Confidential Girl ―TSして女の子になった俺と、懐いてた少年との新しい日常―   作:エイジアモン

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33.リベンジ

 長い黒髪を櫛ですいて整えたあと、髪を払って後ろへ流す。

 立ち上がって姿見の前でくるくると回って、前、後ろと自分の姿を確認した。

 微笑んだり、変な顔をしてみたりして、表情を確認。

 

「うん。バッチリだ。こんな可愛い女の子、俺なら一発で好きになっちゃうな」

 

 自画自賛とはこのことだ。

 だけど、本当にそう思えるのだから仕方がない。男の時の感性なら思わず二度見するくらいには可愛いと思う。そしてその自覚は、自信を与えてくれる。

 ――それじゃあリビングで待ってるトラにお披露目してやるか。

 

◇◆◇

 

 階段を下りてリビングの扉の前で立ち止まる。念のため、もう一度確認だ。

 髪は……サラサラ艶々、枝毛も見当たらないし問題なし!

 服は……白地に黒のオフショルボーダーニットに白のギャザースカート。これはリベンジということで同じ服を選んだ。特におかしなところなし……ヨシ!

 緊張で早くなっていく鼓動を鎮めるように深呼吸する。細く長く吐いて、続けて腹の奥まで息を入れ直す。それを何度か繰り返して落ち着いたところで、リビングのドアノブに手をかけた。

 

「待たせたな」

 

 ――できるだけ自然に、いつものように。

 トラは飛び跳ねるようにソファーから立ち上がり、こちらを向いた。

 視線は、頭の上から足の先まで、そして今度は足先から顔へと、そして俺の目を正面に捕らえた。

 

「好きだ!」

 

「なっ!?」

 

 完全に想定外の言葉を浴びて驚く。しかし、なぜかトラも慌てた様子で言葉を続けた。

 

「あっ!? 違っ!! いや違わないけど!! えと――綺麗! 可愛い! 最高!!」

 

 トラは言われた俺より顔を真っ赤にして、それだけ言ったあとに手で顔を覆っていた。

 

「やらかした……」

 

 トラの様子を見るに、言葉選びより先に感情が漏れ出てしまった、というところだろうか。

 それに気づき、慌てて取り繕うように出た言葉が「綺麗」「可愛い」「最高」だったのだろう。本来なら嬉しいであろうその言葉も全然響かなかった。まさか同じ言葉でも感情が籠もっていないと、ここまで陳腐に感じるものだとはな。

 

 だけど俺の姿を見て漏れ出た言葉が「好き」なら、それらはどうでもいいことのように思えた。

 

「うん、ありがとう」

 

 それに、トラのおかげで緊張はほぐれた。緊張してるのは自分だけじゃないことも分かって、肩の力が抜けた。 

 

「ほらトラ、リベンジだ」

 

 顔を覆うトラの腕を引っ張り、もう一度、全身が見えるようにトラの前でくるりと回って見せた。

 

「どうだ?」

 

 トラがゴクリと唾を飲んだのが分かった。

 

「透明感があって、涼しげで――それに」

 

 トラはそこで言い淀んだ。躊躇うように口元をもじもじとさせ、言いにくいように見えた。

 

「それに?」

 

 だから俺は促した。 

 そうするとトラは決意を固めたようで、一息ついて言葉を発した。

 

「――最高に綺麗で可愛くて、好きだ!」

 

 思わず苦笑した。

 

「さっきと同じじゃねーか」

 

 ついさっき聞いたばかりの単語の羅列、同じ言葉。思わずツッコんだけど、さっきとは全く違っていた。感情が、気持ちが籠もっていた。語彙が少ないのは……まあ、トラらしくて良い。

 

「まあでも、気に入ってもらえたみたいで良かった。それじゃあ――行こうか」

 

「……うん、行こう」

 

 今日こそしっかりデートする。―そして今度こそ、勇気を出す。

 

◇◆◇

 

 事前に天気予報を見て決めたので見事に快晴で、とても良い天気だ。

 デートのリベンジ1箇所目。まずはアミューズメント施設(ゲームセンター)へと向かっている。

 

 今俺が着ているのは学校の制服でもなければ、いつものような色気の欠片もない私服でもない。気合の入った勝負服、誰が見ても俺とトラはデート中の恋人同士に見えるはずだ。

 だからだろうか、何度もトラと一緒に乗った電車のはずなのに、新鮮に感じて、風景が全く違っていた。俺の目にはトラだけしか入ってないからだ。そしてそれはトラも同じようで、ずっとトラの視線を感じていた。

 

 駅で降りて、目的地のある大型のショッピングモールへと向かった。ここの最上階にプラネタリウムとゲームセンターがある。

 

 ゲームセンターに着くと、遊ぶゲームを物色した。

 流行りの体感ゲームや音ゲーを一通り見て回り、二人同時に遊べる、刑事が銃で撃ちまくるゲームを遊ぶことに決めた。

 

「昔はこういうゲーム結構やってたんだよな~」

 

「僕は初めてだよ。――へー、このゲーム隠れられるんだ」

 

「そうそう、危なくなったらちゃんと隠れとけよ。俺が全部倒してやるからな」

 

「――そんなこと言われたら、隠れられない気がする」

 

 ゲームが始まると順調に進んだ。トラは途中で一人やられてしまったけど、それからは慎重に動いて慣れてきたようだ。

 1面のボスまで来た時には、俺も一人やられていて、お互い残機は2機。

 

「隠れろッ!」

「う、うん!」

 

 だんだんと息が合ってきて、1面ボスも一人ずつやられて倒すことができた。

 そのあと、2面途中で俺もトラもやられてしまったけど、夢中になるくらい楽しかった。

 

「面白いねこれ」

 

「そうだな~。初めて2人同時やったけど、ここまで面白いとは思わなかったよ。……トラ」

 

 右手を上げると、察してトラも手を上げ、ハイタッチを交わした。

 テンションが上がった俺たちはそのまま二人同時に遊べるゲームをいくつか遊んだ。

 周りからはバカップルが騒いでいる、と思われたかもしれないけど、そんなの構うものか。奇声をあげたり暴れてるわけでもないしな。

 

 ただ本当に楽しかった。家で二人でやるゲームと違い、体感ゲームというやつは身体を動かすからか、ゲームセンターという空間だからか、特別な感じがした。

 

◇◆◇

 

「そろそろお昼にしようか」

 

 トラにそう言われて時間を確認すると、12時を少し過ぎていた。

 

「しまったな、少し早めに行こうと思ってたのに。これじゃ並ぶぞ~」

 

 予定では少し早めに店に入るつもりだった。大型ショッピングモールの飲食店は、お昼の時間になるとどこも行列ができるからだ。

 

「僕は別に並んでもいいけどね」

 

「……トラがそういうならいいけど」

 

 当初入る予定だった店の前まで行くと、そこには既に長い行列ができていた。

 

「バイキング形式の店って人気あるからなぁ。並ぶか?」

 

「うん、並ぼう」

 

「……しょうがない、並ぶかあ」

 

 というわけで最後尾に並び、それから30分ほどが経ってやっと順番が回ってきた。

 

「やっとだね」

 

「あ、だな。思い出したらお腹減ってきた~」

 

 お腹を押さえてそう言うと、トラがそんな俺を慈しむような目で見ていた。それに気づくとなんだか恥ずかしくなってくる。やめろ、そんな目で俺を見るんじゃない。

 

「な、なんだよ」

 

「いや、可愛いなって」

 

「!?」

 

 こいつサラリと言いやがった。恥ずかしげもなく。むしろ、言われた俺のほうが恥ずかしいくらいだ。

 

「――い、いいから先いけ。店員さん待ってるだろ」

 

 そう言ってトラを先に行かせ、俺はその後をついていった。今はあんまり顔を見られたくない。きっと頬が紅くなっているはずだからだ。

 席について店員さんから説明を受けた後、食事を取りにそそくさと席を立った。

 

 おかしい。今日はなんだか感情の上がり幅が大きい気がする。

 デートだからというだけでそう感じるのか。

 電車に乗ってる時もいつもと違っていた。そういえば、ここで待ってる時間もあまり苦じゃなかった。トラと話しているだけで時間の感覚が消えた。そういえばゲームセンターで遊んでいる時もそうだ、てっきりテンションが上がっていたからだと思っていたけれど、多分それだけじゃない。トラと一緒だったからだ。

 

 こんな風に考えているだけで鼓動が早くなっている。俺の心の女がトラを求めて、期待しているのが分かる。

 

 ――だけど、まだ早い。

 せめてお昼から回る予定の店を回り終わる、それくらいの時間の猶予が欲しい。

 まだ俺の気持ちが、勇気が足りなくて、決意が固まっていないというのに。

 

 トラに応えてしまうということは、それはつまり、今までのような関係じゃいられなくなるということだ。本当の意味で、男と女になるということだ。

 それすら本当は答えが出ている。だけど、答えを伝えるには何かが足りない。それがトラの一押しか、自分の変化か、何が必要なのか、それすら分からない。

 

「何か考え事?」

 

 不意にトラに声をかけられて我に帰る。

 

「ん。――ああいや、何食べようかな、って」

 

「これ美味しそうだよ」

 

「あ、本当だ。一つ貰おうかな」

 

 とりあえず考えるのは後回しにして、今はこの時間を楽しむとしよう。折角のデートなのだから。

 

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