――ダッドの店*1
その後、運ばれてきたアップルパイに2人と3匹は目を輝かせた。黄金色の美しい見た目だけでなく、甘く立ち昇る湯気が食欲を刺激する。一口頬張れば、サクサクのパイ生地に包まれたリンゴの果肉とシロップ漬けの甘酸っぱさに頬が落ちそうなほど幸せな気分になり、ほろりと溶けるフィリングのように口元が緩んでしまう。
「美味しかったぁ! やっぱりここのアップルパイは最高だね!」
「……確かに。今まで食べた中で一二を争うかも……」
救助隊に探検隊、パラダイス作りとこれまでの生で4回ポケモンに転生してきた。そのどれもが冒険続きで、道中に食べたリンゴの数はもはや思い出せない。それゆえ、味の良し悪しについては一家言あるハルトからしても、このアップルパイは間違いなく五指に入るほどの逸品だった。
「それで、このあとはどうするの?」
「ん……もうすぐ午後1時か。そろそろ牧場に戻らないと……」
ふと壁掛け時計に目を遣ると、短針が1時に差し掛かろうとしていた。これ以上帰りが遅くなれば、畑作業の時間が取れなくなってしまう。今日のところはもう切り上げるべきだろう。
「なら私も一緒に行くよ。人が住み始めるから、牧場周りの様子を確認しておきたかったし」
「ありがとう……ポケモンたちはいるけど、それでも一人だとやっぱり寂しくてさ」
心強い申し出に頷いたハルトは、持ち帰り用のアップルパイを入れた紙袋を片手に席を立つ。支払いのためにレジへ向かうと、わずかに口角を上げたダッドが「おう」と声をかけてきた。「美味しかった」と食事の感想を言いながら、財布の中身を取り出そうとすると――
「今日は特別サービスだって言ったろ」
と、その大きな手で制止される。つまり、料金は要らないということらしい。ハルトは不意を突かれたような心地と、温かいもてなしへの感謝を胸に、軽く頭を下げて店を後にした。
――アーカイブ牧場
麗らかな春の日差しの中、二十分もしないうちにアーカイブ牧場が見えてくる。遠目にも分かるほど雑草が生い茂り、切株や岩石など、大小様々な石木が散らばっている。人の暮らす土地と言うよりも、開拓地、野生のポケモンが跋扈する未開の地……土作りや種蒔きをするにしても、まずはこれを整地するところからだろう。
「ローリエ、ポケモンレンジャーの視点で聞きたいんだけど……どれくらいの範囲までなら一気に整地しても大丈夫かな? やろうと思えば、敷地全体を焼き払うこともできるけど……」
「うーん、それは流石に認めるわけにはいかないね……山の生態系にも影響が出るだろうから、できれば一気にやらず、様子を見ながら少しずつ進めていってほしいかな。そうだなぁ……やるとしても、六分の一くらいが許容範囲だね」
ポケモンレンジャー――その主な仕事はポケモンや自然の保護活動であり、野生のポケモンの協力を得て、自然災害の解決や犯罪者の取り締まりを行っている。ポケモンとの連携は勿論、高い身体能力やポケモンを始めとする様々な事柄の豊富な知識が求められる、ポケモンと関わる役職の中でもエリート中のエリートと言える者たちだ。
トレーナーとしての視点しか持たないハルトにとって、ポケモンレンジャーであるローリエの助言は大いに参考になった。現時点では、具体的な開拓計画は無いに等しいが――
「……聞いたよね? レーヴァ、スイテン、サクヤ――みんな、力を貸してほしい!」
――今は十分。ハルトはベルトのホルダーから3つのボールを宙へ放り投げる。モンスターボールは地面に落ちることなく、空中で静止すると――ポンッ!! と音を立てて一斉に開き、3体のポケモンが姿を現した。
「グオォオッ!」
西洋の竜を彷彿とさせる風貌のドラゴンポケモン――リザードン。体の大部分がオレンジ色で、胸から腹、尻尾の下側にかけてはクリーム色、翼の内側は青緑色。通常の個体よりも太く逞しい尻尾の先端では、自らの力を誇示するかのように大きく激しい炎が揺らめき、その熱で周囲の空気を歪めて陽炎を立ち上らせている。
「ガァァメッ!」
肩の後ろ側に2本の噴射口を備えたカメポケモン――カメックス。体色は青く、顔と手足、尻尾を除く全身の大半が大きな甲羅に包まれている。頭部には内側が黒色の三角形の耳があり、小さな茶色の目と相まって、厳つさと可愛さが絶妙に調和した独特の魅力が自然と目に留まる。
「バァナァッ!」
巨体を頑強な足腰で支えるカエルに似たポケモン――フシギバナ。背中に咲き誇る大輪の花は桜のように鮮やかなピンクで、太い茶色の茎に支えられている。花の中央にオスにはない突起が存在することから、メスだと推察できる。綺麗な花には毒があるとは言うが、くさとどくの複合タイプであるのを考えれば、彼女こそまさにその代表例だろう。
「……カントー御三家の最終進化形が勢揃い。それも、この練度は……すごいね」
御三家とは、10歳になって旅立つ新人トレーナーに渡される初心者用ポケモンの俗称だ。そのため、彼らをパートナーポケモンとする者は多く、当然ながら他のポケモンよりもレベルが高い傾向にある――のだが、ここまで研ぎ澄まされた実力はそう簡単に身に付くものではない。
特にリザードンに至っては、尻尾の炎の勢いも、纏う圧倒的な威圧感も別格と言って差し支えないほどに洗練されている。あまりの完成度の高さにローリエは思わず息を呑む。
「それじゃあ――行くよ! ”さんみいったい”!!」
「グオォォォオオオッ!!」
レーヴァ――主より炎の剣の名を冠されたリザードンがその翼で天高く舞い上がると、雄叫びと共に灼熱の火球を大地へ叩き込む。着弾点を中心に膨れ上がる紅蓮の爆炎が荒れ狂う波となり、地表の全てを灰燼に還していく。
本来、開墾には途方もない時間と労力を要する。しかし、レーヴァの炎は土中の目に見えぬ雑草の種子すらも焼き尽くし、一分と経たぬうちに雑草地帯を更地へと変えてみせた。
「ガァァメェェェッ!!」
次に動いたのは、スイテン――水の神の名を持つカメックスだ。両肩の砲門を展開し、それぞれの噴射口から巨大な水の砲弾を解き放つ。奔流が焦土となった大地に衝突するなり、爆発するように蒸気が噴き上がり、今度は一帯が白煙に包まれた。
程なくして蒸気が晴れ、黒ずんで固くなった大地だけが残る――が、それは最後の1匹たるフシギバナの技によって容易く覆される。
「バァナァァアアッ!!」
巨木の群れが津波のように溢れ出し、瞬く間に地面を掘り返していく。幹と幹が絡み合い、網目のようになった樹根の奔流が地中深くまで到達し、土塊を掬い上げて地上に広げていく。花の女神の名を与えられたフシギバナ――サクヤヒメが一声唸るや、無秩序に蠢いていた木々が一糸乱れぬ動きを織り成す。
これぞ対伝説級用の合体必殺技。炎・水・草――三つの究極技を、全く同じ出力で複合させ、一度に放つという奥義。それを惜しげもなく整地のためだけに行使したのだ。もし他のトレーナーが見ていれば、「なんて贅沢な使い方だ!」とその殆どが嘆くに違いない。だが幸い、ここにはハルトたち以外いないので、非難の声は飛んでこない。
「よし、これで整地完了っと……あとは畝作りと種蒔きだけど――」
「私も手伝うよ!」
その言葉を受けたハルトは、戸惑いの色を浮かべつつもローリエの真剣な表情を見据えた。陽光を宿す瞳は揺るぎなく、彼女は力強く頷き、頼もしい意志を示している。
「……いいの?」
「勿論! 困っている人を助けるのも救助隊――もといポケモンレンジャーの仕事だからね!」
むんっ! と腕を上方に曲げるポーズを取るローリエ。何時まで経っても、本当にこういうところは変わらないなぁ……と、胸の奥から広がる安心感にハルトは自然と顔を綻ばせた。
「……助かるよ。よろしくね、ローリエ」
「うん、頑張ろうね!」
オリジナル技・特性:
【さんみいったい】
使用者:レーヴァ(リザードン)&スイテン(カメックス)&サクヤヒメ(フシギバナ)
タイプ:ほのお/みず/くさ
分類 :特殊/合体
威力 :――
命中率:――
合成元:不定
効果 :『ほのお』『みず』『くさ』の中からタイプ相性が一番良いタイプでダメージ計算する。
この技の威力は、合体元の技の威力に応じて決まる。
元ネタ:【大乱闘スマッシュブラザーズ】よりポケモントレーナーが使用する最後の切りふだ
登場人物紹介:
名前 :ハルト
前世 :リザードン
立ち位置:【再会のミネラルタウン】より『主人公』
元ネタ :【救助隊DX】より『主人公』/【ポケ娘 不思議のダンジョン】より『ハルト』
手持ち
・レーヴァ (リザードン)
・スイテン (カメックス)
・サクヤヒメ (フシギバナ)
名前 :レーヴァ
性別 :オス
種族 :リザードン
タイプ:ほのお/ひこう
特性 :???
持ち物:???
元ネタ:【北欧神話】より『レーヴァテイン』
名前 :スイテン
性別 :メス
種族 :カメックス
タイプ:みず
特性 :げきりゅう
持ち物:かくせいのタネ
元ネタ:【あやかしランブル!】より『水天』
名前 :サクヤヒメ
性別 :メス
種族 :フシギバナ
タイプ:くさ/どく
特性 :しんりょく
持ち物:かくせいのタネ
元ネタ:【れじぇくろ!】より『コノハナサクヤヒメ』