ポケモン牧場物語 再会のミネラルタウン   作:ゲーマーN

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3日② アルテは なまけている

 ――マザーズヒル*1

 

 同じ場所でも、朝と夜とでは全く別の顔を見せるものだ。昨日は夜の暗がりの中で静かに湧き立つ湯煙が幻想的だったが、今日は燦々と降り注ぐ陽光の下に緑豊かな風景が広がっている。鬱蒼と生い茂る草木、川や滝の織り成す水音、ポケモンたちの鳴き声――どれもが鮮やかで、何より生命力に満ち溢れていた。

 

「⋯⋯見つけた」

 

「ふわぁ……いい天気ですねぇ……」

 

 温泉の傍、泉の前で大きな欠伸をする少女が一人。アルテだ。金糸のごとき髪を靡かせ、倦怠感を帯びた眼差しで滝を眺めていた。白のワンピースには黄色いエプロンが掛けられ、胸の下には赤いリボンが結ばれている。3つあるポケットのうち右手側には何本もの筆が差してあり、使ってそのまま戻したのか、底の部分には絵の具の痕が残っていた。

 

「アルテ」

 

「⋯⋯おや、ようやく来ましたか。まったく、この天才美少女アルテ様を待たせるとは――随分といい身分になったものですね」

 

「ごめんごめん。ちょっと君のお兄さんと話していたら、遅くなっちゃってね」

 

「リックと、ですか。⋯⋯なるほど、私を連れ戻すようにとでも頼まれましたか?」

 

 流石の洞察力だ、と心中で賛辞を送る。ただの勘なのか、はたまた兄の性格を熟知した上での推測なのか――いずれにせよ鋭い感性を備えていることに違いはない。傲慢かつ尊大に他人と接するが、それに見合う能力を持ち、さらに相手はきちんと選んでいるのをハルトはよく知っている。

 何せ、アルテも前世以前からの仲間の一人。伝説のポケモンの固有技すらも”スケッチ”で写し取るほどの才覚を持つ、天才藝術家のドーブル娘――それが今までの生における彼女だった。

 

「正解。⋯⋯相変わらず、よく寝ているみたいだね?」

 

「ええ。とはいえ、よくお昼寝をしているのは怠けているからじゃありません。ゆっくり休むことで、天才美少女藝術家としての英気を養っているんですよ。あなたなら当然、そんなことは分かっていますよね?」

 

 彼女の持論は一見突飛に聞こえるかもしれないが、なまけないケッキングを知るハルトとしては否定し難いものがある。

 

 ケッキングの特性は”なまけ”。高い能力と引き換えに連続行動できないという欠点を抱えるのだが、ホウエン地方のジムリーダー・センリのケッキングは一味も二味も違う。センリ曰く――「バトル以外の時間に怠けて、バトル中は怠けないだけ」という、無茶苦茶な理屈で特性の欠点を克服し、当然のように猛攻を仕掛けてきたのである。

 

 あのケッキングがバトルのためにエネルギーを溜めているように、アルテのぐうたらもいざという時のための充電期間なのだと考えれば納得できる。尤も、彼女の場合は単に趣味で惰眠を貪っているだけかもしれないので、これが正しいとは言い切れないが⋯⋯。

 

「――もちろん。いったい、どれだけの付き合いだと?」

 

 少なくとも、一片の逡巡もなくそう肯定してしまえるほどには長い付き合いだった。期待通りの答えを得たアルテは満足げに笑みを浮かべ、ふと思い出したように両腕を組みながら続ける。

 

「それにしても⋯⋯やはり、この町に来ましたか」

 

「やはりって?」

 

「この町には、かつての記憶を持つ元ポケモンが5人――いえ、あの恋人面を含めれば6人もいますからね。なので、あなたもいずれ来るだろうとずっと考えていたんですよ」

 

 6人――この町で再会した旧友は既に4人。5人目には心当たりがあり、そして6人目――アルテが『恋人面』などと揶揄する知り合いは一人しかいない。となれば、最後の一人についても自ずと予想がついた。他の町や地方でも元ポケモンの仲間たちと再会することはあったが、一つの町に6人も集中しているのは前例がなく、そこに何者かの意図を感じずにはいられない。

 

「でもまぁ、こんなに待たされるとは思ってもみませんでしたが」

 

「それはその⋯⋯いろいろあってね。でも、埋め合わせはする。なんでも言ってみてほしい」

 

「今、『なんでも』って言いましたか? それならステーキ一年分でいいですよ」

 

「ステーキ一年分かぁ⋯⋯それくらいなら、まあ」

 

「⋯⋯え? 本気にするんですか? 流石に冗談のつもりだったんですけど」

 

 冗談とは分かっていたものの、つい真面目に応じてしまった。そんな自分に苦笑しながら肩を竦めると、アルテは片眉を上げて呆れたように息を吐き、やがて楽しげに口元を綻ばせる。からかうようでいて、どこか心底嬉しそうでもあるその笑みを見れば――長く待たせたことへの埋め合わせに、少しくらいはなったのかもしれない。

 

「ふぁーあ、なんだか眠くなってきましたねぇ。仕事なんかサボって、一緒に寝ませんか?」

 

「一緒に寝⋯⋯!? ア、アルテ、いきなり何を言って⋯⋯!?」

 

「はあ!? 何を狼狽えているんですか!? ば、バカなんですかっ!? 言葉の綾ですよっ!」

 

 昨夜の一件が尾を引いているせいか、普段なら決して口にもしないような、頭の中が些かピンクな返答をしてしまうハルト。一方アルテは、誤解されていることに気付くや顔を赤らめ、猛烈な抗議を繰り返す。互いに慌てふためきながら言い合うその様は、傍から見れば非常に滑稽だった。

 

「一旦、落ち着こう。僕が悪かったから⋯⋯ね?」

 

「⋯⋯ふぅ。そうですね。ほんと、変なことを言わないでくださいよ⋯⋯」

 

 ようやく平静を取り戻したアルテが、そっぽを向いて呟く。その横顔はまだほんのりと紅潮しており、年齢に似つかわしくない艶やかさを帯びていた。因みに、ここで言う年齢とは肉体年齢のことであり、精神年齢に関しては二人とも数百を越えているはずなのだが――見ての通り、今の肉体に引き摺られるため、感情の揺れや仕草は今生の年相応のものとして現れている。

 

「――さてと。ではそろそろ帰りましょうか」

 

「お昼寝はいいの?」

 

「だって、お腹空きましたし」

 

 欠伸一つ、アルテはさっぱりと言ってのけた。連れ戻すように頼まれた以上、自分から帰ってくれるのは望ましいことではあるのだが――唯我独尊というか、なんというか。けれど、こういうところこそが彼女の持ち味であり、魅力的な個性でもある。くす、とハルトは小さく笑みを溢す。

 

「何かおかしいことがありましたか?」

 

「いや、なんでもないよ。ただ――やっぱりアルテはアルテだなと思ってさ」

 

「⋯⋯? よく意味が分かりませんが⋯⋯とにかく早く行きましょう」

 

 並んで歩き出した二人は、取り留めのない思い出話に花を咲かせながら坂を下り、ちょうど降りきったところで、

 

 ガサゴソ⋯⋯

 

 草むらから1匹のポケモンが飛び出してきた。黒い縞模様が入ったオレンジ色の毛皮に、逆立つ白い鬣、白い体毛に覆われた胸元と尻尾が特徴の犬型ポケモン――ガーディ。勇敢で頼もしい性格で、仲間を守るためなら自分より大きな相手にも恐れずに立ち向かうとされている――のだが。

 

「ガーディ!? けど、この傷は⋯⋯」

 

「――っ、待ってください! 他にも何か来ます!」

 

「デル!」

 

「デルビル!」

 

 続いて、2匹のデルビルが姿を現す。鋭い眼光と剥き出しの牙、生き物の頭蓋骨を被っているかのような模様の頭部と、背中の肋骨のような出っ張り。強靭な四肢で素早く跳び掛かり、群れで獲物を逃さず仕留める獰猛な狩人だ。

 

「グルル⋯⋯!」

 

「グウゥ⋯⋯!」

 

 既に瀕死寸前のガーディに、威嚇の唸り声を上げながらジリジリと躙り寄るデルビルたち。それだけなら食物連鎖の一幕、自然界の厳しさに過ぎない。だがガーディの身体には痛々しい痣や裂傷があり、執拗に甚振られた跡があった。対するデルビルたちは十分体力を余らせている様子で――即ちこれは、捕食を目的とした狩りですらなく――

 

「⋯⋯気に入りませんね」

 

 仲間との再会で良い気分になっていたアルテは、水を差すように不愉快極まりない光景を見せつけられ、思わず眉を顰める。そして苛立ちを隠すことなく、デルビルたちを鋭く睨みつけた。

 

「ハルト、ぶちのめしますよ!」

 

「――うん! 行こう!」

 

 ――野生の デルビルたちが 現れた!

*1
【推奨BGM:Tiny jem】れじぇくろ!より




名前  :アルテ
前世  :ドーブル
立ち位置:【再会のミネラルタウン】より『ポプリ』
元ネタ :【ガールズクリエイション】より『アルテ』
概要
しあわせ牧場の娘。
救助隊基地のフラッグのデザインを描き直してくれる旗描きドーブル娘の転生体。
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