Confidential Girl ―TSして女の子になった俺と、懐いてた少年との新しい日常― 作:エイジアモン
「やっぱりっ!!」
トラが急に交際宣言をして、教室は静まり返った。それに跳ねるように一番に反応したのは俺の眼の前で喋っていた
教室はざわめいた。そりゃそうだ、普通交際している事を話すのは友達くらいで、そこから人伝えに広まっていくものだ。わざわざ
そしてトラの交際宣言によって、クラス中の視線はトラに集まりつつあった。
「
さっきと同じテンションのまま、小夏ちゃんは俺に尋ねた。
……これはフリ、付き合ってるフリだ。おかしな反応はするな。怪しまれるぞ。
と自分に言い聞かせ、一瞬の躊躇ののちに、頷いた。
「うん。ちょっと前から。……わざわざ言うほどでもないし」
小夏ちゃんが大きな声で聞くので、クラスの視線は一斉に俺に集中した。
少しの恥ずかしさを覚えながらもトラの宣言を肯定する。つまり、俺とトラはこの瞬間からクラス公認の恋人同士となったのだった。
応えてから一瞬の間の後に、一部の男子や一部の女子で、頭を抱える者や魂が抜けたように呆然とする者がいた。
小夏ちゃんはそんな周りを見回して言った。
「まあ、美男美女のカップルだとそういう影響もあるよね。でも悠木ちゃんは気にしなくていいからね! おめでとう!」
そう言って、俺の両手を握って上下に振った。
「あ、ありがとう……」
「でも、最近の2人を見てれば一目瞭然だったんだけどね。まさか南川くんが自分から答え合わせしてくれるとは思わなかったけど」
確かに、最近のトラは第三者視点だと完全にそういうアプローチにしか見えなかった。……まあ、当事者の俺は
というか、トラをそういう目で見られないから気づきようも無い気がする。
小夏ちゃんはスキンシップの多い子だ。
気分が良くても悪くても手を握り、抱きつき、感情を表してくれる。
――まあ、身長差からか抱きつかれる、というか抱き込まれる形になる事も多い。
そんな小夏ちゃんが嬉しそうにしているのを見るのは、こちらも嬉しくなってくる。これもある意味、年上の、おじさん視点なのかもしれないけれど。
その後、クラスの女子何名からか、お祝いの言葉を投げかけられ、無事に付き合い始めたのだなあと実感するようになったあたりで、先生がやってきてお開きとなった。
◇◆◇
「で、どこまで進んだの? お姉さんに白状なさい」
休憩時間に小夏ちゃんと連れション……もとい一緒にトイレに行った時、そんな事を言い始めた。
やはり、というか当たり前だけど小夏ちゃんも高校1年生、思春期真っ盛りの女子であり興味津々なようだ。
まあ、実態はあくまでフリなので何もないんだけどな。
「いや、まだ何にも――」
「えっ!? だって一緒に住んでるんだよね!? それで恋人同士になったら、もう、最後まで行くんじゃないの!?」
実に年頃の女の子らしい……のか??
しかしそうか、一緒に住んでる恋人同士って事は、そりゃ歯止めがきかなくなる事もありえるのか。思春期なら尚更、と考えても不思議ではない。
「ってああ、そっか。まだ早いって思っても不思議じゃないもんね。それに準備だって必要だし。今までと違う関係になったんだし、ゆっくりと進めるのも有りか~。それも楽しみだもんね」
小夏ちゃんは1人で考えて、1人で納得してしまった。
だけど丁度良い考え方だ、乗っかっておこう。
「うん、そんなとこだね。トラとはちゃんと向き合って進めたいと思ってるんだ」
これ、男子のほうでも同じような事を話してそうだな。
「だよね~。いいよね幼馴染~。私も格好良い幼馴染欲しいな~」
小夏ちゃんには幼馴染の男の子、というのがいないらしい。小学校卒業と同時に引っ越してしまい、幼馴染の男の子どころか、女の子友達も作り直したという事だ。俺から見れば、そのコミュ力の高さはその時に培われてきたのかもしれないと思う。
しかし個人的には
「幼馴染ってそんなに良いものでもないけどね」
と思う。
たまたま小さい頃から近くにいた、それだけなわけで、むしろそれが原因でからかわれたり、仲良くする事を強制されたりと、相性が悪いと中学くらいからは一言も会話しなくなるとかもある。というか、俺がそうだった。
男同士の友達ならともかく、男女では上手く行く事のほうが少ないんじゃないか。そう思う。
まあ、わざわざそんな事は口にしないが。
「でも結局南川くんと付き合ってるんでしょ? 最高じゃない?」
「まあトラは……特別だからな」
「きゃー!! トラは特別だって!? ちょっと~、熱すぎるんですけど??」
テンションが天井知らずに上がっていく小夏ちゃんに対して俺は苦笑いをするしかなかった。しかし、その苦笑いも小夏ちゃんには照れ隠しに見えたらしく、背後から覆いかぶさってきた。
「あ~、羨まし。 あ~羨まし。――あ、南川くんオススメのイケメン友達紹介してって言っといてね!」
「分かった、言っとくよ」
「は~、余裕ですな~。あ~ん、私だけの悠木ちゃんが南川くんに盗られた~」
「なにそれ。小夏ちゃんのモノになった記憶はないんだけど? ――ったく、俺にどうして欲しいんだよ」
感情が高ぶっているのかまるで落ち着かない小夏ちゃん。
「分かんない。ただ嬉しくて、テンション上がっちゃってるだけだと思う! 関係が進んだら教えてね!」
「まあ、気が向いたらね」
「ぶ~~」
そんな感じで、俺の背後で嬉しいんだかブータレてるんだか分からない小夏ちゃんとの一コマだった。
◇◆◇
こういう噂というのは広まるのは早いもので……って、もう噂じゃなく、確定情報だった。
とにかく、夕方の部活の時間には1年生の殆どに情報が伝わってるようだった。
体操服に着替えてバレー部に顔を出したら1年男子の1人から『南川くんと付き合ってるって本当!?』と聞かれたからだ。
ちなみに『うん』と肯定したら、一言だけ『そっか……』と肩を落として離れ、同じ1年男子に慰められていた。
どうやら小夏ちゃんの言うとおり、俺は意外とモテていたらしい。しかし男にモテてもなあ……。
まあ、今では女子にモテたい、という気持ちも湧かない。
TS症で異性になると、段々と肉体に精神が引き寄せられるようで、多分これもその一環で、今では女の子に対して性的興奮しなくなってきている。
だけど今でも明確に男と付き合う想像には嫌悪感が伴うから、俺はまだまだ男なんだと思う。
しかし不思議と、同じ男でもトラに対しては嫌悪感のようなものを感じた事はない。やはり俺の認識が小さい友人か、子供のように見てるからだろう。むしろ男らしく成長してくれている事を嬉しく思うくらいだ。
さてそのトラだが、その日の部活動でもいつものように俺に声をかけてきた。
――そう、いつものように。いつもと同じ、はずだ。
しかし俺は何か違う空気を感じていた。
俺を見つめるトラの視線がいつもより熱を帯びているような気がするし、俺も俺で何かこう……暖かいとでも言うか、ぬくもりのような雰囲気に包まれて、いつもよりトラを目で追う時間が増えているような気がした。
トラの一挙手一投足に目を奪われ、それに気づいた時は思わず頭を振った。何を考えているんだ俺は、と。
恋人同士のフリ、そうフリだ。建前だ。本当の恋人同士じゃない。
それに俺の心はおじさんで、男と付き合うなんて考えられない。
なのに、フリだと分かっていても、恋人同士だ、と意識するだけでこうも変わって見えるものなのか。
――そんな風に考えながらも、ふと気づくとトラを目で追っていた。
◇◆◇
部活が終わってトラと一緒に校門を出る時だった。トラが朝と同じように提案をしてきたのだ。
「ねえ悠木、恋人同士っぽく見えるように、手を繋がない?」
朝と同じ提案。
本来ならそんな事は断る。男と手を繋ぐなんて、と。当然トラを傷つけないように言葉は選ぶけど。
しかし、そこに加わった『恋人同士っぽく』という言葉が俺には免罪符のように思えた。
もはや知る人ぞ知るカップルになった俺たち。丁度部活終わりのタイミングで下校中の学生が多く、見知った顔もちらほらいる。
であればこそ、恋人同士である事を見せつけるように手を繋ぐのは、自然で、断る理由もない。
――つまり。
「良いよ。……繋ごうか」
トラの手に自分の手を、そっと重ねた。