最強の武器の作り方   作:かのさん

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第十六話「水色の文無し少女」

「……ん?」

司馬龍が目覚めるとそこはある部屋のベッドに寝かされていた。傍には孔が普段通りの仏頂面で椅子に座りながら本を読んでいる。司馬龍が起き体を起こしたのに気づき

「ああ、起きられましたか。お体は大丈夫ですか?」

「うむ……全快とまではいかぬが楽にはなったの。」

「なら良かったです。丸2日も寝ていたんですから。」

「ふ、2日も!?」

たしかにいつもよりぐっすり寝たと思っていたが想像の倍の時間寝ていたことを知らされ驚きを隠せない。どうやら戦闘後気を失った司馬龍を宿へ連れていき、乗船する際も孔が担いできたようだ。

「えぇ。"力”を使った上で連戦ですから。ここまでガタが来るのも無理はありません。」

孔は司馬龍の体の状態を冷静に分析する。彼女はいまだ朦朧とした意識のままやる気のない返事をする。

「ここは…どこじゃ…微妙に揺れてるから船かの…」

「その通りです。今はトロント島を出発し別の島に向かっています。」

「そうか…あ、桜の刀はどうした?ちゃんと持ってきておるな?」

「もちろんです。龍殿のものの横に立てかけてあります。」

「それなら安心じゃ。して、どこに向かっておるのじゃ?」

「ヘイズル島です。」

「え…なんて?」

司馬龍にとって初めて聞く地名だったため頭の上にクエスチョンマークが出現する。

「私も初の上陸なのですが、どうやら我々のいた島とは比べ物にならないほど発展しているようです。」

「そんな所に行く理由はあるのかの?妾は早くデロアに戻りたいのじゃが…」

疲れた体を癒すために帰郷を申し出るが既に船に乗ってしまっているため今更どうすることも出来ないと悟り観念した表情になる。

「私の興味です。一度でいいのでその発展度合いを見てみたいと思いまして。」

「うぬ……まぁ、そなたが行きたいと言うなら反対はせぬ。」

いつも孔を振り回している自分を鑑みるとここで孔の希望に苦言を呈するのは無礼にもほどがあると司馬龍は思ったのだ。

「桃やユイはどうした。彼女らは無事に島を出れたのか?」

「それについてはご安心下さい。当日のうちに船を手配いたしました。今頃戻っているでしょう。」

「それなら良かったわい。桜に続いてあの二人もやられたと考えると……な?」

それ以上は言いたくないと目で訴える。孔もそれに応じて目を伏せる。

「今はゆっくりして下さい。上陸後も油断はできません。」

「そうじゃな。そうさせてもうらうかの。」

そう言うと司馬龍は布団を被り直し眠りにつく。喀血するほど体を酷使したのだから休みすぎることはない。

 

 

~しばらくして~

「龍殿、着きましたよ。」

「む……そうか。」

司馬龍はゆっくりと体を起こす。それに合わせて孔が刀を差し出す━━桜の刀も共に。

「ああ、すまんな。まだ意識がぼぅとしていてな。」

「ゆっくりで構いません。貴方の体の方が心配ですから。」

孔が優しく微笑み手を差し出す。司馬龍はその手を取り立ち上がる。2日以上も寝た体は上手く動かずおぼつかない足取りで孔に連れられながら部屋を出る。脇に刀を二振り抱えている。こちらには神経を尖らせ落とさないように細心の注意を払う。

「もう大丈夫じゃ、孔。一人で歩ける。」

船内通路の光で目が完全に冴えた司馬龍は孔にそう言うと大きなあくびをしながら歩く。

「この扉を開ければヘイズル島とご対面です。なんだかワクワクしてきましたね。」

「フッ、ワクワクか…そなたがそんな事を言うのはいつぶりかの。」

「すみません。いい言葉が思いつかなくて。」

「それでいいのじゃ。そなたの本心そのままも言葉じゃからな。」

他愛ない会話をしながら孔は扉を開ける。そこに広がる景色に二人は思わず息を呑む。

そこは彼らが住んでいた場所とは全く様相が異なっていた。まず目に入るのは大量のビル群。木造や石造が基本の彼らの常識を覆すには十分すぎるほどの高さ。街の至る所に電気が灯り一日中昼間のようである。さらにビル群の隙間を縫うように電車が走っている。それら全てが二人にとって未知であり、興味の対象となった。

「ここまでとは……まるで別世界に来たようですね。」

「そうじゃな。妾は少し苦手かもしれぬ。」

船着き場もトロント島のように木ではなくコンクリート製で土台がしっかりとしている。ミシミシという嫌な音は一切せず靴と擦れる音がするのみだ。二人は船着き場を後にし街へ入ってく。一切顔ぶれの変わらないビルの谷間を歩く。景色が一辺倒であるので宿を探すのも一苦労だ。

「まずは宿を探さねばの。」

「現地の方に聞いてみましょうか。」

「そうじゃな。すまぬが孔、この通りから離れてもよいか?どうも人が多すぎてかなわんわ。」

「わかりました。ではここを左に…」

司馬龍の要望通り孔は大通りから外れる細道へ向かう。一気に人気は減り司馬龍も先程よりは顔色が良さそうに見える。

「ふぅ。やはり人が多いのにはなれぬものじゃ。」

「我々は人との関わりを極力避けて行きてきましたから。無理はないです。」

「ここらで会った人に聞いてみるとするかの。」

「そうですね。人通りは少なそうですが…まぁ大丈夫でしょう。」

二人が呑気に路地を奥へ進んでいると突如奥から怒号とともに人が走ってくる足音が聞こえる。

「野郎!待ちやがれ!」

「逃がすな!」

「下半身なら撃ってもかまわねぇ!」

など物騒である。その声に合わせて二人も臨戦態勢を取る。その直後奥の二股に分かれた道の右方向から少女が駆け出してくる。

「女の子……?」

司馬龍があっけにとられている間に少女は二人の傍を水色のショートヘアをなびかせながらすり抜け大通りへ抜けていく。

「学生のようにも見えましたが、今のは一体…?

白を基調としたセーラー服の少女の姿を孔は反芻する。その思考を遮るように今度は黒いスーツに身を包んだ男性が3人同じように右の角から現れる。そして二人を認識すると手に持っていた拳銃を彼らに向ける。

「おいお前ら!あの女がどこへ行ったか知ってるか!?」

孔は大通りを左に曲がって出ていったのを思い出し咄嗟に

「右にいかれましたね。」

と嘘をつく。男の内一人が後ろの二人と相槌を打ち走り出す。そのまま左へ行こうとした彼らを司馬龍が呼び止める。

「すまんが、一つ訪ねたいことがあってだな。」

「黙れ!今急いでいるところなんだ。」

「な、そこをなんとか…な?」

黙れなどと言われて少々ムカついたがなるべく平然を装い下手に出る。しかし、それが返って相手の怒りを買ったようで男は司馬龍に拳銃を向けると即座に発砲する。音速を超える攻撃に司馬龍が対応できるはずもなく弾丸は彼女に命中した。

「………え?」

かのように思われた。しかしその弾はその手前で弾かれた。防いだのは司馬龍でも孔でもない。桜の刀だった。桜の刀が誰の力を借りるでもなく浮遊している。

「何故…桜殿の刀が…?まさかひとりでに動いたとでも…?」

「そ…そのようじゃな。」

二人は驚きを隠せず目が点になっている。男たちの方はと言うと驚きというより恐怖で顔がひきつっている。

「ま…魔術使いだ!何をしてくるかわからんぞ!」

そう言うと司馬龍を撃った男が我先にと逃げていく。残りの二人もそれに続いて逃げていく。危険が去った後、桜の刀は浮力を失いコンクリートの床に金属音を鳴らす。

「これが桜の言っていた事かの…」

「そうかも知れません。原理は全くの不明ですが。」

「命拾いはしたの。それにあの武器は何じゃ?初めてじゃ攻撃の軌道が見えぬのは。」

「どこかで聞きましたがアレは銃というもののようです。音よりも早く物体を射出して攻撃するらしいです。その威力は剣の突きとは比べ物にならないそうです。

「ほぉ~~」

司馬龍が感心していると孔がハッとしたような顔になり

「宿を聞くのを忘れていましたね。」

「そうじゃな。さっきの水色の髪の子に聞いてるかの。」

「面倒なことに頭を入れることになりそうですけども大丈夫ですか。」

「構わぬ。見ず知らずの者でも見殺しには出来ぬからな。」

「分かりました。では行きましょうか。」

そういうと二人は路地から大通りへ左に出る。再び人混みの中に紛れることになり司馬龍は少々顔を顰める。しばらく歩いているととある店の前に人だかりができていた。

「孔、気になるぞ。」

「はいはい…分かりました。」

子どもと変わらない好奇心を持つ司馬龍はその人だかりを押しのけていく。その先には店員らしき人物と先程の少女が何か言い合っていた。

「何じゃ?なんかあったのか?」

司馬龍は目的の少女を見つけたので躊躇なく話しかける。しかしそれに応答したのは少女ではなく店員だ

「ああん?誰だてめぇ。」

「誰だとは失礼じゃの。まぁいいわ。この子が何かしたのか?」

「はぁ。コイツはな、ウチの商品を万引きしたんだわ。お前部外者だろ?勝手に頭突っ込んでくんなよ。」

「この娘が万引き?するわけなかろう。見てみろこのきれいな目を!」

店員の強めの物言いに多少ムッとしながら司馬龍は反論する

「い…いや、あの私ホントは…」

「いいから黙って妾に話を合わせるんじゃ。」

司馬龍は店員に聞こえない程度にその少女に耳打ちする。

「そんなこと言ってもな…じゃあ持ってるモン全部出してみろ。ウチの商品が一つでも出てきたら覚悟しとけよ。そこのお前もな。」

「え!?妾もか!?」

「当たり前だろ。この女をかばおうってんだろ?ならとうぜんじゃねぇか。」

「た…たしかにそうじゃな。」

「巻き込んでごめんなさい…っていうかそちらから巻き込まれに来てましたね。」

少女ははぁと溜め息を吐きながら持ち物を差し出す。ショルダーバッグからは財布や化粧道具などの私物がわらわらと出てくる。しかしその中に店員の言う商品は出てこなかった。代わりに銃が出てきたことに司馬龍は驚いたが。スカートのポケットや胸ポケットからも同じく何も出てこないので店員は不思議そうな顔しながら

「は…なんで?たしかにこの目で見たはずなのに。」

「だ…だから言ったじゃろう!この娘は何も盗ってはおらぬと!」

「ちっ、わーったよ。さっさといけ。目障りだ。」

そう言うと店員は店の奥へ消えていき野次馬たちも興味を失い散っていった。

「あ…ありがとうございます!」

人々が去った後少女は頭を深く下げて司馬龍に感謝を述べる。彼女は気恥ずかしそうに頭をかきながら

「まぁ?妾にかかればこの程度余裕じゃな。」

と調子に乗って見せる。それを見かねた孔が彼女の頭をコツンと叩く。

「ぐぬっ!孔、何するんじゃ!」

「私のおかげってことは勿論分かっていますよね?」

なんだか顔が怖い。いつもの数倍圧がある。その恐怖を直に感じた司馬龍は口元を歪ませながら

「も、もちろん分かっておるぞ!よくやった孔!」

と孔の肩を叩く。

「それならいいんです。すみませんねお嬢さん。うちの主が余計なことをしてしまったようで。こちら、お返しします。」

「ふぇ!?い…いや、ワタシハヌスンデイナイデスヨーーーーー」

孔から差し出されたものを見て少女は視線を明後日の方角を見ながらしらばっくれる。当然そのようなものが孔に通用するはずもなく、問答無用で彼女のショルダーバッグに突っ込まれる。

「うぅぅ。駄目でしたか。」

「それにしてもたかがパン一個程度盗まなくてもよいではないですか。小腹満たしに人生に傷をつけるつもりですか。」

孔が言葉優しくなじる。

「そ…それが今…お金なくて…」

「さっき財布あったじゃろ!それで払えばいいものを。」

「見ます?中身…?」

そう言うと少女は財布を開いて二人に見せる。そこに広がっていたのは底なしの闇。光すら通さない暗闇。無を超越したなにかがそこに見える。司馬龍と孔は顔を合わせて

「「何もない」」

と声に出して再確認する。

「声にしないで下さい~。虚しさ倍増しちゃうじゃないですかぁ~」

少女は涙目になりながら財布をしまう。

「あ、改めて助けていただきありがとうございます。私はアオイといいます。諸事情で名字はないのですがご勘弁下さい…」

アオイは謝辞と共に名乗る。

「アオイか…いい名前じゃな。妾は司馬龍、こっちのカタブツが孔じゃ。」

「カタブツってなんですか。カタブツって。」

「事実じゃろ。」

「………」

孔は何も言わない。こういうときは言葉にはしないが怒っているときである。

「龍さんに孔さんですね。」

「うむ、そうじゃ。ところでアオイ。聞きたいことがあるんじゃが。」

「なんでしょうか。」

「妾たちは今日ここに来たばっかりでの。寝る場所がないんじゃ。どこかいい宿知ってるかの?」

「宿…ですか。予算はいくらぐらいで?」

「金ならあるんじゃが…」

そう言うと司馬龍は懐からいくらかの金貨を出すがそれを見たアオイは目を丸くする。

「なんじゃ?変かの?」

「もしかしてココのお金持ってないんですか?」

「え?妾のところと勝手が違うのか?おい、孔どういうことじゃ。」

「そ、それは初耳デスネー」

今度は孔がカタコトになる番だった。司馬龍からの視線が痛い。

「ないなら仕方ありませんね。私の家に泊まっていきますか?」

「ホントか!?それはありがたいのう。な!孔。」

子どものように喜ぶ司馬龍とは対照的にあまりうれしくなさそうな孔。

「どうしたんですか。孔さん。もしかして嫌でしたか?」

「いえ…そういうわけでは。」

「なら良いじゃろう?ほらさっさと行くぞ!」

「あ……はい!こちらです。」

軽快な足取りでアオイの家へ向かう司馬龍。孔はその数歩後方を周りを警戒するように慎重に追う。

 

━━━何も起こらなければよいのですが…

 

 

 

孔の期待とは裏腹に新たな波乱が二人を待ち受けていることは未だ知る由はない……

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