――ローズ広場*1
町の北東に位置する教会前の道を今度は南に進み、辿り着いたのはローズ広場。広場全体は生け垣に囲まれ、入ってすぐの掲示板には「春の草競馬」の開催日時などを記したお知らせが貼られている。そして中央には、対戦用のラインが引かれた簡素なバトルコートが設けられていた。
「ここはローズ広場! お祭りは、だいたいここが会場なんだ!」
「お祭りって?」
「いろいろあるよ! うーんと、今だと一番近いのは――8日の春の女神祭、かな?」
「女神祭? それって、どういうお祭りなの?」
「みんなで可愛い衣装を着てね、ポケモンたちと一緒に踊るんだよ!」
この辺りには、厳しい冬が終わると、春を女神様が連れて来てくれるという伝承がある。春の女神祭は、そんな女神様へ感謝の気持ちを捧げる、古くから続くお祭りなのだという。
……似たような伝承に心当たりがあった。ラブトロス――「春の神様」とも呼ばれ、春の訪れとともに現れて、その慈愛によって新たな命を芽吹かせるという伝説のポケモンだ。或いは、伝承に語られる春の女神様の正体は、ひょっとするとラブトロスなのかもしれない。
「……そうだ! 私のポケモンを紹介するね。ちょうど、ハルトに会わせたかった子もいるし」
言うが早いか、ローリエは腰のベルトホルダーからモンスターボールを3つ取り出す。
「出ておいで!」
ポンッと弾けるような音が舞い、ボールが開いて光が溢れ出す。まず現れたのは、白い体に、耳と額から尻尾まで繋がる水色の縞模様を持った、リスのようなポケモン。つぶらな瞳に小さな前歯を覗かせ、体の2倍ほどもある大きな尻尾を嬉しそうにパタパタと振りながら、
「パチ!」
ふわりと宙を舞い、ローリエの肩にぽふんっと着地する。パチリス――でんきりすポケモン。シンオウ地方を主な生息地とする、ピカチュウに代表される電気袋を持つポケモンの一種だ。
「オル!」
次に、イヌ科の獣人を思わせる姿をしたポケモン――リオル。小柄ながら、しなやかで強靭な体をしており、一晩で山3つ、谷2つを越えるほどの運動神経とタフさを持つと言われている。性格は真面目らしく、ハルトに向かってぴしっと背筋を伸ばして挨拶をする姿が可愛らしい。
「パチリスのヒトミに、リオルのハジメ! そして、最後の一人が――」
「――わん!」
先の2匹に輪をかけて小さな影がハルトの胸の中に飛び込んでくる。水色の小型のポケモン。体長ほどの触角が2本、頭頂部から生えており、赤い宝石のような部位が胸の中央にある。
ハルトは、そのポケモンの名前をよく知っていた。海の王子とも謳われる幻のポケモン――マナフィ。全てのポケモンと心を通い合わせる能力を持っており、その権能故に、みずタイプポケモンの長とされている。海を広げたという伝承を持つカイオーガすらマナフィの部下に過ぎない。
事実、みずタイプのポケモンがマナフィにダメージを与えるのは不可能に等しい。どれだけ広範囲に影響を及ぼす技を放っても、攻撃の方からマナフィを避けていく――これは、みずタイプ以外の技も例外ではない。ローリエと共に、タマゴからマナフィを育てた経験のあるハルトは、他に類を見ないマナフィの能力を”うみのおうじ*2”と呼んでいる。
そう――今生ではないとはいえ、かつて確かにマナフィを育てた。その記憶があるからこそ、頬を擦り寄せてくる姿を一目見ただけで確信できた。
「ハク……で、いいんだよね?」
『ん、そのとーり。……やっと、会えた。ワタシ、ずっとずっと、ハルトに会いたかった』*3
鈴が鳴るような可憐なソプラノボイスが脳内に響き渡る。テレパシー――主にエスパータイプや伝説のポケモンが用いる、人間との意思疎通を可能とする能力だ。彼女の場合、心を通い合わせる能力のちょっとした応用だろう。長い寂しさを埋めるような、優しくて、温かな感情――ようやく巡り逢えたという深い喜びが、どこまでも真っ直ぐに、心の奥へと流れ込んでくる。
「くーん……」
「僕もだよ……ほんと、今日は懐かしい顔との再会ばっかりだなあ……」
よしよし、と抱き上げたハクの頭を撫でる。ハルトの顔は自然と緩んでいた。まさか今日一日だけで、こんなに多くの旧友と再会を果たすことになるなんて。しかもそれが、いずれも自分にとって特別な存在ばかり――ここまで偶然が重なると、もはや
「……それにしても。ローリエ、どこでハクに再会したの? 10年以上も旅をして、カイオーガにだって会いに行ったのに、それでも見つけられなかったんだけど……」
「えーっとね。話すと長くなっちゃうんだけど……――」
――数年前 アルミア地方
シンオウ地方の南に位置するアルミア地方のレンジャースクールを卒業後、ローリエはめきめきと腕を磨き、ついには世界中でも数えるほどしかいないトップレンジャーにまで登り詰めた。
自分の力を故郷のために使いたい――そう考え、ジョウト地方への異動を申請したローリエは、上からの返答を待つ間、いつもどおりの日々を過ごしていた。そんなある日、なにやら様子がおかしいピンプクを追いかけた先でマナフィのタマゴを保護したという。
「これがマナフィのタマゴか。プルプルしてるな」
「ポケモンのタマゴなんて初めて見ましたよ。次のビエン便りはタマゴ特集に決定!」
「私、ピンプクの気持ちがすごくわかる……」
「タマゴって命の始まりなのね」
「そういうことじゃな。女性たちが見惚れるのも無理はない」
基本的に、ポケモンのタマゴは種族を問わず同じ見た目をしているが、何事にも例外はある。マナフィのタマゴの見た目は通常のそれと大きく異なり、全体は青色で、澄んだ水のように透き通っている。また、内部には真ん中に赤いコアのようなものが存在し、その上に8個の小さな黄色い丸が横の輪を描いて並んでいる。
「シンバラ教授、このタマゴはどうしますか?」
「それは勿論、いずれは故郷に帰してあげるのが一番じゃ。それまではユニオンに任せなさい」
マナフィは体の8割が水でできており、周囲の環境に影響されやすいという、非常にデリケートな体質を持つ。かつて、自分たちのエゴから陸地で育て続けた末に病気を患わせてしまったという苦い記憶を抱えるローリエは、上司であるシンバラ教授の言葉通り、故郷の海へ帰すのが最善だと考えていたのだが――。
『ローリエ……』
「……え?」
自分の名前を呼ぶ声――それに続くように、タマゴから手足や触覚が生えていき、
『ローリエ!』
――現在
「……というわけで、元々異動願いを出していた私がこの子を保護することになったんだ」
「……そっか。そんなことがあったんだね」
一通り事情を聞き終えたハルトは、納得したように小さく頷く。気付けば、空はすっかり昼の色になっていた。右腕の装備――本人曰く『バトナージ・スタイラー』を操作したローリエは、画面に表示された時間を確認すると、ベンチから立ち上がる。
「よーし! もうすぐお昼時だし、次はご飯を食べに行こう! おすすめのお店があるんだ!」
ローリエの後ろを歩く
ローリエの手持ち
・ヒトミ (パチリス)
・ハジメ (”波動”のリオル)
・ハク (”蒼海の王子”マナフィ)
名前 :ヒトミ
性別 :メス
種族 :パチリス
タイプ:でんき
特性 :ちくでん
持ち物:ふうせん
元ネタ:【ポケモンレンジャーバトナージ】の女主人公『ヒトミ』
名前 :ハジメ
性別 :オス
種族 :”波動”のリオル
タイプ:かくとう
特性 :ふくつのこころ
持ち物:きあいのタスキ
元ネタ:【ポケモンレンジャーバトナージ】より『”カイト”のリオル』
名前 :ハク
性別 :メス
種族 :”蒼海の王子”マナフィ
タイプ:みず
特性 :うるおいボディ/うみのおうじ(みずタイプのポケモンによるダメージを無効にする。)
持ち物:フィオネのしずく
元ネタ:【あやかしランブル!】より『ハク』