最強の武器の作り方   作:かのさん

17 / 17
幕間「私が私でなくなった日より:壱」

これは私の“幸せ”が壊され運命が変わったあの日から始まる思い出話。忘れることのないあの人との出会いの物語。

 

 

 

おしまい。何もかもが終わりを告げた。私のありふれた日常は破壊され、私の片目も見えない。私はただ泣き叫んだ。この世界の不条理を呪うように。

「ちっ、こいつうるせぇな。」

私の片目を視認不可能なものにした犯人が苛立ちながらそう呟いている。横にはその仲間が二人面倒くそうに私を見ている。

「あ…あなたたちなんかすぐに騎士団の方が来てくれてやっつけてくれるわ。」

「おいおい。こいつなんか言ってるぜ。」

「ガキの戯言だ。気にするな。」

「しかしどうする?このまま放置してたら面倒なことになりそうだぜ。」

「あぁそうだな。一階にあったモンはあらかた奪ったしそろそろでるか?」

なにやら3人はコソコソと話し合っているようです。私はたまらず

「貴方たちなにヒソヒソ話合ってるのよ。用が済んだならさっさと消えなさい。それとも私におしおきされたいの。」

私は強がって精一杯の脅しをします。本当は痛みでまともに体を動かすことすらできっこないのに。それは当然彼らもわかっているようで

「お前みたいな小娘の脅しなんかこわかねぇよ。」

と言うと一人が剣を私に向けてきました。

「ひっ……」

私は恐怖で本能的に防御姿勢を取りました。彼らにはそれが滑稽に見えたのか声を上げて笑い出しました。

「ははは!怖がってらぁ!」

「おいおい。あんまりいじめてやるなよ。恨み買ったらどうすんだよ。」

「どうもしねぇよ。こんなガキに何が出来るってんだよ。」

流石の私も我慢の限界に達しました。私は最後の力を振り絞り傍にあった剣を手に持つと一人に襲い掛かりました。

「やぁぁぁぁぁ!」

しかし私の渾身の突きは見事に外れました。

「あ?なんだ今の。」

「さぁ?」

どうやら右目がほとんど見えなかったせいで間合いを読み間違い、虚空を攻撃していたようです。彼らはまた、今回は小馬鹿にするようにけらけらと笑います。それに苛立った私はもう一度よく狙って剣を振ります。今度ばかりは当たったつもりでしたがすんなりと躱されてしまいました。

「あれ……なんで……っ!?」

そしてお返しと言わんばかりにその男は手に持っていた剣を私のお腹に突き刺しました。今まで味わったことのない痛みが体中を駆け巡り、吐き気すら覚えます。

「あ、おい!何やってんだお前!」

「だって攻撃されたんだもん。仕方ねぇだろ。」

「だからって刺すこたぁなかったろうに……はぁ、いいや。勝手に殺しておけ。」

「うい。」

私は彼らがこんなにも軽々しく"殺す”なんて単語を使うことに憎悪を覚えるのと同時に自分は今から命を奪われるんだという恐怖を突き付けられました。

「げほっ……こ…殺すの……」

「当り前だろ。ボスの命令なんだからな。」

「そんな…簡単に……人の命は奪っちゃ…だめ。」

「うるせぇ。これが仕事なんだわ。」

「がっ……あっ……」

その男は私のお腹から剣を抜くと中段蹴りを放ちます。私は守る隙もなく壁に吹き飛ばされました。視界が先ほどよりも更に滲んでその上狭くなってきました。血があふれ出てきているお腹に手を当てると手のひらは瞬く間に朱に染まり刻一刻と迫る死をより現実的なものとして私に教えてくれます。

「これが……死…?」

「そうだぜ。はっ、よかったな最後に一つ学べたじゃねぇか。じゃあなガキ。来世は幸せになれるといいな。」

 

「そこの貴様ら!全員動くな!」

男が剣を持ち上げまさに私にとどめを刺そうとした時でした。私の知らない誰かの声が聞こえてきました。首を動かすことはおろか視線を横に移動することさえもできなくなっていたので視認はできませんでしたが確信はありました。私が待ち望んでいた騎士団の方がやってきてくれました。

「くそっ!騎士団の奴らが来やがった!おいお前らずらかるぞ!」

「あ!待つっす!」

「逃がすかっ!」

ボスらしき人物の一声で手下の二人は逃げ出した模様です。床と靴がぶつかる音と衝撃が何重にもなって私の耳を刺激します。それに合わせて騎士様の甲冑のこすれる金属音が遅れてやってきます。そしてすぐそのあと

「あ、あいつら窓から飛び降りやがったっす。」

「そんなもの見ればわかる。くそっ、あいつら人ごみに紛れやがった。」

「追うのは無理っぽいっすね。」

どうやら取り逃がしてしまったようです。騎士様でもあのような"手慣れた”人たちを追うのは難しいみたいです。

「はぁ…そのようだな。」

「一応本部には連絡しなきゃっすよね。」

「当り前だ。君はすぐに戻って報告しろ。私はあそこにいる少女を見る。」

私の事かなと思ったときには私の意識はほとんどありませんでした。黒いカーテンが下りてくる視界の中最後に見たのは凛とした顔つきで私と同じ銀髪の女性の騎士様でした。

 

 

 

「……ろ…きろ……起きろ…」

「はっ!」

誰かが私を呼んだ気がしたので目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋のベッドに寝かされていました。

「こ、ここは……?」

ベッドのすぐ隣には一人の女性が椅子に腰かけてしました。私はすぐに視界に映っていた例の騎士様だと気づきました。先程とは異なり甲冑を着ておらず、部屋着のようです。

「ここは私の家だ。君は何とか一命を取り留め私に保護されたというわけだ。」

「なる…ほど?」

騎士様は淡々と話します。抑揚のない話し方をしていますがどこか温かみを感じました。

「あの……私の母上と父上は…?」

あんな状態だった私を助けてくださった方なのだからきっと両親も…なんて浅はかな考えで聞いてみますが騎士様は顔を落とし

「今は思い出さない方がいい。君のためだ。」

とだけ言うと椅子から立ち上がり部屋を出て行ってしまいました。言わなくても分かります。私の両親は助からなかったのでしょう。私のような子どもでもそれくらいは察しがつきます。

「あれ……私…泣いて……?」

どうやらいつの間にか泣き出してしまったようです。涙で布団が濡れてしまっています。私は腕で涙を拭いますが意味はなくとめどなく流れてきます。遅れて私の両親との思い出が頭の中にあふれ出し、さらに涙が出てきました。私は嗚咽を漏らしベッドの上でだらしなく泣き散らしました。なぜ両親は死んでしまって私だけが生き残ってしまったのか、それを考えると罪悪感で心が押しつぶされそうになります。

「お……おい…大丈夫か?」

しばらく泣いていると騎士様が戻ってきてベッドで滝のように泣く私を発見し駆け寄ってきました。その後ろにはもう一人こちらは緑のセミロングの方で甲冑を着たままです。銀の騎士様は私を抱きしめ頭を撫でてくれました。

「あぁ……つらかったろうに。もう大丈夫だ。私がいるからな。」

「うっ、うう……騎士様ぁ……」

そのあとも騎士様は私が落ち着くまでずっと抱きしめてくれました。最初の印象は少し怖い人なのかと思いましたが実情はその逆。とってもとってもいい人でした。

 

 

 

それからまたしばらくたった後に私は騎士様に連れられリビングに行き食事をすることになりました。机の上に並べられた料理は(料理と言っていいものか)パンだけでした。様々な種類のそれが入ったカゴを見た私が混乱していると

「どうした?食べないのか?」

と銀の騎士様に言われてしまいました。

「そりゃあ夕食がパンのみは混乱するっすよ隊長。」

「そういうものなのか…?」

緑の騎士様に突っ込まれぽかんとしている銀の騎士様を横目に

「あっ!たっ、食べます!」

と私は焦るように言いながらカゴに手を突っ込み適当に一つとると食べ始めました。

「あ……おいしい。」

「な、言ったろう副隊長。このパンはおいしいと。」

「アタシが言いたいのはそういうことじゃないっすよ…」

副隊長…そう呼ばれた緑の騎士様がやれやれといった仕草をしながらパンを一つ手に取りほおばります。私はそれをぼんやりと眺めていると

「君、名前は何というんだ?」

銀の騎士様に話しかけられました。

「あえっ!?わ、私は宮本サオリって言います。」

「サオリか。いい名前だな。私はモルガンという。教会騎士団で隊長をしている。そしてこちらが副隊長のモードレスだ。よろしく。」

「よろしくっす。」

「よ、よろしくお願いします!」

ぎこちない挨拶をする私を二人は微笑ましく見ています。私もそれにこたえるように微笑むとモルガンさんは頭を撫でてくれました。

「えへへ…ありがとうございます。」

「ふふ。いいんだ。私は子供が好きだからな。」

「ほんと隊長ってロリコンですよね。」

「ロリコンではない。」

モードレスさんのツッコミに最速でモルガンさんが返します。私はその様子を見て思わず笑ってしまいました。私はその時失ったものを一つ取り戻せたような感覚になりました。

 

───それすらも私は失ってしまうのに

 

 

あの日から数週間が経ち私が家事など身の回りの雑務をこなすようになった頃モルガンさんは朝食を食べながら私に突然こんな話を始めました。

「騎士養成学校に入らないか?」

「それは…どういう?」

「君は以前父親から剣を習っていたのだろう?」

「そうですね二年ほど」

「ならば尚更だ。」

話し合いはそれだけでした。その日仕事から帰ってきたモルガンさんは入学に必要な書類を持って帰ってきました。夕食の片づけをする私の後ろで机に向かって書類に必要事項を記入しています。

「君は編入という形で入る。つまりは学期の途中から入るってことだな。」

「そういう入学の仕方もあるんですね。でも次の学期が始まってからでも遅くはなかったんじゃないですか?」

「いいや、今がいい。この一瞬にも人は朽ちていく。私にはそこまで待つ余裕はないのだ。」

「えっ……」

モルガンさんのその言葉は私にとって衝撃でした。私は長く生きられない。そういう意味にとれたからです。驚きのあまり手に持っていた皿を落としてしまいました。幸い割れなかったので安心しました。

「大丈夫だあと一つ二つの話ではないからな。」

「じゃあいつなんですか。」

「うーんそうだな。」

モルガンさんは少し考えてから。

「30そこそこって感じだな。」

と答えました。それに対し私は

「今はいくつなんですか。」

と咄嗟に聞いてしまいました。しかしモルガンさんは嫌な顔一つせず

「今は23だな。あ、そうだサオリ。君はいくつだ。」

「10です……」

若干の申し訳なさを感じながら私も歳を答えます。モルガンさんはうんうんとうなずきながら紙に書いています。その後いくつか私に関することを聞かれ私はそれに答えました。そうして入学に必要な書類の記入が終わるとその日は終わりました。

次の日朝ご飯を食べ終わるとモルガンさんは

「よし、養成学校に入ると決まったなら今日から訓練だな。」

と言い出しました。

「訓練?」

「ああ。騎士になるからには相当な訓練がいる。ただ学校に通うだけじゃだめだ。」

「確かにそうですね。ですが具体的には何を?」

「まずは走り込み。体力が何より大事だからな。」

そういうとモルガンさんは私の腕を引き外に出ました。

「まずはこの島を一周。話はそれからだ。」

言い終わるや否やモルガンさんは走り出しました。

「え?あ、待ってください!」

私は彼女の後を追うように走り出します。どうやら手加減なしのようで私にはついていくのに精一杯の速度で走っています。私はその背中を無我夢中で追いかけます。「島一周」とモルガンさんはジョギングでもするような言いぶりですが私のような子供にとっては途方もない距離です。私は何度もくじけそうになりながらなんとか完走することができました。

「はじめてにしてはよくやるな。いいぞサオリ。」

「あ……ありがとうございます。」

私はあまりの疲労にその場に倒れこみ肩で息をしながら答えます。一方モルガンさんは汗一つかいておらず元気ピンピンそのものです。

「本来ならあと4週だが、サオリは初めてだからな。この辺にしておこう。とりあえず私はもう一周してくるからその間に水分を補給しておけ。」

そういうとモルガンさんは颯爽と走っていきました。私は足を引きずるように歩いて家に入りコップに水を汲んでそれを飲みます。渇きに渇き切った体に水がしみわたります。これほどまでに水がおいしいと感じことはありませんでした。おかげで息を整えることができましたが

「お、水分補給は出来たか?」

「え?」

まだ体力が一割も回復しないうちにモルガンさんは戻ってきました。私が信じられないという目で見ているとモルガンさんは

「よし、次は実践だ。さっさと始めるぞ。」

といい私に木製の練習用の剣を差し出してきました。それを受け取るとモルガンさんはこっちだといわんばかりに歩き出します。それについていき裏庭に行くとそこにはモードレスさんがいました。

「今日の相手だ。というかしばらくはモードレスが君の相手をしてくれる。」

「よろしくっす。」

モードレスさんは私にぺこりとあいさつします。モルガンさんの言う通り彼女も私と同じ練習用の剣を持っています。

「じゃあ、はじめるっすね。」

「ああ。かまわない。」

「え?ちょっと!まっ……」

モードレスさんは私が身構える前に襲い掛かってきました。私は本能的に動いてその剣を受けますが、すでにフラフラな私は碌な反撃を出せずひらりと躱されてしまいます。そのカウンターとしてモードレスさんは剣の柄で私の肩あたりを殴ります。

「っ……!」

そして間髪入れずわき腹を蹴ってきます。何とか左腕でガードしましたが全くの無意味でその左腕ごと蹴ってきました。本人は軽くしたつもりでしょうが私にとっては骨が折れたのではないかと錯覚するほどの痛みが走りました。

「大丈夫っすか…?やりすぎたかもっす。」

そう言って私を心配したモードレスさんが私に近づいてきますが

「待て。」

とモルガンさんがそれを止めます。そして今度はモルガンさんが私の元に来て

「どうした。立たないのか。」

と問い詰めてきます。

「お…お腹が痛くて……」

「腹がどうした。立て。立たねば勝てぬぞ。」

「分かってるんですけど……無理ですよ…こんなに痛いなんて聞いてないです……」

「それは言ってないからな。ほら、立て。」

この人は悪魔か何かですか?私の頭の中にはそれしか浮かびませんでした。立たなきゃ。でも立ちません。というより立てません。足に全く力が入らない上このお腹の痛み。立てるわけがありません。とうとうしびれを切らしたのかモルガンさんは私の顎をつかみ無理やり自分と目を合わせると。

「この程度で立ち上がれなくなってるようじゃ私の跡継ぎにはなれない。」

といいます。

「跡継ぎ……?」

「ああそうだ。お前には私の意志を継いでもらう必要がある。」

「それは……なんですか……」

意図が全く読めません。私はモルガンさんが何を言い出したのかさっぱりわかりませんでした。

「サリトリア人をこの世から駆逐するという意志だ。」

聞いたことがあります。サリトリア人というのはその昔このトロント島を支配していた民族で私たちアキタイト人は彼らから奴隷的支配を受けていたと。今でも彼らを憎むアキタイト人は多いとも聞いたことがありましたが、モルガンさんもその一人だというのはこの時初めて知りました。

「いいか。お前は私の半身なのだ。こんな程度でくたばってもらっては困る。」

「で……でも…」

「でもじゃない。立て。立って戦え。戦って滅ぼせ。奴らは存在してはいけないものだ。奴らは人ではい。」

「なにが……あなたをそこまで……」

「私の両親は私の目の前でサリトリア人に殺された。お前も分かるはずだ。その痛みがその憎しみが。」

モルガンさんの顔が怒りに満ちていくのが分かります。それにお前つまり私にもわかるということは……

「私の両親を殺したのも……?」

「ああ、お前の想像している通りサリトリア人だ。少数だが奴らはまだこの島に残っている。私が真に果たすべき仕事は奴らをこの島から駆逐することだ。」

「でもなんでサリトリア人って分かったんですか。」

「奴らは身に着けるもののどこかに自分たちの紋章を入れる。基本は肩だな。お前の両親を襲ったやつらは剣の柄に施してあった。」

「私を助けたのって……もしかして……」

「そうだ。私と同じ体験(トラウマ)をしたお前なら私の意志を継いでくれると思ったからだ。」

「だから隊長は貴方を助けるために寿命を半分使ったってわけっす。」

寿命を半分……?私には訳が分からなかった。そんな事のために自分の寿命を削って見ず知らずの少女を助け、さらに自分の意志を継いでもらおうとスパルタの特訓を始めるなんて……

 

 

 

気持ち悪い。そうとしか思えない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。