Confidential Girl ―TSして女の子になった俺と、懐いてた少年との新しい日常―   作:エイジアモン

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17.打ち込む姿

 運動部の部活で楽しみといえば大会に出ることも当然そうなんだけど、やっぱり試合をすることだ。

 うちで言うなら、バレーをしたいからバレー部に入るわけで、ただバレーの練習が好き、という人はほとんどいないだろう。

 

 まあ今の俺はマネージャなので試合はおろか、バレーの練習すらしないのだけれども。

 最初は何が楽しいんだろうかと思ったものだが、サポートに徹すると考えれば練習し、努力する若者を見守るのはそれはそれで1つの楽しみだと思うようになった。

 

 今日は土曜日の午後から隣町の高校へ練習試合をしに遠征で来ている。

 兎澤(うざわ)先輩が言うには毎年ここ緑ケ淵高校(みどりがふち)との定番の練習試合であるそうだ。

 同じくらいの実力で、場所も近いため年に何度か練習試合をやっているそうで、今回は桜河高校バレー部が緑ケ淵高校まで遠征に来る番だった、というわけ。

 

 緑ケ淵高校バレー部との練習試合は2試合やることとなっていて、1試合目は実力を試す意味合いで控え組の部員同士で試合をし、2試合目はレギュラー組同士のガチンコ対決、という流れのようだ。

 トラや鳥野(とりの)くんは1試合目に出るようで、今はウォーミングアップをしている最中だ。

 

 ちなみに俺とトラとの関係はというと、トラの交際宣言からクラスやバレー部からは恋人同士と認知されるようになり、それは一応高校生ということもあり、学校に対しては公然の秘密となっている。

 恋人同士と認識されてしまうと周りが配慮してくれたりして、逆に俺たちもそういう風に振る舞わなければならない場面なんかも増えて、トラと手を繋ぐことや、トラに肩を抱かれるようなことが増えた。

 

 最初は違和感を感じていたものだが、慣れというのは怖いもので、今ではトラに肩を抱かれることに対してやすらぎを……いや、特に何も感じることはなくなっていた。

 

 トラとの接触が増えてきたことによって、自分が女の子になってしまった自覚が増えてきた気がする。

 特にトラの身体が大きいというのはあるだろうけど、手を繋ぐ際にはその大きく暖かい手のひらに自分の手はすっぽりと包まれ、否が応でも意識させられるし、肩を抱くその身体の大きさは頼もしさを感じずにはいられない。

 

 ――正直、恋人同士のフリで、自分の中で女の子としての自覚とは別に、トラに対する意識が塗り替えられようとしている気がした。それだけは、なんとしても止めなければならない。

 あくまでおじさんと近所のガキ。年の離れた友達であり、父親のような保護者という関係を、10年近いこの関係を、続けていたいと思うからだ。

 

◇◆◇

 

 それが練習試合であっても、試合となれば控え部員にとっては真剣勝負だ。

 うちのように部員が15名程度のバレー部は選手層も薄いために、ここで実力を示せば控え組からレギュラー組に上がれる可能性が高い。だからこそ真剣になる。

 

 ――真剣に勝負に打ち込む姿は、見るものを魅了する。

 

 練習の時のように俺に視線を送らない。トラは常にボールを、相手を、味方を見ている。

 得意のジャンピングドライブサーブを決めた時は静かに拳を握り小さくガッツポーズを決め、すぐに真剣な表情で手元のボールを見つめた。

 本当に集中し、バレーボールをしていると感じる。

 

 そして俺は、そんなトラに目を奪われていた。

 練習ではここまで真剣に、集中しているトラを見たことがない。だからといっていつもの練習だってふざけているわけじゃなく、真面目にやっているはずだ。だけど試合となると、他の一切には目もくれず、ただ集中し、全神経を注いでいる。

 それが俺にはトラの新しく、魅力的な一面に映っていた。

 

 気づけば試合が終わっていた。

 控え組の勝負は桜河高校の勝利、トラは最初から最後までコートの中にいて、勝利に貢献していた。

 

「お疲れ、トラ」

 

 試合に出ていた部員たちにタオルを渡し、最後にトラにタオルを渡しながら声をかけた。

 

「悠木、どうだった?」

 

 トラはタオルを受け取って汗を拭いた後、いつもの笑顔で俺に尋ねてきた。

 

「――驚いた。トラがあんなに真剣で、練習では見せないくらい集中してて。サーブが決まった時なんかは……カッコよかった。目が離せなかった」

 

 いくらでも誤魔化すことは出来たはずなのに、思わず素直な感想が口からつい出てしまった。

 言い終わった後に、しまった。と気づいて思わず自分の口を塞いだ。

 しかしそれを聞いたトラは、視線を逸らして頭を掻いた後、恥ずかしそうに口にした。

 

「あ、ありがとう……。けどそうじゃなくて……。ほら、今日初めて試合を見るって言ってたから……ね?」

 

「……あっ!」

 

 その言葉に一瞬の思考の後、思い出した。

 今日の試合前、実はバレーボールの試合を見るのは初めてだ、とトラには伝えていたんだ。

 つまりさっきの問い掛けは『初めて見るバレーボールの試合どうだった?』という意味だったのだ。

 

 それなのに俺ときたら、言わなくていい、余計なことを告白してしまった。

 そりゃそうだ。よく考えれば『僕のプレー見てくれた? どうだった?』なんて、トラが素人の俺に聞いてくるはずがないじゃないか。そんな性格じゃないのは俺がよく知ってるはずなのに、勝手に舞い上がって、浮かれ気分だったのは俺の方だった。本当に恥ずかしい!

 一瞬で体温が上がったような気がする。多分今の俺の顔は茹でダコのように真っ赤になっていると思う。出来るなら、今すぐこの場から逃げ出したい気分だ。

 

「――でも、悠木にそう言ってもらえて嬉しいよ。僕にとって、一番に認めて欲しい人だからね」

 

 トラがフォローのつもりか何かを言った。だけど、声がどんどんと小さくなり、特に後半部分はほとんど聞こえなかった。

 

「……え? 何?」

 

「え? あー、うん……。何でもない! ちょっと顔洗ってくる!」

 

 そう言って、洗面所へと駆けていった。

 

 その日、レギュラー組の試合でもトラは少し出番があって、またサーブを決め、そして試合も無事に勝った。らしい。

 だけど俺は、その日はもうトラの顔を見ることが出来ず、真剣で集中しているトラと、言った言葉を思い出しては1人悶えて終わった。

 

 練習試合が終わり、桜河高校に戻った後、解散となりいつものようにトラと一緒に帰ることとなり、トラはいつものように手を差し出してきた。

 

「今日は無しだ」

 

 悪いけど今日は手を繋げない。手を繋いでしまえばきっと、思い出し、悶え、今まで以上に意識してしまうだろう。

 だから今日は無しだ。そういう日があっても良いはずだ。

 

「――そう、まあそういう日もあるよね」

 

 トラは残念そうに手を引いた。

 心に小さな針が刺さったように感じ、トラを可哀想とも思ってしまったけど、今日だけは駄目だ。

 いつも甘やかしてばかりでは駄目なんだ、と自分が原因の癖に、そう自分に言い聞かせた。

 

◇◆◇

 

「今日って服買いにきたんだよな?」

 

「そうだっけ? でも水着見たくない?」

 

 結局あの練習試合の日の夜に自分とトラの関係性を見直し、あの時は保護者視点で見て、『あの子がこんなに凛々しく成長してくれて嬉しい』という感情だったと思い込むことでやり過ごすことにした。

 そう、あれは我が子可愛いや格好良い、と思うこことの一種だとしたのだ。

 そう思うことで事なきを得た。……多分。

 

 だから以前よりトラを目で追うことが増えたのも、トラについて考えることが増えたのもそういうことなのだ。――本当に、俺はどうしてこうなってしまったんだ。

 

 さて、それはさておき、今日は同じクラスの猪原 小夏(いはら こなつ)ちゃんと同じバレー部女子マネの鹿島 菜摘(かしま なつみ)ちゃんの3人で服を買いに来た……はずだったのに、なぜか水着売り場に来ている。

 俺を含めたこの3人は、休憩時間に俺と小夏ちゃんと話している時に、菜摘ちゃんがバレー部の連絡事項を伝えに来ることが何度かあって、それで小夏ちゃんとも話すようになって仲良くなり、3人で一緒に買い物に行くことになった。

 

 基本的に小夏ちゃんが先導し、俺と菜摘ちゃんを引っ張り回すような形で、水着売り場を回っている。

 

「悠木ちゃんはどんな水着が良いと思う?」

 

 小夏ちゃんがそう聞いてきた。どんな水着……か。

 男の時は女の子にはフリフリのついてない、シンプルなビキニを着て欲しいと思ったものだけど、いざ自分が女の子の立場になると、ビキニの面積の狭さに驚く。

 スレンダーな小夏ちゃんに似合いそうな水着はなんだろう。ビキニよりも競泳水着みたいなぴっちりとしていて余計な飾りが無い水着のほうが映えそうだけど。

 

「小夏ちゃんはスタイル良いから競泳水着みたいなシンプルで格好良いのが似合いそうかな?」

 

「あ、私もそう思った」

 

 菜摘ちゃんも俺の言葉に同調する。やはりイメージは同じらしい。

 しかし俺の提案に小夏ちゃんは、何を言ってんの?とでも言うように応えた。

 

「私じゃなくて悠木ちゃんだよ! 南川くんに見せることになるんだよ!?」

 

「……え?」

 

 俺? なんで?

 

「あーッ!! それなら!!」

 

 菜摘ちゃんが跳ねるように反応し、水着売り場を急に物色し始めた。

 

「ほら、デートで海とかプール行った時に必要でしょ? 悠木ちゃんが考えてないなら、お姉さんたちが似合うの見つけてあげるから、それを着るように!」

 

 そう言って小夏ちゃんは俺の肩を叩いて菜摘ちゃんと同じように物色を始めた。

 その場に残された俺は、事態を把握するのに多少の時間がかかり、把握してから2人に抗議しても聞く耳をもってもらえなかった。

 

「私が思うに、悠木ちゃんはワンピースよりもこっちのほうがめちゃくちゃ似合うと思うんだよね~」

 

「私も、悠木ちゃんはこっちのほうが良いと思って!!」

 

 2人が持ってきたものは、奇しくも同じような種類の物だった。一言で言うと、ビキニだ。それもシンプルな飾り気の少ない、俺が男の時に着て欲しいと思っていたようなビキニだった。

 

「ほら悠木ちゃんってトランジスタグラマーじゃん? ワンピースよりビキニの方が絶対に似合うって!」

 

「それに南川くんと一緒に歩いていて子供っぽく見られないコレが良いです!」

 

 2人の言いたいことは分からないでもない。確かに今の俺は背が低く、ワンピースやフリフリがあるような水着は子供っぽく見られる可能性も高い。それにトラと一緒ともなるとその背の低さは強調されてしまうだろう。

 だけど飾り気の少ないビキニであれば、俺の胸の大きさを強調することにもなり、小さな子供のようには見えにくいはずだ。

 それにビキニは男受けも良く、それはトラも同様のはず。恋人が喜ぶために着るのも間違ってはいない。

 

 なるほど分かる、分かるけど……。えー、俺がコレ着るの~?

 

「絶対に南川くんも喜ぶからそんな顔しないで、可愛い顔が台無しだよ!」

 

「まじかー」

 

 結局、小夏ちゃんと菜摘ちゃんの2人で選んだのと同じタイプでサイズの合うビキニを購入することとなった。

 ちなみに試着して見せたところ。

 

「これで落ちない男子はいないんじゃない? 菜摘ちゃん」

 

「そうですね。南川くんをメロメロにしてください!」

 

 2人に太鼓判を貰った。

 よし! 今年は海もプールも無しだ! トラには悪いがビキニを着なくて済むしな。

 

「あ、着る時は教えてね。タイミングなかったら他の人も誘って遊びに行こうね。その時は菜摘ちゃんも誘うから」

 

「是非お願いします!」

 

 ……逃げ場がなくなったようだ。

 こうなったら、他の連中に見られるくらいなら、トラにだけ見せる方がましかなぁ。

 

 こうして、この後に2人も水着を購入し、気が早い夏休みの予定の話で盛り上がったのだった。

 

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