武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
今更な話であるが我が家、グレイラット家とその周りに集まる人々は皆一様に才人揃いである。
まずは父様であるルーデウス。
あれほど鍛えていた母様より更に一段上の所に立つグレイラット家最強の無詠唱魔術師で、体質的に闘気が纏えないという致命的なハンデを抱えながら純粋な剣士としても上級相当の技量を持つ才能以上の努力を重ねられる人間だ。
闘気に関しても父様の魔力で動き、王級剣士より数歩劣る程度の力を発揮する巨大な鎧の魔道具を御友人やロキシー母様達の協力して開発した事によって克服している。
次に私を産んでくれたエリス母様。
狂剣王の名を冠し北聖の認可を受け、剣帝にも指を伸ばし始めたグレイラット家で唯一父様と共に戦い死ぬ事が許された偉大な剣士だ。
冒険者として旅や野営の知識も豊富で、甘すぎるきらいのある父様を隣で守れる実力と信頼ある立場は他の母様方達にとっても羨望の的だ。
一方でできない事に目を向け始めると非常に残念な人で、今も悪戦苦闘しているが我慢強く家事や諸々を学んで母親らしくあろうしてくれている芯の強い人である。
その次は父様と初めに結婚しルーシー様を産んだシルフィ母様。
父様の編み出した無詠唱魔術を初めて教わった弟子で聖級までの魔術は概ね身につけており、父様ですら扱えない無詠唱による治癒魔術の使い手だ。
肉体も父様ほどではないが練り上げられており無詠唱治癒の有用性を考えれば集団戦での価値は王級剣士以上かもしれない。
母様方の中でも代表のような存在で家事においても力作業を加味すればアイシャさんを上回り、家庭内で最も大きな発言権を持つ方だ。
そして今3人目の子供を身籠もっているロキシー母様。
父様が編み出した無詠唱魔術より前の世代の純粋な魔術師という事で純粋な戦力は3人に劣るが水神様のようなその道を長年戦い抜いた老練さを感じさせる詠唱魔術師の達人だ。
父様の鎧の開発にも関わったように学者としても一流で、なにより父様に魔術を教え外の世界に導いたとても偉大な教育者である。
すこし抜けていてだらしないところもあるが落ち着きのある家一番の知識人で、私を含め彼女を尊敬しない者などこの家にはいない。あの小さな身体で子供を産むというのに父様達が戦に出るのを一言の文句もなく激励しているとても立派な人だ。
他にもリーリャさんや姉様方、父様の御友人と10人以上にもなる方達がいるが、誰一人として時間を無為にする事なく常に己の道を生きながら研鑽を続けている。
そんな人々の中で私は、当たり前ではあるが私でなければならないような役割もそれを任せられる力も何一つ持っていない。
幼さを言い訳にするつもりはない、いつかはと言い続ける内に全てを失うなどという愚は二度と犯してなるものか。私にしかできない私だけの道を見出し、一日も早くそれを力と成して家族を守るのだ。
「エディトー!そろそろ稽古の時間…よ…?…何を作ってるの?」
「はい、エリス母様!私が使う盾を作っています、完成したら稽古でもこれを持たせてください!」
「…そんなものを持ってたら剣が遅くなるじゃない!」
「遅くなってもいいんです、その分守れるものが増えますから。」
「……?よく分からないわ!」
そう、盾である。
私は使われなくなった木材を貼り合わせて形を整え、手持ちの簡単な盾を作っていた、速さと一撃必殺が信条の剣神流を教えているエリス母様が難色を示すのは当然だがもちろん相応の理由があるのだ。
「エリス母様、剣神様が言っていたように私には剣神流は極められません。」
「……っ!それは…!でも……」
エリス母様は咄嗟に否定しようとしたが言葉は続かなかった。
彼女も認めざるを得ないのだ。剣神様は剣の理合を体現した完璧な武神であり、彼に適性が無いと言うのならばその言葉通り剣神流は極められないだろう。
エリス母様も今は剣王だがこれから更に強くなってともすれば剣神様を超えるやもしれない、その時に私が才の無い流派にこだわって足を引っ張るわけにはいかないのだ。
「これからも剣神流は鍛えていきますが極めるならば水神流にしようかと思います。家族を守るならその方が向いていますし、盾も扱えればより多くの危険を退けられます。
……私なりにエリス母様の教えを受けて、家族を守るために出した答えです。剣神流を継げないのは申し訳ないですが、それでも譲る事はできません。」
「……そう。分かったわ!やるならしっかりとやりなさい!」
水神流は守りの剣ではあるが敵を誘い込んで返り討ちにする勝利を目的とした剣で、ともすれば千日手や自分以外の全滅という惨事に繋がりやすい欠点がある。私は勝つ事以上に守る事を目的として、盾と剣の二つを使う道を選んだ。
本州の武士は甲冑の優秀さと弓矢の破壊力が原因で余り盾は使わず大量の武器を持って馬に乗って戦うが、この国の剣士は馬よりも早いので戦での乗馬は必要ない。
そして剣は圧倒的な威力、魔術はその多彩さと破壊範囲の広さで甲冑の防御を貫いてしまう。だが、逆に闘気を持ってそれらを防げる盾は有効なのだ。
父様達に教えられてもついぞ魔術が身に付かなかったが、だからといって剣にだけ拘る必要はない。
以前父様に使わせてもらったザリフの籠手、あれで私の中の認識が変わった。
魔術は扱えないものの詠唱をした時に感じていた魔力をついに明確に扱う事ができた。義手にもなるというあの籠手は流した魔力で馬力を調節する事ができる優れもので、父様と同じ魔力を扱う道が開けたようで気に入っていたが私が普段使いする事はできないだろう。
それでも得たものはあった。剣以外にも私の武器になり得るものがあるという事実と、そして何より闘気の芽生えだ。
────そう、私は魔力を流し力を調節する感覚を学んだ事で未熟ながら闘気を纏い始めたのだ。
盾を使った稽古も順調であり、数日もする頃にはエリス母様から剣神流中級の認可を授かる事ができた。
他の面々と違って唯一老デウスの記した悲惨な未来しか知らなかったエディトという娘。
そんな彼女と家族として仲を深めていった事で本作のルーデウスは本編以上に焦っていてこれから少しずつ原作でのイベントの前後や小さな齟齬が発生していきます。