元ラスボスの悪役令息はネタ装備がお好き - 通常プレイに飽きたので[武器:トイレのスッポン]で無双していたら、いつしか変態貴族と呼ばれるようになっていた - 作:ふつうのにーちゃん
観客たちは絶叫を上げて気絶したラスターに戸惑っていたが、そこにルイン王子とチャッティ・キャットが降りてくると、それが大歓声に変わった。
「皆様っ、たった今っ、本大会の優勝者が誕生いたしましたニャァァッッ!!」
「はい、本大会の主催者ルイン・エンデュランスとして、僕はここに宣言いたします!! 本大会の優勝者は――貴族らしからぬ戦いをするこの男っ、リチャード・グレンターに決まりましたっっ!!」
ルイン王子がそう宣言すると、観客たちはこれまでで一番大きな大歓声を上げて迎えた。
もはや発言者が多すぎて言葉を聞き取れないほどに、皆が思い思いに言いたいことを言いたいだけ大声で叫んでいた。
「皆さん、もう1つだけ僕の話を聞いて下さい。僕は2年前のタナトス事件には、彼、グレンター家の一族を陥れる陰謀があったと、そう確信しています」
「おい、ルイン……」
そんな中、ルインがおかしなことを言い出した。
「僕は事件の究明に全力を捧げるとお約束いたします!! 他でもない親友っ、廃人状態からこの世に帰ってきてくれたっ、リチャード・グレンターのためにっ!!」
観客がルインの宣言をちゃんと聞いていたのかはよくわからない。
とにかく騒がしくて、混沌として、これで大会が終わったのだという寂しさが漂っていた。
「おい、後で話がこじれても知らねーぞ……」
「そうかもね、ラスター先生に肩入れしている貴族も多い」
「ならなんでこんなことを……?」
「君が言ったんじゃないか」
「え、俺が? 何を?」
「僕が君に師事を求めると、君は照れ隠しに出世払いでいいって答えて、なんでも教えてくれた……」
「ルイン……お前……まだあの時のことを……」
「君の名誉を回復したいんだ。親友として」
ルインとリチャードはいい友人だった。
プレイヤーの目から見ても、この物語は友情が運命に砕かれた悲しい物語に映った。
俺はリチャード・グレンターとしてルインの前に立ち、昔したような不器用な笑顔を浮かべて、友情を忘れないでいてくれた友人と握手した。
「今の俺は自分のしたいように生きる自由人だが……。ルイン、お前からの頼みなら昔のようになんだって聞こう。親友よ、俺の潔白を信じてくれて、ありがとう……。お前が友達でいてくれて、よかった……」
「僕もだよ、リチャード!」
こうして闘技大会は熱狂と友情の下に幕を閉じた。
過去と決別した俺は自由だ。ますます自由だ。その手始めに俺は空鯨亭の前に戻ると、こう宣言した。
「今日は全部俺の奢りだっっ!! 空鯨亭だけじゃねーっっ、宿屋街全部の飲食費を俺が持つっっ!! あ、けど高級酒だけは勘弁なっっ!?」
優勝賞金はなんと33333G。
俺はそのうちの9割を一晩のお祭り騒ぎのためだけに融かすことになったのだった。
・
それから半月、しばらくバタバタとした毎日が続いた。
それはルイン王子が子犬みたいな目で、昔みたいにあれやこれやとお願いにくるようになったのも大きい。
が、もう1つの原因は新流派【グレンター流ラバーカップ剣術】の創設のために忙しい日々が続いたのもあった。
「腰が甘いっ!! トイレのスッポンで敵を突くときは、こうだっ、こうっ!!」
「はいっ、リチャード師範!!」
「よいかっ、はじめはなんだこのふざけた武器は!? 俺たちをバカにしているのか!? と、思うだろうが、深いぞ、トイレのスッポン道はっ!!」
城下に道場が作られ、そこに集った若者たちに、俺とニケ・プーマーはトイレのスッポンをサブウェポンにした戦い方を教えた。
そう、サブウェポンだ。
トイレのスッポンは意外と実用的な武器で、状態異常をもたらす武器として極めて有効ではあるが、さすがにそれだけではじり貧だと俺も認める他にない。
そこで軽量なダーツで牽制や奇襲をしつつ、トイレのスッポンで精神を破壊し、剣でトドメを刺す戦法を推奨した。
「いえ滅相もありません!! あのリチャード・グレンターに師事出来る我々は幸せ者です!!」
「一生付いていきますっ、リチャード師匠!!」
ちなみに預かったのは兵士たちの息子たちや、将来兵士や士官の道を志望する13歳以下の若者たちだ。
「道場のことは僕にお任せ下さい。リチャード様のお力になれるだけで僕、嬉しいです!」
将来のこととなるが、いずれこの国に敵部隊の精神を破壊し、毒や麻痺、最悪は尿路結石をもたらす悪魔の部隊が誕生するだろう。
その日を夢見て、若き門下生たちはトイレのスッポンで空を突き、また突き、払ってまた突く。
彼らは大真面目にトイレのスッポン道を極めようとしていた。
・
また一方その頃、ラスター・エッジ子爵は尿路結石に苦しみあえいでいた。
ここ半月間、まともに食事も取れず彼は痩せこけ、24時間ずっとうめきながらも、かろうじてまだ生きていた。
「あ、あぐぁっ、く、薬っ、薬はまだぁぁぁっっ?!!」
薬は市場から枯渇していた。
尿路結石をたちまちに治してしまうあの薬でも、彼の病は治らなかった。
「い、医者っっ、いつ治るっ、いつ治るのだこれはぁぁっっ?!」
「子爵閣下……まことに言いにくいことなのですが、し、信じられません……。結石が、自己修復、しています……」
「な、なん……なんだとぉ……っっ!!?」
「もはや薬や外科手術ではどうにもなりません。終わりのない尿路結石……エンドレス・キングオブペインとでももうしましょうか……」
もう治らない。
それはもはや死の宣告も同然の絶望の言葉だった。
ラスターは本気で自殺をも迷った。
「か、かくなる、上は……っ、タナトス……ッ、タナトスよ……ッッ!!」
魔剣タナトスの名を呼ぶと、どこからともなく魔剣の幻影が浮かび上がった。
「タナトスッ、力をっ、力を貸してくれっ!! この恐ろしい病を治してくれっ!! か、身体の支配権を半分やるっっ、だ、だからっ、頼むぅぅっっ!!」
魔剣タナトスは哀れな男の叫びに答えた。
「申し訳ないがラスター・エッジ……私にも宿る肉体を選ぶ権利がある……」
「た、頼むっ、これを治してくれっっ、これを消してくれええええーっっ!!」
「無理だ、物を治す力は私にはない。それに、そんな身体に宿るのは、恐ろしい……絶対にお断りだ……っ」
「そんなっ!!?」
「申し訳ないがお前との契約はこれっきりで打ち切らせてもらう。さすがに勘弁してくれ……」
魔剣の幻影は消え、そこに治らぬ病に絶望する男が残った。
「ハ、ハハ、ハハハハ……。死のう……」
病名:エンドレス・
「アアアアアアアアーーッッッ!!!!!」
[