最強の武器の作り方   作:かのさん

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第三話「冒険者狩り」

桃はさっきまで重症を負って座り込んでいたとは思えない速度で立ち上がり、右手に携えたナイフで桜に強襲する。ナイフが体に達するのが先か刀を抜き切るのが先か。互いにとって相手を死に至らしめるのに十分な間合いがある。果たしてどちらが━━

 

 

 

 

真紅の雫が地に落ちる。一滴ずつ、確実に生命を奪っていく。桜の刃はついぞ通ることはなく、それよりも数瞬早く桃のナイフが桜の腹部に突き刺さった。刀を抜く角度を調整し、心臓に狙いがいかないように注意したが相手の狙いは初めから腹部だったようだ。そうとしか考えれないほど桃の突きは一直線に桜へ向かっていった。あと0.5いや0.3秒さえ疾ければ桜の刀は彼女の胴を真っ二つに斬っていたはずだ。

「ううっ……」

体の内側から温かいものが込み上げてくる。それを吐き出すまいとしてもナイフがズブズブと更に奥へと押し込まれ、内臓が傷つけられていくにつれて耐えられなくなり、ついには溢れ出てしまった。

「終わりなのはお前の方だったな。」

桃は淡々と桜に敗北を突きつける。それと同時に桜はやっと自身が命の取り合いをしていたんだと気づいた。

「あぁ…これが”死ぬ”ってやつなのね…………」

「やっと気付いたの?アンタって結構鈍感なタイプ?」

しかし時すでに遅し。桜から流れ出た血潮は桃の腕をつたって流れ、朱の筋を何本も作った。その様子をぼんやりと眺めながら桜は自分の身体からだんだんと熱が抜けていくのがわかった。視界が霞み始め思考もうまくまとまらなくなってくる。桜はついに自らの足で身体を支えることを諦め桃の肩に身を委ねるようにもたれかかった。その頃にはもう既に刀から手が離れてしまっており全く戦意が見られなくなっていた。

「あは………殺しちゃった。少ししか手合わせできなかったけど、強かったなァ……。」

桃はゆっくりとナイフを桜の腹から抜き取る。桜の体が少し痙攣する。桃はそれに気を取られること無く左腕で桜を支えながらナイフを片付ける。右腕がフリーになってからは両の手で桜の体をしっかりと抱き寄せる。桜の服についた血を桃のそれが拭き取るように体を添わせる。そのままゆっくりと座り込む。桜は虚ろでハイライトを失った目のままで桃のされるがままになっている。

「頑張ったね……偉い偉い…。」

桃はブツブツと独り言を言いながら自身の肩にある桜の頭を撫でる。戦闘中でも見惚れてしまいそうになるきれいな黒髪を無でれば撫でるほど彼女の満足感と優越感は満たされていった。

「ほら…そこの子。君はサクラの相棒だろう?後処理は頼むよ。」

「は……はいぃ……」

一通り満足のゆくまで桜を堪能した彼女は立ち上がると振り返ることもなく過ぎ去っていった。

「桜さんっ…!桜さん……!」

未だかろうじて意識のある桜が唯一使えるのは聴覚のみだ。その聴覚すらも今閉じられようとしている。目は閉じきってこそいないが、外からの景色は脳に送られることはなく、ただ真っ暗な空間を見ているようであった。

「桜さん…っ!……きて…くだ……い……は………やです…よ。」

ゆっくりと最後の感覚の門が閉じられていく中最後に聞いたのはユイの悲しげな声だけであった。

 

 

━━━夢を見た。

 

━━━少女が一人で泣いている夢。

 

━━━私も居た。

 

━━━私は隣りにいるだけで何もしようとしていない。

 

━━━少女が私を見た。

 

━━━その瞳には明らかな憎悪が見て取れた。

 

━━━あぁ…腹が痛む………

 

 

「ああぁあっ!!!!」

桜は意識が復活すると奇声を上げながら起き上がった。いつの間にか自分は宿のベッドに寝かせれていたらしい。辺りを一周した後に窓を見る。安いながらもしっかりと綺麗なガラスがはめ込まれている石の壁にある窓。わざとらしくカーテンが開けられており外の様子がよく分かる。どうやら今は夜のようだ。星空が見える。周りに高い建物がなく、また明るすぎないので星星のきらめきが桜の眼に直送されてくる。

「あぁ…私は生き延びたんだな…。」

”死”を悟った戦闘の後のこれである。生きているのに不思議な感覚に陥る。確かにこれは自分の身体だ。なのになんだかどことなく他人のモノのようにも感じられる。

顔を触ってみる。━━異常なし

腕を触ってみる。━━異常なし

胸を触ってみる。━━小さい……異常………なし

腹を触ってみる。━━異常あり

着ていた着物の紐を緩くし様子を探る。どうやら包帯でぐるぐる巻になっているようだ。鳩尾の辺りにコットンが当てられており、血を吸って紅く染まっている。それを見た桜は先程の戦闘が思い出され吐き気がした。

「負けた……な。」

空を眺めながら大きなため息をつく。ベッドの横に立てかけてある刀を見て、それに武器を満足に扱いきれない自分を落とし込んでしまい更にため息が出る。気持ちが沈み、首が外れてしまいそうになるくらい下を向いていると部屋のドアが開かれた。桜は顔を向けるほどの元気がなかったので目だけでドアの方を見た。

「ユイ……!」

「起きたんですね、桜さん。良かったです……本当に…うっ…」

「さっき起きたばかりなんだ。すまない。迷惑をかけてしまった。」

「迷惑だなんて…思ってませんよ。ただ……桜さんの力になれなかったのが悔しくて悔しくて……うぅぅぅぅぅ……」

ユイは桜を見るなり泣き出してしまった。大粒の涙が彼女の頬をゆっくりと滑り、やがて床にポタポタと落ちる。それを見かねた桜がなだめようと体を起き上がらせようとするが

「ま…まぁ泣くなってほら……あっ……いっっったぁ……」

「あ!ダメですよ!安静にしなきゃ!傷口が広がっちゃいます!」

ユイが駆け寄ってくる。そしてまた寝かそうとしてくる。桜もできるだけ抵抗した。せっかく起きたのだからユイと話したい。桜の本心とは裏腹に彼女は無理やり桜を仰向けにし、布団を被せる。ユイは見た目以上に力が強いようだ。力のステータスが高い傾向にあるクラスのサムライである桜をねじ伏せた。桜が負傷しているのもあるだろうが力をうまく伝えるという点ではユイが一枚上手だったようだ。桜は大人しくユイに従い寝ることにした。

 

翌日、起きると傍には勿論ユイが居た。昨日の今日なのにここまで距離が近くなるのは桜にとって初の体験であった。向こうの世界で全く人間と関わってこなかった桜にとってこれは本来ならば耐えられないほどのストレスである。だが桜は不思議とそんな感情は起きず、むしろ温かみが感じられた。ユイは手にペンを持ったまま座りながら寝ている。首が取れてしまわないか心配だ。

「ユイ…ユイ…朝だ。起きる時間だぞ。」

「んあ…もうそんな時間ですかぁ?」

桜が優しく声を掛けるとユイの瞼がゆっくりと開かれた。目をシバシバさせながら周りの様子を確認し朝であることを再認識している。やがて手に持っているペンの存在を思い出し、机の上に置く。桜は一連の動作を一瞬たりとも見逃すまいと凝視していた。

「今、朝ごはんを用意しますね。少し待っていて下さい。」

ユイはそう言うと隣の部屋に入って行った。ここはユイの借りている宿のようだ。通りでユイは勝手のわかったように振る舞うわけだ。と桜は一人で合点する。数分するとユイが片手に皿を持ちながら寝室に入ってきた。

「はい、出来ましたよ。トーストでよろしいですか?」

そう言うとユイはベッドの傍にある丸テーブルに皿を置く。トーストは二枚あり、どちらにも目玉焼きが載っている。

「流石にベッドの上というわけにもいきませんから、どうぞ座って下さい。」

ユイは丸テーブルとセットになって置かれている椅子に桜を誘う。ユイは既に座っており、その対面に置かれている椅子に座るよう促している。

「え?まだ傷口は塞がってないんじゃ?」

「夜のうちに回復魔法で閉じておきました。表面的な措置しかしていないので内部はまだ傷ついたままです。一応動けはしますが、今日も一日安静になると思います。」

「そうなの?ありがたいなぁ。ではお言葉に甘えて…よっと。」

桜は腹部に力を入れすぎないように注意しながらベッドから出る。足で床を踏みしっかりと立つ。当たり前のことではあるが、今の桜にとっては特別なことなのであった。一歩一歩踏みしめながら椅子に近づき、仰々しく座る。

「ふぅ…ではいただきます。」

ユイはよほど腹が空いていたのかもう食べ始めている。「遅い」とも言いたげなジト目で桜を見てくる。その目に監視されながら桜はトーストに齧りつく。

「…ッ!?」

うまい。口から自然と出てきた感想である。トーストのカリカリの焼き具合や目玉焼きのなめらかさ、そして何より感動的なのは塩のかけ具合だ。絶妙な量の塩のお陰でパン本来の甘さを邪魔せずに目玉焼きを主役に持ってきている。桜は全く手を止めずにトーストを平らげた。ふとユイの方を見ると満足そうに桜を見ていた。

「今日はどうするんだ?私は部屋から出ないでおくけど。」

「今日はですね……」

と言うとユイはポシェットからメモ帳のようななものを取り出す。ペラペラとめくり、目的のページに到達する。

「昨日の依頼の完了を報告して報酬を受け取って、道具屋でアイテムを揃えて…帰宅ですね。昼時にはもどります。昼もトーストでもいいですか?無難にバターでどうでしょう?」

「それいいね。そうしよう。報告ってあの紙を渡せばいいの?」

「そうですよ。紙と引き換えに報酬を受け取るんです。あの紙はまた再利用されるらしいですよ。」

「やっぱアレって無くしちゃダメだな。」

桜は昨日のユイの発言を噛みしめる。

「それじゃ行ってきます。」

「うぇ?身だしなみは整えて行けよー?」

「分かってますよ」

これじゃどっちが先輩かわからなくなりそうだ。ユイは桜に言われた通り洗面所に行く。髪を整え服も着替える。流石に寝巻きで外を出歩くのは馬鹿にも程がある。

「桜さんは心配性なのですね……ふふ。」

思わず笑みが零れる。その笑みを保持したまま外に出る。まっすぐギルドへ向かう。早く帰らねばならないのだから

「報酬の換金願いします。」

ユイは報酬受付の係に例の紙を渡す。担当はそれを隅々まで確認する。ユイは自然と貧乏揺すりが出た。顔には出さないが多少の苛立ちを相手に覚える。

(依頼補を偽装できるほどの権力をもってるわけ無いでしょ)

実際は3分もかからなかったが彼女にはとてつもない長さに感じられた。

「はい、大丈夫ですね。こちら報酬の15ダールです。」

紙が回収され代わりに小さい麻袋を渡される。こちらの損害を考えるととてつもない低報酬だ。だがアレは依頼外での出来事だ仕方がない。言わずに立ち去ろうとすると

「最近”冒険者狩り”ってのがいるらしいですよ。」

「なんですかそれ?」

ユイは興味が出座り直る。

「何でも、依頼が終わった冒険者の一息ついたところを狙って襲い、身ぐるみを剥いでいくらしいです。『武器やカバンを盗られた』が殆どの場合ですが、問題なのがですね……死者が出てるんですよ。」

「え?」

彼女にとって馴染みのありそうな話になってきた。

「ものを盗むのを目的としている犯人が大多数ですが、稀に戦闘自体を面白がって襲うケースが有るようです。」

「それは何処からの情報?」

「ギルドが捕まえた犯人の一人がそう話していました。」

「名前を伺っても?」

「それは個人情報のためお答えできますん。」

うわ出たご都合主義。そうやって情報を独り占めするから違法な依頼書が出るようになるんだぞ?そこら辺頭回ってるのか?ユイは言葉には発しないが脳内ではこんなことを考えていた。

「でもどうすりゃ良いのさ?だってギルドはアレですよね?私闘での怪我は責任を負わないって言ってましたよね?」

はじめの方は呟くように言い、後半は多少の怒りを混ぜて質問する。

「そうなんですが、今回はイレギュラーとさせていただいております。」

「と言うと?」

「もし”冒険者狩り”に遭われてしまった場合には特別に手当を支給いたします。何らかの実害が一つでもあれば即時100ダールの現金支給とさせていただきます。」

「本当ですか!?」

ユイの目が輝く。

「えぇ、本当ですよ。ただ、この手当が受けれるのは一人一回までとさせていただきます。手当で装備を揃えるなりして二度目を防ぐよう尽力して下さい。100ダールという金額はそれを見越した額です。」

「良いことが聞けました。ありがとうございます!」

そう言うとユイは上機嫌で宿に戻った。途中で道具屋に寄ることを思い出したが知らんぷりをして宿に直行する。

 

 

 

「手当が出るそうです!!!!!」

ドアを開け、開口一番ユイはそう言った。

「なんの?」

イマイチ状況が理解できない桜はきょとんとした顔でユイに聞き返す。

「昨日の怪我に手当が出るそうです。現在”冒険者狩り”というのが問題になっているらしくて、桜さんもその被害に遭われたってことです。」

「そうか。んでギルドがそいつらに襲われた冒険者に手当をやるって言ってるのか。いくらだ?」

「100ダールです。」

「結構くれるな」

桜が少し驚く。

「これがあれば宿代の心配をしなくて済みますね!」

「そうだな……」

ここに来ても桜の悩みのタネは結局のところ金である。人間生きていくには金が必要になる。どうやらユイは宿代を1ヶ月分滞納しているらしく延滞金合わせて60ダールが必要だ。と昨日森に向かいながら彼女が話してくれた。

「とりあえず今日はゆっくりして明日受け取りに行こう。」

「あ、じゃあ少し失礼しますね。」

ユイは桜の言葉を頷きだけで回答し、近づいてくる。手には特に何も持っていないが桜はえもいわれない恐怖を感じた。ユイの手が腰に触れたときはあまりの恐怖に目をユイのいる方角からそむけてしまった。桜の恐怖の対象は言わずもなが西園寺桃である。彼女は桜の敗北が確定した後もまるで動物のクッションを愛でるような仕草で桜に触れてきたからだ。あの時桃に囁かれた言葉の数々。狂気、猟奇、偏愛と憎悪が薄皮一枚から丸見えになっている言の葉の羅列。それを耳元で、脳に直接伝えられるような感覚。思い出すだけで気がおかしくなってしまいそうだ。

「そんな嫌な顔しないで下さい。清潔を保つためには必要なことなんですよ。」

「あ、あぁすまない。嫌なことを思い出してしまって。」

「……………」

ユイはそれきり何も言わなくなってしまった。ただ無言で包帯を蒔き直し、血を十分に吸い込んだそれらを袋に詰め、袋の口を締める。部屋の隅にそれを適当に置くと隣の部屋に行ってしまった。その日のユイは昼食のトーストを運んできたのみで一切口を利いてくれなかった。

 

 

「おはようございます。朝ですよ。またトーストですが我慢して下さい。これしか無いので。」

朝イチから申し訳なさそうな顔をしてくる。どうやら昨日はぐっすり練れたらしい。目の隈が無くなっている。トーストは昨日と同じようにご馳走の味がする。同じく出された茶もなんだか高級品に思えてくる。

「昨日は何で口を聞いてくれなかったんだ?」

桜は感じた疑問を早速ぶつけてみる。なんだかこの世界に来て積極性をましたような気がするのは桜だけか。

「あれはその……」

ユイは唇を噛む。あまり言いたくないのだろうか。桜は「無理しなくて言わなくて良い」と口にしようとしたが

「『拗ねてしまった』というのが最もしっくりくる言い訳でしょうか?実のところ深い理由はないんです。」

「なぁんだそうだったのか。」

桜はほっと胸を撫で下ろす。もしかしたらもうパーティーは解消です。そう言われるかもしれないと桜は怯えていた。トーストがうますぎるのも最後の晩餐的な何かなのでは無いかとさえ思った。だがそれは幸運にも杞憂に終わってくれた。そう思うとトーストが更に美味しく感じられた。

「今日は朝のうちにギルドに行って手当を受け取って、簡単な依頼を一つやりましょうか。」

ユイは会話を進行するのが上手なようだ。朝食の雑談の中にしっかりと業務連絡をねじ込んでくる。

「そうしよう。あ、今日はゴブリンなしね。」

「分かりました。それなら銀無し狼とかが良さそうですね。」

「誰そいつ?ただの狼と何が違うの?」

「通常狼は灰色の毛が特徴的ですよね?」

「確かに、私のイメージもそうだ。」

「この銀なし狼はそういう毛は一本もなく、代わりの色の毛が生えているんです。大体が赤ですね。たまに変異種で緑色もいます。この個体は触手を扱えるやっかいな個体です。気をつけましょう。」

ユイは一つ一つ丁寧に教えてくれる。桜は一言も聞き逃さぬよう彼女の声に聞き入った。

「では行きましょうか。」

互いに身支度を整え出発する。行き先は勿論ギルドだ。ユイは昨日同様まっすぐに目的地へと向かい始めた。

 

━━━━「手当は支給できません。」  「はぁ!?」 二人の素っ頓狂な声がギルド内部に響き渡った。

 

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