ポケモン牧場物語 再会のミネラルタウン   作:ゲーマーN

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1年目 春の月
1日 ようこそ! ミネラルタウンへ!


 ポケットモンスター、縮めてポケモン。この星の不思議な不思議な生き物。空に、海に、森に、街に、世界中の至るところでその姿を見ることができる。

 そしてこの青年、ポケモントレーナーのハルト。旅の疲れを癒すため、故郷マサラタウンで悠々自適な日々を過ごしていた彼のもとに、ある日、一通の手紙が届く。その送り主は、ミネラルタウンの町長を名乗る人物だった。

 

「……ミネラルタウン、か」

 

 手紙を読んだ後、ハルトはすぐに荷物をまとめた。腰のベルトに6つのモンスターボール、翼を持つ卵の意匠が施されたカバンを肩にかけ、上着の内ポケットにはポケモン図鑑。最後にキャップ帽を頭に被り、久しぶりの完全装備でマサラタウンから旅に出る。

 ミネラルタウン――祖父が牧場を運営していた町へ。これが、今生における本当の物語の始まりだとは、この時のハルトには知る由もなかった。

 

 

 

 ――ミネラルタウン 祖父の牧場

 

 祖父の牧場は、かつての面影もないほどに荒れ果てていた。雑草、石、枝、さらには大きな岩に切り株まで――どうしてこうなったのか、と思わずにはいられない酷い有様だった。呆然と敷地内を見渡していたハルトの傍に、やけに縦長の赤い帽子を被った小柄な男性が歩み寄ってくる。

 

「やあ、ハルトくんだね?」

 

「そうですけど……あなたは?」

 

「私は、このミネラルタウンの町長をしているトーマスだよ」

 

 トーマスは一度、昔の記憶を辿るように牧場を見つめてから、言葉を継いだ。

 

「どうだね? ここが君のおじいさんが残した牧場だよ。しばらく、誰も手入れしていなかったから、かなり荒れているがね……」

 

 そう口にするトーマスの表情には、どこか寂しげな陰があった。以前は作物が豊かに実り、牧草が一面に広がり、メリープやミルタンクなどの家畜ポケモンが育てられていた祖父の牧場。幼い頃に訪れた記憶をおぼろげながら覚えているハルトにも、その喪失を悔やむ彼の胸中が少しだけ理解できた。

 

「覚えているかね? 君がまだ子供だった頃、夏休みにこの牧場で過ごした日のことを……」

 

 草の香り、太陽の光、遠くで聞こえたポケモンたちの声――ハルトは、あの夏の日々をゆっくりと思い出していく。

 

 

 

 ――過去

 

「すまない、ハルト。夏休みのジョウト地方旅行はキャンセルだ。どうしても仕事の都合がつかなくてな……前から約束していたことだが、どうしても外せない大事な仕事なんだ」

 

 昔から、ハルトの父は忙しい人だった。テレポートを使えるポケモン――例えば、ケーシィがいれば少しは楽だったのだろうが、そうしたポケモンはすぐに逃げる習性がある。トレーナーを本職としていないハルトの父が、そんな捕獲の難しいポケモンを仲間にしているはずもなかった。

 

「ハルト、今回は我慢してくれ。父さんも忙しいんだ。……また、埋め合わせはするから……」

 

「ごめんね、ハルト。わかってちょうだい……」

 

 これが何度目かの生ということもあり、幼い頃から物分かりのよい子供だったハルト。そんな、滅多に我が儘を言わない息子の願いを叶えてやれないのが心苦しいのか、両親ともに申し訳なさそうな顔をしていた。仕事ならば仕方がないとハルトの大人の部分は納得しつつ――けれども、心の奥底では落胆し、悲しさを覚えていたのもまた事実だった。

 

「その代わり、おじいちゃんのところの牧場で遊ばせてもらえるように頼んでおいたから」

 

「おじいちゃんの……?」

 

「ええ。牧場は、ジョウト地方にあるから、向こうのポケモンとも触れ合えるわ」

 

 そうして、ミネラルタウンにやって来た幼いハルトを迎えてくれたのが、よく育てられたウインディを連れた祖父だった。

 

「おー、よく来たのぅ。ハルト、わしを覚えとるか? じいちゃんだぞ。こんな田舎で何も無いがのぅ……まぁ、ゆっくりしていきなさい」

 

「うん!」

 

「ただのぅ……わしは牧場の仕事で手一杯での。あまり相手はしてやれんが、町には同い年くらいの子供たちもおるから、一緒に遊ぶとええ。牧場のポケモンたちと遊んでもええがの」

 

 ミルタンクの乳搾りを手伝い、ギャロップの逞しい背に跨って牧草地を駆け抜け、山道では縄張りを荒らしたと勘違いしたオニドリルに追い回され、川や海で釣りをしてはコイキングばかり引っかけて――そんな日々を、幼いハルトはとことんまで遊び尽くした。

 そして――

 

「ハルト……?」

 

 

 

 ――現在

 

「……あれから、君も20歳を越えて、立派な大人に成長したようだね」

 

 ふと、遠くから聞こえたトーマスの声に、幼い日の記憶に沈んでいた意識が引き戻される。

 

「おじいさんは、この牧場をとても愛していたからね。孫の君が、牧場を継いでくれることになったらとても喜ぶだろう……どうだろう、君がよければ牧場主をやってみないかい?」

 

「牧場主……」

 

 ポケモントレーナーとして歩んだ日々に未練がないわけではないが、数多くの経験を経て、一区切りはついた。今後旅をしづらくなるという難点はあるものの――それでも、新しい生き方として悪くない気がする。

 

「……分かりました。その話、受けさせていただきます」

 

「それはよかった! 私としても、君がこの町の住人になってくれることは大歓迎だよ」

 

 トーマスは嬉しそうに目尻を下げ、満面の笑みで頷いてみせた。彼の瞳の奥には、親しかった友の面影と、その孫を見守る落ち着いた年長者の優しさが、穏やかに宿っている。

 

「君がここを継ぐとなれば、新しい牧場の名前を付けたらどうだろう?」

 

『チームの名前は……えーと、まだ決めてなかったね。ねえ、ハルト。どんな名前がいい?』

 

 名付け――そんな、ごく普通の行為が、本当に、本当に古い記憶を呼び起こす。遠い昔の出来事だというのに、それこそ、まるで昨日のことのように鮮明に。次の瞬間には、ぽつりと、殆ど無意識のうちにその名前を口にしていた。

 

「アーカイブス……」

 

「アーカイブ? 記録……いや、ここでは思い出かな? アーカイブ牧場か、いい名前だね」

 

 一般に「保存記録」を意味する単語。おそらく、祖父との思い出として受け取ったのだろう。うんうんと納得したように頷いたトーマスは、真っ直ぐにハルトを見つめ、期待を込めて力強く激励の言葉を贈った。

 

「牧場の仕事も大変だが、しっかり頑張っておじいさんに負けない立派な牧場主になってくれ!」

 

「はい!」

 

「今日は、この町までの長旅で疲れたろう。ゆっくり休むといい。それじゃあ、私は帰るよ」

 

 明日から、新しい生活が始まることになる。ポケモントレーナーとして世界中を駆け抜けた波乱万丈な旅路とは異なる、土地に根ざし、のんびりとした時間を刻んでいくような生活が。これからの日々への一抹の不安と、未知の領域に踏み出すことへの僅かな期待を感じつつ、ハルトは大きく深呼吸をする。懐かしい風の匂いが鼻孔をくすぐった。




【オープニングテーマ:Ready Go!】ポケットモンスター ジョウト編より
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