元ラスボスの悪役令息はネタ装備がお好き - 通常プレイに飽きたので[武器:トイレのスッポン]で無双していたら、いつしか変態貴族と呼ばれるようになっていた -   作:ふつうのにーちゃん

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・バグを使って453日を経過させた!

「出会い頭にマスターを攻撃するテイムモンスターなんて初めて見た……」

 

「それよりモルティさん、こいつを早速モンスター牧場に預けたいんだけど」

 

「はい、お預かりですね! ではモンスター牧場のシステムをご説明いたします!」

 

 いきなり始まったクソ長チュートリアルは、反抗的なアメジストミニスライムを指で突きながら聞き流した。

 

「もう一度、お聞きになりますか?」

 

「いいえ」

 

 『いいえ』と答えると、彼女は素に戻ってまた俺から距離を取った。

 まだ涙を目元に浮かべている……。

 

「それよりコイツを預かってくれ」

 

「え、なんで? せっかくテイムしたのに、連れて行ってあげないの……?」

 

「少しだけ預かってくれ」

 

 このゲームには【モンスター牧場システム】というものが存在する。

 テイムモンスターを牧場に預けていると、自動的に能力が成長してゆく。

 

 料金は前金100G+1日10Gだ。

 

「ひっ、こ、こないでっ!!」

 

「ならどう渡せばいいんだ?」

 

「こっちに投げて!!」

 

 懐から110Gを出して投げ渡すと、彼女は高レベルのモンスターテイムスキルで、アメジストミニスライムをモンスター牧場に転送してくれた。

 

「餌、どうするの……?」

 

 またチュートリアルモードに入られると面倒なので、知っているふりで通してみた。

 

――――――――――――――

好感度アップに

  霜降り肉   : 50

HPアップに

  スタミナライス:300

素早さアップに

  みかわしサラダ:100

進化のために

  進化の琥珀  :  3

――――――――――――――

 

 一通りオーダーしてみると、チュートリアルは必要ないとシステムは見なしてくれた。

 

「あの、それだと、453日もかかるんだけど……?」

 

「問題ない。以上を餌として与えてくれ」

 

 支払いは3250Gに及んだ。

 

「変な客……」

 

 通常プレイではゲームクリアしてしまう日数だが、このゲームには公式公認の抜け道がある。

 

 恐らくはデバッグのシステムが消されずに残ってしまったものだ。

 ある非正規の出口からモンスターギルドを出ると、なぜかシステム上で1日が経過するようになっている。

 

「じゃ、俺ちょっとやることあるから行くな」

 

「え……っ、ま、待ってっ、せめて、居所――」

 

「まあすぐに会える!」

 

 チュートリアルマップ入り口の旅の扉から外に出ると、ダッシュで地上に上がって[モンスター牧場の裏の崖]を探した。その崖こそが非正規の出口だ。

 

 崖の下まで約20メートルくらいだろうか。

 ここから飛び降りたがるやつなんて、【落下耐性】スキルを上げたがる変なプレイヤーしかいない。

 

「ヒャッハーッッ、アイキャンフラーーイッッ!!」

 

 無論、ハッピーな気持ちで飛び降りた。

 すると不思議なことが起きた。

 

 崖の下の鬱蒼とした草地に飛び降りたはずが、なぜか俺はモンスターギルドの正面玄関前に着地していたのである。

 

 たった20メートルの飛び降りなど、飛び降りを極めんとする俺にはノーダメだった。

 

「えっ、グレンター様……!?」

 

「あ、お構いなく!」

 

「え、あの、待って……っ、あ、あたし……っ、ちょっとっ!? 待ってよぉっ!?」

 

 システム上、これでモンスター牧場の中で1日が経過したはずだ。

 再び俺はギルドの裏に駆け込むと、ためらうことなく崖からアイキャンフライした。

 

「2日目っ!!」

 

 すぐにギルドの玄関の中に飛び込んだ。

 

「え、ええええーーっっ?!!」

 

「お構いなく!」

 

「えっえっ、えええーっっ!?」

 

 そして同じことを繰り返す。

 飛び降りって、ンギモヂィィィッッ!!

 

「ほい3日目!!」

 

「う、裏に行ったグレンター様が、正面玄関から、現れて……。え、え……っ?」

 

 通常プレイならちょいちょい回ってちょっと回ってズルをする程度の裏技だった。

 それゆえに開発者も遊びとしてこの仕組みを残してくれたのだろう。

 

 だが、実際のゲーム世界で、それをガチで利用しようとすると、それは怪奇現象へと変わる。

 

 モルティさんは見た。

 己の唇を奪った変態が、正面から現れて裏に消えてすぐに正面から現れる、意味のわからない怪異を。

 

「ええええーっっ?! な、なんなの、貴方ッッ?!!」

 

「だから、お構いなく!」

 

 周って走って飛んで、周って走って飛んで、周って周った。

 

≪落下耐性:67→68≫

 

「何をしているの!?」

 

「育成!」

 

「意味がわからない!」

 

「こうするとあのスライムが育つんだ!」

 

「あ、頭が、おかしくなりそう……」

 

「いやお構いなく!」

 

≪落下耐性:68→69≫

 

「人の職場で変なことしないで!!」

 

「悪い、超楽しくなってきちゃった!!」

 

 閉店までに453周だ。

 1周30秒で周回すれば、4時間以内には片付く。

 

 逆に言うと、4時間ばかしモルティさんを惑わすことになる。

 ああ、事前に迷惑料を払っておいてよかった。

 

≪落下耐性:69→71≫

 

 100周を超えたところで彼女は俺のすることに口をはさまなくなった。

 気にはなるが、もはや何を言ってもムダだと気付いたようだ。

 

「ご飯、何が好き?」

 

「トマトパスタ!」

 

「あたしはビーフシチュー! 普段はポークだけど……」

 

≪落下耐性:71→73≫

 

 200周に達すると、短い世間話を投げかけてくれるようになった。

 

「嘘……本当にさっきの子が育ってる……!」

 

「やっと信じてくれたか!」

 

「信じるも何も、う、嘘ぉぉ……!?」

 

≪落下耐性:73→75≫

 

 300周に達すると彼女は変人の行動に意味があったことに気付いた。

 どんどん成長してゆくアメジストミニスライムにはしゃぎだした。

 

「がんばれっ、がんばれっ、あとちょっとだよ、グレンター様!」

 

「リチャードでいい」

 

「うんっ、わかった! リチャード様、がんばって!」

 

「様もいらない」

 

「ううん、リチャード様がいい……」

 

≪女たらし:28→30≫

≪落下耐性:75→77≫

 

 400周に達すると夕日が赤く燃え出した。

 彼女は暗くなってもギルドの店じまいをせず、走る変人を応援してくれた。

 

≪落下耐性:77→78≫

 

 そして483周目。

 

「ゴールッッ!! やったっ、やったよ、リチャード様!! あの子、ご飯食べ切ってすっごく成長した!!」

 

「はぁっ、はぁっ、はぁぁ……っ。さ……さすがに……きつかった……」

 

「連れて帰るんだよね、リチャード様?」

 

「ああ……モンスター:アメジストミニスライムを引き出したい……」

 

「違うよ、リチャード様が預けたのは確かにアメジストミニスライムだけど、牧場で進化して、ダイヤモンドミニスライムになったんだよっ!」

 

 彼女はテイム魔法を使って、こちらが預けたさっきのスライムを呼び出してくれた。

 

「ぷりゅぅぅーっっ♪」

 

 ダイヤモンドのようにキラキラと輝くスライムが俺の方に飛び乗り、汗まみれの首にすり寄った。

 ステータスは――チャールズの前で一緒に確認すればいいか。

 

「ぷりゅぅん、きゅぅぅーん……♪」

 

「ああ、羨ましい……」

 

「へへへ、いいだろ。さて、そろそろ俺は帰る」

 

「え……もう、帰っちゃうの……?」

 

「弟に会いに行かなくてはいけなくてな。俺は普段は空鯨亭か、あるいはグレンター公爵家にいる」

 

「えっ、こ、公爵……!?」

 

「閉店時間だってのにありがとな。じゃ、俺、コレを弟に届けなきゃいけないから、またな!!」

 

 馬車が見つからないなら馬車より速く走ればいい。

 日が暮れてチャールズが心配になってきたことだし、俺は小学生のようにダッシュで家に帰った。

 

 距離にしてたった3キロばかし。大した距離じゃなかった。

 

 

 ・

 

 

 帰宅するとチャールズがいるという書斎に押し掛けた。

 

「兄さんっ!!」

 

「ようチャールズッ、無事でよかった!!」

 

「お帰り! 帰ってきてくれるだけ嬉しいです……!」

 

 さすがに汗をかいたので公共浴場にでも寄りたいところだったが、それよりも先に俺は魔法の言葉を唱えた。

 

「サモン:ダイヤモンドミニスライム!!」

 

 引っ込めていた最強モンスターを召喚すると、チャールズは輝く不思議なスライムに感動の声を上げた。

 

「兄さんっ、まさか魔力が戻られたのですか!?」

 

「いやそっちは壊れたままだ。それよりもチャールズ、こいつをお前に預ける」

 

「こ、こんな綺麗な子を、僕に……!?」

 

「美しいだけではないぞ! ステータスオープン:ダイヤモンドミニスライム!」

 

―――――――――――――――――

【ダイヤモンドミニスライム】

職業:まもの

 力 :F 守 :D

 技 :B 速 :SS

 魔 :D 魔守:C

 HP:SSS なつき:99

戦技:

 体当たり(守・依存)

 ダイヤモンドブレス(HP・依存)

―――――――――――――――――

 

 とんでもない怪物がそこにいた。

 テイムしたスライム系は育てるとブレスを覚える。

 このブレスはHP依存だ。だからHPの上がる餌を与えた。

 

 さらにブレスは耐性によるダメージカットが相手になければ、それは防御力無視の凶悪な必殺攻撃となる。

 

「な、な、な……なんなんですかこの子っっ?!!」

 

「お前の護衛だ。今日からはこいつを連れ歩け、そうすりゃやっと俺は安心出来る……」

 

 書斎机の上にいるスライムの頭を撫でてやると、輝くスライムはポインッと身軽に跳ねた。

 

「で、ですが、どこでこんな、とてつもないモンスターを……」

 

「んじゃ俺、風呂屋行って寝るから」

 

「に、兄さんっ!? この子の名前はっ!?」

 

「名前はお前が付けろ。……弟を任せたぜ!」

 

 マッハで動けるスライムは高々と跳ねてマスターの首に擦り寄って、チャールズの方にまた跳ねてキャッチされた。

 

「名前、僕が付けていいの!? ありがとう、兄さんっ!! この子、すごくかわいいですっっ!!」

 

「おうっ、またタイミングを見つけて帰る。またな!」

 

 公共浴場でひとっ風呂浴びて宿に帰り、飯食ってティリアのマッサージを受ければ、その日の意識はもうないも同然だった。

 

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