は今までいったい、何を……。チャールズ……?」

 

「大丈夫ですか、兄さん……? 今日はお休みになられた方がいいのでは……」

 

「あ、ああ……。最近どうも、記憶が途切れ途切れになって……」

 

「大丈夫ですか、兄さん……? 当主となった重圧と学業との両立……兄さんは無理をし過ぎです……」

 

 兆候はあった。チャールズも薄々勘付いていたはずだ。

 魔剣に魅入られた父親と、似た症状を発症している兄の姿に。

 

 記憶の途絶は次第に悪化していった。

 引き替えに俺の成績は【エーギルの杜】史上最優秀の生徒ととまで評されるようになっていった。

 

 そこまでゆけば嫌でも気付く。

 俺はルインに、肉体を支配するタナトスに気付かれぬようメッセージを送った。

 

「お願いリチャードッ、軍事学の勉強を教えて!」

 

「バカめ、誰が教えるか。貴様はもう用済みだ、二度と近寄るな、理想主義の愚か者めが」

 

「えっ、リチャード……ッ!?」

 

「寄るなっ、目障りだっ、俺に――近付くんじゃないっ!!」

 

 思想上のケンカを装い、ルインに俺の異変を疑わせた。

 他の仲間にもいくつかの工作を行い、疑いをこちらに向けさせた。

 

 俺が俺でいられる時間は日に日に失われ、そしてまたある日、俺は気付いた。

 父親を討つことになった悪夢の地下大聖堂に己が立ち、その右手に魔剣タナトスが握られていることに。

 

 その魔剣は訓練用に使っていた剣と全く同じ重さだった。

 少し軽くなったような気はしていた。

 だがそれが魔剣だったなんて気付きもしなかった。

 

 俺、リチャード・グレンターは知らず知らずのうちに、何者かの策略により魔剣タナトスを握らされていた。

 

 そう、何者かが、俺をハメた。

 今思うとそうとしか考えられない。

 

『眠っていろ、リチャード。今日まで我が傀儡として働いてくれた褒美に、次元融合成功の暁には、お前をこの魔都の王としてやろう……』

 

『き、貴様、タナトス……ッ、父上ばかりかこの俺を……ッッ』

 

『次にお前が目覚めるのは、魔都の王として栄華を極めているときだ。それが仲間に騙されたお前へのせめてもの慰めだ』

 

『何……? 仲間に、騙された……?』

 

『そうだとも。お前は仲間にハメられたのだ、リチャード』

 

 いったい誰が俺に魔剣を握らせたのだ?

 その問いにタナトスは嘲笑するばかりで答えなかった。

 

 そして次に意識が戻ったのは敗北の直後だ。

 俺は魔剣タナトスを腕から落とし、哀れむ友人たちに見下ろされていた。

 

「ぅ……ぁ…………」

 

 何かを言おうとしても舌がからんで言葉にならなかった。

 

「これが魔剣を握った者の末路……なんと哀れな……」

 

 ゾアナが唇を噛んで俺を見下ろしていた。

 

「あんなに綺麗だったリチャード様の髪が、真っ白に……」

 

 ルインの弟のレティシャ姫が悲しそうに言った。

 

「全て魔剣タナトスのせい。……なんて発表をしたら、民衆は怒り狂うでしょうね」

 

 その兄、ルインの目はうつろだった。

 

 仲間たちは壊れたリチャード・グレンターを哀れみ、深く悲しんでいた。

 いや、そう長らく信じていたのだが、夢の中で1人『抑えきれない嘲笑の笑み』を浮かべている男がいることに気付いた。

 

 それは俺たちの仲間にして、魔法学の新任教師の【ラスター先生】だ。

 彼は明らかにその時、壊れたリチャード・グレンターの姿に歓喜していた。

 

「リチャード……気付いてあげられなくてごめん……ごめんよ、リチャード……」

 

 リチャード・グレンターはそれから2年間。前世の記憶の覚醒により人格が上書きされるまで、無気力な廃人として生き、そして――

 

「これに決めたっっ!!」

 

 公爵家のトイレのスッポンを天に掲げて、新たな人生へと歩み出すことになった。

 

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