Confidential Girl ―TSして女の子になった俺と、懐いてた少年との新しい日常―   作:エイジアモン

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13.意味が違う

 調子(ちょうし)先輩……トラ曰く逆刈り先輩の件は、兎澤(うざわ)先輩に相談し、止めてもらうようにお願いした。

 そしてそれは兎澤先輩経由で源馬(げんま)主将へと伝えられ、部員全員に対し、そのような事は止めるよう伝えられたそうだ。そんな事を続ければ女子マネージャの親切心を裏切る事になるぞ、と付け加えられたとトラは言っていた。

 

 それから数日が経ち、実際のところ逆刈り先輩は露骨に手を握っては来なくなった。それは良い事なのだが、その代わりなのか部活中だけじゃなく、校内ならどこでも声をかけてくる事が増え、さらに”ちゃん”付けで呼び始めたのだ。

 とても迷惑だし、女の子からならまだしも、野郎から”悠木ちゃん”と呼ばれるのは気色の良いものではない。しかし相手が同じ部活の先輩という事もあり、あまり無碍にも出来ず、苦笑いで返すしかない。ちなみに最初は呼びかけられても無視していたが、そうすると「なんで無視すんだよ~?」と余計に絡んでくるので、返事だけはする、という事に落ち着いた。

 

 他にも変わった事と言えば――

 

「悠木!」

 

 丁度バレーボールの回収が終わったところへ、トラがこちらへ近寄りながら声をかけてきた。

 

「んー?」

 

「いや、特に用事はないんだけどさ」

 

 変わったといえばトラだ。

 以前は学校で声をかけてくるような事は少なく、むしろどこか余所余所しさを感じるくらいだった。だけど今は、声をかけてきたり、目が合えば手を上げたりして何らかの意思疎通のような事をしてくる事が増えた。特に顕著なのが部活中で、俺の手が空いているのを見かけると声をかけてくるので、一緒に過ごす時間が増えた。

 

 まあこれは、逆刈り先輩が俺にちょっかいを出しにくいように、というトラの優しさだろう。

 ……だとしてもちょっと過剰な気もするんだがな。少し恥ずかしいくらいだ。

 いや、まあ、別に嫌なわけじゃない。トラの気持ちは嬉しいし、そういう気遣いが出来るのは格好いいと思う。ま、相手が普通の女の子であれば、そういう気遣いも無駄じゃないはずなんだが……俺じゃあ、な。

 

 嬉しいは嬉しいんだが、少し心配な事もある。

 

「いつも気を使ってくれてありがたいよ。――でも良いのか? 俺とばっかり一緒にいて。ちゃんとした女の子と仲良くなりたくても、一緒にいるところ見られたらアプローチかけにくくなるぞ」

 

 俺みたいな中身おじさんではなく、学校には同年代の女の子が沢山いる。

 トラだって高校1年生、思春期真っ只中だ。気になる女の子の1人や2人いても不思議じゃない。もし好きな女の子が出来たとして、こんな風に俺に声をかけて一緒にいるところを見られでもしたら、それは女子コミュニティ内ですぐに噂になり、「悠木と一緒にいたくせに別の子に声をかけた!」とかで不評を買う羽目になるかもしれない。

 おじさんとしては、トラにはそんな目にあって欲しくないんだけどな。

 

 そう思い注意を促すと、トラは顎に手を当てて考えるような仕草をした後、首を傾げて俺に向いた。

 

「うーん、そうだなあ。――今考えてみたけど、特に気になるような女子はいないし、気にしすぎじゃない? ……それより、悠木は声かけられて迷惑だった? それなら、止めるけど」

 

 俺より頭1つ大きな身長で、俺を見下ろしながら言った。

 しかしその仕草は、昔から何度も見ている仕草で、トラが本当に不安になっている時に尋ねてくる、以前ならば不安そうに下から俺を見上げて、顔色を(うかが)う、そんな仕草だった。

 参ったな。トラにそんな顔をされたら、本当に迷惑だと思っていても無碍には出来ない。ああ、俺はトラに甘い、よく自覚してるさ。

 そもそも迷惑だなんてこれっぽっちも思っちゃいない。むしろトラを心配してる立場だ、だから答えは当然。

 

「迷惑なはずねえだろ。おかげで逆刈り先輩が声をかけてくる事も、近寄ってくる事も減ったんだ。感謝してるさ。――ただちょっとトラが心配だっただけだ。ありがとな、トラ」

 

 そう応えるとトラは破顔した。この流れは昔から何度もやっている。

 トラが不安そうに窺い、俺が大丈夫だ、と安心させる。すると安心したトラは嬉しそうに微笑みを返してくれるんだ。そしてこの微笑みが、これが可愛かったんだ。

 今は思い出の中のトラより大きくなってはいるが、その笑顔は変わらず可愛くて、俺より身長が低ければ頭を撫でてあげたいくらいだ。

 

「良かった~、それなら安心した。これからも悠木に変な虫がつかないようにするから、迷惑だったらいつでも言ってよ」

 

 トラはそう言って、休憩時間から練習に戻っていった。

 

「いつでも言って……か、あんな顔されたら言えるわけねえだろ。――あ~~、トラの青春が俺のせいで無駄になっちまう~~」

 

 俺があいつの青春を守るつもりだったのに、守られてるのは俺の方になってるじゃないか……。

 ――まあ、今は好きな人はいないって話だし、トラにもそういう人が出来れば俺なんかに構う余裕は無くなるだろ。だからまあ、それまでは守ってもらうとするか。とはいえ、勘違いされないように適度な距離は必要だろう、その時のためにな。

 

「それにしても、トラは相変わらずトラのままだな。……いや違うな、可愛さに加えてちょっとの頼もしさが加わったか? ま、トラも男になりつつあるって事か。早く彼女を作って幸せになって欲しいよ」

 

 もしそうなったら、そう思うと寂しいと感じた。

 この寂しさの正体は――確認するまでもない、子に親離れされる親心、ってやつに違いない。

 

◇◆◇

 

北条(ほうじょう)さーん、ジャグの準備手伝ってー」

 

 ボールの準備を済ませ、次の仕事は……と考えていたら鹿島(かしま)さんからヘルプの声がした。

 鹿島さんは同じ1年女子マネージャで、大人しめな子で、中学ではバレー部だったらしく165センチもあり、中学3年の冬から伸ばし始めた肩まで届くセミロングが似合う美少女だ。

 その鹿島さんが空のジャグを両手に抱えて俺を呼んだ。

 

 ジャグと呼ばれる給水用タンクは10リットルも入るもので、つまり給水された状態で10キロもある。女の子が1人で持つにはかなり重く、ジャグの準備は1年女子マネの2人かがりでの仕事となっていた。

 

「あ、ちょっと待ってて」

 

 そう応え、ジャグ以外の荷物、水に溶かす粉末スポドリの袋を抱えて鹿島さんの元へと向かう。

 そして2人で水道の蛇口まで歩くのだった。

 

「最近北条さんは、南川くんとよくお話してるよね。何話してるの?」

 

 そう言う鹿島さんの目は、ある種の期待が見て取れた。

 すまないな鹿島さん、俺とトラはそういう関係じゃないんだ。

 

「あれはね、ほらちょっと前に俺が逆刈り……調子先輩に手を握られて離してくれなかった事あっただろ? 源馬主将から注意して貰って、それから手は握ってこなくなったんだけど、部活中以外でも見かけると声をかけてくるようになってさ。だからトラが声をかけられる前に俺に声をかけてくれるようになって……まあ、なんか守ってもらってる感じ……なんだが……」

 

 自らの口にする事でやっと気づいた。この内容、俺とトラの間柄のせいでなんとも思わなかったけど、普通に聞いたら”男の子が好きな女の子に対してとる行動”のようにしか見えない!

 鹿島さんを見ると、一層目をきらきらさせている。

 

「そ、それって、北条さんはどう思ってるの? 迷惑? やっぱり嬉しい感じ?」

 

「え、いやあ……どうなんだろう……」

 

 嬉しいよ、嬉しいに決まってる。だけど、その嬉しいは鹿島さんが思ってる嬉しいとは意味が違うんだよ!!

 大きくなったなあ、とか、立派になったなあ……みたいな親目線なんだよ。 断じて鹿島さんが思ってるような甘酸っぱい感情じゃあないんだ! ……でもこれ、本当の事は言えないから伝わらないし、理解されないよなあ。……なんて答えればいいんだ……。

 

「まあ……迷惑ではない、かな……」

 

「それなら、嬉しい感じ?」

 

「ほら、長い付き合いだし、幼馴染だし、成長したなあって感じで、嬉しいかな……」

 

 こんな感じでどうだろう。幼馴染設定を利用して、なんとかこじつけて、甘酸っぱくない嬉しさにしてみたけど、鹿島さんに伝わっただろうか。

 

「じゃあ男らしく成長して、守ってくれて嬉しい、って感じ!? 良いですよねそういう幼馴染ならではの、羨ましいなー」

 

 あ、うん。ダメだ。伝わってない。

 

「いや鹿島さん、そういう意味じゃなくて――」

 

「だって北条さん、さっきも南川くんとお話してる時、嬉しそうだったし、そうだろうな~って思ってました。良いですよね、幼馴染で身長差カップルって、良いなー」

 

 駄目だ、もう話を聞いてくれそうもない。自分の世界に入っちゃってる感じだ。

 まさか鹿島さん、こういう感じの子だったのか。大人しい感じだったけど、ちょっと意外だ。

 

 まあでも、女の子は恋バナ好きだろうから、こういうものなんだろう。

 ――だが!! 俺とトラはそういう関係じゃないけどな!

 

「鹿島さん? 俺とトラはそういう関係じゃないから――」

 

「照れなくて良いんですよ北条さん。頑張って! 私も応援してますから!!」

 

「何を応援するんだよもう……」

 

 俺のボヤキは、多分鹿島さんの耳には届いていなかった。

 

 この日のジャグ給水は、身体より、精神的にとても疲れたのだった。

 そんな俺と比して、休憩の度に俺に声をかけるトラを見て、生暖かい視線を送る鹿島さんはずっと上機嫌だった。

 

 そして、そんな日が続けば、俺とトラに関する1つの噂が立つのは当然の帰結だった。

 

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