ポケモン牧場物語 再会のミネラルタウン   作:ゲーマーN

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2日① あっ! 野生の ヒロインが 現れた!

 ――春の月 2日(月)

 

 次の日、目を覚ましたハルトは、鞄の中に買い溜めておいたカップ麺とリンゴを一個ずつ取り出して朝食を済ませた。本当はもう少しまともな朝食を作りたいところだが、引っ越してきたばかりのこの家に食材が揃っているはずもなく、そもそも台所自体がどこにも残っていないため、今はこれが精一杯だ。調理器具や家具はこれから少しずつ調達していかなければならない。

 

 建物自体は意外なほどに綺麗だった。床も壁も埃ひとつなく、窓から差す朝の光さえどこか清々しい。おそらく、前もってトーマスたちが手を入れてくれたのだろう。とはいえ、台所をはじめとした生活設備が軒並み欠けているあたり、片付け前は相当に老朽化していたのかもしれない。修繕に必要となる資材と費用を考えれば、これ以上を望むのは高望みというものだ。

 幸いなことに、ハルトの手持ちには非常に強力なエスパータイプのポケモンがいる。色々と足りないうちは、そのポケモンのテレポートでマサラタウンの実家と行き来し、借りればいい。

 

「さて……っと」

 

 身支度を整え、家を出ると――見計らっていたかのように、トーマスが玄関前に立っていた。

 

「おはよう、ハルトくん。いい朝だね」

 

「と、トーマスさん……? あ、えっと……おはようございます」

 

「朝早くにすまないね。少しだけ時間をもらえないかい?」

 

 現在時刻は午前6時を回ったばかり。いくら用事があるにしても、流石にこの時間は早すぎやしないか――トーマス本人もそれを自覚しているらしく、口調には丁寧な気遣いが表れている。突然の訪問には驚いたが、別に急ぎの予定があるわけでもない。軽く頷いて「大丈夫です」と返すと、トーマスはほっとしたように小さく息を吐いた。

 

「今日は君に、この町のことを教えようと思って来たんだよ。どうだい、時間があればだけど」

 

 つまり、町長自ら案内役を務めてくれるということだ。初対面の昨日から何かと気にかけてくれている彼の厚意を、無下にする理由もない。未知の町を手探りで巡るのも悪くはないが、今は素直にその申し出に甘えるべきだろう。「ぜひお願いします」とハルトは迷わず答える。

 

「よし、それじゃあ行こうか」

 

 牧場を北に抜けると、すぐに横向きのT字路に出た。トーマスは立ち止まり、向かって右手――東の方を向き、

 

「そっちの道へ行くと、しあわせ牧場やヨーデル牧場があるよ。しあわせ牧場ではラッキーとハピナスを、ヨーデル牧場ではヤドンやメリープ、ミルタンクなんかを飼育しているんだ」

 

 オーキド博士に頼まれたポケモン図鑑の完成、そして戦力の層を厚くするために、大体のポケモンを1匹は仲間にしてきた。……とはいえ、牧場として成り立つほどの数は捕まえていない。この点については、長年牧場を営んできた先人たちに意見を仰ぎつつ、慎重に行動していく必要があるとハルトは考えている。何も考えず、野生から数を集めるのは乱獲以外の何物でもないからだ。

 

「(挨拶回りも兼ねて、あとで相談に行ってみよう……)」

 

 心のメモ帳に書き留めつつ、再び歩き出したトーマスの後を追う。最初に案内されたのは、入口に大きなハンマーのオブジェが置かれた一軒の建物だった。土台のプレートには、『鍛冶屋サイバラ』と彫られている。

 

「ここは鍛冶屋サイバラ。牧場で使う道具を買ったり、使いやすいように『改造』してもらうことができるんだ。ただ、道具の改造には山の鉱石場で掘り出せる金属が必要になるからね。鉱石を出荷すればお金にもなるから、空いている時間にでも行ってみたらどうかな?」

 

「……鉱石、か。ボスゴドラにでも手伝ってもらおうかな……」

 

 ボスゴドラ――てつヨロイポケモン。分類の通り、鋼の鎧に覆われた強靭な肉体を持つ。野生の個体は山一つを縄張りとし、山を荒らす敵には容赦しない。戦いの度に鎧につく傷は戦いの勲章であり、多くついているものほど歴戦の個体となる。

 鉄を食料とする――のだが、ハルトの手持ちはかなりの美食家であるため、件の鉱石場で掘れる鉱石を気に入ってくれるかどうか、それだけが少しばかり心配だった。

 

「次に、ここは果樹園だよ。様々な木の実を育てているんだ。収穫の時期には、人手が足りないそうだからよかったら手伝ってあげてほしいな」

 

 建物正面に掲げられた看板には、黄色いカブのような木の実――ウブの実がボトルを挟むように描かれており、その上に流れるような筆記体で『Age Winery』と記されている。果樹園とは紹介されたが、名前からして、ワインの製造や販売を行っていると見て間違いなさそうだ。

 あまり酒の類を嗜まないハルトだが、両親やオーキド博士へのお土産としてはちょうどいいかもしれないと一人頷く。

 

「……キリカの図書館?」

 

 アージュワイナリーから更に北へ進み、曲がり角を折れてすぐの場所に、敷地こそ狭いが、背の高い二階建ての建物が現れた。曰く、『キリカの図書館』。シンオウ地方のミオ図書館に比べれば規模は控えめだが、この田舎町の風景には不思議とよく溶け込んでいる。

 キリカ⋯⋯キリカか、とハルトは図書館の主のものと思しき名前を反芻する。もしやとは思いつつも、流石に同名の別人だろうと結論付けた。同じ名前など、探せばいくらでもいるのだから。

 

「さて、次は――」

 

「おばあちゃーん、いってきまーす!」

 

 トーマスの言葉に被さるように、通り沿いの家から一人の少女が元気よく飛び出してきた。つられるようにそちらへ目を向けたハルトは、視界に入ったその面持ちに大きく目を見開く。

 

「……え?」

 

 赤を基調としたポケモンレンジャーの制服に身を包む同年代ほどの女の子。右腕にグローブとガントレット型の赤い装置を身に付けており、瞳も同じく深い赤。ただ一つ、髪の色だけが早春に芽生えた若草のような鮮やかな黄緑色で、それを高く束ねてポニーテールにしている。

 彼女の方も気付いたようで、まるで鏡写しのように、お互いを見つめたまま動きを止めた。何時間にも感じられるような、途方もなく長い数秒間が過ぎ去り――

 

「ローリエ……?」

 

「……ハルト?」

 

 二人の間にあった壁が、音もなく崩れ落ちた。気付けば、一歩、また一歩と互いに歩み寄り、そして――躊躇いなど一欠片も見せず、温もりを求め合うように力いっぱい抱き締め合った。

 

「会いたかった……!」

 

「私も……!」

 

 この二人の間柄を表す言葉は幾らでもある。友人、仲間、家族――しかし、敢えて最も相応しい表現を選ぶとすれば――

 

「……君たち、知り合いなのかい?」

 

 困惑気味に尋ねるトーマスに、二人は声を揃えて答えた。

 

「「大事な相棒(パートナー)だよ!」」




登場人物紹介:

名前  :ローリエ
前世  :チコリータ
立ち位置:【再会のミネラルタウン】より『エリィ』
元ネタ :【救助隊DX】より『パートナー』/【ポケ娘 不思議のダンジョン】より『ローリエ』

余談
ポケモンレンジャーのローリエ。
本当は『再会のミネラルタウン』で同じ立ち位置の花嫁候補『エリィ』と同じく看護婦見習いにする予定だったのですが、「ポケモンレンジャーの方が救助隊っぽいのでは?」と思い至り、結果としてローリエは『ポケモンレンジャー バトナージ』の主人公ポジになりました。
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