最強の武器の作り方   作:かのさん

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第四話「仲間になろっか」

「手当は支給できません。」  

「「はぁ!?」」 二人の素っ頓狂な声がギルド内部に響き渡った。

「支給できないってどういうことですか?昨日は確かに出来るって言いましたよね?」

ユイが珍しく詰め寄る。昨日話した担当者の胸ぐらを掴まんとするくらい近づく

「そうなんですが、先程『戦闘をした』とおっしゃいましたね?」

「ええ、そうです。」

「であればそれは私闘になりますので手当は支給できないんです。」

「し……私闘?」

「私闘のでの損害はギルドの責任にならないというのは良く知ってますよね?ユイさん。」

「ぐっ……」

ユイは唇を噛む。確かに担当者の言う通りでもある。だがあまりにもこじつけすぎる。ユイはこういう場合の反論の仕方を知らなかったため、ただ俯くしかなかった。

「では…これで━━━」

担当者がここまで言ったところで桜が口を挟む。

「おい待てよ。それはおかしくないか?」

「何処がでしょう?」

「何度も言ってるが私は襲われたからそれに応戦しただけだ。それを私闘とみなされては困ると言っている。お前らの言い分じゃあ冒険者狩りに遭ったら抵抗せずに身ぐるみ剥がされろってことだろ?違うか!?」

ダンッと桜はカウンターを叩く。ギルドに居る他の冒険者らの視線がだんだんと集まってくる。

「い……いえそういうわけでは。」

担当者が一瞬戸惑う。すかさず桜は更に突っ込む。

「それに、その話が通じるのはギルドに入っている奴にしか適用されねぇだろ?」

「何が言いたいんです?」

「私を襲ったやつがギルドに所属していないなら話は別だろ?」

そして桜はギルドの道中たまたま聞こえた噂話を脚色して話す

「ここに来る途中で冒険者狩りとしていた奴がギルドに連行されたって話を小耳に挟んでな。もしやと思うんだが、その捕まえた冒険者狩りに会わせてくれないか?」

「そ……それは流石に…。」

「うるせぇ。私はそいつのせいで死にかけたんだぞ?一発ぐらい殴らないと気がすまないんだ。」

桜はカウンターから身を乗り出し担当者の胸ぐらを掴む。服が破けそうなほど力んでいる。かなり怒っているようだ。

「今から確認を……」

「必要ねぇだろそんなの。お前が声出せばいいだけだろ?」

もうめちゃくちゃである。桜の感情を怒りが支配しつつあり、段々と理性を失ってきている。ギルドに居た人の殆どが二人のやり取りに集中しているのが分かる。互いに沈黙の時間が続く。

「あ…あの……!」

沈黙をやぶったのはまたもやユイだった。

「申し訳ないです!今、相方は先日の冒険者狩りに襲われて以降精神的に参っていまして。だからその……いつもはこんなんじゃないんです!なので……えっと許してもらえませんか?このとおりです。」

彼女のいつも通りの言葉足らずな謝罪だ。しかししっかりと折り曲げられた体からは謝罪の意志がありありと伝わってくる。担当者はギルドの中にいる冒険者らの『うわぁ、あんな小さい子に頭下げさせているよ』とも言いたげな視線に耐えられなくなり

「……分かりました。とりあえず事情は分かったので…この手を放してくれませんか?」

初めはユイに微笑むように言ったが最後の方は桜に敵意すら感じられる目線で話しかけてくる。桜は咄嗟に手を離し、半歩下がる。

「あ…あぁ、その…私も悪かった。手当はいらないからそいつと会わせてほしいんだ。名前は確か西園寺桃だったな。」

そう言うと担当者の眉毛がピクッと動く。やはり図星だったようだ。担当者は観念したかのような顔になって奥へ入っていく。桜もついていこうとしたが『こっち来んな」と言わんばかりの視線を感じたので辞めた。

数分すると先程の担当者と、問題の”冒険者狩り”とやらが奥から出てきた。

「はい、こちらがギルドの収監対象となっていた冒険者狩りの容疑者西園寺桃です。」

担当者のあとから出てきたのは一昨日で出会った人物そのままであった。顔が少しやつれている以外に変わった点は無く、桜の知っていた通りの人物が現れた。正直桜はワンチャンに賭けて桃だと名指ししていたのでこれはかなり幸運な出来事と言えよう。完全に桃であると確認すると桜は彼女の傍に一直線に歩いていき、その手を取って

「よし、まずは外に行こっか。」

と笑顔で言った。初め桃は戸惑っていただけだったが、相手が桜だと認識するとまるで見ていけないものを見てしまったかのような顔になる。

「え………あ……アンタは…」

「不思議でしょ?お前と話したい事はたくさんあるからね。」

「ひっ……」

桃の顔から血の気が引き、口の端も引きつっている。恐怖に支配されてしまっているようだ。足元が震えているようにも見えるが気のせいかもしれない。

「とりあえず引き渡しましたからね。もう知りませんよ。」

担当者が突き放すように桜に言う。桜はそれをそこそこに聞き流し、桃の手を握っていない方の掌を差し出す。

「ほら、私の言ったとおりだろ?じゃ約束通り金を…」

「約束したつもりはありませんが…。はぁ、分かりましたよ。特別に半額での給付になります。これで我慢して下さい。」

といい少々怒り気味に麻袋をカウンターの下から取り出す。乱暴に置かれ中から金属音が激しく鳴る。ユイはそれを素早くとり懐に入れギルドの外へ向かっていった。桜は担当者に微妙な会釈をしつつ桃の手を引っ張りながらユイの後を追った。多少暴れるので少し強めに手を握ると大人しくなった。

外ではユイが麻袋の中を覗き込みながら待っていた。手を中に突っ込み枚数を数えているようだ。

(後で数えれば良いものを)

桜はそう思ったが几帳面なユイのことだし仕方ないかと勝手に納得する。桜は物の管理が下手くそなので金の管理はすべてユイに任せることにしているのだ。

「よし、まずは名前を聞かせてもらえるかな?」

「は…ハァ!?」

桃は混乱した顔になる。当たり前だ一昨日互いに名乗りあったはずだ。その証拠に桃は未だに桜の名前をフルで覚えている。

「オレの名前は西園寺桃だ。何度も名乗らせるな。」

桃が二度目の自己紹介を終えると桜は桃の体を舐め回すように見始める。まるで品定めでもするかのようにまじまじと桃の体の隅々を観察してくる。今日はフードを被っていないおかげでよく顔が見える。整った顔立ちに白い肌、長すぎない紫の髪。所々クセがついているところが非常に可愛らしい。

━やっぱり女の子か?

桜と桃はほとんど身長差がない。同年代の美少年となれば桜にとって心躍る案件だが、同性ならば話は変わってくる。

(どっちか分からん)

普通の人ならばこんなのはどうでもいいことだが、桜にとっては一大事件であった。数分眺めて結論が出なかったので桜は体に触ってみることにした。ゴクリと唾を飲む。緊張の一瞬である。

「あっ……」

「んっ………」

二人の間になんとも言えない空気が吹き抜けていく。お互いがお互いの方から目を逸らし、掌を額に置く。結果はどうであったかは伏せておこう。とにかくこの一連の桜によるセクハラ行為で一番不思議なのは桃が一切の抵抗を示してこなかった事である。

「さっきのは置いといて……ね?君の武器について知りたいんだけど良い?」

「良いけどこんなに人が多いと難しい。場所を移さないか?」

「いいよ、じゃあユニス平原でいいか?」

桜がニヤリとしながら場所を指定する。すると桃はまたもや苦虫を噛み潰したような顔になり

「勘弁して下さい……」

と言ってきた。流石に桜も鬼ではないのでユニス平原には行かないことにした。代わりにヤークの丘に行くことでお互い意見が一致した。

 

とりとめもない話をしながら歩き、30分ほどしてヤークの丘に到着した。ヤークの丘にはまばらに木が生えておりその中でひときわ大きな木の影に入ってから先程ギルドの入口前でした話の続きを始めた。

「で、オレの武器だっけ?」

「そうそう。手合わせしたときに言ってたじゃん」

「あーそんな気もする。あのときは意外と切羽詰まってたかも。」

「私には全く分かりませんでした。」

「アンタは遠くで眺めていただけだろ。」

桃はかなりストレートに物を言うようだ。遠慮もせずズバズバと言ってくる。桃は更に追加で何かを言おうとしたが隣から殺意に満ちた視線が送られてくるので辞めにした。

「あんまり言いたくないなぁ。」

「言わないと刺すぞ?お前、私がなんの賠償も求めないからって調子のんなよ?」

「ぐ…そう言われると断れないな。」

桃は確実に言い過ぎている桜の脅しを程々に流し、自身の武器の解説を始めた。

━━このナイフは「千枚通し」と「不殺」という名前でね、それぞれ右手用と左手用に分かれているの。「千枚通し」には”金属製のすべての物をすり抜ける”っていう能力があって、これのお陰で防具や相手の剣とかの能力を無視して攻撃を通せるようになってる。左手用の「不殺」には”使用者自身を指した場合1秒あたりHPを9783万回復する”って能力を持ってる。この数字はランダムで決まったやつだよ。それに「不殺」自体のステータスも低いからこっちは完全におまけって感じ。誘導を誘うのもアリだしわざと敵に取らせて自ら刺されることでHP回復をするパワープレイもできるよ。

桃は一通り説明を終えるとふぅと小さなため息を吐いた。

「ありがとう。ベラベラと話してくれて。」

桜は桃に小さなお辞儀をする。ユイもメモしていた手を止め深めにお辞儀をする。ユイが偉いのは座ったままなのではなく、いちいち立ってからお辞儀するところだ。

「私からも感謝します。なにかお礼できるものがあれば良いのですが…」

「いや、その必要はないぜユイ。」

桜はビシッと桃を指さして言う

「西園寺桃!お前も私の仲間になってくれ!」

「え?……は?」

今日は桃にとってとんでもない日かもしれない。ギルドから連れ出されたかと思えば脅されて自分の武器の能力を吐き出された挙げ句のパーティの招待である。何をされるか分からない。この桜という女、確かに今は笑顔というか機嫌はいいが本心はどう思っているか読めたもんじゃない。なんせ一度自分に殺されかけているのである。いつ復讐されるか分からない。

「ほんとに良いのか?オレを仲間に誘って。いつ殺されるかわからないんだぞ?」

「でもそれは”依頼”ってのがあったからだろ?」

「まぁ…そうだが……あぁっもういい!」

桃は怒りの声を上げると左手でナイフを握り、それを桜の首元にぴったりとくっつけた。桜は目線を逸らすとこも避けることもせずただ桃を見続けていた。

「やってみろよ。ほら」

そう言うと桜はナイフを自分の首元に押し当てる。刃が食い込み、細い血の筋が首元から流れる。

「いっ……やめろ…やめてくれ桜。」

笑顔で自分の首を切ろうとしている桜に桃は恐怖を覚え、絞り出すような声で辞めるよう懇願する。ナイフから手を放そうとするも桜にがっしりと掴めれており逃れられない。桜の表情は一切変わらない。それが桃に一番の恐怖を与えた。

「分かった!仲間になる!仲間になるから!」

桃はついに敗北宣言をした。あまりの恐怖と狂気に涙が出ている。それに気づいた桃は服の袖ですぐにそれを拭き取る。

「そう、なら良いんだ。」

桜はそう言うと桃から手を放し自分の首を切るのも辞めた。それと同時にユイが駆け寄ってきてすぐさま手当てを始める。

(こうなるなら始めからするなよ……)

内心で毒づく桃。手当を受ける桜は更に続けて

「今の桃にはあの時みたいな殺意を感じられなかった。だから少し煽ってみた。桃って意外と脆いんだな。」

━そもそも不殺の左手だったしな。クスッと桜に笑われる。桃は反論ができない。

「それはアンタの精神が強すぎるだけよ……」

これが今の桃に出来る精一杯の返しである。

「なぁ…アンタこれで良いのか?桜の相方だろ?」

助けを求めるように桃はユイに話しかけてみる。

「まぁでもそれが桜さんの決めたことなら、私はそれに従いてゆくのみです。後、私の名前はユイです。まだ名乗ってませんでしたね。」

だめだ。ふたりともイカれてやがる…。桃は頭を抱えた。これからこんな奴らと一緒に過ごしていくのか。桃は寒気と言うより恐怖が勝っていた。

「にしても何で桜はこんなに精神力があるんだ?」

「誰かさんのせいで一回精神を壊されたからかな?」

桜は桃をじっと見つめる。桃は始めこそなぜか分からなかったが、脳に血液が3周した頃に思い出す。

(そういえばオレも結構やばいこと言ってたわ…)

桃は更に頭が重くなるような気分がした。もう桃の完敗である。彼女は堪忍して座り込み桜の手を取り、

「改めてよろしくな、桜。」

と言った。その言葉はただ重いだけでなく、謎の悲壮感のようなものも含まれているような気がした。

 

━それは桜だけに感じられた予感であることを願おうか。

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