Confidential Girl ―TSして女の子になった俺と、懐いてた少年との新しい日常―   作:エイジアモン

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18.変化と始まり

 6月は衣替えの季節だ。

 桜河高校も例に漏れず6月1日から正式に夏服への衣替え開始となる。

 

 女子はスタンダードなセーラー服なので、夏服も当然白の半袖セーラー服へと変わる。さらに言うなら2年3年の女子はスカートを折って膝上丈まで短くしているのが殆どだ。

 1年も先輩を見習い半数近くが短くしていて、俺も小夏(こなつ)ちゃんに勧められ、合わせる形で短くしている。そして校門に一歩踏み入ればそんな夏服の女子だらけの世界だ。夏服男子もいるが女子のような華やかさはなく、いたってシンプルだ。

 

 そしてそんな夏服セーラーの大群を見たら、おじさんの時の俺ならニヤニヤしていたに違いない。だが今の俺にとってその光景は何の感慨も湧かず、自分もそのうちの1人となっている事にすら違和感を抱かなくなりつつあった。

 

 むしろセーラー服は着る人を選ぶという事を実感している。このセーラー服という制服、胸が大きい人が着る事を想定しないように思える。シャツのようにベルトで締める構造をしていないため、制服の胸部を胸が押し上げ、その分だけ胴回り、つまりお腹と制服の間に空間が発生してしまい見方によってはお腹が出ているように見えてしまうのだ。

 他にも、胸が押し上げている分だけお腹を覆う生地は引っ張られ、胸の大きな人は肌着がチラリと見えてしまっている。

 

 小夏ちゃんなんかはセーラー服を着ていてもシュッとしていて短いスカートも相まってまるでモデルのように綺麗なスタイルに見える。

 そして小夏ちゃんが言うには、胸の大きい人こそスカートは短くしたほうが良い、とアドバイスをしてくれた。

 確かに元々のスカートの長さは足が余り見えなくて野暮ったく、加えてお腹周りも太って見えるセーラー服は一言で言うとダサく、まるで太い柱のように見えてしまう。それをスカートを短くする事で少しでも足を出して細く長く、スタイルをよく見えるようにする事は、女子高生としては必須とも言えるテクニックなのかもしれない。

 

 と、そんな事を考えながら夏服のトラと一緒に校門をくぐり、白い制服の群れと一緒に教室へと足を運ぶのだった。

 

◇◆◇

 

 桜河高校は6月の中旬からプールの授業が始まる。

 男女一緒という事は当然無く別々で、そしてプールの授業がある時に限り2クラス合同での授業となる。

 B組と一緒になるクラスはA組、鹿島 菜摘(かしま なつみ)ちゃんがいるクラスだ。

 更衣室はAとB、それぞれのクラスで分かれて着替えて、その後に一緒に授業を受ける。

 

 さて、ここで問題だ。

 女の身体、というか自分の身体にはすっかり慣れてしまってなんとも思わないが、それが他人となると話は変わる。体育での下着姿ならなんとか慣れたが、元男でおじさんの俺が女子高生の裸を見て、平常でいられるとは思えない。

 だらしなく鼻の下を伸ばしてしまう程度ならまだ良いが、周りが違和感を覚える程に興奮してしまったらどうしよう。理性を抑えきれず思わず痴漢行為を働いてしまうかもしれない。そうなったらもう、学校にはいられくなるんじゃないだろうか。

 

 ――と、更衣室に入る前は思っていた。正直、一緒に着替えたくないな、と思うくらいには。

 だが、実際に更衣室に入り着替え始めると、いわゆる性的な興奮は全く起きなかった。

 確かに同じ女性の身体に対しての好奇心はある、他の人の身体がどうなっているのか、自分は正常なのか、と思う事は性別に限らずある事のはずだ。

 そして、実際にその程度の事しか興味が湧かなかった。

 

 何が問題だったのか。

 それは、気づいてしまったことだ。俺の意識は、もう男ではなくなりつつあるんじゃないか――と。

 今はまだ、男を異性として、性的対象としては見れない。というかそれについては今でも嫌悪感を覚える。だから今はまだ女体に興味が湧かない、というだけで済んでいるけど、このまま意識の女性化が進めば間違いなく、男をそういう対象として見始めてしまうに違いない。それが嫌だ。

 それとも、女体に対する性的興味のように、男に対して好意を抱く事にも違和感を覚えなくなるのだろうか。

 

 元男でおじさんの俺が、男を好きになるなんてありえない。

 例えば、今この瞬間に担任や鳥野くんの顔を思い浮かべても、とてもそういう目では見れないし、うぇ、と吐き気を催しそうだ。バレー部の面々だってそれは変わらない。

 念の為にトラを思い浮かべてみれば、嫌な感じはしない。そりゃそうだ、俺にとってトラは特別な存在だ。

 ……だけどトラはそういう好きじゃない、頭を撫でてあげたり、背中を押してあげたりするような、友達で、家族で、守りたいと思える相手で……そのはず、だ。

 

悠木(ゆうき)ちゃん? 何ぼーっとしてんのー、早く行くよー!」

 

「――あ。ちょっと待って!」

 

 小夏ちゃんに声をかけられ、我にかえって返事をした。

 周りを見ると、俺が最後の1人になっていた。着替えをロッカーにしまい、慌てて小夏ちゃんを追いかけた。

 

◇◆◇

 

「悠木ちゃんあんまり運動得意じゃなかったけど、水泳は全然だねー」

 

「いや~、ははは……」

 

 男の時の俺は運動神経は良いほうだった。

 大体どんなスポーツでもクラスでは中の上、部活でやってる奴には負けるくらい。水泳だって得意なほうだった。

 しかし今の身体になってからは全く勝手が違った。

 明らかに体力が落ちて、身体のサイズと筋力が変わったのが影響しているのかクラスでは下から数えるほうが早い、運動が苦手な人間となってしまっていた。

 そして水泳はそれが顕著に表れていた。まさかここまでになっているとは思わなかった。いや、はっきり言って泳げない、といっても過言ではないかもしれない。

 

「は~~ッ……」

 

 余りの不甲斐なさに思わずため息を吐いた。

 

「落ち込まない落ち込まない。お姉さんが慰めてあげるよ~」

 

 小夏ちゃんはこうして、事あるごとに俺の頭を撫でる。撫で心地が心地よく、ずっと撫でていたいくらいだとか。

 俺のほうも悪い気はせず、撫でられる事の心地よさもあって好きなようにさせている。

 

「そういえば――」

 

 小夏ちゃんは撫でている手を止め、耳に寄せて小声で言った。

 

「どれくらい進んだの?」

 

「――何が?」

 

 進む、とは?

 小夏ちゃんが何を言っているのか、皆目見当(かいもくけんとう)がつかない。

 勉強、運動、部活……。勉強は余裕でついていけてるし、運動は苦手だけど頑張っている、バレー部のほうは地区予選でなんとか勝ち残っているけど、流石に県予選まで残る事は無理そうだ。となるとバレー部のことかな?

 

「ああ、まだ地区予選だけどなんとか残ってる。それにトラもスタメンじゃないけど何度か試合に出番を貰ってるね。次あたりで負けそうだけど」

 

「そうなんだ! 頑張ってるなーバレー部……じゃなくて! 南川くんのことだよ!!」

 

「え、だから1年だけど出番は貰ってるって――」

 

 そう応えると小夏ちゃんは俺の両方のほっぺたを摘んで引っ張った。

 

「あれ? もしかして誤魔化そうとしてない? 駄目だよーお姉さんにはちゃんと教えてね、って言ったよね? 2人はどこまで進んでるのかなー?」

 

 言われて気づく。そっちのことか、と。

 学校では俺とトラは恋人同士ってことになってるから、2人の関係がどこまで進んでいるのか、確かに気になっても不思議ではない。

 とはいえ、あくまで恋人同士のふりであって、何度か手を繋ぐことはあってもそれ以上の事はない。小夏ちゃんには悪いけど期待するようなことは起きるはずがない。

 

 ほっぺたを引っ張られながら、なんとか言葉を絞り出す。

 

「わひゃった、ひうから、ひうから……!」

 

「よろしい。さあ、お姉さんに聞かせてちょうだい」

 

 小夏ちゃんはほっぺたから手を離し、小夏ちゃんは内緒話を再開するように顔を近づけ直す。

 俺も小声で小夏ちゃんの耳元で囁いた。

 

「残念だけど、進展はない。小夏ちゃんが期待するようなことは何も、ね」

 

 それを聞いた小夏ちゃんは声を上げず、だけどその表情は明確に「ええ~~~」と不満をあらわにしていた。

 そしてまたしても両のほっぺたを摘んだ。

 

「嘘でしょ!? だって幼馴染で、仲が良くて、一緒に住んでてやっと恋人同士になったんだよ!? 最後までいってても不思議じゃないのに!?」

 

 小夏ちゃんは最後のほうは声が大きくなって周りにも聞こえたかもしれない。それくらいショックだったのだろう。だけどしょうがない、恋人同士のふりなんだから進展なんかするわけがないのだ。

 

「南川くんからは何のアプローチも無いの!? 絶対あったでしょ! あったと思うなあ。駄目だよ気づいてあげなくちゃ~。そんなんじゃそっぽ向かれちゃうよ!!」

 

 なんだか興奮気味に力説する小夏ちゃん。

 そっぽ向かれるも何も、そんなことは起きないんだ。

 

「それに南川くんにご褒美あげてる? 見てるといつも南川くんのほうが悠木ちゃんに気を使ってるように見えるんだよね-、悠木ちゃんも時々で良いから応えてあげないと駄目だよ~」

 

 ――う、それは確かにそうかもしれない。

 大体いつもトラのほうから声をかけてきたりするし、トラのほうから寄ってくる。俺のほうから何かをすることは余り無いと思う。そうか――

 

「ご褒美……か」

 

 思わず声が出た。

 

「そう! ご褒美! と言っても、男の子にとってのご褒美なんて大体決まってるよねー。それは簡単! 悠木ちゃんが南川くんに何かしてあげればきっと喜ぶよ~、例えば、そう……キ、キス、とか……?」

 

 そう言って小夏ちゃんは顔を真っ赤にした。

 小夏ちゃんだってまだ15才、それを口にするのはやっぱり恥ずかしいのだろう。年齢相応で可愛いと思う。

 だからといって俺がトラにキスをするのはありえない。それにトラだってこんな中身おじさんにキスなんかされても吐き気がすれど嬉しくはならないだろう。

 

 ――とはいえ、ご褒美というのは有りだ。

 確かにいつもトラには世話になってるし、色々と気を使ってもらっている。

 何かしらの形でそれに応えたいと思うのは自然なことで、何かを買い与えるというのはトラの性格では遠慮してしまうだろう。

 だから俺自身がなんらかの形でお返しする。――悪くないと思う。

 

 例えば、頭を撫でてあげたり、優しく抱きしめてあげたり、膝枕とか……まあ、ギリギリでこの辺か。

 それにもしトラが気持ち悪がるようなら、すぐに止めればいい。それなら冗談で通るだろう。

 

 そうだ。いつもトラからなら、今度は俺からトラに歩み寄り、ご褒美をしてあげる番だ。

 ま、多分おじさんだから気持ち悪いと思われて終わりだと思うけど、一度やってみるか。

 

「確かにそうだな。――ご褒美、やってみるよ」

 

「うん! 絶対に反応教えてね!」

 

 まだ少し顔の赤い小夏ちゃんが、満面の笑みで俺の両手を掴んでぶんぶんと振った。

 その後、A組の鹿島 菜摘(かしま なつみ)ちゃんとも一緒になり、3人で仲良く授業を終えた。

 そしてどうやらこの時に、小夏ちゃんと菜摘ちゃんとの間で、俺とトラの進展の情報が共有されたようだった。

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