最強の武器の作り方   作:かのさん

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第十一話「その力の代償」

そして獣人の怒りの鉄槌によって司馬龍は完全敗北を迎えたのだ━━━━

 

 

「愚か、あまりにも愚か」

迎えていなかった。今、彼女の眼前に居るのは首より上が消し飛んだ獣人の姿であった。がしかし勢い自体は衰えず司馬龍を襲ってくる。司馬龍はこれを致命傷を受けているとは思えないほどの軽い身のこなしで避ける。獣人の体はそのままうつ伏せになって倒れる。司令塔を失った巨躯は再び動き出すことはなかった。

「ふぅ、今回ばかりは結構痛かったぞ。」

いつの間にか普段の姿に戻っている彼女は踏みつけられた腹部をさすりつつ独りごちる。ついでのように体についたホコリを手で払い、口元の血を手の甲で拭き取る。

「━━━━!?」

突如背後から視線を感じる。ゆっくりとその方へ首を回すとそこには腕を組みいつもより3割増のいかつい顔をした孔が立っていた。彼は司馬龍と目が合うと顔色一つ変えずにこちらに近づいてくる。こういう時の孔はそこら辺の魔物と比べ物にならないほどの恐怖感があるそれは今回も同じようだ。普段はこれに加えて何らかの罰なりお仕置きがあるが

「はぁ…。」

今回は無ししのようだ。代わりに特大のため息をつかれた。しかも、目の前で!!!

「な、なんじゃ…妾の前でこれみよがしにため息なんかつきおって。」

「正直かなり肝を冷やしましたよ」

「何がじゃ?ちゃんと勝っているであろう?それに後ろから見ていたなら後方支援の一つでもせぬか。」

「それはそうですが……はぁ、とりあえず体は大丈夫ですか?あれだけ派手にやったんですから反動は大きいと思います。」

「今のところは大丈夫じゃな。ただ少し違和感があるだけでの。こういう代償がなければよいのじゃが……」

司馬龍は困った表情をしながら頭をかく。孔はそれに同情するような表情で返す。

「代償って?」

二人の間から桜がひょっこりと顔を出す。

「ぬおっ。起きておったか。傷の方はどうじゃ?」

「まぁ、だいぶ治りましたよ。固有性質。いいのか悪いのかよくわかりませんね。」

「外部からの治療無しで戦闘を継続できると点ではいいのかもしれませんね。」

孔は顎に手を当てまるで学者のように話す。

「でもその分痛みは長引きますけどね……ん?龍さんどうしたんですか。そっぽ向いちゃって。」

司馬龍は孔が桜に答えた頃から二人と顔を合わせず咳き込んでばかりいる。

「ごほっ…げほっ…なに、そんなに心配することじゃ━━うぐっ」

作り物の笑顔が消え、苦悶の色に変わる。彼女は自身の心臓付近を押さえつけながらその場にうずくまる。背中をこちらに向けて自身の容態が悟られまいとしているが彼女の体に異常が起きているのは火を見るより明らかである。

「龍さんっ!ど……どうしたんですか!?さっきの戦闘で何が…。」

「だから……大丈夫だと言って━━っ!げほっ…ごほっ。」

司馬龍は桜がいる手前強がろうとするが体は正直なもので内側から上がってきた血を咳とともに吐き出す。

「ハァ…ハァ…くそ。少し無理をしたようじゃ。」

「龍殿。今日はもう休まれるとようでしょう。後処理は私に任せておいて下さい。それと…桜殿これを…」

そう言うと孔は胸のポケットから小瓶を取り出し桜に渡す。

「体内の魔力循環を安定させるための薬です。普段は使用しないのですが…今回はそうはいかないようです。咳が収まり次第使用して下さい。」

「龍さんは大丈夫なんですよね!?死にませんよね!?」

桜は藁にもすがる思いで孔に問いかける。

「大丈夫です。龍殿は昔から体が弱いので激しい戦闘をするとこの様になってしまうのです。」

孔は桜を安心させるように笑顔で答える。

「なら安心…ですかね。」

桜は心のなかに釈然としない思いはあったが司馬龍の容態のほうが何倍も気になるため彼女は横になって浅い息をしている司馬龍を背中に担ぎ上げ客室に向かう。

(え……軽っ)

身長からして大方軽いのは想像できたが、それでも驚きを隠せなかった。本当に五臓六腑全てが入っているのか心配になるのと同時に彼女から繰り出される攻撃の重さに改めて感心した。司馬龍は軽かったが一応怪我人(桜の中では)扱いなので心持ち丁寧に歩く。脅威も取り除かれたので焦って急ぐ必要はない。

 

 

「ごほっ……さ…桜…。」

「なんですか龍さん?」

目的地まで半分と来たところで背中の司馬龍が話しかけてきた。

「すまなかった…の…げほっ…」

「え…ええ!?なんで龍さんが謝るんですか!?むしろ私から感謝したいぐらいですよ!」

「妾の力不足で…ごほっ…そなたを傷つけてしまった…」

まるで死にかけの病人が最後の告白をするようなか弱い声に桜は司馬龍の新たな一面を覚えるのと同時に先程とは違うまた別の心のわだかまりができたような気がした。

「そんな!あのバケモノと闘うなんで馬鹿なこと言い出したのは私なんですから、龍さんが責任を感じる必要なんかありませんよ!あーあ…龍さんの戦っている所見たかったなぁ…」

「━━っ!ほ…本当に…そなたというやつは……」

その時桜は首元に暖かい何かが流れるのを感じた。血ではない。もっと人間味があって感情がこもっているような…

「龍さん…泣いているんですか?」

「ばか!あほ!泣いてないわ!」

耳元で大声を出されたので桜は一瞬顔を顰めたが直後に司馬龍が再度咳き込み始めたので心配が勝った。それでも相変わらず司馬龍の感情を代弁するように暖かみのあるものが桜の首元を流れていた。

「ふふっ…」

桜は誰にもバレないよう小さく微笑んだ。

 

 

━━その頃甲板では

「……よし、後はこの文書をトロント島の港にいる役人に届ければよいな。頼んだぞ『赤兎馬』。」

孔は左肩に止まっていた鳥を飛ばす。その鳥は陽の光をまばゆく反射しながらまっすぐ空を滑降していく。

「さて…私も客室に…ん?」

孔が客室に戻ろうと振り向くとその視線の先には見覚えのない人物が立っていた。全身を覆う黒のローブに加えフードを被っていてまるで影が人の身体を借りているように見える。怪しい宗教団体のメンバーにも思えてしまいそうなそれは

「司馬龍はいるか」

「………。」

返事はしない。下手に答えてボロが出ないようにするためだ。

(声質的には女性だな…。にしてもなぜ龍殿の名前を…?)

「答えろ。」

「ふむ。では知っていると答えておこう。」

「どこだ。」

相手は淡々と必要な情報だけを要求してくる。図々しい野郎だ。

「その前に名乗るのが礼儀というものではないか?礼儀すらわきまえることが出来ないものに答える義理はない。」

「チッ、いちいち鼻につくな。」

そういうとローブの人物はフードを脱ぎ顔を顕にする。緑の髪をサイドテールにした黄色の瞳の彼女は頬に切り傷がある。声質同様大人びた顔立ちをしている。

「私の名前はレーテだ。で貴様は?こちらが名乗ったのだからそれには応じるべきだろう?」

「道理だな。私は孔という。今は司馬龍の従者をしている。一応聞いておきたいのだがレーテ。あなたのご職業は?」

レーテは腕を組み少々考えてから答える。

「宗教家だ。これでどうだ。」

「みえみえの嘘はよして下さい。なおさら龍殿に合わせるわけにはいきませんね。お引き取りをお願いします。」

そう言うと孔は手で「あっちいけ」と言わんばかりのジェスチャーをする。その仕草が彼女の顰蹙を買ったのか懐からナイフを取り出して孔に襲いかかる。

「はい、ストップ。」

ナイフを持った腕は空中で静止し、ピクリとも動かない。レーテがどれだけ強く力を込めても孔との距離は一切縮まる気配がない。

「ぐっ…貴様何を!」

「ごく単純な魔力結界ですよ。自信満々に突撃してきたので何らかの策があるのかと思いましたが、これは想定外ですね。」

孔は相手を煽るように鼻で笑いながら答える。

「貴様ッ!バカにしているのか!」

「馬鹿にはしていません。安全策を取ったまでですので。」

「チッ…くそ。」

レーテは警戒を一切解くことなく後方へ飛ぶ。

「まだなにかありますか?私がお相手しますよ。」

孔は余裕のある笑みを浮かべながらレーテに声をかける。

「こんなのがいるって聞いてねぇぞ…。」

「そりゃあこちらからも何もお伝えしていませんし?」

わざとらしく首を傾げ更にレーテを煽り立てる。

「ああ……クソ。ムカつく野郎だな。」

「で、どうされるのです?ここから去るか。それとも私の手を煩わせるのか。早く選んで下さい。」

口調こそ丁寧だが内容は物騒である。目が笑っていない笑顔を向けられたレーテは孔から強大な威圧感を感じる。

「……分かった去ろう。」

「いい判断かと…ですがその前に。」

「あ?何だ?」

「こちらの攻撃のターンが終わってませんよね?」

「は?貴様何を言って━━━」

レーテが言葉を発し終わるよりも早く孔は彼女の懐に潜り込み拳を繰り出す。

「がっ……はっ……。」

レーテはなすすべもなく彼の鉄拳をもろにみぞおちに受けてしまい後方へ数メートル吹き飛ばされる。

「なんですか今のは、これじゃあ龍殿に勝とうなどというのは一生をかけても成し遂げられませんよ?」

「うぐっ……貴様…今のは…」

「ごく単純な打撃ですよ。貴方がしてきた攻撃よりも弱いはずでしたが…加減を間違えてしまいましたね。」

孔は殴った左腕をさすりながら彼女に近づく。

「く…ぐぅぅぅぅぅ。覚えておけよ。次にあったときは必ずぶっ殺すからな。」

「会えたらの話ですがね…」

レーテはフードを被り直す。すると彼女の周りを黒いモヤが覆う。その数秒後にはモヤが晴れたがそこに彼女の姿は無かった。

「宗教家なのに物騒な物言いでしたね…バチが当たりそうなお方です。」

孔は深い溜息をつきながら地平線から浮かび始めた島を眺めていた。

 

━━数時間後トロント島にて━━

「や…やっと着いたぁ。」

桜たち一行はその後特に何も起きることはなく夕暮れ前にトロント島に到着した。今回の騒動については孔が事前に港の役人に報告済みのため追加の面倒を被る事なくすんなりと上陸できた。

「孔さんが手を回していなかったら今頃どうなっていたことやら…」

「あの船内でマトモに戦闘できるのが妾たちだけじゃったからの。何も知らない人からすれば真っ先に疑われていたであろうな。」

司馬龍はまだ本調子になっていないため桜に体を支えてもらいながら歩く。

「いやー様々ですね。でもいつも厄介事を孔さんにばかり押し付けているみたいで申し訳ないですね。」

「ああみえて孔は人の世話を焼いたりするのが好きなんじゃ。あれも孔が望んだ役じゃろうな。」

「だったらいいんですけど…」

桜にはどちらかと言うとやはり司馬龍が孔に押し付けいるようにも感じられた。更に桜は司馬龍に振り回されている孔を想像し彼にストレスが溜まっていないか不安になる。司馬龍の方は気にもとめない様子で今日の晩飯を何にするか悩んでいるようだ。

「……!?」

桜が司馬龍と歩調を合わせ、彼女が躓かないように注意しながら歩いていると視界の端にこちらに向かって手を振っている人物がいるのが見えた。

(……ユイか?)

期待を込めて顔を上げてみたがそこに期待の人物は居なかった。しかしその人物を確認した桜は足を止めてしまった。

海岸線に沿って整備された石畳の道の隅にほぼ等間隔で置かれたベンチの一つの傍に立っていたその少女は長い銀髪をポニーテールでまとめ、深みのある蒼い瞳をしいているがその右目には刀傷がありそのまぶたは閉じられたままになっている。しかし桜の歩みを止めた真の理由はこれではなく彼女が桜と同じように袴のような服を着て刀を携えていたということである(しかも2本!)。紅白の2色でデザインされた袴は質素ながらも優美さがあり、彼女の武人としての風格を高めている。

(私以外にも同じ職業(クラス))の人居たんだ…)

桜が感心しているとその少女は桜が自分に気づいていないと感じたのか先程よりも大げさに手を振って見せる。それでも桜は止まったまま考え事をしているようなので

「桜様!天草桜様!早くこちらへ!」

呼びかけることにしたらしい。桜の思考はよく通る彼女の声で一旦停止する。桜は彼女の方へ向き直ると傍らに居た司馬龍を担ぎ上げ彼女の下へ走り出した。

「どっ……!どうして私の名前を!?もしかして私を知ってるの?」

桜は一息で言い切り顔をずいとその少女に近づけて質問する。目が今までにないほどの輝きを放って少女の顔を照らす。

「い…いえ…あの、私はとある方の依頼で貴方の護衛を頼まれていまして…」

突然の桜の奇行に戸惑いつつその少女は返答する。

「依頼…?あーーうん。一応依頼主を聞いてもいい?」

目の輝きは普段通りに鳴ったが距離は変わらず質問を続ける。

「それは…依頼主様からは伏せるように言われていますので…」

「ま、言われなくても打鍵等は着くけどね。御存知の通り私が桜。んで背中でぐでってるのが私の師匠の司馬龍。そっちは?」

「あいつ余計なことしやがって」と呟きながら姿勢を直し手を差し出して握手を求める。対して少女は

「私は宮本サオリといいます。この島で傭兵を━━」

「『傭兵』じゃと?」

司馬龍は「傭兵」という言葉に反応しいつもの…いや相手への敵意がある時の低い声で握手に応じようとしたサオリを制する。

 

桜にとって素晴らしい出会いになるはずであったが司馬龍の一言で不穏な空気が流れる。彼女にとって「傭兵」というのは何を意味しているのか。この時の桜はまだ何も知らなかった━━━




毎度投稿が遅くて面目ないです。どうかこれからもこのクソ遅投稿者をよしなに………
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