――マザーズヒル*1
本来ならタイプ相性を無視して一方的に圧倒できるほど、デルビルたちと
「”ねむりごな”!」
「フリー!」
バタフリーの翅には水を弾く鱗粉が付着しており、雨の日でも空を飛ぶことができる。この鱗粉は人間や他のポケモンには猛毒となるのだが、今回は一時的に感覚や意識を奪う――いわば麻酔のような成分へと調整し、翅を細かく羽ばたかせて空中に振りまく。
「デェルッ!」
とはいえ、何の工夫もなく鱗粉を撒いただけではデルビルたちに通じるはずもない。麓の森にはバタフリーの進化前であるキャタピーやトランセルの姿もあった。そのため、バタフリーとの戦闘には慣れているらしく、炎で広範囲を”やきつくす”ことで”ねむりごな”を掻き消してしまう。
「デルビルッ!」
間髪を入れず、もう片方のデルビルが汚れたガスを放出する。威力こそ低いが、高確率で毒状態に陥らせる厄介な技だ。”ねむりごな”を封じるばかりか、こちらの状態異常まで狙ってくる手際を見るに――明らかに戦い慣れている。
毒々しい臭気が迫りくる中、それでもイチカは動じることなく冷静に翅をはためかせる。力強い羽ばたきから生じた突風がデルビルの”スモッグ”を正面から”ふきとばし”――
「今です! ミジア、”あなをほる”!!」
デルビルたちの意識がガーディから逸れたその隙を、アルテは逃さなかった。彼らの足元から飛び出した2本の腕がデルビル――ではなくガーディの体を掴み、大地の中へと引き摺り込む。
「デルッ!?」
「デルビルッ!?」
突然獲物を奪われたデルビルたちは動転し、怒りに任せてガーディを連れ去った腕の消えた穴へと”スモッグ”を吐き出す――が、その時には既に遅く。肝心の犯人は主であるアルテの傍らに戻っていた。
「ドゥーブル!」
ベレー帽を被ったような頭部と、先端が絵筆のようになった長い尻尾を備える犬型ポケモン。本来、大人の証として仲間から付けられる背中の足跡のマークがなく、尻尾の先からは色違い個体と同じ赤色の液体を分泌している。在りし日のアルテを彷彿とさせる見た目のドーブル。
傷だらけのガーディを大事そうに抱えて戻ったそのドーブルに目配せしつつ、アルテは勝利を確信して不敵な笑みを浮かべる。
「さあ、これで――」
「――チェックメイトだ! イチカ! 早業からの真”ふきとばし”!!」
先程までとは別物の高速低空飛行でデルビルたちの目前へと飛び込んだイチカは、強烈な風を地面に叩きつけた。土砂が勢いよく舞い上がり、それに呑まれるようにして2匹のデルビルは為す術もなく打ち上げられる――
再び、猛烈な風が襲い掛かった。初めの一撃よりもさらに荒々しく、容赦のない”ぼうふう”がデルビルたちを打ち据える。そしてそのまま、荒れ狂う風に押され、彼方へと吹き飛ばされた。
「よし!」
と頷き、しかしすぐにハルトは表情を引き締める。
「⋯⋯アルテ、ガーディの状態は?」*3
「かなり危ないですね。とりあえず応急処置だけは施しましたが⋯⋯」
アルテの手には、一般的なスプレー式のキズぐすりが握られている。最も回復量が少ないタイプだが、これは決してアルテがケチなわけではない。効果の強いキズぐすりほどポケモンへの負担も増すため、弱りきった個体に用いるには逆に適さないのだ。下手をすれば回復どころか、症状を悪化させてしまう危険すらある。
「すぐにポケモンセンターへ運ぶべきです」
「テレポートは⋯⋯止めておいたほうがよさそうだね」
また攻撃技でなくとも、ポケモンの技は大なり小なり対象へ負荷を与えてしまう。衰弱したガーディに使うのは万が一を考えれば避けたほうがいい。幸いここから町まではそう遠くない。急いで駆け込めば最悪の事態は免れられるはずだ。
「急ごう! アルテ!」
「はいっ!」
アルテのドーブル――ミジアにガーディを抱えさせ、ハルトとアルテは迷うことなく町への道を走り出す。二人の胸中にあったのはただ一つ、この小さな命を繋ぎ止めるという決意だった。
「ガゥ⋯⋯」
弱々しく鳴いたガーディが、僅かに瞼を開く。自身を助けようと奮闘する二人を見つめるその瞳には――
オリジナル技・特性:
【しん・ふきとばし】
使用者:イチカ(バタフリー)
タイプ:ひこう
分類 :特殊/変化/連結
威力 :120
命中率:100
合成元:ふきとばし/かぜおこし/ぼうふう
効果 :野生ポケモンとの戦闘を終了させる。トレーナー戦で使うと相手ポケモンをランダムに交代させる。
そらをとぶ状態のポケモンにも命中し、その場合は威力が2倍になる。
アルテの手持ち
・ミジア (ドーブル)
名前 :ミジア
性別 :メス
種族 :ドーブル
タイプ:ノーマル
特性 :ムラっけ
持ち物:おんみつマント
元ネタ:【史実】より『アルテミジア・ロミ・ジェンティレスキ』