ポケモン牧場物語 再会のミネラルタウン   作:ゲーマーN

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3日① ぐうたら娘は 牧場から 離脱した!

 ――春の月 3日(火)*1

 

 翌日、カメックスのスイテンの力を借りて畑の水遣りを終えたハルトは、挨拶回りのため、昨日案内の途中で町長から教えられた、彼にとって先達となる二つの牧場へと向かっていた。しあわせ牧場とヨーデル牧場。どちらも名前しか知らないが、高品質なポケモン由来の畜産物を生産していることで有名なのだという。

 

「アルテ!!」

 

 鍛冶屋サイバラの前を通り過ぎ、しあわせ牧場に差しかかろうとしたその時、件の牧場の方から怒号が響いてきた。何事かと思い駆け寄ると――そこでは金髪でメガネをかけた青年と、同じく金髪で眠たげに目元を擦る少女が言い争いを繰り広げていた。

 

「……ん? なんですか、急に大きな声を出して。私が寝ているのが見えないんですか?」

 

「外で寝ていたから、起こしてるんだ!」

 

「私が寝ているのがわかっていて、起こす? あぁ、わかりました。食事ですね?」

 

「違う! それに、朝食の時間はもうとっくに過ぎてるからな」

 

「そうですか。では、朝は抜いて昼食をしっかり食べるとしますよ」

 

「働かざる者食うべからず。あと、ちゃんと部屋で寝ること。なんでラッキーのところで……」

 

「今、ラッキーたちの中で最も抱き枕にぴったりな子を調査中なんですよ」

 

 正確には、青年の側が一方的に捲し立てるように言い立て、相対する少女は悪びれた様子もなく飄々と叱責を聞き流しているという状況だった。今聞こえた限りでは青年の主張が正しいように思えるが……両者の事情を詳しく知らない以上、軽々しく判断することはできない。

 どうしたものか――悩んでいると、不意に少女の碧眼と視線が交わった。彼女は僅かに目を見開き、一度瞬きを挟んでから、改めて青年の方へと向き直る。

 

「リックがうるさいので、昼食までは別の場所で寝るとしましょう。山にでも行くとしますか」

 

「アルテ!?」

 

 会話を打ち切り、山に続く南の森へ歩き出すアルテと呼ばれた少女。リックと呼ばれた青年は慌てて呼び止めようと手を伸ばすも、空を切るばかり。振り返ることもなく立ち去ってしまい、残されたリックは肩を竦めて深く溜め息をついた。

 

「まったく、いつもいつもアルテは……って、君は確か新しく越してきた……」

 

「ハルトです。ご挨拶しようとここまで来たんですが……」

 

「……今のを見ていたのかい? 困ったな……恥ずかしいところを見せてしまったね」

 

 苦笑いしながら首を振るリック。その端正な顔立ちと爽やかな雰囲気が相まって、嫌味とはならない仕草だった。第一印象からして好人物だと分かる。ただ一つ気になる点があるとすれば――やはり今しがたの一幕だろう。詳細を尋ねるべきか迷ったが、何も言わないのも失礼だと考え直し、怖ず怖ずと切り出した。

 

「さっきの女の子は……」

 

「妹のアルテだよ。兄の贔屓目を抜きにしても才能豊かなんだけど……とにかく怠け者でね。今日なんてラッキーの小屋で寝ていたくらいで……それで俺もつい、声を荒げてしまったんだ」

 

 彼の語り口には妹を案じる気持ちが強く表れており、決して嫌っているわけではないのが伝わってきた。先の説教も単なる小言ではなく、むしろ愛情ゆえに出た言葉なのだろう。そうであるならば兄妹喧嘩は犬も喰わぬ――自分のような赤の他人が口を出すことではない。

 

「ハルト君。こんなことを会ったばかりの君に頼むのもおかしいかもしれないけど⋯⋯アルテを連れ戻してくれないかな? 多分、裏山の何処かにいると思うんだ。俺が行くと、また喧嘩になりそうだし、母さんは体が弱くて⋯⋯頼むよ」

 

 ――そう、考えていたのだが。当の本人から頼まれたとなれば話は別だ。元よりこのあとアルテに会いに行くつもりでもあったため、ハルトは一も二もなくリックの頼みを快く引き受けた。

 

「分かりました。任せてください」

 

「ありがとう。すごく助かるよ」

 

 安堵したように顔を綻ばせるリック。本当に妹想いの優しい青年のようだ。牧場に関しては後で聞くとして――ひとまずハルトは、南へと歩き去ったアルテを追いかけることにした。彼女と会って直接話をしなければ何も始まらないのだから。

 

 

 

 ――木こりの森*2

 

 午前の早い時間ということもあり、森の中には野生のポケモンがちらほらと姿を見せていた。辺りの草むらや木陰からは、ポッポやナゾノクサといった比較的ポピュラーなポケモンたちが顔を覗かせている。

 

「⋯⋯流石に、ここを一人で出歩くのは止めた方がいいかな」

 

 ポケモンは怖い生き物だ。歩いているだけで野生のポケモンに襲われることもあり、故に人の生活圏外ではポケモンを連れ歩くのが常識となっている。ここはまだ、温厚なポケモンしか見当たらないが、用心しておくに越したことはないだろう。

 野生のポケモンを必要以上に刺激せず、それでいて護衛として十分な能力を持つポケモン――今の手持ちから最適な仲間を選び出し、そのモンスターボールを握り締めて――

 

「来てくれ、イチカ!」

 

「バタフリー!」

 

 繰り出されたのは、モンシロチョウのように白く大きな翅を持つちょうちょポケモン。イチカという名のバタフリーは大きく旋回して周囲を確かめると、優雅に宙を滑るようにハルトの右肩へ舞い降り、安心させるようにそっと翅を揺らした。

 

「よろしくね」

 

「フリー!」

 

 はは、了解っす! と言わんばかりに翅を震わせるイチカ。心強い限りだ。彼女との絆は4つ前の生で結ばれたもので、何ならローリエの次に出会ったポケモンこそが他ならぬ彼女である。

 

『た、大変なんすよ! うちのキャタピーちゃんが洞穴に落っこちちゃったっす!』

 

 あの時は、急に地面が割れてイチカの妹のキャタピーが落ちてしまったのだったか。初めての救助依頼。目が覚めるとヒトカゲになっており、何も状況が分からぬまま――それでも困っている誰かを放ってはおけないと、ローリエと二人で洞穴に乗り込んだ。

 

「さて、と」

 

 懐かしさに浸りながらも気を取り直す。これで準備完了、あとはアルテを見つけるだけだ。彼女が牧場を立ち去る前に言い残した言葉からすれば、おそらくこの森の何処かではなくマザーズヒルにいるはず。イチカを伴い、ハルトは踏み慣らされた小径を真っ直ぐに見据える。

 

「イチカ。少し飛んでみてくれるかな?」

 

「フリフリー!」

 

 一鳴きして力強く翅を打ったイチカは、風に乗ってふわりと舞い上がり、遥か上空に滞空して遠方を見渡す。空からの視点は偵察において極めて有効だ。しばし静止していたかと思うと――

 

「フリィ!」

 

「⋯⋯温泉の方だね。よしっ」

 

 彼女は翅を折り畳み、地上へと急降下する。それを確認したハルトもまた、示された方向に再び歩き始めた。温泉――昨日の夜の記憶が蘇りそうになるのを、首を左右にブンブンと振って追い払う。この先にアルテがいる。その意識だけを携え、ただ只管に前へ前へと進んで行った。

*1
【推奨BGM:ポプリのテーマ】牧場物語 ハーベストムーンより

*2
【推奨BGM:Sunny day】れじぇくろ!より




ハルトの手持ち
・イチカ   (バタフリー)

名前 :イチカ
性別 :メス
種族 :バタフリー
タイプ:むし/ひこう
特性 :ふくがん
持ち物:きあいのタスキ
元ネタ:【ブルーアーカイブ】より『仲正イチカ』
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