Confidential Girl ―TSして女の子になった俺と、懐いてた少年との新しい日常―   作:エイジアモン

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23.縮む距離感

「なんか、雰囲気変わったね」

 

「――え?」

 

 休憩時間。小夏(こなつ)ちゃんが俺の顔をじーっと眺めて、一言、そう言った。

 

「そ、そう? 別に普段通りだけど……」

 

「今じゃなくて、南川(みなみがわ)くんと一緒の時だよ。……んー、なんというか……。あっ!? まさかまさか!?」

 

 ぎくり、と心臓が鳴る。急に何を言い出すんだ、この娘は、しかも結構鋭い。

 

 いや、表向きは……表向きは、きっと変わってないはずだ。

 だけど――“変わった部分”が、俺の中には確かにあった。

 

 トラに告白を受けてから数日が経ち、その関係性には変化が表れていた。

 分かりやすく言うと、甘えてくるようになった。まるで昔、といっても数年前だけど、トラがまだ小学校低学年の頃は俺にべったりとくっついていたものだ。

 そしてその時とまるで同じとは言わないけれど、明らかに甘えてきていると感じる。

 俺の肩に頭を預けてきたり、ソファーに座っている俺の手を両手で握ったり、以前にご褒美でしてやった膝枕も要求してくる。

 「ねえ悠木……」とお願いされると、俺も断りきれない。

 ちょっと前までは、高校生になって少しは大人になってきたかと感心していたのに。感覚的にはまるでトラが小学生にでも戻ったかのように感じる。

 これじゃ恋人というより、母親と小さな子供そのものだ。

 

 ……かといってあんまり恋人のようなことを要求されてもそれはそれで困るんだけど。

 

 恋人らしい事といえば、通学中は恋人繋ぎもするようになった。

 それから、家に帰った時に玄関の中で一度ハグをされる。十秒くらい抱き締められて、やっと解放される、という流れだ。

 

 それらのトラの行為に対して、どう感じているかというと、ちょっと嬉しかったりする。

 他の女の子が見たら、学校で見せるイメージと違って幻滅するかもしれない。でも俺からすれば違和感はない。懐かしい記憶の一部だし、そんなトラも可愛いと思える。それに甘えてくるトラの頭を優しく撫でてやると、俺もなんだか幸せな気分になれるからだ。

 玄関の中のハグだって、最初は戸惑ったものだが2回目からは俺も応えるように抱き締め返している。

 トラの部活が終わって少し汗臭い匂いも合わせて、そんなに嫌いじゃない。

 

「想像してるような事はないから、進展とかないから安心して」

 

「え~~、ほんとに~~?? 嘘ついてない? 絶対変わったって!」

 

 嘘は吐いてないはずだ。俺とトラは、恋人のふりから一応”恋人同士”になった。とはいえ、小夏ちゃんが想像するような、キスだってまだしてない。

 

「おかしいな~、距離感変わったと思ったのに……。なんかね、南川くんの悠木ちゃんだけに見せる目のやさしさとか悠木ちゃんの表情とか……絶対変わったって!」

 

「え~? 気の所為じゃない?」

 

「いーや! 絶対気の所為じゃない!」

 

 そう応えると小夏ちゃんは一人で何か考え込み始め、休憩時間は過ぎた。

 これ以上の追求をされなければいいんだけど。――いや、別にされたところで問題はない、はずだ。

 

◇◆◇

 

 お昼の休憩時間が終わり、今は小夏ちゃんと、となりのA組で同じバレー部のマネージャ同士でもある鹿島 菜摘(かしま なつみ)、菜摘ちゃんの3人でおしゃべりをしていた。といっても主に会話を回すのは小夏ちゃんだけど。

 

 そんな小夏ちゃんがある話題を切り出した。

 

「そういえば、二人ともプールとか海とかもう行った?」

 

 そういえばもう7月だ。そんな時期になりつつある。

 

「いや、行ってないし予定もないな……」

 

「私も、水着は買ってあるけど着てないですね」

 

 そう俺たちが応えた瞬間、小夏ちゃんの目が煌めいた。

 

「そんなことだろうと思った!」

 

 小夏ちゃんがパンッ! と手を叩いた。

 

「じゃあ、一緒に海行こうよ!! ね!?」

 

「え? 海? ……別にいいけど」

 

「部活が無い日ならいいですよ」

 

 小夏ちゃんと菜摘ちゃんと一緒なら別にいいけど……急だな。

 

「二人とも、今『いい』って言ったからね! じゃあ……南川くーん! 鳥野(とりの)くーん! 牛山(うしやま)くーん! ちょっと来て!」

 

「――え!?」

 

 小夏ちゃんはトラと、いつも一緒にいる2名、トラの親友”シュウ”こと鳥野くん、もう一人の友達”うっしー”こと牛山くんを大声で呼んだ。まさかこの流れ、一緒に行こうと言うつもりじゃないだろうな!?

 

「どうした? 猪原(いはら)さん。悠木、何かあった?」

「なにー?小夏ちゃん」

 

 トラたちが寄ってきて、小夏ちゃんに声をかけた。

 

「3人とも、今度の日曜空いてる? 空いてたらさ、一緒に海行かない?」

 

 やっぱり。

 だけど今日は金曜、次の日曜はさすがに埋まってるんじゃないかな? 2日後は難しいと思うなー、頼む! 埋まっててくれ!

 そう思いつつ、トラに目配せをする。忙しいとか適当に理由をつけて断るようにだ。

 その目配せに気づいたのか、トラは頷きで返し、こう応えた。

 

「僕と悠木は大丈夫だ。シュウも大丈夫だって。うっしーはどう?」

 

 っておい!

 トラのやつ、俺の目配せに気づいていたはずなのに大丈夫って言いやがった。しかも俺の分も合わせて大丈夫と応えてしまった。

 断りづらくなったじゃねーか、トラのあほう!

 そんな事を思っていたら、俺より慌てて鳥野くんがトラに詰め寄った。

 

「待てよトラ! 俺はまだOKなんて言ってないぞ! 日曜は用事があるんだけど!?」

 

「この前言ってたやつだろ? だったら断ればいいじゃないか、絶対こっちのほうが楽しいと思うぞ」

 

「そりゃまあ……そうかもだけどさぁ!」

 

 トラに促され、鳥野くんは俺たち女子3人を見回し、応えた。この感じ、多分女の子絡みの用事が入ってたんだろう。トラに巻き込まれて可哀想に。

 

「それで、牛山くんは空いてる?」

 

 小夏ちゃんが牛山くんを促すと、牛山くんは頷きながら応えた。

 

「うん、暇だったからちょうど良かった」

 

「よし! これで6人全員OKだね! じゃあ時間と待ち合わせ場所を決めよう!」

 

 そんな感じですんなりと6人全員参加となり、盛り上がりながらもお昼の休憩時間を過ごした。

 あの水着、本当にトラの前で着ることになるのかあ……。

 

◇◆◇

 

 その日の帰り、いつものように部活を終えてトラと一緒に帰宅していた。

 

「なんで大丈夫なんて言っちゃったんだよ。俺は断るように目配せしてたってのに」

 

「え。あれってそうだったの? 僕、”言え”の合図かと思った」

 

 トラは心底驚いたような顔をした。どうやら別の意図や狙いがあって大丈夫と応えたわけではなさそうだ。

 拍子抜けして、思わず笑いそうになる。

 

「そんなわけないだろ? ……まだまだだな、トラ」

 

 ほんの軽口のつもりで言ったのに、トラの表情がすっと曇る。

 

「……そうだね、僕はまだまだ悠木のことが分かってない――」

 

「ばーか、冗談だ。本気にするな」

 

 そう言って、恋人繋ぎの手に力を込めた。

 たったそれだけで、トラの目がふっと明るくなる。

 

 ――ちょっと面倒くさいような気もするけど、それだけトラは俺に本気だということなんだろう。

 ほんと、なんで俺なんかに。早く目を覚まして欲しいものだ。

 

 そんな風に思う俺とは別に、こんなトラを可愛いと思ってしまう自分もいた。果たしてそれは、保護者としてか、女として見ているのか、それはまだ分からなかった。

 

◇◆◇

 

 玄関の中で、いつものようにハグされ、俺も抱き締め返した。

 30センチもある身長差のせいで、視界のほとんどがトラの身体だ。自然と息を吸って、少し安心する。いつもと変わらない、少し汗の臭いがする、トラの匂い。

 もしかしてトラも、俺の匂いで安心しているのかもしれない。

 もっとも、数か月前までの慣れ親しんだ”おじさんの匂い”ではなくなってしまったけど。

 

 それからは、いつものように食事の準備をし、料理を始めた。

 最初は俺とトラで交代制で料理を作る予定だったのだが、トラは部活で疲れていることもあり、結局俺が朝昼晩の3食を担当することになった。

 なんだかんだで楽しんでいるから別に気にならないし、トラも結構手伝ってくれる。それに日曜の昼なんかはトラも簡単な料理ぐらいはしてくれる。例えばインスタントラーメン、とか。

 そんなことでも嬉しいものだ。

 だけどせめて具材くらいは入れるように教えたりもして、見た目はかなりいいものができるようになった。

 

 食事が終わり、ソファーに座っていると、食器を洗い終えたトラがやってきて隣に座った。

 ソファーの両端に座っていたものが、今では俺が左端、トラが真ん中というポジションが定番となりつつある。

 

「何見てんの?」

 

 そう言いながら俺の肩に頭を預けてくる。

 

「分からん、適当だ」

 

 そう返しながら、空いた左手でリモコンを操作しチャンネルを順番に変えていく。

 

「ふーん。――ねえ悠木、ゲームでもしない?」

 

「……いいぞ。何やろうか?」

 

 トラはゲーム機を取り出し、準備を始めた。

 その日はお風呂の時間まで、二人で楽しくゲームで遊んだ。

 

 こうして、土曜の夜まで穏やかな時間は流れ、日曜の朝を迎えた。

 

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