最強の武器の作り方   作:かのさん

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第9話「嵐の後の静けさ 次の嵐の前触れ」

━━━まぁ…生きるっってのもそんなに悪くないな……

 

桃はユイの気持ちが済むまでずっと彼女を抱きしめ続けた。

 

それからどれくらい経っただろうか。気づかない内に寝てしまっていたらしい。下がってきた気温にユイという湯たんぽが心地よすぎた。それに先程の死闘による疲れ。寝てしまうのも無理はない。草の上に雑魚寝なので体の至る所が痛い。筋肉痛も相まってむしろ寝る前より痛みがひどくなっている気がする。湯たんぽの方はと言うと━━━

「心地よさそうに寝てやがるな。」

スースーと小さな寝息を立てながらぐっすり寝ている。それを包むように桃が抱きしめて寝転がっている。直ぐ側に桃がいるから良いものの万が一彼女がこんな場所で無防備に寝ていたらと考えるとかなり危険だ。

……色んな意味で。

「ちょっくら後片付けするか。」

桃はユイを起こさないように気をつけながら立ち上がる。ユイの腕が桃の腰に回されていたのでかなり高度な気遣いが求められた。日も沈みつつあり、よるカカを覗かせ始めている。

「とりあえずあいつは土葬ではすまさんぞ。」

持ち主不在となった剣を持ち、その剣の元持ち主の元へ歩み寄る。体が上と下で分断されており見るも無惨になっている。

「あんときはなんとも思わなかったが改めて見ると……うん、酷いな。結構。」

桃はどうやってレミルスを細切れにしようか考えていたが、今の一瞬でアイデアは空に消えていった。自分をあそこまで追い詰め、死の淵に立たせた犯人だと言うのに桃は彼女を更に傷つけることを拒んだ。もう既に死んでいて、抵抗も反撃も来るはずは無いのになぜか出来ない。以前の彼女なら出来なのだろうか。

「うーんどうしよう。とりあえず土葬?かな」

さっきの独り言を忘れてしまったのだろうか。桃は自分の口から土葬程度では済まさないと言っていたのに方針を変えてしまった。

━━このところずっとこれだ。こうしようああしようと決めても結局変える。始めアンニュイの話なんざ聞く気もなかったのにユイが食いついたから仕方なくついていく。魔力剣もそうだ。今回はナイフのみで戦って次回や更に後、いっそ魔王との戦闘みたいな大一番まで温存しておくつもりだった。もっと遡ってしまえば、あの時桜を生かしてしまったのが事の発端……いや事にしては長過ぎるか。

桃は頭の中で自分の矛盾を突き始める。ぼんやりと周りを見ながら余計なことまで考えようとしたところであることに気づく。

「━ん?」

桃が気づいたのは腕だった。最後の一撃によって本体から切り離された右腕を拾おうとしたときに気づく。

「入れ墨……か?」

その腕には入れ墨のように魔術的な文様が刻まれていた。不思議に思いながら持ち上げるとたしかに魔力を感じる。それも異常なまでに強力だ。本来肉体に刻まれているような魔力は本体の死亡によってその力を失うはずである。

「ユイに見せたらなにか分かるかもしれない。」

そう思い桃は腕を自身の懐に入れた。その際に腕から全く血の匂いがしないのに気づき疑問を覚えるが構わずレミルスの後片付けを進めた。

結果的に土葬で済ませてやった。少し大きめの石を置き、そこら辺で摘んだ花を添えてやる。人族がおこなう魔族に対する埋葬ならまだ丁寧な方であろう。見せしめにしたり細切れにしないあたり桃の良心が引き止めたのであろうと推測できる。

「後は…アンニュイか…。」

こちらも先程と同様に土葬することにした。レミルスのすぐ横に埋葬したのは流石にまずかったかもしれない。桃はそう考えつつも手は止めなかった。桃はアンニュイが生きた証に装飾品の一つくらいは持っておこうと思ったが、彼女は何も身に着けていなかった。もしかしたらつけていたかもしれないが現在のアンニュイは服以外のアクセサリーは無かった。

「…っと。これでおわり。」

アンニュイにはレミルスよりも大きな石(しかも形がいいもの)ときれいな花を添えてやった。手をはたいて土を落とす。踵を返してユイの元に向かう。後ろは振り向かない。振り向けばきっと未練が生まれるから。

━━━アンタは未練に負けたんだよ

体は正面を向いたままでレミルスの墓に語りかける。当然だが返事はない。しかし桃にはなぜか彼女の怒り顔が頭に浮かんだ。即座に消した。

「まだ寝てやがるぜ。困ったやつだ。」

桃はため息をつく。だが桃は気持ちが沈んでいるわけではない。ユイの寝顔があまりに幸せそうなのが悪いのだ。桃はユイを優しく持ち上げるとゆっくりを帰路に着いた。

 

 

 

━━━━━一方その頃桜は

 

「あのすいません。いつまでこれをやれば良いんですか?」

「一日100回といったであろう!まだまだおわらせぬぞ!」

桜はユイらとはぐれた次の日から司馬龍の戦闘訓練相手にさせられていた。彼女の訓練は簡単そうでかなりストイックなのである、早朝から走らされ(距離は司馬龍の気分で変わる)、それに加えて模擬戦闘100回。言ってしまえばこれだけである。彼女は”実践こそ自分の能力が上がる最高の機会”という謎持論を持っており、それに桜が付き合わされているというワケだ。

「孔さんも何か言ってくだ━━━」

「サクラ殿、左。」

桜はすぐさま振り向くが時すでに遅し。司馬龍の木刀が彼女の脇腹にクリーンヒットする。

「ぐっあぁ…いってぇぇぇ…。」

桜は攻撃を受けた箇所を押さえながら座り込む。

「よそ見をするなとあれほど言っておるのにまだするか!?」

「はい……返す言葉もありません。」

当然だがまだまだ新米の桜が高位の冒険者に勝てるはずもなく、連敗に次ぐ連敗である。

「実は今のでちょうど100戦目じゃったぞ。締まらぬ終わり方じゃが今日はここまでじゃな。」

「あれ、さっきまだまだ終わらないって。」

「それはそなたを奮い立たせてやろうと思ってかけたのじゃ。」

「はあ…」

━━━励まし方下手すぎませんか??

「よし…孔、今日の対戦記録は?」

司馬龍は木刀を左手に持ち替え近くの切り株で座っていた男に聞く。

「今日は……94-6ですね。勿論94の方が龍殿ですが。」

「言われなくても分かりますよぉ…」

桜が半べそかいて悔しがっている。司馬龍が彼女の想定より遥かに強く、手も足も出ないどころか後半は心でも負けてきている気がした。破れかぶれ状態だ。

「桜。そなたはすぐ振りかぶろうとするクセが有るの。」

「まぁ、当てれば強いですし。」

「それじゃ良くないのじゃ。そのような大技は放つ前も後も隙が生じる。そなたの敗因の殆どは攻撃の後隙じゃよ。」

「なら…どうすれば?」

「ふむ…少し教えよう。構えよ。」

そう言うと司馬龍は桜の前に立ち木刀で下から切り上げる姿勢を取る。

「そなたは小手先の技が上手い。例えば今の妾のように下からの攻撃。」

「これはあれですね。逆手に持って剣の腹で弾きます。」

言葉通りに桜は動き、司馬龍の木刀を軽く弾く。

「そうなると…こうじゃな。剣が浮く。」

「ではその隙に兜割り…と。」

桜は剣を高々と上げ、叩き切る構えを見せる。さぁ斬ろうというところで司馬龍に頬を張られた。

「だからその思考がよくないと言っておるのじゃ。」

「む〜〜。」

桜は張り手で紅くなった頬を膨らませ不満を表す。司馬龍はやれやれといった様子で説明をする。

「こうやっての。敵が隙を晒したら、更に一歩踏み込むのじゃ。攻撃をするならより近いほうが当てやすい。わかったかの。」

「なんとなく分かりました。……一歩前に…ですね。」

「うむ。それだけわかればよろしい。」

そう言うと司馬龍は小屋に戻っていく。孔はそれを見送ってから立ち上がり、桜に水筒を差し出す。

「これは…?」

「水です。とは言っても多少魔術による加工はしています。」

「そう…ですか。」

桜は魔術に関する知識が全く無いので特に抵抗無く飲んだ。疲れた体によく染みる。運動によって上がっていた体温を適度に下げてくれる。

「疲労回復、魔力補給、打撲や切り傷などの軽い怪我の治癒などの効果を付与しておきました。」

よくばりセットである。司馬龍は気遣いが下手で無神経で不器用だが、孔は気遣いのできる男だ。桜の脳内でこの男の評価がこの2,3日で爆発的に上昇している。目立った欠点がまったくない。が、恋愛対象としては見れない。そういう評価を下した。桜は脇腹をさすりながら司馬龍の後を追う孔の背中を見た。

 

しばらくして司馬龍の家に帰ると彼女は呑気に握り飯を頬張っていた。桜が帰ってきたのを確認すると、机の上においてあるそれを一つ掴んで桜に差し出す。

「ほれ、食べると良いぞ。安心せいただの握り飯じゃ。」

「…いただきます。」

桜は司馬龍の向かいの椅子に座る。黙々と握り飯を食べる彼女とは対象的に司馬龍は楽しそうにそれを頬張っている。

━━━なんか子供みたいだな。背もちっちゃいし

桜は今日の戦闘訓練の反省をぼんやりとしていたがその間中にずっと視線を向けられている気がしていた。改めて正面を見てみるとやはり司馬龍がこちらを凝視している。勿論握り飯を食べながら。

「なんか私の顔に付いてますか?ご飯粒とか。」

「いや、そういうわけでもない。」

「じゃあなんでですか。」

「それはまぁそうじゃなぁ。うん……」

「早く言ってくださいよ。もったいぶってないで。」

ここで司馬龍の視線がずれる。そっぽを向いてしまった。桜は怒らせてしまったのかもしれないと思ったが、理由が全く見当たらないので余計に困惑した。どう言葉を掛けて場を繋げようか考え始めたところで肩を叩かれた。

「……ん?」

そこには穏やかな笑顔で孔が立っていた。彼は桜の耳元に口を近づけ

「龍殿は貴方を気に入っているんですよ。ですがあの方はそれが恥ずかしくて言えないのです。」

桜は思わず吹いてしまった。桜にとっては意外すぎたらしい。話し方や修練の行い方などは手慣れていてそれでいて古臭い匂いもするのにそういうところでは初心なのかと。

なるべく抑えたつもりだったが司馬龍は察したらしい。ものすごい形相でこちらを睨んでくるが元が童顔なので何も怖くない。本人なりに怖い顔なのだろう。桜はまた吹いてしまった。今度は我慢できなかったらしい。今度は机の上においてあった銀貨の指弾が飛んできた。額に当たった。血は出なかったが痛い。その様子を見て声を上げて笑った孔も同じく指弾をくらい、悶絶していた。

 

━━その日の夜。桜が寝た後も司馬龍と孔は机の上に置かれたランタンに照らされながら会話していた。

「ギルドから何か連絡は?」

「何も。いつも通りといえばそうなりますが。」

「うむ…。分かってはいたが…。」

互いに小さくため息をつく。デロア地方はダムレーン大陸の三地方の中で最も貧しい地域である。無論ギルドもいい加減であり、取れる依頼はモンスター討伐よりも人斬りの依頼のほうが多いと言われるほどだ。

「どうでしょうこの機会に別の地区に行くというのは。」

「それはアリじゃな。桜は多分ヤーク地方から来ておる。きっと仲間達もそちらの宿で休んでおろう。」

「あ、それともう一つ小耳に挟んだのですが。」

孔は声を潜めて話す。司馬龍もそれに合わせて声を落とす。

「なんじゃ?またあの鳩からの情報か?」

「はい。今日の戦闘訓練中に得た情報です。」

「なんと?」

孔は少し間を置いてから話し出す。

「………どうやら四天王の一人が倒されたようでして。」

司馬龍の眼の色が変わる。司馬龍は人生で一度でいいからこの手で四天王を倒したいと願っていた。そのうちの一人が倒されたのだ。

「そ…それは本当か?」

「はい。四天王のうちの一人”第一の守護者レミルス”の撃破報告がされました。証拠として本人の右腕を持参してきたらしいです。その日の午前中、つまり今日ですね。観測所も四天王と思しき強力な魔力反応が一つ消失したと報告しています。」

「なら…本当に……。」

「はい。単独ではなくパーティーによる討伐と、報告されています。」

「うむ。分かった。」

司馬龍は自身の顎に手をおいて考える。もしかしたらこれはチャンスかも知れない。

「明日、出立する。」

「分かりました。ではそういうことで。」

そう言うと孔は立ち上がり自分の寝床へ行った。司馬龍も少し考えた後に桜の布団に潜り込んだ。

 

「あ、おはようございます。」

次の日の朝。先に起きたのは勿論、司馬龍だ。彼女は起きるとすぐに桜の肩を掴みいつもより強めに振る。

「今日はヤーク地方へゆくぞ。すぐに準備をせい。」

「え…あ、はい?」

「だからそなたの仲間を探しに行くのじゃ。ほら飯は出来ておる。さ、さ。」

司馬龍はいつもより強引に桜を起き上がらせ椅子に座らせる。桜は言われるがままに朝食を食べ、身支度を済ます。刀を腰に下げドアを開ける。司馬龍がブツブツと小言を言っている。遅れたことを怒っているのかもしれないと桜は思ったが、孔がこちらを見て微笑んでくれたので杞憂に終わった。

「さて、行きましょうか。山を降りるだけですので昼前には着きましょう。」

案内役は孔がする。何か考え込んでいる司馬龍にソワソワして落ち着きがない桜が後に続く。

 

━━━孔の話した通りヤーク地方のギルドがある街、”ヤクシミリアン”に予定通り到着する。道中で魔物に出会うこともなく桜は胸を撫で下ろした。孔特製の魔法水を飲んだとはいえ疲れは溜まっている。今ならそこら辺のゴブリンにも負けてしまいそうだ。

「ふむ。ここじゃな。」

司馬龍は桜にも見覚えのある建物の前で止まる。ヤーク地方のギルドだ。司馬龍は初入場であるが躊躇うこと無く中に入っていく。

ギルドの中は桜の思っていた数倍は人気があった。皆掲示板を見ようと群がっている様子だ。

「孔、そなたの言っていたことは本当らしいな。」

「はい。私もここまで人がいるとは思いませんでした。」

「え?何のことですか?」

桜は昨夜の二人の会話を聞いていない。知らないのも当然だ。

「どうやら四天王の一人が討伐されたようです。倒した冒険者が所属していたギルドはここらしいですよ。」

「へ……へぇ〜。」

まだこの世界に来て1ヶ月も経っていない彼女にとっては”あっ、そうですか~”程度の話である。

「妾は受付に行って来るでの。」

司馬龍はそう言い残して一人歩いていく。

「では我々はそこらの椅子で。」

「待ちましょうか。」

残りの二人はギルド内にある椅子に座る。丸テーブルを囲うようにして設置されておりここが食堂も兼ねていることを示唆している。

「のう。お主。」

「あ、はい。なんでしょう。」

「あの騒ぎ。あれは一体なんじゃ?」

「あれはですね。ギルドから公式に四天王の討伐依頼を出したので受けようと集まってきた方たちです。」

「なるほど…現状どれくらいの参加者がいる?」

「ほとんどいません。皆さん騒ぐばかりで…。」

受付嬢が困ったような顔で答える。

「妾は受けようと思うのじゃが。」

「え!?本当ですか!?」

受付嬢の顔に生気が戻ったように見える。動きにもキレが出る。手元の書類ケースから一枚の紙を取り出して司馬龍に渡す。

「単独ですか?パーティーですか?」

「一応パーティーじゃな。」

「でしたらここに全員分の記名と代表者のサインをお願いしますね。」

「うむ。」

紙を受け取った司馬龍はそれをまじまじと見ながら桜たちのいる机に向かう。彼女は孔と話していたがこちらに気づくとそれを止め、手を振ってきた。

「討伐依頼は簡単にもらえたぞ。この書類にサインを書けば良いらしいんじゃが。」

「一応確認しますね。」

孔が司馬龍から紙をもらい、それを穴が空くほど読み込む。しばらくして小さく頷くと紙を机の上に置き、懐から羽ペンを取り出してその上に添える。

「怪しいところはありません。報酬は一人討伐につき10000ダール。破格ですね。パーティーならそれを山分け、と書いてあります。」

「10000ダール……」

桜が息を呑む。つい最近まで数十ダール稼ぐのにひぃひぃ言ってたのに突然その何倍もの依頼を受けるのだから言葉を失うのも無理はない。他の二人もそれに気圧されたのかサインを書く手が僅かに震えている。司馬龍、孔、桜の順で書き、最後にもう一度司馬龍が代表者欄にサインとチェックをつける。

「出してくるでの。少し待っておれ。」

司馬龍は席を立ち足早に受付に向かう。桜はその背中を見つつ、ユイと桃の心配をした。

しばらくして司馬龍は行きよりも早めのペースで帰って来る。手には数枚の紙を携えている。椅子に座るやいなやその内の1枚を桜に渡す。

「…これは?」

「そなたの仲間からの伝言らしいぞ。受付の者が渡してきたわい。」

「えっ?」

驚きと共に喜びが込み上げてくる。紙を司馬龍から受取り、早速内容を確認する。そこにはなんだか懐かしさを感じる手書きの文字でこう記してあった。

 

━━━四天王討伐のためトロント島に向かいます。滞在期間は1週間を予定しています。もし合流するのであれば現地のギルドで会いましょう

                                                                ユイ

良かった。生きていた。今の桜にはそれだけで生きる意味が見つかるような気さえした。やっとユイに会える。幸せな気持ちに包まれながら桜は司馬龍との作戦会議を始めた。

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