最強の武器の作り方   作:かのさん

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第六話「戦端を開け」

「というわけでだね、魔王軍の幹部━所謂四天王を討伐する手伝いをしてほしいんだ。」

「いや、どういうワケで??」

 

━どんな異世界にも”魔王”そう呼ばれる存在は必ずいる。もちろんこの物語にも。この世界にいる魔王は名前や姿こそ知られてはないが確かに存在している。どうやらこの世界の魔王は一度倒されたことがあるらしいのだが約400年前、正確には421年前に新たな魔王の現界が観測された。それと同時に破格の魔力量を持つ4つの生命体の現界も観測された。当時の人々はこの4つの生命体を”四天王”と名付け調査を続けた。400年間断続的に続いている魔王軍との戦闘、知能のある魔獣を魔王軍にスパイとして忍び込ませる等彼らは様々な手で情報を集めた。結果、魔王の名前は明らかにできなかったが四天王と呼ばれている四人の実力者の名前は判明した。

━━第一の守護者レミルス

━━第二の守護者イド

━━第三の守護者ヴァルハイト

━━第四の守護者ユアド

どちらかというと魔王陣営は侵略者側なのに守護者とはおかしな名前だと思うだろう。しかしそれは”人間の視点で見れば”の話で、彼ら魔族にとっては自分たちを守ってくれる心強いリーダー格たちに映る。何事も自分の見ている景色だけが全てと思わないほうが良い。さて、なぜアンニュイのような狂戦士(バーサーカー)がレミルスのアジトを発見できたのかは分からない。これも運命の徒というものなのかも知れない。

ふむ、これは流石に陳腐すぎるか━━

 

「まぁ、突然言われたらそうなるか。」

「そうですよ。もう少しこう何と言うか色々考えてください。」

人並み以上に頭の回る桃でも流石にこれには困惑の色を隠せない。今日初めてあった人に『四天王一緒に倒そっか』と言われて『はい、そうですか』と即答できる方が異常である。桃のこの反応は全く正常のそれであった。

「わかりました。さっさと殺してしまいましょう。」

どうやらユイは異常なようだ。

「ちょ、待て待て…ユイ。いくらなんでも安請け合いすぎるぞ。」

「なんですか。パッと片しちゃって桜さんの捜索に戻りましょうよ。」

「簡単に言うけどなアンタ。四天王だぜ?そう易易と〆れる相手じゃないんだよ。」

桃はユイの言動に多少の呆れの色を伺わせながらなんとか説得を試みる。一方アンニュイはどうかというと二人から少し距離を取ったところでぼっ立ちしながら自分の髪をいじっている。

「あーほら、あそこの…あー、えっと」

桃は平行線を辿り始めた議論を終わらせるために話題転換を試みるも藍色の髪の少女の名前を上手く思い出せない。ちょっぴりロマンチックな出会い方をしたというのに。桃はそういうことにあまり興味がないのかもしれない。

「アンニュイ。さては、忘れてたね。」

「そうそう、アンニュイ。アンタに飽きて暇そうにしてるよ。」

「だからなんですか。貴方、もしかして腕に自身がないから行きたくないんですか?」

ユイは手で口を隠し、からかうような仕草を取る。桃の中で何かが切れそうになるが浅く長い溜息を吐いてどうにか防いだ。目をつむり文字通り一息置いてからアンニュイの方へ向き直る。覚悟は決めた。

「わかった。四天王の討伐には付き合う。その代わり決行は明日だ。いいな?」

「それでいいよ。いつ決行するにしても結果は変わらないだろうけどね。」

アンニュイは引っかかるような物言いをしつつ桃の提案を受け入れた。桃は彼女の言葉の意味は特に理解せず、承認されたという事実だけ頭に入れた。

ここでユイは不意にアンニュイが2級の冒険者であることを思いだし、とてつもない無礼な言動を繰り返す桃を注意しようと思ったが「桃は冒険者登録をしていない」とユイの心に住むもう一人の彼女が指摘したので気にしないことにした。それにアンニュイは見るからに桃より年下だ。どちらかというと彼女が桃に敬意を払うべきではないか?いや、もしかしたら見た目が幼いだけで妖精とかエルフとか吸血鬼とかそういう見た目では年齢を予想できない系の種族かもしれない……と、ユイの妄想は留まるところを知らない。彼女は物事を斜に構えるクセがあるため一度自分の世界に入るとなかなか帰ってこない場合が多い。ぼーっとしながら思考を巡らす。

どうやらその眼差しは桃にとっては抗議を示す視線に写ったようで

「四天王討伐には同意したし良いだろ?」

と言われてしまった。ユイはこれに心ここにあらずといった腑抜けた返事を返しておいた。

「とりあえず、今日は遅いしウチに来な。何も無いけど君たちが寝るスペースぐらいはあるよ。」

「あぁ、ありがとう世話になるよ。」

「ふぁ〜い」

二人はアンニュイの家で一泊することにした。桃は宿代が浮いたと内心大喜びでユイの方は特に何も考えていなさそうだった。

 

━━━アンニュイの家にて

「狭いけどカンベンしてね。どうせいつかは捨てるもんなんだしこれくらい安っぽくてもいいよね。」

「お…おう。」

アンニュイの住処は桃の想像を遥かに超えてきた。勿論悪い意味で。

外装は司馬龍の住んでいる小屋より1回りほど小さい小屋で特に塗装や整備がされている様子はなく、中は敷布団が二枚ほど広げれるスペースを持つ居間と台所として使っている水場がある程度で内装も非常にみすぼらしい。一切の娯楽の品はない。居間の中央にランタンが置かれていて家主の帰りを待っていたかのように煌々と光っている。サイズの割に明るさが強く、もしかしたらこの家一軒よりも価値があるのではないかと思ってしまう。珍しい品に二人が夢中になっていると

「それは特殊なランタン。魔玉虫っていう虫の魔核をエネルギー源として使っている。虫って言う割に結構手強い。計算上十年間光量を変えずに灯り続けられるスグレモノ。すごいでしょ?」

アンニュイは幼子が自分のおもちゃを自慢するかのように丁寧に説明してくれる。その様子を見てユイは「やはりまだガキだな」と確信した。自分も十分ガキなくせに生意気だ。ユイは少し満足気になりながらランタンのもとに正座で座る。近くにいるとほんのり温かい。なるほどかなりの魔力量だ。桃もそれに続いて向かい側に座る。こちらは胡座をかいている。

「ハッ。アンタもオレみたいにズボン穿いてりゃ胡座かけたのにな。」

桃は先程の仕返しと言わんばかりに煽ろうとしてくる。

「私は桃さんと違って行儀が良いので。」

こちらも負けじと煽る。桃と桜の相性の悪さは明白だが、この二人の相性も大概である。お互い一言ずつ言い合うと満足したのか黙りこくってしまった。

「飯を用意した。食べて。」

アンニュイは二人の気まずそうな空気をガン無視して食器を渡してくる。どうやら今夜はスープのようだ。雑多に切られた野菜が浮かんでいる。食器を二人、それに自分が座る場所に置くとスプーンを取りに一度水場に戻る。ユイはその後姿を見る。小さいのに頼りがいがありそうな背中だ。ある一点を除いては。

━━あれは…ホクロ?いや、それにしては色が禍々すぎるしちょっと変。

正面からは絶対に分からない位置にそれはあった。ユイはそれに気づくと桃に耳打ちする

「桃さんあれ見てくださいうなじのところ。」

「あ?ホクロじゃねぇのか?」

「絶対違いますよあれ。色があからさまに呪の類のやつですよ!」

相手に聞かれないよう細心の注意をはらいながら強調する。桃は話半分で聞いている。アンニュイの方は全く気づいてなさそうでお目当ての品を探している。

「あ、あった。」

見つけたようだ。右手にスプーンを3つまとめて持ちながらこちらに振り向く。丁度ユイと目が合う。吸い込まれるような翡翠色の瞳。およそ人間のそれとは思ないような美しさと儚さを兼ね備えている。

「どうした?そんなに見つめて。」

「え?いや…なんでもないですよ。」

「みんなそう言う。そんなに珍しい?ボクの目の色。」

「ん?ほんとだ、すごくきれいだな。これならユイが見惚れるのも納得だ。」

桃がまじまじとアンニュイの顔を見る。彼女は少し赤面しながら座る。こちらも行儀正しく正座だ。桃は謎の疎外感を感じた。アンニュイは右手に持っていた二人にスプーンを渡し、一人で勝手に食べ始める。他の二人もそれに続いて食べ始める。

「ん…。美味しいですね。」

ユイが目を丸くして感心している。実を言うと彼女はアンニュイの作った料理を侮っていた。その予想に反しかなりの高クオリティだったのでその意外性も十二分にあるだろうが。

「依頼のついでにとった山菜が中心。スープの出汁は動物から取ってる。自信作だよ。」

アンニュイはあまり人と話したことがないためぶつ切りの言葉を繋いで伝えようと試みる。どうやらその意志はちゃんと伝わっているようで、ユイは彼女の言葉一つ一つにうんうんと相槌を打ってくれている。その優しさが、人間特有の温かさがアンニュイの心を満たしてくれる。

「そういえばなんでアンタは『亡国の観測者』なんつー、物騒な二つ名がついてんだ?」

ちくり。とアンニュイの心にトゲが刺さる。そう名乗ってしまった以上は仕方ない。

「ボクが居た村や集落、果ては国まで。その何もかもが滅びの道を辿ってる。簡単に言えばボクは疫病神。」

「住んでた場所が尽く滅んだとか疫病神ってレベルじゃないな。」

「滅んだ理由は様々。疫病の場所もあれば戦争や洪水の時、あった。一番酷かったのは内紛で滅んだとき。」

アンニュイの翡翠に陰りが見える。彼女自身この二つ名を好んでいるわけじゃないのだろう。嫌われ、虐げられ最終的につけられた蔑称がこの『亡国の観測者』とう言うわけだ。

「でもよく生きれたな。オレだったら2回も持たないよ。」

「普通の人ならそうだろうね。でもボクは違う。」

”違う”桃はこの言葉にある種の悲しさを感じた。決して相手と自分を突き放そうとして用いたのではない。本当は同じが良い。ボクも君とおんなじがいい。自分の故郷が壊されない、君みたいな人に生まれたかった。そんな叶うはずもない、それでいて叶うべき願いへの渇望が見えた気がしたのだ。

「みんなを不幸にする圧倒的な運の悪さと同時にボクは悪運がいいんだ。それで何度も助かってる。」

「なんだかややこしい特性をお持ちなんですね。」

「ああ。良いのか悪いのか。わからない。」

先程まで静かに二人の様子を見ていたユイが口を開く。この際だ、うなじについているものについても聞いておこう。

「ついでに聞きたいんですけど。」

「なに?この際だから何でも答える。」

「その…うなじのところにある黒い点ってなんですか?」

ユイは自分のうなじを触りながら聞く。その質問を受けたアンニュイも同じ動作を繰りかえす。

「これは呪い。ボクを殺したがっていた魔術師が死に際に。」

「やっぱりそうなんですね。」

三人の間に微妙な風が流れてくる。次は何を聞くべきか。持続時間?効果?それともそれとも…?

「この呪いは少しややこしい。だから説明がしづらい。」

ユイが聞くまでもなくアンニュイが自分から教えてくれた。

「具体的にはどんな感じだ?能力を制限されているのか。発動すると死ぬのか?」

「うん。死ぬ。」

あまりにも直球な返事に気圧されそうになる。もしかしたら自分よりも死に対して頓着がないのかもしれない。そう思うと角度のおかしな尊敬の念が桃の中に湧いてきた。

「ごちそうさまでした。」

こんな話をしながらよく飯が食えるなと先ほどから食事が一向に進んでいない桃はユイに皮肉めいた視線を送る。彼女はその視線を気にすること無く立ち上がり、壁際の床に寝転がって睡眠の準備を始めてしまった。それを横目に送り、桃も残りのスープを飲んでしまう。

「ユイ、結構マイペース。」

「うーん桜といるとそうでもないんだけどなぁ。」

「その桜って人、桃の仲間?」

「うんそうだけど。」

なんで自分とユイの名前を把握してんだ??名乗ってないはずなのに。というツッコミはさておき桃は本格的に桜のことが心配になり始めた。ユイの態度を見ていると実はそこまで桜に執着しているわけではなさそうにも見えてしまう。

「その人は無事。ボクの勘が言ってる。」

「アンタが言うとなんか当たってそうだな。」

「そう、ありがとう。」

アンニュイは空になった食器をまとめて持ち水場へ行く。特に話題が思いつかなかった桃はアンニュイのところへ行き「おやすみ」とだけ言い残してユイの隣に寝転んだ。固く冷たい床はこれから彼女たちに起こる出来事を暗示するかのように感じられた。

━━━翌朝

一番最初に起きたのは桃だった。なぜだかよくわからないがユイはアンニュイを抱き枕にして寝ていた。寝相が悪いのかそれともアンニュイが自らそこへ言ったのかは言及するべきではないだろう。桃は外へ出て朝の空気を吸う。朝特有の湿気を帯びた空気が体を満たす。三度ほど深呼吸をし、体を伸ばす。硬い床で寝たせいで体がバキバキだ。しかし桃にとって硬い床で寝ることは苦痛ではないので常人のそれよりはいく分かマシである。

「朝早いんだね。」

続いてアンニュイが出てくる。こちらはまだまだ眠そうだ。半開きのまぶたをこすりながら話しかけてくる。

「今日が決行だ。いつ出立する?」

「ユイが起きたら。はいこれ朝の飯。」

そう言うとアンニュイは胸ポケットから小さく黒い玉を取り出す。ビー玉サイズのそれはとてもだが食用には見えない。

「ボク特製の魔術型栄養補給食料。」

「え、なんて?名前がよく分からんかった。早口言葉か?」

「とにかくこれを食べれば1日分の栄養になる。はい、食べて」

「えー、こんな得体のしれないものは食え……んぐっ!」

遠慮しようとする桃にお構い無しで食わせてくる。アンニュイの小さな手が桃の口内にねじ込まれ、指先にある例の栄養補給剤を無理やり食べさせられる。

「飲み込むだけでいい。」

「へいへい、わーった。」

仕方なく言われた通り飲み込む。無味無臭なのがせめてもの救いだ。特に体に変化はない。だがそれでいいのだ。

その後遅れて起きてきたユイもしっかり食べた。こちらも抵抗したのでアンニュイ式説得術(物理)で食べさせた。初の四天王討伐の朝はかなり悪いスタートを切った。

 

 

 

「ここ。」

三人はアンニュイの家から離れたヤーク地方とデロア地方の境目を作る山の麓に来ていた。

「この岩壁に作られた扉…ほらこれ。」

よく目を凝らしてみると金属に似た反射光をする突起がある。その回りを囲うように一段低くなっている溝がある。ついに四天王の一人それのアジトについたようだ。桃とアンニュイで前線を張り、ユイは離れた箇所から支援攻撃をする予定だ。そしてこの扉を破るのがアンニュイの役目だ。彼女の武器は彼女自身の拳だ。腰を低く据え、右腕を引く。桃は三歩ほど下がった場所からそれを見る。アンニュイは息を細く吐くと遂にその拳を正面へ突き出した。

━━しかし、拳が壁に到達するよりも先にそれは崩れる。パラパラと降り落ちる石たちの中にキラリと光る一閃があった。自分が壊すはずだった眼の前の壁がひとりでに壊れたことに驚きを隠せなかったアンニュイはその突きを避けることが出来ず左肩に受ける。

「くうっ!」

「あら?外れたのかしら?ちゃんと心臓を狙ったはずなのにね。」

「…ッ!このっ!」

アンニュイの返しは余裕を持って避けられ、その勢いを活かしたカウンターをモロに受ける。後方へふっとばされる。

「あっ……ガハッ…。」

蹴りがみぞおちに正確に入り、アンニュイは血を吐きその場に倒れる。まだ意識はあるようで子鹿のようにプルプル震える腕を支えに上体を起こそうとしている。桃は足がすくんでしまって動けない。じりじりとアンニュイに近づく四天王の一人。ここまでかかった時間は10秒にも満たなかった。たったその時間で2級の冒険者すら圧倒するほどの実力差。

「さすが第一の守護者レミルス。光より早い突きとはこういうことか。」

━━そう、まさにそれが四天王なのだ。

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