Confidential Girl ―TSして女の子になった俺と、懐いてた少年との新しい日常―   作:エイジアモン

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「そろそろ時間だし、出ようか」

 

「え、もうそんな時間? ――あれ、ほんとだ」

 

 時計を見たらランチタイムの制限時間60分が迫っていて、慌ててすっかり冷めてしまったカフェラテを飲み干した。

 俺が飲み干すのを見届けたあと、席を立ったトラがレジへと向かう。

 

 ――それにしても、思っていたよりも遥かに楽しい食事の時間を過ごせた。

 割高だけど、バイキング形式のお店を選んで良かったと思う。

 

 好きなものを選んで食べられるのは勿論のこと、自分が取ってきて美味しかったものをトラに勧めたり、逆にトラが勧めるものを俺が食べたりするのは、数ある料理から美味しいものを探す楽しみがあった。

 最後の方はデザートをゆっくり食べながら、騒がしい周囲を余所に二人だけの静かな時間を過ごした。

 

 家では毎日一緒のテーブルでご飯を食べているはずなのに、外で食べるという行為は特別だと感じた。持ってきた料理について感想を言い合うことや、そういう行為には胸が踊り、言葉を交わすと心が弾んで、時間を忘れるほど、あっという間だった。

 

 トラが会計を済ませている間に先に店から出ると、表にはまだ長い列があった。

 俺たちが店に入る前よりは短いと思うけど、1時半をすぎてもこんな列ができるなんて、食べた料理の美味しさに納得だった。

 

◇◆◇

 

 昼からは小物や雑貨の店を中心に見て回ることになっている。

 といっても、ほとんど冷やかしのようなものだ。

 なぜかというと、俺はまだ女の子の小物や雑貨に対する感性が育ってないからか、いわゆる女の子に人気のデザインやキャラ物がいまいちピンとこない。可愛いと言われれば可愛いかもしれないな。とそんな程度に思えてしまう。

 

 そういう意味ではトラが手に取る雑貨なんかに対して頷く感性のほうが強い。というより、トラが見たいもののほうが興味がある、のほうが正解に近いか。

 だからもっぱらトラに付いていって、一緒に眺めているばかりだ。

 

「何か気に入ったものありそう?」

 

「俺? ……うーん、特にないなあ。小物ってまだよく分かんなくて」

 

「そうなんだね……」

 

 応えると、トラは手にしていたコースターを棚に戻し、顎に手をやって考える仕草をした。

 ――しまった。今の受け答えじゃあ「楽しくない」という風にとられかねない。勘違いしてもらっては困るけど、トラと一緒に見て回るだけでも十分に楽しんでいるんだから。

 

「でもあれだ。ついてくだけでも楽しいぞ。トラの好みとかが分かるからな」

 

 慌てて取り繕うようにフォローを入れる。それにトラが興味深そうにしているのを見るほうが幸せな気持ちになれるからな。

 

「……そう? うーん、まあそれなら良いけど……気になるものがあったら遠慮なく言ってね」

 

「ああ、気になるものがあったらな」

 

 そんな感じで店を一通り回ったけど、特に目ぼしいものは見当たらず、俺は結局手ぶらのままだった。だけどトラには欲しいものが見つかったみたいで、俺を表で待たせて会計を済ませていた。

 

「何買ったんだ?」

 

「んー、まーそれはまた後で、ね」

 

 トラは俺から隠すようにバッグに入れて、それ以上は話題にしたくないようだった。

 言いたくないようなら詮索するつもりもないし、俺もそれには触れないようにするつもりだ。必要以上に踏み込むのも良くないだろうし。

 

◇◆◇

 

 それからもお店を見て回り、最後にショッピングモール内にあるカフェに入った。ここはパフェが売りのようで、パフェだけでメニュー数が20以上もある店。

 ここではそれぞれで好みのパフェを頼み、それを分け合って食べるつもりだ。今はメニューとパフェの写真を見比べ、美味しそうなパフェを選んでいるところ。

 

「――あ」

 

 ページをめくるとそこにはひときわ大きな写真が乗っていて、とても美味しそうなパフェが目に留まった。パフェの名は「フルーツ大盛りカップルパフェ」。紹介文によると他のパフェより大きく、カップルにオススメ! ということらしい。

 

 ――これ、食べたい!

 女の子になってからというもの、以前より甘いものが大好物になってしまっていた。コーヒーなんかもブラックよりミルクやはちみつなんかを入れて苦みを柔らかく、甘みを強くしてから飲むようになった。おかげでコーヒーはいつもカフェオレかカフェラテばかりだ。

 

 そして写真を見る限り、いちごやバナナ、キウイやパイナップルにシャインマスカットなどの様々なフルーツが入っていて、さらに生クリームも大ボリュームだ。これは絶対に甘くて美味しいはず。

 それよりなにより、一つのパフェを二人で食べるということは、それはつまり、お互いに食べさせ合うということになるだろうということだ。

 元々パフェは分け合って食べるつもりだったけど、それが一つの同じパフェから、ということのほうが気分的にももっと良いような気がする。

 

「何か食べたいのあった?」

 

「あ、うん。トラは?」

 

 俺が食べたいパフェは見つかった。でも先にそれを言ってしまったらトラのことだ、気を使って自分が食べたいパフェを我慢してしまいそうだ。そう思ったから、先にトラの意見を聞きたかった。

 

「うん……決まったけど……悠木が先に言ってよ」

 

「俺はトラのを聞きたいの! トラが先に言って! 俺はその後に言うから」

 

 フルーツ大盛りカップルパフェは食べたい。――だけどトラが食べたいと思うパフェを止めさせてまで食べたいわけじゃない。そりゃあ二人で食べたならそれだけできっと美味しいだろうけど、トラの意志が優先だ。

 

 強く念押しすると観念したのか、トラはメニューを机の上に広げて、一つのパフェを指差した。

 

「これ……一緒に食べたい……」

 

 指差されたソレは、俺が食べたいと思っていた「フルーツ大盛りカップルパフェ」だった。

 

「トラ……」

 

「あ、他に食べたいのがあるなら、別の選ぶから大丈――」

 

「それ、一緒に食べたいと思ってた!」

 

 トラと目が合い微笑むと、少し恥ずかしそうに顔を紅くしながらも、トラは嬉しそうにはにかんだ。

 俺も顔には出していないはずだけど、心の中では飛び跳ねていた。自分だけが同じパフェを食べたいと思っていたわけじゃなく、トラも同じ気持ちだったことが分かって、ドキドキして、嬉しかった。

 

「じゃ、じゃあ頼むね」

 

「うん……」

 

 トラが店員さんを呼んで、「フルーツ大盛りカップルパフェ」を頼んだ。

 パフェが出てくるまでの間に周りを見回してみると、恋人同士と思われる男女カップル以外にも女の子同士の組み合わせが多く、逆に男同士は一組もいなかった。

 

「やっぱり男同士はいないな」

 

「そりゃそうだよ……」

 

 男同士や男一人でこんなところに入るのは相当な勇気が必要だろう、以前の俺には無理だ。

 だけど、今の俺なら、トラと一緒なら。

 

「まあ俺も、こういうところに来るなんて思ってもいなかったけど」

 

「だけどこれからはもっと増えると思うよ。――僕だけじゃなくて、猪原(いはら)さんとかともね」

 

「あー、そっか。女の子同士だと増えるな多分。……だけどまあ、トラと来るのとは意味が違うだろ。デートじゃなくて遊びだからな」

 

「そうだね。猪原さんとデートなら、僕が困っちゃうよ」

 

「バーカ、俺にはその気はねーから安心しろ」

 

◇◆◇

 

 そんな他愛もないやりとりをしているうちに、お目当ての「フルーツ大盛りカップルパフェ」が登場した。

 

「思ったより大きいな……」

 

「残しても大丈夫だよ、僕が食べるから」

 

「頼りにしてるぞ、っと」

 

 まずはパフェの頂上に鎮座する、大きないちごを手に取ってトラの口元へ運んだ。

 

「はい、あーん」

 

「え! 僕から!? あ、あ~ん」

 

 トラは照れながらも目を閉じて口を大きく開けた。緊張に震える唇の隙間へいちごを入れ、唇に触れないよう気をつけて、そっと押した。

 

「うん、甘酸っぱくて美味しい!」

 

 トラの喜びの表情は俺にも伝播する。勝手に頬が緩む。

 

「そりゃ良かった。じゃあ次だ、ホレホレ」

 

 そう言ってスプーンに生クリームとシャインマスカットをすくおうとすると、トラが言った。

 

「何言ってんの! 次は悠木だよ! ホラ!」

 

 負けじとトラもスプーンですくい、俺の口元へとキウイを寄せてきた。

 

「へへ、あ~ん」

 

 テンションが上がってるのが自分でも分かる。そのトラの行為が嬉しくて自分から口を開き、トラを待つ。すぐにトラのスプーンが差し込まれ、そのままキウイと生クリームを口内に収めた。

 

「あ、生クリームうんま! ほら、トラも!」

 

 こうして、食べさせ合い、時には食べさせる振りをして自分で食べたりして、大きなパフェの器半分ほど食べたところで、お腹がいっぱいになった。

 

「ごめん、そろそろ腹いっぱいだ……」

 

「お昼も結構食べたからね……。大丈夫、僕はまだまだ余裕だし残りは食べるよ」

 

「うん、頼む……。あ!」

 

 トラのほっぺたに生クリームが付いていたのを見つけた俺は、人差し指でソレをすくって自分の口に運んだ。

 

「これで最後!」

 

「あっ!?」

 

「ごちそうさま。後はよろしく!」

 

 後は一人で、黙々と、だけど嬉しそうに最後まで食べるトラを眺めて過ごした。そしてそんなスプーンを動かすトラを見ているだけで、胸の奥が静かに満たされていった。

 

 ――そしてその時間は、俺にとって踏み込む決意を固めるには十分な時間だった。

 

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