元ラスボスの悪役令息はネタ装備がお好き - 通常プレイに飽きたので[武器:トイレのスッポン]で無双していたら、いつしか変態貴族と呼ばれるようになっていた -   作:ふつうのにーちゃん

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・変態貴族、冒険者デビューする!

 冒険者ギルドにデビューする前に防具店に立ち寄った。そこは都の防具ギルド直営の施設で、ざっくり言うと防具業界の農協みたいな店だ。

 

 ちなみにこのゲームはマルチプレイにも対応しており、他のプレイヤーの作成した防具をここで購入することも出来た。

 

 もちろん出品も可能だ。

 自分が手に入れたアイテムを自分で売る。MMOやマルチプレイゲームの醍醐味だ。

 

「こ、これはこれは貴族様、何かご入り用でしょうか……?」

 

「あ、こんちは! 今身に着けている物一式を出品したいんだけど、もうここで脱いでいいよね!」

 

「は、はいっ!? あ、あの、貴族様っ!?」

 

 【シルクの手袋】を外して勝手に棚に置いた。

 すると販売画面が出てきたので、表示された推奨価格の2割増しの[240G]で出品した。

 それから衣服一式【貴族の服】に手をかける。

 

「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっとお待ち下さい貴族様っっ?!」

 

「はースッキリ。あ、パンツ忘れてた」

 

「パンツは結構ですっっ!! エーギルの杜の女子生徒のパンツならともかく、男性貴族のパンツに需要などございませんよ!!」

 

 貴族の服の推奨価格は[800G]だ。

 2割増しの[960G]でパンツもサービスで付けて出品した。

 

「ふぅ……っ」

 

「ふぅじゃありませんよ、貴族様!? というか、お客様……貴族様、です……よね……?」

 

「まあそんなのどうでもいいじゃん!」

 

 貴族を止めた俺は清々しい気分で広い店内を回った。

 

「お、お客様っ、そっちはダメですっ!!」

 

「あれ、ここ、婦人服コーナー……?」

 

 淑女たちの思い思いの視線が俺、元公爵令息リチャードに集まった。

 ゲームだと全裸でもなんの不都合がないのに、ゲームの中だと下腹部に女性たちの視線が集まる。

 

「お客様っ、そっちは子供服コーナーですっ!!」

 

「おっと、それシャレになってーねやつ」

 

「既にシャレになってないですよっ!!」

 

 お店の人に冒険者の防具コーナーに連れて行ってもらった。

 ゲームだとコマンドを選択するだけで買い物が出来るのに、ゲームの中だといちいち不便だった。

 

 俺は財布の金を使ってアイテム【冒険者の服】【革のガンベルト】【革のベルト】【布の帯】【怪力はちまき】の中から1番いいやつを買った。

 

 残金は3G。出品した服が売れなければ、現状は宿代も払えないこのギリギリ感がゲーム序盤っぽくて非常にグッド!

 

 ともかく【革のベルト】でダーツボードを腕にくくり付けて正式に盾として装備した。これで【ダーツボードシールド】の完成だ。

 それから【怪力はちまき】を頭に巻き、【布の帯】でプランジャーを腰に帯刀した。

 

 それから【革のガンベルト】を腰に巻いてダーツをスリットに入れれば、冒険者ギルドデビューの準備完了だ。

 

「さて、行くか! レベリングに!」

 

「服服服服っっ、お客様っ、服をお忘れですっっ!! 服着てさっさと出てけっ、もう二度と来るなこのクソ客っっ!!」

 

「おかしな話だ……」

 

「おかしいのはアンタの頭だよっ!!」

 

 防具屋なら『ここで装備していくかい?』くらい言ってくれてもいいというのに、ゲームは現実に近付くほどに不親切になる。

 

 全部脱いで、全部装備し直して、あらためて清々しい気分で俺は冒険者ギルドへと続く通りを進んでいった。

 

「あのクソ客……パンツ買わずに行きやがった……」

 

 ああ、清々しい……!!

 

 

 ・

 

 

「な、なんだ、アイツ……!?」

 

「へ、変態か……!?」

 

 冒険者ギルドには朝から酒の匂いが立ちこめていた。

 酒場が併設されたこのギルドは朝だというのに薄暗く、給仕が慌ただしくモーニングを配膳していた。

 

 そこに新人冒険者リチャードが現れると、ギルドの空気がガラリと変わった。余所者に対する冷ややかな態度だった。

 まあけどそんなの知んないし、普通に受付に並んだ。

 

「おい、そこのよくわかんねぇ野郎! 何ふてぶてしく並んでやがる!」

 

「兄ちゃん、そこは冒険者用の受付だ。便所の掃除夫が並ぶところじゃねぇよ」

 

 40代ほどの酒臭い斧男と、30代ほどのナイフぺろぺろマンにからまれた。

 このトイレのスッポンで『キュポッ』とやっつけたいところだが、ムダな争いは避けたい。

 

「仕事を請けちゃいけないのか?」

 

「はぁ!?」

 

「ダハハハハハッッ、そのトイレの『キュポッ』とするやつとダーツのオモチャで戦う気かよ、おめぇー!?」

 

「え、そうだけど?」

 

「ヒャハハハッ、コイツバカだぁーっっ!!」

 

「おっさんたち、冒険者ランクいくつ?」

 

 聞くとおっさんたちは気分を害したような顔をした。

 朝から飲んだくれているようなやつらだ、あまりギルド内の評価は高くないようだ。

 

「Eだけどなんか文句あるかよっ!?」

 

「え、その歳でEランク? 思ったより低いなぁー」

 

「テメェッ、言っちゃならねぇことをっ!!」

 

「すぐに追い抜くから待って――」

 

「ぶっ殺してやらぁっ!!」

 

 激高した中年冒険者が斧を振るった。

 

「テメェッ、ちょこまかとっ! ウブハァッッ?!! うげぇっ、き、汚ねぇぇっっ?!!」

 

 しかし【回避術:105】の俺にはそれが止まって見えた。

 そんな彼の顔面をトイレのスッポンで『キュポッ』と吸引してやると、冒険者ギルドに明るい笑い声が広がった。

 

「あはははっ、あの新人の子やるじゃなーい!」

 

「良い身のこなしだ。ピリリカ、仕事を請けさせてやったらどうだ?」

 

「彼が持ってるアレって、トイレのアレだよね……? まさかあれで戦う気なの……?」

 

 先に並んでいた冒険者たちが列を離れた。どうやら順番を譲ってくれるようだ。

 カウンターの向かいにはピリリカと呼ばれる水色の髪の女の子が立っていた。

 その子はあきれ顔でメガネの角度を直し、俺に手招きをする。

 

「よくわからないですけど、うちに仕事を請けに来たのですよね?」

 

「ああ、今日から俺は冒険者になる!」

 

「ええっと……どこから突っ込んだらいいのかしら……。本当にそれで戦う気なのですか……?」

 

「うん、そうだけど?」

 

 トイレのスッポンを掲げると水しぶきが上がって受付のピリリカさんが飛び退いた。良い動きだ。

 

「変な人……」

 

 手招きをするのでピリリカさんの追ってギルドの奥の部屋に入った。

 部屋には書類が積み上がっている。ここは事務所のようだ。

 

「一応手続きだから、ステータスとスキルを見せて下さい」

 

「見せたら仕事をくれるのか?」

 

「実力次第。無理な仕事を任せたらこっちの責任問題になるもの」

 

「ふーん、わかった。ステータスオープン!!」

 

 ピリリカさんは俺の隣に回り込み、のぞき込むように俺のステータス画面を見た。

 

「えっ!?」

 

「ん、どうした?」

 

「や、やるじゃない……。軍人……には見えないけれど、リチャード……グレンター……?」

 

 そのメガネ女子はメガネを外し、背伸びをして人の顔を下からのぞき込んだ。

 

「どこかで聞いた名前……。なんだったかしら……」

 

「どうでもいいだろ、そこは」

 

「貴方、今まで何をしていた人?」

 

「廃人」

 

「まじめに答えなさい」

 

「いや本当に廃人だったんだって。昨日正気に戻って、心機一転、今日から冒険者になることにした!」

 

 小さなお姉さんはバインダーにペンを滑らせた。

 [性格:変な人]と書かれていたところに、[性格:凄く変な人]と書き直した。

 

「ステータスは申し分なしね、仕事を任せられるわ」

 

「おっ、本当っ!?」

 

「次、スキルを見せて下さい。それで貴方がどれだけ使えるか計りますから」

 

 『スキルオープン!』と叫んで画面を出した。ピリリカさんはまた前のめりになって、画面の表記をガン見した。

 

「え……!? な、なにこれ……っ、貴方……変よ……?」

 

「何が?」

 

「生活スキルが演奏以外まっさら。戦闘の基礎スキルが超高レベルなのに、武器スキルが1しかない。貴方、まさか、スキルを……封印したの……?」

 

「うん、そうだけど?」

 

「どうしてそんなことをしたの?」

 

「コレとコレを極めるためだ!」

 

 トイレのスッポンを腰から抜こうとするとガシリと止められた。しょうがないのでダーツボードを構えた。

 

「トラブルは起こさない。約束出来ますか?」

 

「起こすわけないだろ」

 

「もう起こしてるのよ……」

 

 [性格:無自覚でマイペース]とバインダーに加筆された。

 

「貴方の実力は本物よ、Cランクまでの仕事を斡旋してあげる」

 

「おお、だったら【不定形の森の薬草採集クエスト】をやりたい!」

 

「はぁ……貴方、私の話を聞いていました? それ、Fランクのクエストよ……?」

 

「そのクエストがいいんだ」

 

「変な人……」

 

 彼女は事務所の奥から半透明のペラペラした物を取ってきた。

 

「元廃人のリチャード・グレンターでいいのよね? これが貴方のギルドカードです」

 

「おおっ、これは夢にまで見たあのギルドカードッ! サンキューッ!」

 

「一応、貴方を監督する義務があるから、変なことしないで下さいよ……?」

 

「しない」

 

「本当かしら……。では、こちらにどうぞ、【旅の扉】に案内します」

 

 【旅の扉】というのは要するにワープ装置だ。

 冒険者の仕事は大きく分けて2種類あって、今回やるのは【旅の扉】を経由して、プライベートダンジョンで素材採集を行うものだ。

 【旅の扉】はギルドの地下にある。

 

 あれれーおかしいよー?

 なんでそんなところにそんな便利な物があるのかなあー?

 

 なんて(さか)しいお子様に聞かれたら、『単にゲームとしてその方がユーザーフレンドリーだからに決まってんだろ!』と答えよう。

 

 メガネ女子に冷ややかな流し目を送られながら、俺リチャード・グレンターは地下へと下っていった。

 

 そこには祭壇があった。

 祭壇には光の渦【旅の扉】が神々しい金色に渦巻いていた。

 

「本当にそれで戦うのですか……?」

 

「ああ、これを極めることにした!」

 

「……次はもっとまともな仕事を受けて。貴方実力があるんだから、つまらない仕事なんて請けちゃダメですよっ」

 

 ギルド職員に背中を突き飛ばされると、俺は金色の渦の中へと飲み込まれた。

 行き先は親の顔より見た【不定形の森】ゾーン。これより薬草採集および、スキルレベリングを開始する。

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