最強の武器の作り方   作:かのさん

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第七話「妖精の夢の終わり」

「さすが第一の守護者レミルス。光より早い突きとはこういうことか。」

 

━━そう、まさにそれが四天王なのだ。

 

「ふぅん。アナタみたいな田舎臭いのでも私のアタシの名前知ってるんだ。アタシって意外と有名人?」

「そうなんじゃない?」

余裕そうな笑みを浮かべるレミルス。手には細身の剣が握られている。アンニュイから少し離れたところで彼女を品定めするように見ている。アンニュイは先程の衝撃から立ち直りつつあり今は痛みに耐えながらなんとか立っているような状態だ。

「まさかあいつらが寄越した刺客がこんなに幼い女の子なんてね。気でも狂ったのかしら?」

「刺客のつもりで来たわけじゃない。あと幼くない。」

「あっそ。どうでもいいけど。」

レミルスはそう言うと音のないステップを踏み込み、突きをアンニュイに向ける。が、その目論見はどこからか乱入してきた者に阻まれる。

「チッ、暗殺者(アサシン)か…」

桃は[気配遮断]で近づき、この突きに合わせて飛び出したようだ。左のナイフで突きを受け止めている。すかさず右でレミルスの喉を狙う。これは上体を逸らされて躱される。追撃の危険を感じたレミルスはバックステップで距離を取ろうとして、斜め上から飛来した風の斬撃を避けきれずに受ける。

「くっ…術師も居るのか。」

彼女の左腕に切り傷を残す。傷に意識を向けず、正面から来る桃を警戒。同時に術師を探すためにあたりを軽く見回す。

━━居ない

「よそ見をするなッ!」

下段からナイフの突き上げが来る。角度が甘いので体を少し傾けるだけで避けれる。二撃目の突きを読んで剣でのガードを選択。ほぼ同時に右から切り裂くようにナイフが襲来したのでこれを軽く剣ではたき落とす。

「甘いな…」

弾かれた桃は体勢を崩す。レミルスはすかさず剣を振り抜き桃の胴に直撃させる。

その衝撃で桃の体は真っ二つに━━━とはならず、咄嗟の判断で桃はナイフの腹で攻撃を受ける。それでも勢いは殺しきれず、彼女は横へ吹き飛ばされる。

追撃を阻止するかのごとく風の斬撃がレミルスに向けて4つ飛んでくる。2つを躱し残りははたき落とした。

━━居た…

最後の1つを対処したのと同じタイミングで後頭部に強い衝撃を覚える。一瞬頭が混乱する。更に背中にもう一撃を受けたことで混乱が解ける。どうやらアンニュイの不意打ちのようだ。

「ハッ、狂戦士(バーサーカー)のくせに姑息なマネを。」

「君が隙を晒していたのが悪い。」

「アンタも大概ね!」

またもや突きがアンニュイを襲う。今回はかなりの近距離だ。桃の割り込みも期待できない。しかしアンニュイはこれを華麗に避け、一歩踏み込みレミルスの懐に入るとその体からは考えられない威力のパンチを繰り出す。

「くっ…効いてない。」

「危ないわね…魔術障壁張ってなきゃ今頃オダブツね…」

アンニュイはさらに拳を繰り出すが、レミルスが後方へ滑るようにこれを避ける。それに並行して先程見当をつけておいた場所にレーザーを打ち込んでおく。斬撃が一撃だけ飛んできたが後続は来ない。

━━当たったな

見ないでも分かる。後続がないということはつまり打てなかったというわけだ。故に命中したと言えよう。どこに当たったのかがわからないのが少々心残りではあるが、腹とか胸とかだろ多分。

レミルスはアンニュイの追撃の手が止んだのを見計らって桃の様子を伺う。あちらはまだ動きそうにない。気絶しているようだ。

━━今ならアンニュイとの一騎打ちに持ち込める。

そう確信したレミルスは結界を張り邪魔者が入らないよう対策をする。勿論[気配遮断]を用いても入れない。魔力を持つ物体もしくは生命が入れないようにしておく。

「さて、一方的に嬲り殺してあげるわ。」

「随分口が悪いんだね。」

レミルスが一気に距離を詰める。横薙ぎはアンニュイの身長の低さも相まって余裕で避けられる。アンニュイの返しを阻止するために手首を捻り無理な体勢ではあるが剣でアンニュイの足元を突き刺す。

前に重心が移動しつつあったアンニュイはレミルスの予想通りに足がもつれバランスを崩す。体を後方へ仰け反らせ、重い右足の一歩でバランスを取り直す。

この隙をレミルスが見逃すはずがなく、すかさず彼女自慢の突きでアンニュイに襲いかかる。バランスを持ち直したばかりのアンニュイに不可避の突きに対処するすべは無かった。

レミルスの剣はアンニュイの胸元に突き入れられ肋骨など諸々の体の防御機能を通り抜け、最終的に背中へ突き抜ける。

「うぐっ……ごぼっ…」

アンニュイは体の内側からせり上がってきた血を吐く。これ以上自分の身体に異物が通り抜けるのを防ぐために胸元に突き立てられた刃を引き抜こうと手で掴むも、そこからは血が滲んでくるだけで何も成果はなかった。

「意外とあっけなかったわね。」

勝ちをほとんど確信したレミルスは眼の前の少女を串刺しにしている剣を上下に動かし、相手の反応を見て楽しんでいる。しかし少女は痛みに叫ぶことは無く、小さなうめき声と喀血に伴う咳をするだけでレミルスは段々とつまらなく感じてきた。

「ねぇアンタなんか言ったらどうなの。死ぬんだよ今から。」

「そう…だね……ごほっ…レミルス………やっぱり君が」

「え?アタシが何?」

「君が…()の妖精国を………げほっ……燃やしたんだ。」

「ハァ?妖精国…?」

レミルスは顎に手を当て自分の記憶を辿る。頭の中を4周ほどした後にやっと思い出す。

「あぁ、あの妖精国ね。いつまで経ってもアタシらの味方になるつもりなさそうだし人間側に魔族側の情報流すしでムカついたから燃やしたんだっけ。」

「覚えていてくれて……良かった。」

━━え?

ずぶり

レミルスは自身の胸部に生暖かい感触と鋭い痛みを同時に感じる。恐る恐る見てみるとそこには本来あるべきではないものがあった。

「アンタ…なんでアタシの剣を……?」

「さぁ?…因果応報なんじゃない?」

レミルスの胸には彼女の剣が刺さっていた。先程までのアンニュイと全く同じ状況だ。

「君が殺した妖精の一人に[転移]ってスキルを持った娘がいたんだ。」

[転移]というのは任意のモノを自分と相手で交換することができるスキル。本来ならば狂戦士(バーサーカー)のクラススキルには含まれていないはずである。

「だからなんだってんのよ…うっ」

遅れて再度やってきた痛みに段々と苦しみ始める。

「っていうかアンタ妖精なのに羽無いのね……もしかして落ちこぼれだったり━━」

レミルスの無神経な言葉に我慢の限界に達したアンニュイはレミルスの腹に蹴りを入れ込む。それと同時にレミルスの体の本体から影のようなものが離脱する。

「うっ……がはっ…」

レミルスは崩れた体勢のまま地に伏す剣が体を貫いている都合で仰向けにもうつ伏せにもなれない。痛みにもがくことしか出来ない彼女にアンニュイが歩み寄る。

「や…やめろ……来るなっ……」

血を吐き無様な姿で懇願するレミルス。アンニュイは顔色一つ変えず冷たく一言

「ちょっと昔ばなしをしようか。」

 

■■■■■■■■■■■■■■■

あれはそうだね。7,8年前のことだね。私にまだ羽があった頃の話。当時の私には二人の親友がいてね、そりゃもう毎日遊んでいたよ。懐かしいなぁ。

いつもは怖いもの知らずなのに蛙だけ極度に嫌いな男の子のミズナ。

おっとりした性格で博識、私の最愛の友人だった少女ムリアン。

毎日いろんなことをして遊んだな。それに毎日のように問題を起こして大人たちに怒られていたっけな。そんな眩しい日々もあの日に全部壊れちゃった。たしかあの日は時計台の近くの噴水でおしゃべりしていたんだっけ。

突然西の方で警鐘が聞こえてきたから軽く空を飛んで見てみるとそこら一帯が火事になってたの。私達三人は呆然としちゃって、どうしたらいいか分からなくて眺めてるだけだった。貴方はどう思うの?自分の住んでいた場所がある日何の前振りもなく突然燃やされたら。まぁいいや。それでね、口が開きっぱで閉じない状態に陥っていた私達に兵隊さんが声をかけてくれてなんとか正気を取り戻したの。兵隊さんが

━━━今すぐ逃げろ!東へ逃げるんだ!!

ってさ。当時のまだ何も知らなかった私でさえその言葉だけで危険を察知したんだからさぞかし貴方は苛烈な攻め方をしたのでしょうね。それから一目散に飛んで行ったんだけど途中で空から逃げようとして撃ち落とされた妖精さんを見ちゃって飛ぶのを辞めたんだ。今でもこの判断が正しかったのか分からない。ただわかるのはあのまま飛んでいてもロクなことにはならなかっただろうっていうこと。でまぁ地上から逃げるために走ってたんだけど、どうやら敵さんは裏からも攻めてきていたみたいでさ。こっちでも火の壁に阻まれちゃったってわけ。ほんといい攻め方するね貴方。元は人間だったくせに。でね、私達三人はどうしようどうしようって顔を突き合わせて相談したんだ。小さな商店に入って物陰に隠れながらコソコソとね。その時には外に貴方の兵隊たちがいて妖精の兵隊さんと戦っている音も聞こえてきたの。私は商店の中にまで響いてくる金属音と気色悪い肉の音を延々と耳に流された結果おかしなことを思いついちゃったんだ。

━━そうだ、羽をちぎっちゃおう。根本から。思いっきり。そうすれば私達が妖精ってバレないよ

今でも後悔してるよ。きれいな半透明の羽は私達妖精族の自慢。それを自らちぎるんだから当時の私は相当気が触れていたんだと思う。

━━それがいいよ。

━━うんうん。そうしよう。ほら早く。

二人は迷いなく私に賛同したよ。よほど極限だったんだね。先に私に背中を晒してきたのはミズナ。私は常に持っていたサバイバルナイフをポーチから取り出して彼の羽の付け根の回りに切れ込みを入れて神経とか筋肉とかそういう筋ごと引き抜いた。これがまぁ綺礼に羽が取れるんだ。今でもその時の音を覚えているよ。最初はミチミチって感じの皮膚とかが千切れる音がして、だんだんと音が小さくなってくの。最後に本体とのつながりがなくなる瞬間、ぬちょっ…って感じの音がしてするりと外れるの。彼は不思議なほど何も言わなかったよ。背中に空いちゃった2つの穴から血がどくどく流れてて、いかにも痛そうなのに彼は平然とした顔で

━━包帯持ってる?あとガーゼ

って言ってきたの。さすがの私でさえ寒気がしたよ。どっちもポーチにあったからササッと手当を済ませて次はムリアンの番になった。きっと彼女は痛みで声が出ちゃうと思ったから私はそこら辺に落ちていた鉛筆を彼女に咥えさせといたの。でもあまりにも痛すぎたみたいで歯を食いしばりすぎた結果、鉛筆もろとも歯が1本欠けちゃった。ムリアンにもさっきと同じように手当をして最後私の番。私はムリアンにナイフを渡した。彼女は「ごめんね、ごめんね」って言って嗚咽を漏らしながら私の羽をちぎる作業を始めた。このときミズナには既に外の警戒を頼んでいたからその場にはいなかった。私は想像以上の激痛に耐えた。体感1時間位かかったと思う。実際は数分で終わってるんだけどね。途中から痛すぎて変な汗が出たりして後半は痛いと言うより原因不明の吐き気と寒気あと頭痛だね。これが酷かった。

妖精としてのアイデンティティを捨てた私達は商店にあった上着を3着くすねてそれで背中を隠して外に出た。とにかくどこかへ逃げないと。

でもその望みはすぐに打ち砕かれちゃった。道を曲がったらそこでばったり貴方の兵士と出くわしちゃったの。私達を見るやいなや兵士は剣を振り下ろし、先頭にいたミズナを真っ二つに斬った。問答無用でだよ?

━━次の標的はムリアンだ

そう思った私は彼女をかばおうとしたんだけど、逆に突き飛ばされたんだ。

━━いつか三人で作った秘密の抜け穴から逃げて!ここは私がなんとかするから!

━━できるわけ無いでしょそんなこと!逃げるならせめてムリアンだけでも!

魔法で撃たれた。彼女の魔法だ。空気弾で後方に吹き飛ばされた。私は彼女の手助けに行こうとしたけど立てなかった。足が動いてくれなかったの。心はこんなにも彼女を助けようと前に進んでいるのに体が追いつかない。

そうやってもがいている内にムリアンはさっきミズナを両断した剣に貫かれて死んじゃった。私にははっきりとドチュッって音が聞こえた。音と同時にそれまで動いていたはずの彼女の四肢はパタリと動くのを止めてしまった。そのまま上に持ち上げられても腕は力なく垂れ下がっているだけだし、足先からは赤い液体がポタポタと落ちてきてる。

私はいつの間にか駆け出していた。とにかく遠くへ逃げた。秘密の抜け穴に行った。バレていなかった。追っ手も居ない。今なら安全に逃げれる。

━━それで本当にいいの?

私の心の中の誰かがそう言う。

━━勿論。ムリアンもそう言っていただろ

私はもう一人の私に反論する。

━━ちがう

━━何が違うんだ

━━あの子達も一緒につれていけるだろうに

━━お前は何を……?あっ、そうか

私は来た道を全速力で引き返した。そして二人の死体を素早く回収するともう一度秘密の抜け穴まで戻ってくる。穴と言っても二人の死体を置くには十分すぎるスペースがあった。そして私は

━━━二人を食べた

あぁ勿論狂ってるさ。自分の種族のアイデンティティを踏みにじった上にカニバリズムに手を染めるなんて。でも貴方がしたのはこれよりももっとひどいことだ。私はそれが許せない。

だから私は復讐を誓った。

だから私は禁忌に触れた。

だから私は蛮行に及んだ。

この事件から数ヶ月後に貴方の仕業って知って、それ以降は貴方に復讐することだけを考えて生きてきたの。

それで今に至るってこと

■■■■■■■■■■■■■■■

 

「さっきの[転移]はミズナが使えたスキル。私が彼を食べたことで取得した。」

憎しみの目でレミルスを射抜きながらアンニュイは言う。レミルスは段々と遠くなってきた意識に抗いながら返事を絞り出す。

「はは、アンタって…結構アホなのね……うがっ!」

「おい、寝るな。まだ復讐は終わってない。」

レミルスのまぶたが閉じかかっているのを見たアンニュイは蹴りを入れて無理やり起こす。

「復讐って……アンタがこんなところに[転移]使って剣を刺してなかったらもうちょっとは意識保ててたと思うけどね。」

「それは最初に私の胸に刺した貴方が悪い。」

「ってかアンタって一人称『私』だっけ?」

「それも言わなきゃだめ?貴方頭悪いんだね。それともこの数年で劣化した?」

アンニュイはここぞとばかりに煽り立てる。彼女はレミルスの腹に足を置き、時々強めに押し込みレミルスが痛みで呻く様子を見て満足したような表情になる。

しかし、やはりというべきか飽きてしまったようで

「そろそろ終わりにしよっか。」

と言い放つ。

「それがいい。さっさと殺してくれ。」

アンニュイはその願いに呼応するように準備を始める。手のひら同士を合わせ魔力を練ると青白い光とともにアンニュイの眼の前に剣が現れる。彼女は丁寧にその柄を掴むとレミルスに最後の言葉をかける。

「これはムリアンが使っていた魔法《複製召喚》ありとあらゆるものをコピーできる。せっかくだから貴方の剣をコピーした。」

「そりゃ説明どうも」

レミルスのそっけない返事はアンニュイの反感を買ったようで。

「自分の剣に刺されて死ぬんだよ!?どんな気持ち?ねぇ!!!」

アンニュイは段々と感情的になり目には涙も浮かんでいる。対してレミルスは観念したのか何も話そうとしない。

「じゃあさようなら。レミルス、可哀想な人。」

刃を下に向け自分の腕の限界まで高く持ち上げ思いっきり突き刺す━━━

 

━━━はずだった

 

その刃はレミルスの喉元の数センチ上でピタリと止まる。魔力障壁があるのではない。問題があったのはアンニュイの方だった。

「え……あれ…………嘘…ごぼっ……」

アンニュイの後ろにはレミルスがいた。レミルスの手がアンニュイを後ろから貫き、彼女の心臓を中から抉り出してきたのだ。レミルスは手の上に乗ったアンニュイの心臓を彼女に見せつけるようにして握りつぶす。

ぐちゃ

「あ…あぁ…げほっ……なんで…なんでぇ………ごふっ」

どちゃっ

「幻覚に気づけないなんて、やっぱり復讐に目がくらんだ奴はこれだから…」

ずちゅっ

使い物にならなくなった心臓を地面に捨て、腕を引き抜くとアンニュイはそのままうつ伏せに倒れる。だが、まだ生きる意志があるのか腕だけは前に進もうと地を掴んでいる。

「まだ…終わってない…まだ死んでいない…」

「そ、じゃあ死んで。」

「あっ…か……はっ━━━━━」

喉に剣を突き立てる。一応念のため首を切り落としておく。肉が裂ける音に混じって骨を砕く音がする。

 

━━久々に歯ごたえがある戦いが出来たこと、自分の不意打ちがこんなにも上手くいったこと。レミルスは今回の戦いの振り返りを勝手に始めた。

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