武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
父様がオルステッドと何やら会合を重ね始めた次の日、私は家事の役目から外されて父様の膝の上に放置されていた。
理由は分かっている、父様が母様方に纏わり付き過ぎたからだ。
オルステッドに殺されかけて人肌が恋しくなったのかも知れないが、家事をしているシルフィ母様に抱きついては身体をまさぐったり隙を見てエリス母様(ただ母様と呼ぶだけでは返事してくれなくなった)にしがみついては殴られたり…果ては身重のロキシー母様にまでべたべたとへばりつく有り様だ、明らかに度を越して乱れている。
毎回エリス母様が殴って収める訳にもいかず、とうとう母様達は私が撫で回されている間に家事を進める事にしたらしい。
仕事に混ぜて貰えないのは残念だがこれもこれである意味責任重大ではあるだろう、私は自分に言い聞かせるようにして父様の背中に体重を預けた。
「エディト、エディトー?エディトたんー、エディトさんやー?」
「……どうしました父様?」
「違う違う、頬擦りじゃないから。今日はパパ撫でたりべたべたしないから。」
「具合でも悪いんですか!?」
「パパをなんだと思ってる…」
「ごめんなさい、父様。」
どうやら違ったらしい、落ち着きのない父様を私に見張らせるのではなく私と父様が話す場を作る事自体が目的だったようだ。
「んんっ…!それでなんだがなエディト、近い内にパパとママ…エリスとシルフィの方な、3人で遠くに行く事になって…だな。」
「出陣ですか?」
「出陣って…いやまぁ、言われてみればその通りなんだけど。」
「ギレーヌの仇討ちに同行するのですか?」
「そこまで分かってるのか…まぁ大体そんな感じだよ。長くなるとは思うけど、ロキシーのお腹の子が産まれる前には帰って来れると思う。
それで…それまではパパもエリスもギレーヌもいないんだけど、その…」
「大丈夫です父様、留守は任せてください。」
父様やエリス母様・ギレーヌは言うに及ばないが、一見すると華奢で可憐なシルフィ母様も魔術の天才であり剣の聖地でも聖級の認可を貰った剣士でもなければ勝てない程の強者である。
この4人であれば滅多な事がない限り負ける事は無いだろう、オルステッドの軍門に降った以上こうやって父様達が戦に出掛ける事も覚悟はしていたし、何も心配は無いはずなのだが…父様は唸るような声を出しながら何かを思い悩んでいる。
「それでな、エディト…ギレーヌの仇討ちの途中でパパ達の敵になりそうな人がな「水神様とオーベール殿の事ですね、分かっております。」
「いや…いやいや、分かってるってそんな、」
「御二方には剣の聖地でお世話になりましたが、剣士ならばそう言う事もあるでしょう。私は大丈夫ですよ。」
「本当に分かってるのか…?死ぬって事なんだぞ?もう、会えないんだぞ?」
「御二方は手加減してどうにかなるような相手ではありませんし、私にとっては父様達の命の方が大事です。だから私には気を遣わないでください。」
そもそもの話、曾祖父様の仇の側につくと言うならどれだけ世話になろうと敵なのだ。
確かに初陣すら経験した事のない私が、あの2人を前にすれば情で剣が振れなくなるかもしれないが、元々私は今回の戦についていけるだけの力もないし私の気持ちは父様達に関係のない話なのだ。
その場で命をかけていない私なぞに気を回したせいで父様達が殺されたなんて事になればそれこそ私は生きていけない。
「それでいいのか…?せっかく産まれてきたくれたのに4年間もほったらかしで、しかも俺よりもお前と長い付き合いの人達を、殺しに行くんだぞ…?お前はそれで、こんなパパで、本当に……」
「父様。シルフィ母様とエリス母様と一緒に、全員無事で帰ってきてください。家族みんなで待っていますから。」
「…!分かった。分かった…!ちゃんとパパが2人を守って帰ってくるからなエディト…!」
…結局頬擦りはされたし家事が済むまでは父様に捕まったままになってしまった。
「これより、我が家の守護魔獣の召喚式を執り行います。拍手」
「わー」
そうして一月後に出陣の決まった父様を激励した次の日、父様は留守を任せるための魔獣の召喚を決定した。
魔獣召喚用の魔法陣を渡したのがオルステッドなせいでシルフィ母様達は不安そうにしているが、父様と母様が勝てない時点でこの家などいつでも好きなように踏み荒らせるのだからそこは心配していない。(召喚自体は父様がするのだし尚更だ)
「いでよ、守護魔獣!」
「なんのつもりだ……なんのつもりだと聞いている、ルーデウス・グレイラットォ!」
父様が皆を説得して召喚に乗り出したところ、一度目は変なものが出た。
よく分からないが他人の契約していた魔獣が引っ張られてしまったらしく、父様と魔獣の主人が知り合いなのでその魔獣を返却して再度召喚する事と相成った。人騒がせな魔獣である。
「よし、こい!」
「ワオォォォォン!」
そうして呼び出されたのは白い毛並みと額に風変わりな模様を持った、大きな大きな子犬であった。
いや、どう見ても子犬の大きさでは無いのだが顔つきからして子犬としか言いようがないのだ。相変わらず蝦夷地は滅茶苦茶である。
その後しばらくギレーヌの故郷の言葉で子犬と話し込んでいた父様(獣神語とは聞いていたが本当に言葉通りの獣と喋っている…)によって子犬はレオと名付けられる事となった。
少し覇気に欠けるがロキシー母様が身重な事にも気づいて気をかけるよくできた番犬だったレオは、グレイラット家の守護魔獣として正式に迎え入れられる事となった。
(それにしてもレオとビートはともかく…あの丸い魔獣のじろうと言う名前…偏食扱いされても米を欲しがったり正座に澱みがなかったり…まさか…)
「ん、どうしたんだエディト?」
『父様は本州の言葉も学んでいるのですか?』
「ぶっっっ……え、えほっ、ゲホッ、ケホケホ…んん…んんんんん、、、…どうしたんでちゅかエディトたんー、急にむにゃむにゃ言い出してー」
まさかと思い本州の言葉で話しかけてみると全力ではぐらかされた。やはり父様は冒険者時代に本州へ渡った事があるのだ、そこで米と出会いその魅力の虜となったのだろう。
まつろわぬ民ですら魅了する米の偉大さを再確認しながら父様が本州に渡った事実を胸の中に仕舞い込む。
まつろわぬ民が本州の人里に出れば問答無用で殺されてもおかしく無いのだ、何も聞かなかった事にするべきだろう。
ルーデウスは老デウスの日記からエディト君ちゃんが転生者(恐らく幼い内に死んだ子供)だと知っていますが、とある致命的な地雷を避けるためにエディト君ちゃんの前世には基本追求しないようにしています。(エディト君ちゃんは日本の知識も転生者である事も隠す気皆無)