Confidential Girl ―TSして女の子になった俺と、懐いてた少年との新しい日常―   作:エイジアモン

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15.南川虎之介 4

 ――僕にとっておじさんは特別な存在。

 

 だけどそれは、はっきりと定義出来ない、なんと名付けていいのか分からない存在、という認識だった。友達のようで友達でない、家族のようで家族ではない。小さい頃から仲が良く、友達のように、家族のように接してきたにもかかわらず。

 あえて言葉として表すなら――となりに住む仲の良いおじさん――たったそれだけの関係性。

 

 だった。

 

 おじさんが突然美少女へと変わってしまった事で、その関係性は少しずつ変化し、今では大きく変わりつつあった。

 以前は僕と同じくらいだった身長が驚くほど小さくなり、身体も女性らしい細さとしなやかさを持つようになり、それなのに大きな胸が目立っていた。いわゆるトランジスタグラマーと呼ばれるタイプ、なのだろうか。

 身体だけじゃなく、その顔立ちも息をのむほど整っていて、大きな瞳が、その端正な美貌を引き立てていた。黒髪は長くまっすぐに流れ、絹糸のような艶を帯びていた。

 

 そんな中身がおじさんの美少女との生活に戸惑いながらも、一緒に生活し始めてもう一ヶ月が経った。

 最初は見た目と言葉遣いのギャップに違和感を感じていたけど、それもすぐに気にならなくなった。

 元々おじさんはガサツではなく、綺麗好き、かつ言葉が汚いものではなかったのは大きかった。そしてそれは『俺』と自称していたにもかかわらず、クラスメイトの男女問わずに受け入れられた要因にもなっていた。

 

 そもそも僕は、美少女になったおじさんに初恋をした。

 だけどその美少女がおじさんだと分かった時、初恋は儚く散った。

 

 おじさんと分かって、諦めもついたはずだった。

 だけど違ったんだ。

 悠木が部活の先輩にちょっかいをかけられているのを見たら、居ても立っても居られなくなった。

 それ以降、悠木が他の男子と仲良さそうにおしゃべりするのを見るのが辛いと感じるようになってしまった。

 そして意外にも、いや、今なら意外でもなんでもないと思えるのだけど、悠木は男子人気がある事が判明してしまった。

 

 その瞬間、嫉妬の炎が燃え上がり、絡みつく鎖のような独占欲が心の中でじゃらじゃらと音を立てた。僕はその時、自分の気持ちにハッキリと気づいた。――悠木を、僕だけのものにしたい。

 

 ――僕にとって悠木は特別な存在。

 

 相変わらず関係性に大きな変化はなく、友達のような、家族のような間柄のまま。だけど僕の認識は大きく変わった。

 女の子の悠木と過ごした時間は1ヶ月程度、だけどそれまでの10年近くもの付き合いのおかげで人となりは良く分かってるつもりだ。だから断言出来る。

 理想の女性、それが悠木だ。

 

 僕は彼女の、ただ1人の恋人になりたい。

 

◇◆◇

 

「恋人のフリですよ。忘れないでくださいね」

 

「ああ、分かってるって。それに付き合ってるフリって言っても、口裏合わせるくらいでいつもと変わらなそうだけど」

 

 恋人のフリをする事が決まったその次の日、登校中に悠木に念を押すように確認した。

 

 色々と考えた末、悠木にはもっと僕を意識してもらう事にした。

 先輩を追い払うという目的で、それに合わせて周りにもアピールし目立つように悠木に声をかけ、一緒にいる時間を増やした。

 最初は本当に、ただ先輩を追い払う事だけを目的としていたけど、自分の気持ちに気づいてからは目的が変わってしまっている。

 

 ただやっぱり、最初にただの幼馴染で付き合ってないと言ってしまったためか、僕がこれだけ悠木にアピールしているというのに、それでも言い寄ろうとする男子は多かった。

 

 だから僕は悠木に付き合っているフリをしようと提案した。理由は逆刈り先輩から守るためだったり、男子が悠木に言い寄られる事の回避と断る口実だ。

 悠木はこの多少無理がある提案を受け入れてくれた。逆に僕に彼女が出来にくくなる、とか言っていたけど、その心配は杞憂だ。だって僕は悠木が好きなんだから。

 

 ともかく、これで安心して悠木のそばにいられるし、他の男子を断る大義名分が出来た。

 これで一安心……なんだけど、これから先は難問だ。

 

 どうやったら悠木が僕の事を好きになってくれるか。

 

 普通の女の子相手なら、男らしさのアピールだったり、好意を見せたりだと思うけど、悠木にそれが通用するのかは不明、いやマイナスの可能性が高い。

 元おじさんに男らしさのアピールするのはマイナスになりそうだし、好意を見せるのも男に言い寄られてどう感じるかは……正直良くは思わなさそうだ。 

 

 だから恋人のフリも、嫌そうな反応だったらそれ以上は踏み込まないようにする。

 ではまずは恋人といえば、定番をお願いしてみようと思う。

 

「ねえ悠木、恋人といえば、手を繋いでみない?」

 

「え? 手? ……うーん、学校内でもないし、そこまでしなくても良いんじゃないか?」

 

「……確かにそうですね、まだ付き合ってるって言ったわけでもないし。早いですね」

 

 そこまでは不要と言っている悠木に対し、僕はあえてまだ時期が早い、と理由を変えて口にした。

 これは状況が整ったらまた手を繋ぐ事をお願いします、という前フリだ。これならまたお願いしてもおかしくない。それに今の悠木の言葉は、校内でなら手を繋ぐ、と言ってるようにも聞こえる。

 だからチャンスはまだまだあるはずだ。

 

「そういう意味じゃねえんだけど……ま、いいか」

 

◇◆◇

 

 いつもの教室、段々と慣れてきて新鮮味を感じられなくなってきた教室が、僕の目には今日はやけに新鮮で、眩しく、教室のざわめきすら心地良く感じられた。

 

 机にカバンを置いてシュウや友達と挨拶を交わし、ホームルームまでいつものように雑談をする。

 悠木を見ると、男子には1-Bの美少女コンビと呼ばれている猪原(いはら)さんと仲良さそうにおしゃべりをしていた。

 1年で1、2を争う美少女コンビのオーラは凄まじいようで、2人のキャラもあってか、最初に心配していたようなイジメや派閥争いのような事には巻き込まれずに済んでいるようだ。

 それに猪原さん以外の女子とも関係は悪くなさそうで、良いポジションに収まっていると思う。

 

「まーた北条さん見てるぞ、トラ~。最近ちょっと露骨すぎないか~?」

 

 どうやら長い時間悠木を見ていたようで、シュウに小言を言われる。

 

「でも分かるよ、あの2人本当に可愛いもんね。まあ僕も北条さんのほうに目が行くけど」

 

「なんだよウッシー(牛山)も北条さん目当てかよ。俺は猪原さんだな~」

 

 シュウは猪原さん目当てって知ってたし、ウッシーが悠木目当てってのも知ってたけど、ここであらためてウッシーには釘を刺しておかないとな。

 

「ウッシー、悠木の事は諦めてくれないか」

 

「え? なんで?」

 

 予想外の僕の言葉に、ウッシーは聞き返してきた。

 

「急だなトラ。というかトラにはそれを言う権利ないよな? 付き合ってないんだろ?」

 

 唐突にチャンスが舞い降りた。

 流石はシュウ、それでこそ親友というものだ、感謝だ。

 

「今は違う。僕と悠木は、最近付き合い始めたんだ」

 

 わざと少し大きく、教室中に自然と届くくらいの声で、それを宣言した。

 

 ――瞬間、教室は静まり返った。

 

 そして、一番最初に声を上げたのは、ウッシーでもシュウでもなかった。

 

「やっぱりっ!!」

 

 猪原さんだ。

 そしてその一言をきっかけに、教室は騒然となった。

 

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