武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
あれから少しの間ノルン姉様と話し合い、たまに稽古の後にお爺様の剣に挨拶すると言う約束をしてからリビングに降りると既に朝食が出来ていた。最後に起きてきたロキシー母様が父様に髪の世話をされている。
「おかわり!」
「エリス姉、もうどの皿の分もおかわり無いよ。」
「そう、少ないわね!」
「母様、はしたないですよ!」
想定できたはずの問題を引き起こしてしまった…母様が食べ過ぎるのである。
グレイラット家の人間は意外と良く食べる、家長で唯一の男である父様はもちろん育ち盛りのノルン姉様とアイシャさんも働き者で相応に食が太く、日中は貴人の護衛を任されているシルフィ母様や今は懐妊中で食が細いが魔法大学で教師をしているロキシー母様も良く食べるらしい。
だと言うのに、その全員を押し退けて母様が食べ過ぎてしまうのだ。元々が名家のわがまま娘だから食卓での我慢などした事も無いだろうがこの地での仕事も見つけず家事でも戦力外の母様が他の者より多く、それもおかわりまで平らげてしまうのはとても宜しい状態とは言えない。
私はグレイラット家に入って2日目にして既に焦りを感じていた。
「アイシャさん、母様がここで仕事を見つけて働くようになったら今以上に食べるようになります。この後家事が一段落したら食糧の買い足しに行きましょう。」
「このあと?うーん、お兄ちゃんはまだ療養中でシルフィ姉もロキシー姉も無茶させられないからなぁ…私1人じゃそんなにいっぱい運べないよ?」
「それなら大丈夫、私と母様がいます。母様もついてきてくれますよね?」
「うっ…も、もちろんよ!」
「そっか、今度からはエリス姉にも頼めるんだ…分かった!じゃあすぐに終わらせるから今日は後ろで見て覚えて!」
「よろしくお願いします、アイシャさん。」
余談だが、私はメイド服こそ与えられていないが既にメイド見習いとしてアイシャさんに師事している。妾として子を産んだリーリャさんが未だにメイド服を着てその娘であるアイシャさんもメイドとして働いているのだから当然だ。
最初こそ難色を示していたアイシャさんだが私が先達への礼節を持って順序立てて説明すれば受け入れてくれた、足に古傷を抱え基本はお婆様の介助を専任されているリーリャさんに代わり実質的な使用人の長を務める彼女が教育係に就いてくれてとても助かっている。
「エリス姉はもちろんだけど…エディトも力持ちだね…!」
「ギレーヌに鍛えられたんだから当然よ!」
「これからも大きくなりますし力仕事は私に任せてください。」
「頼りになるけどその内追い越されそう…私も身体鍛えようかな?」
そうして屋敷に着くと、庭でお婆様が田んぼの草抜きをしていた。
お婆様は迷宮の核となる結晶に囚われ何年も眠っていた影響で言葉や様々な機能を失い、日常生活にもリーリャさんの介助が必要な状態となっていた。(助け出した直後のお婆様は今以上に酷い状態で、父様も色々と治療法を探している只中らしい。)
私を見つけたお婆様が帽子は避けて頬を優しく撫でてくる、……この家の人々は本当に強い人間ばかりだ。私はより一層やる気を燃やしリーリャ親子と並んで昼食を作った。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、そのスープ…エディトも一緒に作ったんだよ。」
「本当か!?頑張りまちたねエディトたんー!美味しかったでちゅよー。おーよちよちよち…」
「……………」
「うわぁ……ごめんねエディト…?」
「いい加減にしなさいルーデウス!」
食事中にも関わらず私に頬擦りを始める父様にとうとう母様が拳骨を落とした、うーむ…手慣れている…。
「じゃあエディト、夕飯までは書斎の方の掃除をするからついてきて。」
「分かりました、アイシャさん。」
正直に言ってしまえばアイシャさんはあまりよい教育係では無い、自分にできる事を相手ができない事が理解できず、何かを教えるにしても理由や要点はほとんど話さずできなければすぐに切り上げてしまう。素直で努力家なノルン姉様と相性が悪いのも納得だ。
だが、メイドとしては既に完成されていて行動の一切に無駄が無く完璧ではあった。アイシャさんに詳しく教えてはもらえないので私はアイシャさんの仕事ぶりを見て行動の中の意味を汲み取って学ぶようにしている。
その甲斐もあってか、アイシャさんからは覚えるのに時間がかかるがやって見せれば身につく人間として気に入ってもらえた。
アイシャさんはメイドとして見るなら少し問題のある人物である、家長の父様相手にも妹とメイドの立場を気まぐれに切り替えるし正妻の子であるノルン姉様を明らかに見下している。
使用人の代表としてこれからも家を取り仕切る立場で部下の教育ができないのも問題だが…父様はノルン姉様を露骨に見下す事以外は概ねこれでいいと思っているしリーリャさん以外も特に問題視していない。
メイドと娘としての立場が入り混じって本人も家長も扱いが半端なままである事に私は少しの不安を感じながらも、彼女の仕事ぶりを学ぶことに専念する。
「ルーシー様ー、そろそろ母様達も帰ってきますよー。夕飯ももうすぐですからねー。」
「るーでー!るーでー!」
「違いますよー。エディトですよー。」
「えー…えー、えー…でー?」
「そう!よくできましたねー。」
「エディト…お兄ちゃんのが移ってきてない?」
異物だけどルーデウス同様魂レベルでシンクロしてるエディト君ちゃんは存外相性自体は良好。