最強の武器の作り方   作:かのさん

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第十四話「中身のないワタシ」

桜は天を仰いだ。こんな現実がまかり通っていいはずがない。そう思いながら桜はただ桃の服を掴んで歯を食いしばることしか出来なかった。

 

 

「こんな事言いたくねぇが…本当のことなんだ。アンタと合流できたらユイから話してもらうつもりだったんだよ。」

桃は申し訳なさそうに桜に語りかける。桜はそれをやるせない顔で聞く。

「で…でもどうしてユイが教会にいるなんて分かったんだ。」

「それは私が言ったんです。」

「サオリが?」

「はい。」

サオリは淡々と答える。すでにこちらを敵と認識しているような視線が痛い。桜はサオリに全くもって敵意はないのに一方的に向けられるそれのせいで体が石のように感じられて動けなくなる。

「オレが外の風を浴びるために出てきたらアイツがおってだな、んであの話をしたら『教会に連れて行かれたのでしょう』って言いやがったんだ。」

「なる…ほど。」

「桃さん、もし貴方が教会に乗り込むと言うのなら私は今ここで貴方との雇用関係を切らせていただきます。」

サオリの冷たい声が夜の街に響く。桃は一切の躊躇もなく

「切ってもらって構わない。オレにとって重要なのは身の安全よりもユイの安否だ。」

まっすぐとサオリの方を見据えて答える。それを受けてサオリは溜め息をつくでもなく視線を外すこともなくこちらをしっかりと見つめて言う。

「わかりました。なら私はもう貴方たちと関わることはないでしょう。さようなら。」

とだけ言い残して踵を返して去っていく。こちらを振り返ることもなく段々と視界の外へ消えていく。

「ま、待って!」

桜は桃の服から手を放しサオリを追いかけ彼女の腕を掴む。

「なんですか。」

サオリは振り返ることなくこちらに背を向けたまま反応する。

「サリトリア人がサオリにとって憎い奴らなのは分かる。だけど…ユイは違うんだ。私は…私たちは仲間を取り返したいだけなんだ!それを分かってくれ…サオリ。」

桜は藁にもすがる思いでサオリに訴えかける。掴んでいるサオリの腕の体温は冷え切ったままで変わらない。まるで彫刻に話しかけているような気分になる。

「ごめんなさい桜さん。私は貴方と一緒にいることはもう出来ません。短い間ですが楽しかったですよ。」

「なんで…なんでだよ!荒事になるとは限らないだろ!平和的に解決する方法だってあるんじゃないのか!」

サオリの腕を掴む力強くなり服のシワが更に酷くなる。

「どれだけ言われても変わりません。私のするべきことはこの世に存在するサリトリア人を全て滅ぼすこと。あいつらはこの世存在していいはずがありません。この手で駆逐するまで私は死ねないのです。」

「サオリ……何がお前をそこまで…」

「もういいですか…このままだと貴方にも剣を振るうことになるかもしれません……」

「……ッ!」

とっさに桜はサオリの腕から手を放す。枷が外れたサオリは再び夜の街を歩き去って行った。その途中一度だけ振り返ったがその瞳には光がなく夜空よりも深い闇に包まれていた。

「なんでだ…どうしてなんだよ……」

桜は地面に手をつき嘆く。突如として破綻した関係。二度とサオリは自分のもとに戻ってこないという確信だけがあった。

「ちっ。オレはもう寝る。桜、アンタもさっさと寝るといい。明日に響くぞ。」

「分かってるよそんなことぐらい。」

「そうか…」

桃はそれだけ言い残して部屋に戻っていった。一人取り残された桜はもう一度空を仰ぐ。空は一片の雲もなく星がきらめいて一つ一つがまばゆく輝いて闇に堕ちた街を照らしている。今の桜にはそのどれもが自分を嘲笑う忌々しい光に見えた。この世界に希望などはない。そうとしか思えない。つくづく自分の運の悪さを呪う。

「戻るか……」

しばらくしてゆっくりと立ち上がりながら桜も部屋に戻る。

「もう寝てるか。」

部屋に入ると予想通り桃が寝ていた。先程同様に桃はこちらに背を向けたまま寝転がっている。桜も寝るために布団に潜る。

「やっと来たか。」

桃はこちらを向くことなく桜に話しかけてくる

「まだ寝てなかったのか。」

「当たり前だろ。アンタが戻ってくるまで寝れるかよ。」

「心配してたのか。」

「そういうことじゃ…いや、いいや。」

「なんだかんだお前もいいやつじゃん。」

「そうか?」

「ああ。ちゃんとユイのことも考えてくれてるし…初めてあった時のお前からじゃ考えられねぇな。」

「………もう失いたくないからな。」

桃は自分に言い聞かせるように言う。桜の目に映る桃の背中がいつもより小さく見える。

「大丈夫だぜ桃。今のお前には私がいるじゃねぇか。」

そう言うと桜は桃の背中に手を置く。そして慰めるようにさすってやる。

「や……やめろよ桜…惨めに思えるじゃねぇか…」

「はは…お前にも可愛い所あるんだな。」

「そりゃどういう意味だよ。」

「そのまんまでしょ。」

「はっ…そうかよ…」

しばらく桃の背中をさすっているとなんだか桜も物足りなくなってきた。でも自分から言うのは恥ずかしい。そう思ってためらっていた時。

「………ふぇ?」

「何だよ。アンタの方に向いて悪かったか?」

桃が自らこちらに向き直ってきた。

「何だよ。こっち向いて悪かったか。」

「そ…そういうわけじゃないけど」

桜は自分も撫でて欲しいなぁとは言えず、何となく視線を桃から逸らしてしまう。

「なんで視線逸らすんだよ。ちゃんとこっちを見ろ。」

「むぐっ!?」

桃は桜の頬を右手で掴み無理やりに視線を合わせてやる。

「なぁ…アンタわかってやってんのか?」

「ふぇ?ふぁにふぁ?(え?なにが?)」

「ちっ、だろうな。」

桃は舌打ちすると桜の頬を掴んでいるでの力が先程よりも増す。たまらず桜は桃の腕を軽く叩いて放すよう意思表示をする。

「なんか桃、今日変だよ……ん?」

桃は素直に掴む手を放して今度はその手を優しげに左の頬に置く。

「あーもう。アンタが悪いんだからな…」

「え……あ?」

桜は今桃が何を考えているのか全くわからないといった顔で彼女を見つめる。桃はその反応にしびれを切らしたのか一瞬のためらいの後に彼女の顎に手を置き顔を自分の方へぐいと引き寄せる。

「な……なに?………んぐっ…」

あろうことか桃は自身の唇を桜のそれと重ね合わせたのである。桜にとて初めての口づけであった。初めて感じる感覚。この瞬間桜の中で何かが解放されたような感触があった。

「ん…んーー」

息ができない。桃の口で塞がれているため空気を取り込むことが出来ない。桜は桃に止めてもらうために彼女の脇腹あたりを軽く叩く。しかし桃はやめるどころか更に激しく舌を絡ませてきた。いよいよ桜の心は呼吸を止められたことによる苦しみよりも快感が勝ってきた。目は蕩け始め頬が紅みを帯びている。もっと欲しいと直感的に思った矢先、桃は突如桜の口から離れてしまった。

「え……も……もう?」

「やっと分かったか……オレが言ってたのはこういうことだよ。」

桃は自身の口元を親指で撫でながら言う。どちらのものかわからない唾液が口の端を伝ったまま桜はぼんやりとした顔で桃を見つめる。

「ねぇ……もうおわりなの……?わたしまだほしいな……」

「は……?」

桃の内側で何かが切れた音がした。

「明日どうなっても知らないからな…」

「うん…いいよ。今はこれがいい…」

言われるや否や桃はがっつくように桜を襲う。さっきよりももっと強く、激しく、狂ったように。

━━━そうだ。今はこれでいいんだ。ただ快楽に溺れるだけ。この世界の喧騒と不幸と狂った現実のすべてを忘れ去って目の前にある心を満たしてくれるそれをずっと抱きしめていたい。誰が悪で誰が正義だなんてどうでもいい。今という一瞬にして中古になってしまう朧げなそれから手を離したくない。

 

ありがとう桜。オレ(わたし)アンタ(きみ)のことが好きなのかもしれない。

桃はそう心のなかでつぶやきながら快楽の海底へと沈んでいった。

 

 

━━━翌日━━━

「ぬ……どうした桜。首に包帯なんか巻いて。」

朝になり今後の方針を決めるために司馬龍の部屋に四人全員が揃う。司馬龍は桜の異変にいち早く気づき尋ねる。

「これはそのぅ。昨夜怪我しまして。いや!そんな大した怪我じゃないので気にしなくて大丈夫ですよ!?」

桜は悟られぬまいと大げさに手を振って見せる。その様子に司馬龍は納得したのかうんうんと頷いている。

「一応傷の様子を見てもよろしいですか?痕が残るといけませんし。」

「ご心配には及びませんにょ!?」

焦って噛んでしまう。それを見た司馬龍は思わず吹き出し孔にぽんと頭を叩かれる。

「すまんすまん。つい可愛げがあると思ってしまってな。」

「へへ…それならいいんです。」

桜が苦笑いをしながら耳にかかった髪をかきあげる。このやり取りをしている間桃は気まずそうに息を殺して壁のシミを数えていた。しかしこれ以上この話を続けるわけにはいかないので自ら話題を切り出していこうと思い立ち上がる。

「む?なんですかな?」

真っ先に孔が反応してくれた。この男にかかればきっと二人を制御するのも簡単だと桃は直感すると共にこの男が反応を示してくれたことに安堵する。

「一つ言わなければならないことがある。」

「それは何でしょうか?」

桃は一拍置いてから話し始める。

「サオリとの関係が切れた。」

「は?」

孔は信じられないといった顔で桃の方を見る。それと同時に孔は自身の首筋を伝う冷や汗を感じていた。

(やはり彼女の内側に踏み込みすぎたのでしょうか…だとしたら私はまた取り返しのつかない過ちを……)

「原因はオレだ。」

「え…貴方が?」

「実は私はもう一人合流しなければならない人がいたんだ。だがそいつは桃の話によるとよくわからん騎士どもに誘拐されたらしいんだ。」

孔の脳内整理が終わる前に桜が追加の説明を挟む。だんだんと増えていく情報量に孔の頭はパンクしそうになる。

「で、どこに連れてかれたのかをサオリに問い詰めたらやつが働いてる教会だってことが分かったんだ。」

「それで…決裂したと…」

「そうだ。オレたちにとっちゃ宗教とか民族がどうのこうのは関係ねぇ。仲間を取り返す。ただこれだけだ。な、桜。」

「もちろん。」

桃は桜に目配せをする。桜はこれに応じて大きく頷いて同意を示す。

「つまり…そなたらの仲間の一人が連れ去られたと思ったらそれがサオリの仲間で…取り返すにはサオリと対立するしかないということかの?」

「私もそう思ういます。龍殿。」

流石ベテランである。話の内容を理解したうえでその先にある答えに即座にたどり着いている。

「場所はわかりますか?」

「教会だ。この島で教会といったらあの場所しかない。

「『丘上聖教会』ですね。」

「ああ。」

孔と桃はすでにこの島に何があるのかほとんど把握している。そんな二人のお陰で話はトントン拍子に進む。

 

「こんなところですかね。」

「ああそうだな。助かったぜ孔さんよ。」

「こちらこそです桃殿。」

さらにそこから数十分ほど二人で話合いユイを取り戻すための作戦が決定した。やはり仕事人同士が話し合うとすぐに終わるというのはまさにこのことである。

「んあ…?終わった?」

「はい。今さっき終わりましたよ。」

司馬龍と桜は話の途中からウトウトし始めたので孔は二人をベッドに放り投げ寝かせていた。

「じゃ、行くとするかの。」

桜の隣で寝ていた司馬龍もムクリと起き上がり刀を持つ。ここでも彼女は警戒を怠らず刀を抱き枕代わりにして寝ていたのである。

「そうですね。思い立ったが吉日です。」

「よし、じゃあ出発だ。」

桃と孔がほぼ同時に椅子から立ち上がり部屋の外へ出ていく。残された二人もその後を追って部屋を後にする。

 

教会はその名前の通り島中央に位置する丘の上にそびえ立っている。長い石畳の街道を歩きながら孔は今回の作戦を説明した。孔と司馬龍、桜と桃の二手に分かれて教会の側面から突入する。教会内部にはユイを誘拐した騎士たちがいると考えられるためその制圧を孔と司馬龍が担当しユイの救出を桜と桃が担当する。

「いいか、桜。失敗は許されないぞ。」

「分かってるよ桃。」

孔たちとは反対側のドアの傍で二人は話している。石造りの教会には人の数倍の高さはある巨大な木製の扉がある。今は閉じられており、その奥からはかすかに人の気配がする。今日は集会の日ではなさそうだ。生贄を捧げる儀式をするのだから無駄な人を呼ばないというのも納得できる。

「それはオレも同じだ。必ずユイを助けるぞ。」

「ああ…絶対死なせない。」

桜は力強く決意を持った声で言う。しかしその顔には一縷の不安のような陰りがあった。

「どうした桜。不安なのか?」

「いや……サオリのことが気になって…」

「事が済んだらもう一度話し合えばいい。それからでも遅くない。」

「でももしここにいたらどうするの?」

「それはない。安心しろ。」

「どうしてそう思う?」

「笑うなよ……」

桃はもったいぶるように間を空けてから言う。

「勘だ。」

「はっ、そいつはいいや。」

桜はそう言うと思い切り教会のドアを蹴破る。それとほぼ同じタイミングで反対側のドアからも大きな音がする。こちらよりも数段音とともに木がバラバラと崩れ落ちている。「また大げさに……」という孔の嘆きが聞こえてきそうだ。教会の中には数人の騎士がいた。中央を走る赤いカーペットの先は他の場所よりも高くなっておりその中央には十字架が建っておりそこにユイは磔にされていた。腕と足それに胴体に紐が巻き付けられておりそれをもって十字架に固定されていた。そのしたには修道服の人物がいる。

「ユイ!」

桜の呼びかけに応じてかすかにユイの頭が動く。

「桜……さん?」

声は全く桜に届いてないがそれでもユイに希望を見せるには十分であった。

「ちっ、やっぱり来やがったか。」

修道服の人物はそう呟くと騎士の一人を指さして命令をする。するとその騎士は剣を高く掲げ何やら呪文を唱え始めた。怪しいと思った桜は考えるよりも先に足が動いていた。桃がそれに呼応して動き出す。

「ここから先は通さんと言っておこうか。」

一人の騎士が桜の前に立ちふさがる。桃はその脇を抜けていくが彼女もまた別の騎士に阻まれる。

「押し通る!」

桜は刀を抜きそのまま騎士に切り上げを食らわせる。しかしそれはバックステップでいとも簡単に避けられる。

「ぬんっ!」

騎士は下がった反動を活かして桜に突きを放つ。当たれば致命傷は免れないが桜はその剣先スレスレをあえて通りがら空きになっている胴体を斬り抜く。

「ふん…造作もない。」

桜の斬撃は騎士の体を横一直線に斬る。何をされたのかわからないまま騎士の体は2つに分かれてしまった。そのまま呪文を唱えている騎士に斬りかかる。

「く…うっ…!」

斬ろうとしたがそれは魔力障壁によて阻まれる。その瞬間騎士は詠唱を完了したのか、高く揚げた剣を振り下ろす。

「な…なんだ?」

桜は自分の頭上に巨大な魔力を感じる。ふと見上げるとそこにはホログラムのような光でできた槍があった。その槍は騎士の動きに合わせて直進を開始する。目標は当然十字架に縛り付けられているユイだ。それに気づいた孔が遠距離魔法を放つが全く効果がない。自身も修道服の人物━━つまりレーテとの戦闘中であるため威力が抑え気味になってしまったのもあるが手応えを感じられなかった。むしろすり抜けていったという表現のほうが正しい。

「くそっ!止まれよ!」

桜の願いは聞き入れてもらえず槍はついにユイの胸部に突き刺さる。その瞬間全員の手が止まり、ユイの小さな悲鳴だけが桜の耳に届いた。

「お前ぇぇぇぇぇっ!よくもユイをッッ!」

「なにっ!がぁぁぁぁぁぁ!」

怒りに任せて振り下ろした刀は見事に主犯の騎士を真っ二つに斬った。桃の方を見るとそちらも片付いたらしい。

「これで騎士どもは全て処理したな…」

桜が斬り伏せた二人に加え桃が処理した数を含め六人いたようだ。残すは司馬龍と孔が戦っている修道服の人物だけ。しかしその人物は騎士が全員殺されたと知るや否やいつかのように黒い霧に包まれて消えてしまった。

「ちっ、逃してしまったの。」

「龍殿のことを知っていますし、今回の事にも絡んできている。あの女の正体は何なのでしょうか。」

「妾に聞いても困るわ。あんなヤツ知らぬわ。」

「そう…ですよね…」

孔が思考を巡らせているとふと桜の声がするのに気づく。

「孔さん!早くこっちに!」

いつの間にかユイを十字架から降ろした桜と桃が彼を呼んでいる。彼は急いで彼女らのもとに向かう。

「孔さん!これどうなってるんですか!?傷口は無いのにユイが起きなくて!」

「大丈夫です桜殿。先程の術は彼女の体力を奪うだけのようです。体調に問題はありませんし、体内の魔力循環も正常です。」

「なら良かった。」

「しばらく安静にしていれば起きるので安心して下さい。」

桜と桃に安堵の表情が浮かぶ。むかつく騎士たちを成敗し、ユイの救出に成功。一連の出来事は万事解決した。そう思われた時。

「誰かが……います。」

和み始めていた空気が一変する。教会の正面入口。開け放たれた扉の下に誰かがいた。

「サオリ…?なんで今ここに……?」

今最も来てほしくなかった人物が案の定そこにはいた。

「ここはオレが行く。」

そう言うと桃は一人で駆け出していく。

「大丈夫かの。一人で任せて。」

「龍殿は大人しくしていて下さい。万が一の場合は桜殿がすぐに助けに入って下さい。私はユイ殿の回復に努めます。それが終わり次第すぐに私も援護に回ります。」

「わかりました。」

一瞬にして場の空気はひりつき始めた。サオリがここに来たということは相当の覚悟があってのことであると誰もが承知しているからだ。

「はぁぁぁぁ!」

桃は魔力剣を思い切りサオリに叩き込む。対するサオリも刀を抜き桃の斬撃を受ける。

「なんで今さら来るんだよ!」

「貴方を殺すなら体力を消耗してからのほうがいいと思いまして。」

今度はサオリから攻撃が来る。幸い軌道はわかりやすいので桃はこれを受け反撃の機会を伺う。がしかし

「痛っ…は?…なんで?」

桃の肩口が切れている確かに防いだはずなのに。意味がわからず困惑している桃にサオリは容赦なく中段蹴りを見舞う。

「がっ…」

肺から空気が一気に押し出されまともに声が出せないまま後方へ吹き飛ばされ、石柱に叩きつけられる。

「桃!」

桜が叫ぶ。しかし桃は今の衝撃で気を失ってしまいこれに答えられない。

「お前…やったな…やりやがったな!」

怒りに包まれた桜は刀を抜きサオリに斬りかかる。力任せの斬撃をサオリは冷静に受け止め、すぐに反撃に出る。桜も桃と同様にサオリの攻撃を剣で受け止める。そしてやはり桜も謎の切り傷を負う。

「ちっ…どういうことだよ…ちゃんと防いでいるのに…」

「私の剣に防御は意味をなしません。」

サオリは冷酷に言い放つ。

「私は虚を斬ることができる。つまり貴方の剣と体に生まれるその隙間その虚を私は斬っているのです。」

「なっ…!それは反則だろ!」

「反則…?戦いに反則など存在しません。勝った者、勝者だけが正しいの

です。」

「極論言ってんじゃねぇよ!」

桜の切り上げ。これも華麗に避けられ低姿勢からの突きが来る。桜は防いでではいけないと分かってはいるがつい防いでしまう。

「がはっ…」

刺突の衝撃は桜の刀を通り抜け、腹部に直撃する。攻撃の速度や威力はそこまで高くないはずなのに防御を貫通するせいで意識外から攻撃を受ける形になり下手な攻撃よりも数倍痛く感じられる。

「桜さん。その程度ですか?たったこれだけの小細工に負けるのですか?」

「く…ごほっ…馬鹿にするなよ…」

サオリの言う通りだ。なにか対抗策があるかもしれないのに馬鹿正直に突き合っている。愚の骨頂だ。

(はっ…!わかったかもしれない…サオリの能力の突破方法!)

何かを閃いた桜はサオリの次の攻撃を剣で受け流すようにして防ぐ。

(やっぱり!今回は虚を斬られなかった!傷もついていない!)

桜は勝利の糸口が開けたように思われた。能力を穴を突くことができれば勝機はあるはずだ。

「何かに気づいたようですね。ですがもう遅いです。」

「何をっっ!」

桜はあえて攻撃の軌道が読みやすいように斬撃を放つ。想定通りサオリは桜の刀を弾き、反撃してくる。あえて弱い攻撃にしたためサオリの反撃に対する反応も素早い。

「かかったな!サオリ!ここまで想定済みなんだよ!」

桜の目論みではこの攻撃を受け流し、その勢いで一気に決着をつけるはずだった。

「桜さんそれではあと一歩届きませんよ?」

「は…え…?」

「脇差…だ。」

完全に忘れていた。サオリの刀は二本あったことを。サオリは右腕で斬撃を放ち、左腕で脇差を抜き、桜の腹部を刺していた。

「く…がはっ……。」

刺された部位から血が溢れ落ち、桜は血を吐く。しかし刀を持つ手は緩めない。まだ諦めてはならないのだ。

「まだ…諦めないのですね…」

「当たり前だろ。こうなったら実力行使で服従させてやるよ。」

「その威勢ももうおしまいです。」

「か…は……」

サオリは脇差を桜の腹から抜き、傷口めがけて蹴りを喰らわせる。

「ごふっ……」

モロに蹴りをくらい、吹き飛ばされ仰向けになってしまう。

「くそ…体勢を立て直さないとな…」

刀を持っていない左腕で上半身を起こす。もう一度前を見て目標を確認する。しかしそこにはサオリはいなかった。

「は…ど…どこいきやがった…」

素早く辺りを見渡す。どこにもいない。おかしい。

「桜殿!後ろ!」

「え……?」

孔が叫んだ時にはもう遅かった。次の瞬間桜は自身の胸に鋭い痛みを感じる。恐る恐る見てみると桜の胸の谷間から刃先が飛び出ており、先端からは血が滴っていた。

「あ…あれ…うそ……」

口の端を血が伝う。

「私は中身のない者に負けはしない。」

「中身が…ない…?どういうこと…ごぼっ…げほっげぼっ…」

刺された所からじんわりと血が滲んできている。

 

 

私…本当に死んでしまうの………

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