Confidential Girl ―TSして女の子になった俺と、懐いてた少年との新しい日常― 作:エイジアモン
「は~っ、今更だけど少しだけ気が重いな。別に大丈夫だよな? な、トラ?」
始業式の翌日、今日から本格的に高校生活が始まる。俺とトラは昨日と同じ様に桜が舞い散る学校前の道路を歩いていた。
俺は昨日、あれから冷静になって後悔していた。後から思い出して頭を抱える事は男の頃からもよくある事だった。冷静に考えれば高校初日なんだからおとなしくして、誘われても適当な理由をつけて断っておけば良かったはずだ。せっかく普通の女子高生としておとなしく過ごそうと思っていたはずなのに、余計な事をやってしまった。
男子に誘われたのだって、本当にただ俺と仲良くなりたかっただけかも知れないじゃないか。――いや仮にそうだとしても、男から言い寄られるのはやっぱりまだ慣れないし、無理だ。
どちらにせよ、昨日の俺の態度は不味いよなあ。初日からあれじゃクラスから浮くだろうし。
「大丈夫ですよ、何度も言ってるじゃないですか。気にしすぎですって」
トラはあっけらかんと言ってくれるけど、いじめとか嫌がらせとか、面倒なのは嫌だなあ。
それに――
「トラを連れ出してしまったし、今日も一緒に登校してるし、お前がなんか言われるんじゃないかと心配だよ」
「その話なら心配いりませんよ。考えてありますから、悠木は僕に合わせて下さいね」
気落ちしてる俺と自信満々で何も気にして無さそうなトラ、対照的な俺たちは一緒に校門をくぐるのだった。
◇◆◇
教室の扉の前で思わず立ち止まる。扉に手を掛ける前に一度深呼吸だ。息を大きく吸って、吐いて~とやっていたら、トラが無造作に扉を開け、教室へ入るのを見て、俺も後をついて行くように入っていった。
視線が集まる。すでに7割くらいのクラスメイトは来ていて、そのうちの半分くらいの視線だ。
そこから少しざわつき、「――一緒に来た」「――マジかよ」「やっぱり――」などなど、小声で囁くのが耳に入る。その意味合いはポジティブな事ではなさそうだ。
俺とトラは無言で席に着くと、男子が1人――たしかあの子はトラの友達の
「ようトラ」
「シュウか、おはよう」
気安そうに鳥野くんがトラの肩に手を掛けて続けた。
「ちょ~っと聞きたい事あるんだけど? お前あの可愛い娘とどういう関係なの?」
「ああ、悠木の事? あの娘は――」
「――”悠木”ぃぃ!? お前が名前を呼び捨てなんて、まさかトラお前!?」
鳥野くんはトラの肩から手を離し、大げさに驚いた。
ああ、確かに男子が女子の、しかも名字じゃなくて名前を呼び捨てにしたらそう思っても不思議じゃないか。まあ、思春期の君等が思うような関係じゃなくて残念だけどね。
「違うって! シュウが思うようなのじゃないから!! ――シュウは僕がこの春から北条おじさんの家にご厄介になってるのは知ってるだろ?」
「言ってたな、おばさんが――あ~、まあ、色々あって今はおじさんの家に居候してるんだっけ? ――ん? 北条?」
鳥野くんはそこまで言って顎に手を添え、何かに気付いたように顔を上げた。
「え!? 北条さんって、まさか!?」
すかさずトラが合わせた。
「そう! 悠木は北条おじさんの親戚で、僕と同じ様に登校の都合でこの春からおじさんの家に居候してるんだ」
「なるほどなあ! 同じ北条だから名前で呼んでるってことか!? ――でも呼び捨ては」
「おじさんの親戚だから小さい頃から知ってて、幼馴染みたいなもんだからさ! 呼び捨てで馴染んでるんだよ!」
おや、呼び捨てのところの説明、トラはやけに慌ててないか? 昔から知ってるのはそりゃその通りなんだが……まあいいか。
「へえ、――で、トラ。北条さんは前からあんな感じなのか?」
「前から?」
今度はトラが顎をさすった。何に対しての”前から”か考えているようだ。
すると鳥野くんがトラの耳元で何か囁いた。
「ほら、”俺”とか、落ち着いてたり、気の強そうなところとか――」
「ああ! それなら前からだね。――でも、凄く良い人だよ。僕が保証する」
またしてもトラの肩に手をやり、頷きながら鳥野くんは応えた。
「――まあ、トラがそういうのならそうなんだろうな」
そのまま鳥野くんは俺の席までやってきた。一体なんだろう。
何が”前から”あんな感じなんだろうか、気になるぞ。
「初めまして北条さん、オレはトラの親友の鳥野秀司、よろしく」
そう言って握手を求めるように手を差し出してきた。
……トラの親友だしな、邪険に扱うのも悪いか。――そもそも何もされてないのに邪険に扱っちゃダメだな、クラスメイトなんだし。
「俺は北条悠木、こちらこそよろしく」
こちらも手を差し出し、鳥野くんと握手を交わした。
「こんな美少女とクラスメイトなんて嬉しいなあ。今日は良い日だ」
「は、はあ……」
――び、美少女!? 何を言ってるんだコイツは。本物の女の子たちが他にいるだろうに。
でもトラの親友だし、ただの女好きじゃないとは思いたいが…というか、いい加減手を離せ。
「そろそろ手……離してくんない?」
「ああゴメンゴメン、ちょっと北条さんに見とれてて」
鳥野くんは慌てて手を離し、言いながら俺に微笑みかけた。
――おいやめろ。俺にその気はない。
というかコイツ、自分がモテる側の人種だって分かっててやってやがる。――まあその身長にその顔でバレー部だ、そりゃモテるだろうよ。だがトラの親友なら少しはトラを見習え。
◇◆◇
その後は先生が表れてホームルームが始まった。
その時には、教室に入る時に感じた視線やトゲトゲしい空気はなく、嫌な感じはなくなっていた。
今思えばトラと鳥野くんの会話は声量が大きく、クラス全体に聞こえるようにしていた気がする。
――トラだけならありえると思うが、鳥野くんも、となるとただあいつの声がデカいだけのような気がしてきた。
まあどちらにしろ、結果的に誤解のないように俺に変わって弁解する事が出来た、という事になるのか。まあ、伊達にトラの親友じゃないって事か。見直してやるか。
休憩の時間となり、昨日放課後に俺を誘った女子グループが声を掛けてきた。
「北条さん、昨日はゴメンね。無理に誘っちゃったみたいで」
「ううん、気にしないで。俺もちゃんと説明出来なかったのが悪いし」
「あの……あ、うん、なんでもない、また今度誘うね」
「ん? うん、またね」
最後に何か言いたげで、でもそれを引っ込めた。そんな風に感じた。まだ何かわだかまりが残っている、そんな感じなんだろうか。
まあ、すぐに雪解け、ってわけにも行かないか。
◇◆◇
そして放課後、荷物をまとめてトラに声をかけた。
「トラ、そろそろ帰ろうか」
「ゴメン悠木! ちょっとシュウとバレー部見に行く事になっちゃって、すぐに終わるからちょっと待って――いや、一緒に付き合ってよ」
両手を合わせて謝るトラ。まあ、それくらいなら構わないけど。でもあれ?
「あれ? バレー部入らないって言ってなかった? 別について行くのはいいけど」
「うん、そのつもりなんだけどね、シュウがどうしてもって言うから、見学だけ付き合う事にしたんだ」
なるほど、犯人は鳥野くんか。――トラがバレー部に入るのは別に構わないんだけど、無理やりは良くないなあ。
そう思っていると、鳥野くんはトラと肩を組み、親指を立ててサムズアップした。
「悪いね北条さん、どうしてもトラと一緒にバレーやりたくてさ。 ――あ! 良かったら北条さんバレー部のマネージャとかどう? 北条さんがマネージャやってくれたらインターハイ優勝出来る気がするなあ! な! トラ?」
俺に向けて満面の微笑みを向ける。他の女子には多少は効くかも知れないけど、俺には全く効かんぞ!
「それは分かんないけど、僕は入る気ないからな!」
「はいはい! 良いから見学に行こうぜ、なあ相棒!」
「お前こういう時だけ相棒とか言うよな……。入らないからな!」
そうやって、半ば強引に鳥野くんがトラを連れて行くのをついて行くのだった。
ただ、体育館でバレー部の練習を見学するトラは、目がキラキラと輝いていて、それまでの気持ちがグラついているように見えた。
なぜバレー部に入りたくないのか分からないけど、バレー部、良いんじゃない?
目標に打ち込む若者って、おじさんにはまっすぐ過ぎて、眩し過ぎて、まるで尊いものを見ているみたいに感じる。もしトラがやるとするなら、今の182センチの身長が順調に伸びて190センチくらいまで伸びて、エースになったりしたら良いよなあ。 ――ちょっと見てみたい気もする。
バレー部の見学が終わってからの帰り、バレー部への入部について、トラは真剣に悩んでいるようだった。
――こういう時こそ、年長者であるおじさんの出番ではなかろうか。学校では助けてもらったわけだし、これくらいはトラの助けになりたいと思う。
よし、晩ごはんを食べ終わったくらいに話すとしよう。
そういえば、鳥野くんがバレー部のキャプテンにオススメしたせいで俺もバレー部マネージャに誘われたけど、丁寧に断った。まあ理由は色々あるけど、炊事洗濯をしないといけないのでな。マネージャまでやる余裕はないんだ。そんな柄でもないしな。
――さて、トラには少し気分転換に付き合ってもらうか。
悩みながら歩くトラの背中を叩き、声を掛けた。
「おいトラ、悩みすぎは良くないぞ! ――さて、今からスーパー行くけどさ、今晩は何食べたい? 今日はトラの好きなものを作ってやるから遠慮するなよ」